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「マンガを布教する時に“全巻貸す”は絶対ダメ」大学の宗教研究者に“布教ノウハウ”を聞きに行ったら推し活でのNG行為が明らかになった

■仏教式布教ノウハウ――折伏(しゃくぶく)と摂受(しょうじゅ)

――ここからは、メジャーな宗教で実践されている具体的な布教のメソッドを教えていただければと思います。

島田:
 なるほど、では今日の世界宗教と呼ばれている宗教のうち、仏教・キリスト教・イスラム教の三大宗教から布教の方法を四つご紹介しますね。

 まず、はじめは仏教について。仏教はお釈迦さんが悟りを目指した宗教で、その後の人たちっていうのは、悟りにいかに近づくかってことをやってきたんだけれど、時代が下るうちにいろいろ変容していきました。なかでも「折伏(しゃくぶく)と摂受(しょうじゅ)」という2つの方法をご説明します。

――折伏は、聞いたことがあります。

島田:
 折伏は「折る」と「伏する」という言葉を組み合わせた言葉です。とある仏教系の宗教団体が、戦後に徹底してやった手法で、さっきお話した布教相手の家にある仏壇を焼き払ったりするような「強気の布教」の正体がこれです。
 強引な手段を使ってでも改宗させるわけですね。相手をやり込めて、完膚なきまで説き伏せるという方法です。折伏の場合は「閉鎖的な空間」でおこなうのもポイントです。

――新入生歓迎会だったら部室とか、誰かの下宿ということですか? たとえば「今から部室でアニメの上映会やるんだけど来ない?」と言って閉鎖的な空間に誘う感じでしょうか?

島田:
 閉鎖的な空間に半日もいると、自然と親密度は上がりますしそこは日常から離れた非日常の空間になります。孤独な人にはその親密さが効きますし、帰るに帰れない空間は「強気の布教」がやりやすいでしょう?

 霊感商法で世間を騒がせたとある宗教団体は、大学の近くに一軒家を借りていて信者はそこで共同生活をしています。そこへ布教したい相手を一人でくるように巧く誘い出す。
 ぼくもわざと引っかかったフリをして行ってみたことがありますが、一軒家という閉鎖空間で布教者が1対1の講義をして、食事をふるまい、最後に「また来てくださいね」と帰す。なかには「また来ようかな」と思う人もいるんじゃないかな。

――それだけ閉鎖的な空間での布教は効き目があるということなんでしょうね。ちょっと怖くなってきました。

島田:
 折伏に見られるような強気の布教の悪用は厳禁です、社会問題に発展することもありますから。一方の摂受は、相手のことも考えて、そのうえで教えを穏やかに説いていく布教の方法です。

 「こっちが全部正しいんだから信じなさい!」っていう折伏とは違って、摂受はそれぞれの人たちが抱えている悩みにフォーカスして、「だったらこうすれば救われるんじゃなかろうか?」という方向に持っていくんですね。

――ミニ四駆が好きな僕が、もし折伏で布教するとしたら……「ミニ四駆を遊んだことないなんて信じらんない!」みたいな感じでしょうか?
 うーん、折伏か摂受か選ぶなら僕は摂受で布教していきたいです。折伏は友達が減りそうなんで。

島田:
 たしかに折伏は効き目がある分、下手をすると友達は減るでしょうね。

 かと言って摂受が非効率な布教の方法かと言うとそうでもありません。考えていただきたいのですが、完ぺきに幸福な人はいないわけで、誰もが何かしらの悩みや孤独、埋められない心の隙間を抱えているわけです。摂受はそこにアプローチする。

――たとえば、上京してきて寂しそうにしている人には、話を聞いてあげたうえで「ミニ四駆を通じて友達づくりができるよ」と声をかける感じでしょうか?

島田:
 そうですね。自分が薦めようとしているものをいったん抑えて、まず相手の話を聞く。そのうえで、相手の状況を見極めて、この人に一番ぴったり合うものは何かを親身に考えてあげるわけですね。

――まとめると、折伏が有無を言わさず推しを布教する方法、摂受は相手の置かれた状況を考慮したうえで推しを布教する方法ということですね。

■キリスト教式布教ノウハウ――サビエルに学べ!

島田:
 次にお伝えするのは、キリスト教の場合の布教の仕方。例えば16世紀の日本にフランシスコ・ザビエルが来ましたよね。
 彼はイエズス会という修道会に属していました。イエズス会は商売をしながら布教するのはご存知ですか?

――不勉強ながら、今知りました。

島田:
 わざわざポルトガルから日本までやって来て、布教するんですからお金がかかる。そこで、他の修道会から批判を受けつつもイエズス会は貿易活動をやりながら布教活動をしました。旅の道中でお金がかかるわけですが、実はイエズス会が商売をしていたのにはもうひとつ理由があります。
 それは、布教をする土地の最高権力者に対して手厚い贈り物をする必要があったからです。

――贈り物をすることで、布教する際に便宜を図ってもらうということでしょうか?

島田:
 そうです。ザビエルは最初、最高権力者は天皇だと考えて、天皇に許可を得て日本国内でキリスト教を布教しようと考えていたようですが、その頃は応仁の乱の後だったので、最高権力者が住んでいるはずの京都が荒れ果てていて、天皇も掘っ立て小屋に住んでいました。
 そこでザビエルは方針を変更してはじめに上陸していた九州のほうに戻って、そこの領主に対して布教活動をおこなったようです。
 つまり、個人をターゲットにするのではなく、まず権力者に取り入って「布教してもいいですよ」という状況を作ってそのうえで布教する。

――例えば、ミニ四駆を布教するために、会社の中で社長や上司に贈り物をしたうえで、社内でミニ四駆同好会を作って仲間を増やしていく……という感じでしょうか?

島田:
 そういう感じですね。だいたい布教したいと思っても、既にその土地に根付いた宗教があるわけじゃないですか。だから、自由に布教ができる環境をまず作らないといけないんですよね。

 贈り物という考え方は、権力者に対して便宜を図ってもらう以外にも布教では重要です。個人的な贈り物は、やっぱり効くんです。さっき漫画を布教するときには貸すのではなく、与えてしまうと話しましたが、贈り物をされると負い目ができて無下にはできなくなってきます。
 豪華な貢ぎ物でなくてもいいんです。大学生の新入生歓迎会は基本的に上級生が飲食代を持ちますよね? 部員を多く加入させる必要がある強豪の部活では勧誘費を持たせる場合もあります。これも、一種の強気の布教ですね。

――イエズス会は権力者へアプローチすることで、布教活動の許可をもらった。同時に、そこには贈り物をすることで貸しを作っていった。ということですね。

島田:
 やっぱり人間って、恩を被ってしまうと、その恩に対して報いなきゃいけないって思うじゃないですか。だから、その恩を感じさせるように、熱心に働きかけるところがやっぱり重要ですね。

■イスラム教式布教ノウハウ――帝国システムを作れ!

――ここまで、仏教の折伏と摂受、キリスト教の贈り物、と聞いてきました。4つ目の布教方法は何でしょうか?

島田:
 4つ目の布教方法はイスラム教に学ぶ「帝国システムを作る」というやりかたです(笑)。

――急にスケールが大きくなってきました(笑)。

島田:
 イスラム教はキリスト教に次いで世界第2位の信者数の宗教で信者の数は18億人ぐらいと言われています。ところが、キリスト教と違って基本的に布教活動はありません。
 キリスト教も仏教も出家した聖職者が同時に宣教師であったりするので布教は重要なこととされていますが、イスラム教には聖職者はいないし、布教しようという考え方が希薄です。では、どうやってイスラム教が広がっていったかというとイスラム帝国の役割が大きかった。

 イスラム帝国は戦争で他国に勝って勢力を広げていきましたが、そのときにはイスラム教徒が一番中心にいる形を採りつつ、他の宗教の信仰を持ってたとしても、税金さえ支払えばOKという寛容さがあった。
 税金を払えばキリスト教徒として教会で活動してOK、ユダヤ教徒だったらシナゴーグで集まって活動してOKというふうに。

――イスラム帝国というくらいだから、てっきり他の宗教を認めないような強さによって勢力が大きくなったのかと思っていました。

島田:
 ただし、その税金がポイントです。イスラム教徒になったほうが少し税金が安いわけですよ。すると長い年月をかけていけば……。

――なるほど! わかってきました。

島田:
 だんだん平和的にイスラム教徒が増えていくわけですね。長い年月というのは1ヶ月2ヶ月の話ではなくて、100年200年のスパンをかけて少しずつ増えていくイメージです。
 もうひとつポイントがあって、イスラム教は「法の宗教」と呼ばれているくらい色々な決まりごとがあります。宗教の場面だけでなく結婚や商売でも細かくルールが設定されています。そこにはイスラム教の預言者だったムハンマドが商売の人だったことが影響していると思われます。

 イスラム帝国の勢力が広がって、国が大きくなっていくなかで統一されたルールがあったほうが生活が円滑に進むと思いませんか? 他の宗教を認めていても、イスラム教のほうが多数派であれば「みんなと同じルールで生活したほうがスムーズだ」となって、自然とイスラム教が増えていきました。こうして、個別に布教をしなくてもイスラム教が広まったわけです。

――ここまで壮大な話は、自分の推し布教に取り入れるのは難しいですが、でも実生活でも多数派にルールを合わせちゃうのはよくあることですよね。

島田:
 そうです。どんな集団にも必ずルールがあるでしょう? そこにアプローチする方法ですね。
 もうひとつ、イスラム教が広まった理由は子どもの数が多かったことが挙げられます。イスラム教が広がった地域は先進国に比べて出生率が高い傾向にあります。

――それは、堕胎が罪に問われたり、子供を生むことを奨励している……ということでしょうか?

島田:
 いえ、単純に子どもの数が多いんですよ。なぜなら子供を生むことを奨励しなくても、性に関してイスラム教は割とオープンになっていて、戒律で「性的な行為が罪深いからやっちゃいけない」みたいなものはないんです。
 そうして長いスパンをかけてイスラム教の子供が増えることで信者が増えていく。

――それもまた、気の長い話ですね。

島田:
 推し活の場合でも、親子の布教は効き目があると思います。たとえば私は長年、歌舞伎のファンなのですが、歌舞伎やさらに宝塚歌劇団だと親子で観劇している場面が多くある気がしますね。
 一番身近にいてかつ家庭という閉鎖空間、しかも自分より大きな存在である「親」というのは、人間が一番影響を受ける相手です。親から子に対しておこなわれる布教、これが一番定着率が高く強固なシステムです。

――確かに、親とキャッチボールしているうちに野球が好きになったり、家の本棚に置いてある漫画がきっかけでその作品を好きになったり、ぼくがミニ四駆に触れたのも子供の頃に手先が器用な父親がミニ四駆を作ってくれたことがきっかけでした。

島田:
 信仰はそうして代々つながっていくことが一番強力なんです。それによって宗教団体が維持されるわけですから。

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