堀江由衣「どの現場でも自分がいちばん下手」と語るストイックさが生まれた理由。 初ヒロイン作『鉄コミュニケイション』で先輩声優や音響監督から学んだ“声の職人”としての心得とは?【人生における3つの分岐点】
初ヒロイン作品はリテイクの嵐
──当時の参加作品で、育てていただいた意識のある現場はありますか?
堀江:
『鉄コミュニケイション』です。初めてアニメの、レギュラーとしてヒロインをやらせていただいた作品だったんですけど、音響監督の本田保則さん【※】は、優しいんだけど、厳しい方でした。
『鉄コミュニケイション』はヒロインの私だけが唯一のド新人で、作品の世界観もあって、まわりはすごい役者のみなさんが固めている現場だったんです。
※本田保則
1960年代の『マッハGoGoGo』『ハクション大魔王』などから、近年の作品まで活躍している大ベテランの音響監督
──『鉄コミュニケイション』は、文明崩壊後の世界が舞台で、堀江さんの演じたヒロインだけが人類最後の生き残りではないかといわれていて、まわりは基本、ロボットしかいないんですよね。
堀江:
そうそう。上手い方ばかりの中で、当然、毎回私だけが注意されて、何回も演じ直す感じなんですよ。
しかも本田さんは演出方法が独特で、どう受け取っていいか悩んでいると、まわりの先輩方がフォローしてくださったりもして。そうやって、本田さんも、他のキャストのみなさんも、何回も、何回も、私のリテイクに付き合ってくださって、時間をかけて収録してくださった。
──いい話ですね。
堀江:
本当にド新人がセンターをやっている感じだったので、先輩方は他の機会にもいろいろと話しかけてくださいました。あとは、収録後にご飯を食べに行けば、作品のことに限らず、いろいろなお話をしてくださって。
──暖かい現場だったんですね。
堀江:
いろいろなことがありましたけど、一番印象に残っているのは、今井由香さんとのやりとりです。今井さんはお話の途中から出てくる、もうひとりの人類の生き残りの男の子の役だったんです。そうしたら、「ふたりだけがこの作品に出てくる人間だから、いろいろ話し合いながらお芝居を作っていこう」と声をかけてくださって。きっとあれは、私が本当にお芝居に慣れていなかったからだと思うんです。
それで、アフレコにほかのみなさんよりちょっと早く来て、セリフ合わせみたいなことをやってくださった。「このセリフって、きっと、こういうことだと思うんだよね」みたいに、台本の解釈についても教えてくださって。今思うと、他にそんなことをやった機会って、この作品以外でないんです。
──マンツーマンでのそうしたやりとりは、他の方からも聞いたことがないです。
堀江:
そうですよね?
当時、それが特別なことって、私、わかってなかったんです。ものすごくお忙しかっただろう中で、今井さんがわざわざ時間を割いてくださっていたのが、どれだけありがたいことだったのか。今振り返ると、あらためて感じるものがありますし、すごく印象に残っていますね。
音響監督の本田さんも最後のアフレコのあと、「がんばったね」みたいなことをいってくださって。怒られてばかりでしたけど、求められてること、全部じゃないけど、ほんの少しでも応えられたのかな。そんな、救われたような気持ちになったのも、いい思い出です。
「どの現場でも自分がいちばん下手」
──アニメ・声優業界に飛び込んで、ゼロからのスタートで苦労を重ねつつも、外側からは順調にキャリアを重ねて来られたように見えます。でも、ご自身には壁を感じたり、葛藤された瞬間はあったのでしょうか?
堀江:
いや、もう、ずっとですよ。今でもあります。
──今でも、ですか!?
堀江:
ずっと、ずっと、ずーっと劣等感ですね!
本当にどこの現場に行ってもいちばん下手だなって思うんですよ。
──そんなことはないだろう……と思ってしまいますが、あくまで堀江さんの中ではそういう意識である。
堀江:
仕事を始めたころ、先輩たちばかりに囲まれていたあのころと、全然意識が変わらないです。
今でも、どの作品の現場でも、「みんな、上手い……」みたいな感じです。ずっとこの仕事に向いていないと思っているし、劣等感は抱えっぱなしです。「何でここにいるのかな?」みたいな意識があります。
──それはどうしてだと思いますか? ものすごい素敵なキャリアをお持ちなのに。
堀江:
養成所で学んだこともたくさんありますが、それ以上に現場に出て覚えたことの方が多いからかもしれません。
どこかで自分のことを、何だかアマチュアっぽいと感じてしまうんです。声優じゃなくて、「声優っぽい人」だと。
──それを聞くと、堀江さんの中での「声優」という職業のイメージが気になってしまいます。
堀江:
人それぞれな捉え方のある職業ですもんね。私は声優さんって、「職人」でありたい、みたいな考え方なんです。
お芝居だけじゃなくラジオもやったり、歌もうたわせてもらっていますけど、それはあくまで、「声の職人」であることから派生している仕事なんだ、というイメージなんです。
──「声の職人」。
堀江:
私がまわりからどう思われているかはわからないけど、私自身としては、そうあれたらかっこいいなぁって思います。
お芝居ができる人は、俳優さん含め、いっぱいいます。でも、そうした方々と違うことができるから、「声優」と呼ばれているわけじゃないですか。
──なるほど。俳優さんが声の仕事をやることもありますけど、それでも「声優」という職業はちゃんとあるわけですよね。
堀江:
絵に合わせる技術だったり、ほかにもさまざまな技術があって、「声優」という職種が成り立っている気がするんです。だから、我々にしかできないものをちゃんとやりたいなっていう気持ちがあります。
あ、ただ、「職人だから声に関係した仕事しかしません!」みたいにこだわることはなくて、いろんなことができる人は、どんどんやった方がいいと思いますけどね。できていたことでも、やらないと下手になっちゃうから。
──そうした高い意識があるから、「声優っぽい人」だとご自分を感じてしまわれるんでしょうね。しかしその、演じてきたキャラクターのファンは膨大にいるわけじゃないですか。そこと、ご自分のお芝居に対する劣等感のあいだのギャップは、どう感じておられるんですか?
堀江:
いやもう、みなさんが「好き」と言ってくださるキャラクターがいっぱいいるのは、「ああ、よかった!」と思っています。自分のせいでキャラクターが嫌われなくてよかった! って。それはやっぱりイヤなんです。
割とキャリアの初期から、もともと人気の高いキャラクターを演じさせていただく機会が多かったんです。作品のファンの方から「今でもあのキャラが大好きです!」みたいに声をかけていただくことも多くて、でもそれは本当に、そのキャラクターの力が大きいんですよ。だから本当に、自分がその、もともとあった力を大きく損なわなくてよかった、みたいな気持ちです。
実力は足りていなくても、一生懸命やろうとしていたことは多分伝わったのかな? って。
堀江由衣の未来
──では最後に、「3つの分岐点」の先にある現在、そして未来についてうかがいたいです。今の堀江さんがお仕事をやる上で、また、もっと広い意味で、人として生きる上で一番大切なんじゃないかと感じていることはなんでしょうか?
堀江:
……なんですかねえ。これ、難しくて、答えが出なかったんですよ。私が大切にしてること、どう思います?
──今日ここまでのお話を聞いてあらためて感じましたが、堀江さんはものすごくストイックですよね。ストイックさ、真摯さを大切にされていませんか?
堀江:
なるほどなあ。昔、言われたことあります。たしかラジオのお便りで、「堀江さんは仕事の鬼ですよね」みたいなことが書いてあって、そのときは「え、そうかな?」と思いました。
今でも、自分では、あんまりそういう意識はないですね。仕事が休みになったらうれしいタイプですし(笑)。
──でも、休みはうれしいけど、わざわざ、仕事をセーブしようとは思われないわけですよね。
堀江:
でもすごく仕事に積極的に打って出よう!…という事でもないです(笑)コロナ禍になって、自分の時間みたいなものが持てるようになっても、結局バタバタいろんなことをやって生きてますし(笑)。
うん、でも、そうですね。だから今大切にしていることというより、これから大切にしなきゃいけないと感じていることですけど、丁寧な暮らしをすることかな。健康でいること、元気でいることを大切にする。この仕事って、それがなかなか難しいところもあるんですけど。
……あれ、ちょっと期待されてる答えと違いますか?(笑)。
──いえ、すごく大切なお話だと思います。声優業界に限らず、心身の健康の大事さを、コロナ禍もあっていろいろな人が意識している昨今ですし。ちなみに、今の時点で、自分を常に健康に保つ、追い詰めないために心がけてらっしゃることはありますか?
堀江:
体の健康については、今のところあんまり大きい病気もしていないので、普通の範囲でやっています。メンタルはどうかなあ……よく一緒にラジオをやってる浅野真澄ちゃんからは、「ほっちゃんはすごくメンタルが強い」みたいなことをいわれるんですけど、その理由はよくわからないです。
ただ、「忘れる」ことと、「人のせいにする」のはいちおう、心がけていますね(笑)。イヤな心がけかもしれませんが。
──どうしても自分ひとりで抱え込む、自分の責任と考え過ぎるのも、真面目なようで不健全ですから。これも大切なことだと思います。
堀江:
そうなんですよね。大体のことって、原因は必ずしも白黒はっきりつけられない。自分ひとりの考えでは解決しない事の方が多い気がして…。そこで白か黒かをあれこれ考えていてもしょうがないので、そういうときは「相手が黒い」っていうふうに、思うようにしてます……やっぱり、すごい悪い人に聞こえちゃうかなあ(笑)。
でもそもそも、そうやって考えている時点で、「自分も良くないところがあったな……」って、頭のどこかで考えているんですよ。だから必要以上に悩みすぎない、反省しすぎない。
良し悪しのある考え方かもしれませんけど、私はそれぐらいの感じでやってます。でも、あんまり真似しない方がいいかもしれない(笑)。
──今後の野望についてはどうでしょうか?
堀江:
それはもう、やっぱり探偵になりたいです。
探偵みたいな仕事につきたくてこの仕事に入ったわりに、実は探偵そのものの役はあんまりないんですよ。プラネタリウムで上映される「『迷』探偵」のシリーズ【※】とか、そういったものはあったんですが。いつかアニメ作品で探偵になりたい。その夢は変わらないですね。結局、私が声優を続ける理由は、事件を解決してみたいっていう気持ちなんです。探偵の出てくるアニメ、もしありそうだったら、推薦してください。
※「『迷』探偵」のシリーズ
愛知県安城市文化センター内のプラネタリウムで上映されていた「迷?探偵クリス」シリーズ。2002年から2013年にかけて、シリーズ9作が制作された。
──探偵のこと、キッチリ記事に書いておきますね!
堀江:
でもこれ、昔からいろんなところで言ってるんですよね。
私のポンコツ感というか、普段のどんくささがたぶん、探偵と結びつかないんだと思います。まずそこから、どうにかしなきゃですね(笑)。
堀江由衣さんは、どこまでもプロフェッショナルだった。
インタビュー場所に現れると「これが堀江由衣か…!」と圧倒されるようなオーラを放ち、現場に良い意味で緊張感が生まれた。
決して、ピリピリした空気になるということではなく、程よく現場を笑わせて和ませながらも、、「いい仕事をするぞ」という集中力のようなものを現場に与えてくれるのだ。
これが、第一線で活躍して数々の名キャラクターを生み出してきた声優のパワーなのかと感じた。
インタビューは、仕事に対する対する真摯な姿勢から、「ちーちゃん」に関する親近感の沸くエピソードまで「堀江由衣のパワーの源」をいくつも知れるものになったと思う。
間違いなく、これからも堀江由衣さんの快進撃は続くだろう。
堀江由衣さん直筆サインをプレゼント!
インタビュー後、堀江由衣さんにサインを書いていただきました。今回はこの直筆サインを抽選で1名様へプレゼントします!
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— ニコニコニュース (@nico_nico_news) May 13, 2022
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締切:2022/5/20(金)23:59 当選はDMでお知らせします。 pic.twitter.com/xN03hmm1qF