『つるピカハゲ丸』作者のむらしんぼ氏、コロコロ連載時のスランプを語る「ネタを探して隣の家のゴミ箱を見てた」
締切は漫画家の命「生きるか死ぬかくらいの感じでした」
那須:
漫画家の皆さんは、「必死こいて締め切りまでに間に合わせないと!」って思うじゃないですか。しんぼ先生は基本的には締め切りは守れていたんですか。
のむら:
守らされましたね。自慢ではないですが、仕事量がピークの時は月に11誌連載していて、その時はギリギリでしたけど、編集者が怖いですから。
『創刊伝説』に主役級で出てくる編集者の平山さんっていますよね。彼はいつもは優しいんだけど、電話で怒鳴られたこともありました。でも当時の僕は「いざとなったら逃げればいいし、人間は自由なんだから寝たい時に寝るのは何が悪いんだ! 人間は自由だ!」って尾崎豊が流行る前に言ってました(笑)。
一同:
(笑)
のむら:
尾崎豊より先に、僕が言ったんです(笑)。
一同:
(笑)
のむら:
本当にすみません(笑)。
それで、月末締め切りギリギリで、やばいやばいと思いながらズルズルやっていたら、急に電話越しの平山さんの声色が変わって「しんぼちゃん! 進捗のサバ読まないで!」って言われてびっくりしました。
生きるか死ぬかくらいの感じで言ってくるんですよ。だから締め切りがいかに漫画家にとって命なのかが伝わります。だって今日の出演の皆さんもドタキャンなんかできないでしょう。皆でドタキャンしたらこの番組だって成り立たないでしょう。
那須:
それは極論です(笑)。
締切と編集者へのささやかな抵抗「俺はロボットじゃない!」
石井:
絶対明日に原稿が上がらないのに、「明日上がります」って言われて、結局明後日になるのが一番困るんです。それだったらまだ、「明後日になる」って言ってもらった方が、準備ができるし、「明日」って言われると皆そこに合わせて待っているから逆に困っちゃうんです。
那須:
担当の方も、本当は心苦しいけれど、心を鬼にして言うみたいなところもありますよね。
石井:
それが仕事ですからね。
のむら:
僕、印刷所のお偉いさんに1回会わされたことがあるんですよ。お偉いさんは僕には凄く優しいんですけれど、編集者が皆ビクビクしちゃって。今ラインに乗っている1つの雑誌が書店に並ぶか並ばないか、ピリピリしているんですよ。だから石井さんも今、眠いはずなんですよ(笑)。
石井:
いやいや(笑)。
かえ:
石井さんは怒ったことはあるんですか。
石井:
仕事ですから。言いたくないけれど、そういう時もあります。
中西:
石井さん、こんなに優しそうなのにね。
那須:
しんぼ先生は石井さんに怒られたことはあるんですか。
のむら:
睨まれたことはありますよ(笑)。
一同:
(笑)
のむら:
直接言わないけれど、ここからこの壁に向かって言ったら僕に反射して当たるだろうなっていうあたりで、ボンボン独り言のように言っていて(笑)。プロの漫画家さんだったら、「あるある! わかるわかる!」って思うんじゃないかな(笑)。
那須:
しんぼ先生の睡眠時間はどうなっているんですか。
のむら:
一時は寝ていない時期もありました。僕は50時間のうち48時間は仕事をしていたり。大巨匠の先生ですが、巨人の星の作者は、5日間で睡眠時間2時間っていう都市伝説がありました。少年マガジン、サンデーに学年誌。すごい量ですよ。
一同:
え~!
のむら:
僕は3日目に入ったら発狂しますからね(笑)。「生きるべきか死ぬべきか」っていうシェイクスピアの『ハムレット』のような文学の世界に入って、シェイクスピアみたいな気持ちになっちゃいます。
那須:
「もう嫌だ!」ってなる時はなかったんですか。
のむら:
編集との電話を切った後、「俺はロボットじゃないんだ!」って横に置いてあったティッシュを丸めて、思い切り壁にぶつけたら、パショ……って落ちた(笑)。アシスタントも「しんぼ先生らしい」って大笑い。
かえ:
か弱い(笑)。
のむら:
でも、僕はそれでスッキリしたのよ(笑)。