声優・三森すずこ、人生の分岐点には『ミルキィホームズ』のメンバーとファンがいた。アニメに詳しくない宝塚オタクが今日まで”声優業界”を駆け抜けてこれた理由【人生における3つの分岐点】
“三森すずこ”が何なのかわからなくなった
──ミルキィホームズとして声優としてのキャリアをスタートされてからは、怒濤の日々だったんじゃないですか?
三森:
怒濤でした。声優を始めてから、ホントにあんまり休んだ記憶がなくて、気づいたら一年終わってる! みたいなことの繰り返しでした。
年末年始はどこかしらでライブして、休む間もなく走ってる。そんな20代でしたね。それはそれで良かったのかな? とは思うんですけど。
──ミルキィホームズが特殊なのは、お芝居、歌、踊りに加えて、バラエティ番組的な仕事、芸人さん的な要素が求められていた点だと思うんです。これって、ここまでうかがってきた三森さんの人生にはなかったものですよね?
三森:
そうなんですよ! ないない!
──そこはどのように対応されたんですか?
三森:
そもそも最初は、「自分自身でいる」ということがよくわからなかったんです。橘田さんは「餃子が好き」、徳井さんは「アニメが大好き」みたいな個性がそれぞれあるじゃないですか。
「私の個性ってなんだろう?」 と、バラエテイ番組っぽい仕事になるとポツンと考え込んでしまっていましたね。
ラジオでもそうです。「ただの“三森すずこ”として話してください」と指示が出たら、悩んでしまっていたんですよね。「どういう人なんだろう、『三森すずこ』は?」と……。
──なるほど、難しい問題ですね。
三森:
例えば、舞台に立っているときは、大勢の中のひとりであっても、設定があったんですよ。「この人はこういう婦人で、もうすぐ結婚する人で〜」とか。
だから、役がない自分はスカスカに感じたんです。役から離れた「三森すずこ」が、どういうしゃべりをするのか全くわからなくなっていて、ただただ最初は混乱しました。
私って何もないなあ。ダンスだったらできるけど、しゃべりは本当に弱いな……と思いました。
──学生時代からずっと、夢に向かうために膨大なレッスンを受け続けて、仕事を始めてからも新しい世界を猛然と駆け抜けておられた。立ち止まって我が身を振り返る余裕なんてないですよね。そこで急に、仕事のために素の自分が必要になった。「自分探し」を始めなければならなくなった。
三森:
そうなんですよ。「トークコーナー? 何をしゃべればいいんだろう? 私の日常? でも私には忙しくて日常がないから」って。
──どうやって解決したんですか?
三森:
そこもやっぱり、ミルキィのメンバー、橘田さんや徳井さん、それに佐々木未来さんがいたことで解決できたんです。
ひとりでいる私はフラットな、何もない、白いキャンバスみたいな人間になっちゃうけれど、まわりのメンバーが鮮やかだから、気がつけばそこで自分が浮き彫りになっていく。趣味や特別な人生のエピソードがなくても、まわりにカラフルなみんながいれば、私は「白」という色で成り立つんだ。って、そんな感覚になりました。
──素敵な関係性ですね。
三森:
そうやって過ごしているうちに、徐々に「『私』ってこんな感じかな?」というもの出来上がってきたりもしました。
そのあと、ソロアーティストとしての活動が始まったことでも変化がありました。ソロのみもりんチームのみなさんが、「みもりんはこういう感じ!」みたいなイメージを作ってくれて。
──それはビジュアル的にですか?
三森:
見た目もそのひとつですね。ソロではお姉さんっぽい、きれいめな衣装を着させてもらって。
でももっと全体的なイメージで、たとえば音楽性の部分では、ソロだとキュンとするかわいい曲を歌わせてもらうことになったんです。
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──音楽活動はデビュー直後は甘くかわいい感じで、そこからかわいさを残しながらも、カッコよさやスタイリッシュさも加わってと、変化した印象があります。
三森:
「三森すずことは?」と、自分の中で少しさまよっている感じが出ていますよね。
みもりんチームの人たちが全力でプロデュースしてくれる中で、求められているものと、自分のやりたいことがちょっとずつ見えてきて、その繰り返しの中でさらに自分がわかってきたんです。
責任感を強くしてくれた園田海未、ファミリー感のあるミルキィ
──ミルキィホームズも、そのあとにスタートした『ラブライブ!』のμ‘sも、大ブレイクして10年続くものになりました。関わったプロジェクトがブレイクしたことで、三森さん自身の変化はあったのでしょうか?
三森:
『ラブライブ!』は、「園田海未役の三森すずこ」として、もっとしっかりしなきゃ! という責任感が強くなりました。
支えてくれる人も沢山いるし、応援してくださる人も沢山いる。だからしっかりやらなければいけない。ライブはひとつひとつ成功させたいし、テレビアニメも劇場版も、みんなが楽しんでもらえる作品になるように、忙しいけどひとつずつ丁寧にやらないといけないと思いました。
──なるほど、ミルキィホームズはいかがですか?
三森:
ミルキィは、ユニットとして人気が出てからも、あの場所があったから救われたようなところがあります。
ファンのみんなも、スタッフのみんなも含めて、ファミリー感がありましたよね。そもそもメンバーがみんな同じ事務所で、スタッフも会社のみなさんで、いっつも会社のボロボロのハイエースで移動してたんですよ(笑)。
ホントに「人が乗る車じゃないだろ!」「荷積み用だろ!」って思わずツッコミを入れてしまうくらいボロボロの車で。
──(笑)
三森:
そのボロボロの車でアニサマやMV撮影に行ってたんですよ。でも、かえってスゴく楽しかったんですよね。ボロボロな車で、それぞれの聴きたい曲を掛けて大声で歌いながら、途中でコンビニがあったらいろいろ買って。たまらなく楽しかったです。
──ツアー中のインディーズバンドみたいで、青春って感じがしていいですね。
三森:
そうなんですよ!苦労しているバンドみたいでした(笑)。
──ミルキィホームズとμ‘sのその距離感が両輪になって、上手く三森さんの中で活動のバランスが取れていたのが伝わってきました。
三森:
年間を通して、そのふたつの企画に費やす時間が圧倒的に多かったですしね。
他にも『ゆるゆり』とか、単発でイベントに出させてもらう作品もありはしたんですが、『ミルキィホームズ』と『ラブライブ!』が自分の仕事のスケジュールで、かなりの部分を占めていた時期が長かったです。
分岐点3:ミルキィホームズの活動が一区切り、“忙しかった20代”が終わる
──ミルキィホームズは活動終了、『ラブライブ!』は展開が続いていますが、三森さんの関わる活動は以前よりは穏やかになっている印象があります。いまの三森さんは、どういう感覚で活動されているんでしょう?
三森:
その話をすると、三つ目の分岐点の話になりますね。
「ミルキィホームズの活動が終了したこと」が、やはり自分にとって、大きな3つ目の分岐点なんだと思います。
──その話をもう少し聞かせてください。
三森:
μ‘sのファイナルが終わってからも、ミルキィが細々と続いていたのが、いったん一区切りを迎えた。まだまだこれからも活動はあるかもしれないけれど、いままでみたいにべたーっと沢山活動するわけじゃない。
そういう状態になる中で、自分の年齢が30代に入ったんですよね。ユニットとして区切りと同時に、「忙しかった20代が終わった」みたいな感じがしたんです。
──人生の、ひとつの節目が。
三森:
実はソロ活動も、1年に3枚CDを出して、ライブもやるような激しい波の時期が一旦落ち着いたんです。ちょうど新型コロナウイルスの影響で、仕事が自粛になったことも重なって。
そうしたら、30代になって初めて、自分の人生に暇な時間ができたんです。10代も忙しかったし、20代も死ぬほど忙しかったから……。
──今日ずっとうかがってきた話を思い返すと、言葉の説得力がすさまじいです。そうして時間ができた三森さんは、いま、どうしているんですか?
三森:
趣味を見つけようというか、「自分の時間を作ろう」と思って、いろいろとやっています。仕事はいまでも大好きだし、いろんな作品や舞台にも出たいです。
でも、そうした気持ちを持ちつつ、ちょっと落ち着いて、インプットしてもいいのかなと最近は感じています。観ていなかった映画やドラマ、触れてこなかった世界中の音楽に接するのが、なんだかいまはとても楽しい。
ずっと私、こういうことをしていなかったなと、急に気付いた感じですね。
──なるほど。
三森:
20代のときには、家にいる時間が本当になくて、振り返るとあのころの休日は何をしてたんだろう?「止まったら死ぬ」みたいな感じで、どこかに出かけていたり、誰かに会っていたのかな。
思い出せないですけど、最近は家でちょっと時間のかかるご飯を作ったり、人間らしい生活をしています(笑)。
──インプットを増やしたり、生活を充実させたことの、仕事への影響はありましたか?
三森:
毎日せかせかしていたころより、物語を消化できる余裕が生まれています。時間に追われて、とにかくいただいた台本の内容に応えるので精一杯な状態ではなくなりましたね。
あと、まわりの人にも、すこし優しくなれている気がするんです。
──そうなんですか? もともとお優しいイメージがありますが。
三森:
忙しくて、気持ちが殺伐としてた時期もありました(笑)。
ただ、優しくなったといっても、仕事に対しての欲がなくなったわけじゃなくて、受けさせていただけるオーディションにはどんどん参加しています。出演したい作品の噂を聞きつけたら、マネージャーさんにがめつくアピールしています。
──そうやってやりたいことを有言実行していくのも素晴らしいですよね。
三森:
「プリキュア」への出演も、何年もラジオ番組で訴えていて、本当に『ヒーリングっど♥プリキュア』のキュアアース役を射止められました。
やりたいと言ったら聞かないタイプなんですよ(笑)。
三森すずこの「森」は、森光子さんから取った
──では最後に、3つの分岐点を超えた、これから先の「未来」のビジョンをお訊きしたいです。
三森:
そうですね……少し時間に余裕ができて、じっくりと声優の仕事に取り組む時間が増えたことで、自分のお芝居に対してもっともっと頑張りたいところが見えてきたんです。「こういうシーンは苦手だな」とか。
ただただ与えられたことをやるのに必死だったのが、どうしたら求められているよりも上のものをお芝居で出せるか考えるようになりました。これから、そこにもっと挑んでいきたいと思っています。
──既にご活躍されているわけですが、さらに芝居を深めたい?
三森:
お芝居って、ゴールがないんです。年齢が重なっていけば、役の幅も広がる。いままでやらなかった役も来ます。
いままでやっていたような役でも、自分の人生経験が重なっていくことで、自分の中での解釈が変わっていったりもするはず。だから演じることを、ずっと続けて行きたいですね。
いまの事務所に所属する直前に、森光子さんの出演されていた舞台の『放浪記』を観たんです。
──超ロングラン公演をした、森光子さんの舞台での代表作ですか。
三森:
そうです。森光子さんはそのとき既にかなりのお歳だったのですが、それでも三幕構成の長大なお芝居で、ひとりの女性が20代からおばあさんになるまでを、おひとりで演じられていたんです。
最初の一幕でのお姿は本当に若々しく、最後のシーンでは年相応のおばあさんとして素敵なお芝居をされている森さんを見たとき「私もこんな風に、一生お芝居をしたいな」って思ったんです。お芝居だったら、80歳になっても20代として生きられる。それってなんて魅力的なことだろう、と。
──役者業の醍醐味ですよね。
三森:
だから私、森光子さんの「森」の字をいただいて、芸名を「三森すずこ」にしたんですよ。
──ええっ!? そうなんですか!?
三森:
そうなんですよ。事務所に所属するにあたって芸名をつけることになって、最初はそのまま、「『森』すず子にしたいです」って言ったんです。そうしたら「森じゃ検索に引っかからないから……」と難色を示されて。
で、最終的に私の好きな数字の「3」をつけて「三森」でどうですか? と言ったら、当時のマネージャーさんが「いいじゃないですか! 『みもりん』ってあだ名で呼ばれそうだし」って後押ししてくれて、いまの名前になりました。
──実際に「みもりん」はものすごくキャッチーなニックネームで浸透していますし、すごいエピソードを聞きました……。そうして歩みだした声優の道は、役者業の中でも生涯現役でご活躍される方が大勢いらっしゃいますよね。
三森:
そうなんですよね。とても夢があるじゃないですか。
私が死んだ後も、次の世代の私の家族が「おばあちゃん、こういう役をやってたんだ!」って見てくれたら、それもまたうれしいし。アニメや吹き替えで、声が形に残っていたらいつまでも聴けますよね。それってすごいことだし、そこを目指したいですね。
夢は帝国劇場のセンターポジション
──そんな声優への熱い想いをうかがった上でなんですが、人生で最初に抱いた帝国劇場のミュージカルへの夢は、もう三森さんの中では一段落しているんでしょうか?
三森:
それが、まだできてないんですよ!
でも、それは一生叶わなくてもいい野望ですね。
──ぜひ教えて欲しいです。
三森:
帝劇の舞台で観たミュージカルで「芸事の世界を極めよう!」と思った気持ちは忘れない。アンサンブルで出演はしたけれど、プリンシパル(主演)で、センターのポジションゼロに立つまではこの気持ちは消えないんです。
声優として死ぬまでがんばりたいという「夢」とは別に、帝国劇場のポジションゼロに立つまで、舞台での「夢」は完結しません。
ただ、舞台での「夢」は叶わなくてもいいのかな、とも思います。あそこは、永遠に自分の憧れの場所であってほしい気持ちもあるんです。チャンスが来たら拒否はしないけれども、永遠の憧れ、ロマンであってほしい場所ですね。
──それもまた素敵な話だと思いました。もし帝国劇場での主演が決まったら、またお話をうかがわせてください。
三森:
ぜひ!
──そして、末永く、これからもご活躍されるのを楽しみにしています!
三森:
がんばります! ありがとうございました!
声優業を始めるまで『涼宮ハルヒの憂鬱』すら知らなかったという三森さん。
アニメにまったく明るくない彼女が、それでも声優の道を突き進んだのは、「私のことを受け入れてくれた」というファンの存在だった。
幼いころから憧れていた宝塚やミュージカルではなく、声優という世界で「死ぬほど忙しかった」とまで語った20代を突き抜けることができたのも、きっとファンの存在があったからなのだろう。
インタビューを終えた直後から何度も、「帝国劇場のポジションゼロに立つまで、舞台での夢は完結しません。」と語ったことを思い出す。三森さんはそれを「一生叶わなくてもいい野望」だと言った。しかし、死ぬまでお芝居を続けたいという、野心と向上心が溢れ出す言葉の数々から、彼女はきっと夢を叶えるだろうと感じた。
次回、ニコニコニュースORIGINALに三森さんのインタビューが掲載されるのは、帝国劇場のミュージカルで主演を務めるときになるだろう。その日が、いまからとても待ち遠しい。
三森ずずこさん直筆サイン入りチェキをプレゼント!
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締切:2021/12/24(金)11:59
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2021秋アニメまとめページ
三森すずこさん撮りおろしフォトギャラリー
インタビュー後、三森すずこさんのフォト撮影を行いました。
「3つ目の人生の分岐点」を迎え、お芝居に向き合う三森さんの“いま”が詰まった表情の数々。
記事とあわせて、ぜひお楽しみください。