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「マンガを布教する時に“全巻貸す”は絶対ダメ」大学の宗教研究者に“布教ノウハウ”を聞きに行ったら推し活でのNG行為が明らかになった

 推し活と宗教活動は似ている。

 「言われれば、たしかにそうかも」、読者のなかにはそう思った人もいるのではないだろうか? 推しに熱狂している様子が「宗教っぽい」「信者のよう」と表現される場面は確かにある。

 そして、推しの魅力を他人に伝えるとなると、これがなかなか難しい。「布教したいのに、推しの良さがイマイチ伝わらない」と、もどかしさを感じている人も多いはず。

 推し活と宗教活動は似ている。

 それなら、宗教の布教ノウハウは、そのまま推し活の布教にも使えるのでは?
 そう考えた我々は、東京女子大学・東京通信大学非常勤講師で宗教学者である島田裕巳先生に取材を実施した。

東京女子大学・東京通信大学非常勤講師 宗教学者 島田裕巳先生

 「もっと推しを広めたい!」そんな人は、ぜひこの記事を最後まで読んでほしい。

 好きな漫画をオススメする方法、イベントに人を誘うコツ、部活の勧誘で気をつけることetc…あらゆる推し布教に応用可能なノウハウを収録している
 しかも、ここで語られるノウハウは特殊スキルのようなものではなく、むしろ誰にでもできるシンプルな方法だったから驚きだ。

 島田先生からは布教ノウハウだけでなく、宗教と推し活の共通点や、宗教とお金の切っても切れない関係など好奇心を刺激する話も聞くことができたので、そちらも合わせてお楽しみいただきたい。

 本記事が、あなたの推し活ライフに役立てば幸いだ。

取材/トロピカル田畑


――自分の推しを布教する方法を宗教学者である島田裕巳先生に教えてもらおう、というのがこの取材のテーマとなっております。春になってあわただしく始まった新生活が落ち着いてきて、新しく出会った人に推しを知ってもらいたい人もおおいのではないでしょうか。
 僕は大人のくせにミニ四駆が大好きでして……あわよくば今日お聞きするお話を元に、知り合いにミニ四駆を布教したいなとも思っております(笑)。

島田:
 なるほど、たしかに春は人間関係がシャッフルされて新しい出会いがありますが、布教は人間関係ができあがる前までがチャンスです。それを越えて人間関係が出来上がってしまうとかえって布教が難しくなるかもしれません(笑)。

――おっと、いきなり取材の趣旨が危うくなりそうです。

島田:
 いやいや、今からでも遅いということはありません。新しい人間関係が複雑になる前に推しを布教するのが重要ということです。宗教団体の実態を見ていくと、自分の夫や妻……パートナーを宗教に入信、改宗させることはかえって難しいと言えます。

――てっきり他人よりも親しい人のほうが布教しやすいのかと思っていました。

島田:
 戦後、日本で新宗教が急速に広がっていったときでさえ、夫婦のうち片方だけが入信するケースが多かったんです。そうした場合、最後まで自分のパートナーを改宗させることができないか、何年もかかる場合が少なくありません。

――ということは、初対面の人と接する機会が増える春は、やっぱり推し布教のチャンスだということですね。

■ライブ会場は現代の教会か?――宗教とエンタメの関係

――では、推し活における具体的な布教のノウハウを聞く前に……そもそもライブで観客が熱狂している様子を「宗教っぽい」と表現したり、作品のゆかりの地に旅行したりすることを「聖地巡礼」と呼んだり、「推し活」と宗教活動には似ている点があるという僕の認識は合っていますでしょうか?

島田:
 私も推し活と宗教活動は似ていると思いますよ。宗教には堅苦しいイメージがありますが、一方で非常にエンタメな側面を持っています。

 たとえば、ロックのジャンルの中に「クリスチャンロック」というものがあります。演奏の仕方はまさにロックですが、歌の内容は神を讃えているものです。

 

――(紹介された曲を聴いて)詳しい英語はわかりませんが、「ハレルヤ」と歌っているのは聞き取れます。クリスチャンロックというのは、仏教でたとえると「現代風にした念仏」という感じでしょうか?

島田:
 仏教にもエンタメの要素はあります。お坊さんがする説法に落語のような人情噺があったり、念仏を唱える時に、お坊さんの読経にあわせて聴衆が「なんまいだ~!」と答えるコールアンドレスポンスがあったりしますよ。

――コールアンドレスポンスの要素だけ取り出せば、まるでアーティストのライブ会場ですね。

島田:
 なるほどライブ会場ですか……イエス・キリストや布教師をアーティストだとすれば、そのままテレビ教会になりますね。

――テレビ教会というのはいったい何ですか?

島田:
 アメリカにはキリスト教福音派と呼ばれるものがあって、そうした宗派の牧師は「テレビ教会」というショー番組を放送しています。その内容はかなりエンタメの側面があって、布教師に当たる人物がテレビ番組のMCとして進行をして、歌あり、ダンスあり、面白いジョークもあり、それが大体1時間ぐらいのパッケージになっています。

 バラエティ番組と違うのは内容がキリスト教の信仰にもとづいていること。そして番組には寄付を募るテロップが表示されるので、視聴者はそこへ寄付をする仕組みになっています。

■推し布教の極意――絶対に弱気になるな、強気でいけ!

――宗教と推し活、エンターテイメントの関係を教えていただきましたがそのうえで、推しを布教するためにいろいろな宗教の布教のやりかたを教えていただきたいのですが……。

島田:
 具体的な宗教ごとの布教方法の話をする前にまず、絶対にやっちゃだめな布教の方法を教えますね。
 それは「弱気」。人間は言葉にすごく弱い。誰が言った言葉か、どんな根拠があるのか、わからない言葉でも人は信じちゃうし、実践しちゃうんだよね。
 だからそこに根拠なんていらない。ガツンと強気の言葉をぶつける。そうするとそのまんま信じちゃう。これがシンプルで一番効く。だから宗教に限らず悪い人たちはみんなこの方法を使う(笑)。

――根拠のない言葉を普通の人が言っても信じてもらえるんでしょうか?

島田:
 これが効くんですよ。戦後に勢力を伸ばした、とある仏教系の新宗教は過激な布教でたびたびニュースになりました。相手の家にある仏壇を庭に放り投げて焼き払ったり、それぐらい強気の布教をやって急速に勢力を拡大しました。

――ということは、漫画を友達に布教するときに「3巻まで我慢すれば面白くなるから」みたいな話し方は?

島田:
 だめでしょうね。弱気な薦め方をしても楽しそうに感じませんから。まず、布教をする本人が熱狂して興奮状態にあることが一番大事です。「この仏、信じてもつまらないかもしれませんが……」って言われても困るでしょう(笑)。とにかく強く出るわけです。

 これは身近な例なのですが、とある難関大学に合格した女の子が「大学ではのんびりしたサークルに入りたいな」と思っていたのに、厳しい体育会系の部活のマネージャーになったパターンがありました。

 興味深いなと思って、少し事情を聞いてみると、勧誘のときに「ウチの部活は日本一を目指してる! 部費も1億円を超える体制でやってる! 監督は日本一になった大学で指導していた!」と、こんな感じで熱く説かれたらしく、これが結構効いたようなんです。ただ、強い言葉でやり込めたってだめで、熱狂状態を伝染させる必要があるんですね。

――そうすると、入る気もなかったガチ体育会系の部活にマネージャー入部しちゃったわけですね。強気の布教おそるべし……。

■「貸すな、与えろ!」――最強の漫画布教ノウハウ

――さっきの話で言うと、漫画を貸すときには「絶対おもしろいから読んで!」と強く言うほうが望ましい、ということでしょうか?

島田:
 まず貸すのが良くない。布教のときに手軽であることはあまりプラスではありませんね。相手に何かを乗り越えさせる必要があります。

 何かを手に入れるために努力しなきゃいけないっていうことは何かにハマるときにかなり大切です。

――これまでアニメを人にすすめるときは「アマプラで配信しているよ!」って伝えてましたが無料で見れるのは乗り越えた感はたしかにないですね。

島田:
 その布教の仕方は、あんまり効かないかもしれませんね。やっぱり、神の国に行くためには何かの障害を乗り越える要素がないと。たとえば全部が10巻だとしたら、はじめの5巻くらいを貸すのではなく、あげてしまう。相手がもっと読みたくなったら、あとは買わせる。全部は与えない(笑)。

――いままで全巻貸しちゃってました。はじめの数巻をあげちゃうのはやったことないです。これはすぐに実践できそうだと思いました。

島田:
 与える部分が少なくてもあまり効きません。漫画の試し読みサービスってありますよね? あれも撒き餌で、最初は無料で与えてあとは買わせてハードルを乗り越えさせる。するとハードルを乗り越えたあとは、ドンドンのめり込んでハマっていく。
 まぁ、漫画の試し読みはもう少し無料の部分を多くしてもいいと思いますよ、「こんなにもらっていいの?」というくらいあげてしまう。

 ホテルの引き出しに聖書が入っていることがあるのはご存知ですよね。あの聖書は持って帰られることを願っておかれています。お金を払ってハードルを乗り越えさせる前段階は、ありがたい聖書の言葉も全部与えちゃうわけです。

――なるほど、あれはそういうシステムだったんですね。

島田:
 扉の前までは連れてくるけど、扉は自分の力で開けさせるということです。
 山奥の不便なところに出店してるラーメン屋とか、やたら遠いところにある蕎麦屋ってあるでしょう? ところが行ってお金を払いさえすれば、誰でも食べられるから実は乗り越えられるハードルになってるわけです。そうしてハードルを乗り越えた人間は、今度はハマっていく。

――それでも、やっぱりハードルを乗り越えてくれるだろうか……って思っちゃうんですけど。

島田:
 もちろん漫画をあげたうえで「もういらないよ」と言われたら、それ以上は無理ですね。そういう場合はどんどん相手を変えて布教していくわけです。

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