速度違反タクシー衝突で女児が近隣住宅の窓を貫通……。東京墨田区で起きた痛ましい「児童吹き飛ばされ事故」を解説
今回紹介する、ゆっくりするところさんが投稿した『【1977年】大幅な速度超過…突然窓から飛び込んできた女児…いったい何が?【ゆっくり解説】』では、音声読み上げソフトを使用して、1977年に東京墨田区で起きた女児とタクシーが接触した痛ましい事故を解説していきます。
ボールを追いかけて飛び出した女児と法定速度違反のタクシーが激突
魔理沙:
今回紹介するのは昨年からリクエストをもらっていた「児童吹き飛ばされ事故」だ。これは交通事故事例のひとつなんだが、今回もその紹介の一部でショッキングな表現をせざるを得ない部分がある。それにこれは事件の概要を紹介するものであり、すべての事柄を正確に伝えるものではない。以上のことを理解し、了承できる人のみ視聴を続けてくれ。
1977年7月。東京都墨田区某所。この場所はいわゆる「下町」といえるような商店や住宅が密集した、大きな道のない入り組んだ場所だった。小学生女児の「Aちゃん」(当時7歳)は、家の近所にある公園に友達と朝から集まり、遊具やビニールボールで遊んだりしていた。
この日は夏休みに入ってからちょうど3日目。Aちゃんは小学校に入学してから初めての夏休みに、はしゃいで初日から毎日外に出かけて友達と遊んでいた。Aちゃんは午前中お友達と公園で遊んで過ごし、お昼になろうかといった頃、公園の入り口に母親が現れ「そろそろお昼だから帰ってきなさい」と声をかけられた。
しかしAちゃんは「もう少し」と入り口に向かって叫び、ギリギリの時間まで公園で遊ぶことにした。公園にはまだ午前中だったためか、人もまばらにしかおらず、遊具も使い放題だった。この公園の近くの道路を、一台のタクシーが走っていた。
タクシー運転手は「Bさん」(当時49歳)。彼はこの時、乗客を迎えに行くためタクシーを走らせていた。しかしこの時、配車予定時間をすでに5分も過ぎてしまっており、Bさんは大急ぎで客先に向かっていた。
彼は元会社役員であったが、会社が倒産し、その後再就職先を探したが難しく、ようやく再就職できたのが今のタクシー会社で、二種免許を取得し、タクシー運転手として第二の人生を歩み始めたところだった。
しかし、やっと就職できたこのタクシー会社は、今で言うかなりの「ブラック企業」でもあり、残業代は支給されていたものの、無理なノルマ設定をされたり、ミスがあればすぐに何かと理由をつけ事実上の減給をされたりと、多くの社員たちはひどい扱いを受けていた。
だから配車予定時刻に遅れ客からクレームでも入れられれば、会社からどんな仕打ちを受けるか分からないため、Bさんはとにかく急いで客先に向かっていたんだ。Bさんのタクシーが公園の入り口付近にさしかかった。その一方、Aちゃんはまだ公園んで友達とビニールボールを蹴って遊具に当ててあそんでいた。しかし、その途中でボールが思わぬ方向に跳ね返り、公園入り口のほうに転がっていった。
Aちゃんはボールを追いかけて全力で入り口に向かって走っていった。その時、入り口から飛び出したボールとAちゃんの真横から、スピードを出していたBさんのタクシーが思いっきり突っ込んでしまった。
BさんはAちゃんが飛び出してくる前に道路に出てきたビニールボールに驚いて急ブレーキを踏んでいたが、法定速度を大幅に超えたスピードを出していたため、とても停止することができず、ボールの後に続いて飛び出したAちゃんに突っ込んでしまった。
Aちゃんの体は、車の前部にぶつかって吹き飛び、空中に飛び上がった。そのままAちゃんの体は、ボンネット、フロントガラスをすべり、近くの民家のほうに吹き込んでいった。そしてその家の窓にぶつかり、ガラスを割りながら家の中に入っていった。 民家の住人は突然の出来事にパニックになった。この時、家を爆撃されたのかと思ったほど、大きな音が鳴っていたらしい。
すぐに救急車が呼ばれ、民家の住人はAちゃんの状態を確認したが、体が不自然な方向に折れ曲がり、ぐったりしている様子だった。救急隊がまもなく到着し、Aちゃんは病院に搬送されたが、内臓破裂などにより、命を落とした。
事故後、原因の調査が行われた。言うまでもなく、Aちゃんが亡くなった原因は公園から飛び出してきたAちゃんに、速度超過をしていたタクシーが突っ込んでしまったこと。現場の公園入り口は非常に細い道で、道の周りには民家が多く、見通しのよくない道だった。正確な速度は不明だが、ブレーキ跡などから瞬間的に少なくとも時速60キロは出していたものだと推定されている。
このような見通しの悪い生活道路では、今回のように飛び出しなどの危険が様々な場所に潜んでおり、常にそれらに注意して運転しなければいけない。むしろ何かあってもすぐに止まれる、時速10キロ以下で走行しないといけないくらいの道だった。
だが当時のBさんはそんなことは考えておらず、とにかく客先に急がねばという思いで、こんなスピードを出していたんだ。その後、Aちゃんの両親はBさんとタクシー会社を相手取り、損害賠償請求を行った。その裁判ではタクシー側の過失が全面的に認められた一方、Aちゃんの両親の監督責任も同時に問われることになった。
このような飛び出し事故の場合、原則として飛び出した側にも1割からに2割程度の過失が認められる。ただし被害者がまだ小さな子供だった場合は、子供の代わりに親の監督責任が問われ、親の過失が認められることがあるんだ。
霊夢:
ちゃんと子供を見てなかったからってことね。でも四六時中この歳の子供を見てるなんて無理だよ。
魔理沙:
その辺が難しいところだ。この時の詳しい請求額などは不明だったものの、その後請求が行われ、Bさんは業務上過失致死傷の罪に問われ、禁錮4年になったそうだ。こういった子供が被害者になる交通事故は、Aちゃんと同じ小学校に入ったばかりの年齢、6歳から7歳の子供が非常に多いんだ。
このくらいの子供は、初めて親から離れて外でひとりで行動することが多くなる時期でもあり、そして非常に小柄でドライバーの目に入りにくい大きさということも要因のひとつになっている。それに子供の特徴として、大人よりもはるかに好奇心旺盛、その一方で注意力散漫ということもあり、交通事故に遭遇する確率が非常に高いんだ。
だからといって24時間親が子供についているわけにもいかない。「何歳ならひとりで行動させてもいいのか」というのは、なかなか難しい問題ではあるんだ。さらに言えば、このくらいの子供の視野というのは、成人の約3分の2程度しかなく、子供側が自動車を認識しておらず、事故に遭うことも多い。
この時期を「魔の7歳」とも呼ぶこともあるそうだ。運転者側は、こういった子供の危険性を認識した上で運転していなければ、 このような凄惨な事故を起こしてしまうということも、しっかり考えないといけない。
霊夢:
私たちも他人事だと思わないで、ちゃんと考えなきゃね。
小さな子どもが命を落としてしまう事故はいつの時代も痛ましいものです。解説をノーカットでご覧になりたい方は、動画を視聴してみてください。
▼動画はこちらから視聴できます▼
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