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常人には理解できないやりこみゲーマーの世界に迫る──「ゲームプレイ開始まで準備に半年」「リセマラで1ヵ月」絶望と不可能を超えた先に生まれる感情とは【ゲーム実況者:shu3インタビュー】

やりこみプレイの世界に身を投じたきっかけ

──なぜやりこみプレイを投稿されるようになったのでしょうか?

shu3:
 活動初期のころは、『Minecraft』(マインクラフト)のMOD【※】を作って紹介する動画やふつうの実況プレイ動画を投稿していて、MOD動画はわりと好評でいろんな方々に見てもらったのですが、実況プレイ動画のほうはあまり見てもらえなくて……。

 自分の大好きなゲームのおもしろいところ、魅力をたくさんの人達に知ってもらいたい、という気持ちが日に日に強くなっていきました。

※MOD(モッド)……PCゲームのデータの改造や追加を行うユーザー製のデータやファイル、またそれらを適用したゲームのこと。

※shu3のMOD作品の中でもひと際人気の高い「【自作MOD】松崎しげるMOD作ってみた 」の再生数はなんと100万を超える。そしてなんと松崎しげるさん本人巡回済み。

shu3:
 ゲームがおもしろいのは間違いないので、その魅力を伝えきれない自分に問題があると思い、ゲームと真剣に向き合って本気で動画を作ってみようと思うようになって。

 いろんな方の動画を見て、どうすればいいのか模索するなかで、ゲーム自体の魅力も伝えられて、自分がプレイしていても楽しそうだなと思ったのが“やりこみプレイ”だったんです。

──実際にやりこみプレイをしてみてどう感じましたか?

shu3:
 やりこみプレイとひと言でいっても幅が広くて、ルール設定はかなり自由なんです。短時間でクリアするタイムアタックのようなものもあれば、長い時間かけてステータスを厳選するような遊びかたもある。ただ共通しているのは一本の気に入ったゲームを長い期間プレイする点ですね。

  小さいころから一本のゲームを長く遊び続ける癖があったので、自分の性にあっているプレイ方法だなと思いました。やっていて楽しかったですし、動画にしたときにきっとゲームの魅力が伝わるだろうという手応えがありました

──ご自身でやりこみ動画を投稿するようになった今でも実況動画は見るんですか?

shu3:
 見ます。最近は、わかるさんという実況者さんが投稿している『ミシシッピー殺人事件』の実況動画「始まりはいつも3号室」シリーズがとくにお気に入りです。

1986年10月31日にジャレコより発売されたファミリーコンピュータ用ゲームソフト。
(画像はAmazon「ミシシッピー殺人事件」より)

──『ミシシッピー殺人事件』…… 発売は1986年とかなり昔のゲームですね。

shu3: 
 ファミコン初期のタイトルで、1回見逃すと詰んでしまうところがあったり、ヒントもまったくなかったり、本当に理不尽な要素が多くて、攻略なしにクリアした人って何人いるのかな? ってレベルの難解なゲームなんです。

 でも、わかるさんはまったく攻略を見ずに人並み外れた努力で真正面からぶつかっていくんです。自分自身で攻略本のようなものを作って、編集も何時間かけたんだろうって思うくらい丁寧で、見ていてめちゃくちゃおもしろいんです。

殺人現場に居合わせた探偵として事件解決を目指す本作。わかるさんは各人物の証言を自作のシートにまとめつつ調査を進めていく。
(画像は「始まりはいつも3号室(7)【実況】」より)
自分のたどった行動をすべて洗い出し、正しいルートへ進むためのきっかけを調べることも。
(画像は「始まりはいつも3号室(7)【実況】」より)

──自分で攻略本を作ってしまうんですか!? 

shu3:
 昔ゲームをやっていた世代が、こんなことやっていたな、って懐かしむ楽しみかたもあるんですが、プレイしたことのない若い世代が見ても、ゲームってこういう楽しみかたがあるんだ、と気づかせてくれるのがわかるさんの動画なんです。

──動画のパート1は2017年9月22日投稿と、かなり最近のものですね。

shu3:
 僕が気づいたのは去年で、『聖剣LOM』を始める前に見たんですが、正直かなり影響を受けました。

──そこまで言われると気になっちゃいます。

shu3:
 すごい動画です。自分もすごく大切に見ているのでぜひ見てみてください。

やりこみプレイを始める前に半年かけて行う事前準備

──プレイするゲームを決める際の流れを教えていただけないでしょうか。ゲームを決めてからやりこみ要素や縛り条件を考えるのか、こういうやりこみをしたいからそれに合ったゲームを探すのか、それともほかの条件があるのか。

shu3:
 僕の場合はストーリー重視ですね。そのゲーム自体が大好きでないと長い準備期間を耐えきれないので。そこから、やりこみ要素をどう設定すれば興味を持ってもらえるか、動画としてどう見せていくかを考えます。

──あくまで動画投稿というのが軸にあるんですね。

shu3:
 そうですね。僕の場合、常に動画を意識してどうやって見せればいいのかというのを考えているので、やりこみプレイとしてはかなり特殊かもしれません。難易度も単純に高ければいいというわけでもないんです。

──えっそうなんですか!? 難しければ難しいほどいいものだと思ってました。

shu3:
 視聴者の方におもしろさが伝わりやすいのが大事なので、動画化したときに見栄えのいいものを意識して考えます。

──見栄えがいいやりこみ要素というと、具体的にどのようなものを指すのでしょう。

shu3:
 手前味噌でちょっと恥ずかしいんですが、例えば、パラメーター厳選は見栄えがいいですね。ガチャ要素に近くて、「出た!!」という楽しみもいっしょに味わえます。

 あとは「誰もやっていないことをやる」というのもインパクトがあってわかりやすいです。例えば、『ゼノギアス』のやりこみプレイ「攻略本を越えた超やりこみゼノギアス」という動画シリーズでは、攻略本で設定されたレベルを遵守して頑張るコンセプトが誰もやっていないことしたし、動画のタイトルも「攻略本を超えるって何するの?」【※】と興味を惹けるキャッチーなものにできたかなと。

※攻略本を超えるって何するの?……攻略本に記載された目安レベルを守ったうえで、レベルアップ時のパラメータ上昇値の厳選、装備&技&アイテム(一部除く)のフルコンプ、ボス完全撃破(主人公ノーダメ)など狂気の縛り。

レベル1から5へ上げるだけで1時間半かかった「攻略本を越えた超やりこみゼノギアス」でのパラメータ厳選。また、動画タイトルの「23時間収録分」でヤバさが視聴者に伝わる工夫がされている。
(画像は「攻略本を越えた超やりこみゼノギアス【実況】Part1(23時間収録分)」より)
1998年2月11日にスクウェアより発売されたPlayStation用ゲームソフト。
(画像はAmazon「ゼノギアス」より)

──やりこみ条件を考える際、途中で詰んでしまうリスクについてはどうお考えですか?

shu3:
 もうこれは……なるべく詰まないようにがんばって考えています(笑)。縛りを入れて詰むと見ている人も冷めてしまうので。

──詰まないために何か工夫されていることはありますか? 例えばロケテ(事前調査)をするのはやりこみプレイでは定番だとは思うのですが。

shu3:
 じつは……ゲーム自体は事前にあまりやりすぎないようにしているんです

──えっ、そうなんですか?

shu3:
 事前にプレイするとリアクションが嘘くさくなってしまうので……。どんな内容なのか忘れているくらいがちょうどいいんです。あと僕自身がスーパープレイを見せるタイプではないので、うまくなりすぎるのもよくないです。

 動画的には苦労しているところを見せたいと考えています。苦労している過程がないと、うまくいったときに盛り上がらないんですよね。

──事前プレイが少ないと詰んでしまうリスクが高いような……

shu3:
 その分、準備期間を長く設けていて、僕の場合だいたい半年かけて準備をしています。

──半年かけて!?  いったい何を……?

shu3:
 やるゲームによって毎回違うんですけども、基本的にはプレイ時に困らないようにいろんな情報をまとめます。エクセルにチャプターごとに区切って注意点ややらなければいけないことを箇条書きにしたり、攻略サイトの情報をコピペしたり……。自分用の攻略メモを作るイメージです。そのうえで難易度を設定します。

 ただ、実際の進めかたは大枠の流れを決めておくだけで、比較的ゲームプレイ自体は行き当たりばったりで進むことも多いですね。チャートの内容も収録中に書き換えたりしますし。

取材後に見せていただいた「絶望を越えた超やりこみ聖剣LOM」プレイ時の事前チャート表。shu3自身は「自分用のメモ」とおっしゃっていたが、動画コンセプトからチャートやランド配置、イベント一覧などがシート別でまとめられており、shu3がどれだけ事前準備に時間をかけているかが見て取れた。

──やっているときに(詰んでしまわないか)怖くならないんですか?

shu3:
 正直、詰みそうになることもあるんですけど、考え続ければわりといけるもので、これまで完全に詰んだ経験はないです。

──詰みそうになる、これって思わぬアクシデントのひとつだと思うんですが、ほかにやりこみプレイ中に起きたアクシデントがあれば教えてください。

shu3:
 アクシデントですか……。事前に作ったチャートにないことをして詰みそうになるアクシデントは起きますが、ゲームセーブデータや録画データはしっかりバックアップを取って万が一に備えているので、致命的な何かがっていうのは記憶にないですね。

──データ周りでのアクシデントはとくに気を使われているんですね。

shu3:
 そうですね、動画内容とは関係ないところで詰まないように、かなり気を使っています。

視聴者の方に「こんなおもしろい発見があるよ!」と伝えたい

──shu3の動画といえば、丁寧で見やすい編集も魅力だと思っています。何度も負け続けているところを早送りで流しつつ哀愁の漂うBGMを流したり、図を使って世界観を解説したりと、かなりこだわっている印象です。動画の編集は全部ご自身が考えて、ご自身で作業されているんですか?

shu3:
 編集は自分で全部やっています。編集がいちばんたいへんで、プレイ時間の2、3倍かかっていると思います。

──プレイ時間の2、3倍ですか……。1本20分くらいの動画なら編集作業はどのくらいの時間になるんでしょう。

shu3:
 実況部分は1、2時間くらいなんですが、世界観や登場人物の関係性などを解説する“ざっくり聖剣LOM解説”のような解説パートを作ると、動画1分につき1時間くらいかかります。解説パートが長いものになると、そこだけで丸1日近くかかってしまうこともあります。

1分につき約1時間かかるという解説パート。エスカデ編ラストの考察では10分以上に渡ってたっぷりとゲームの世界観やストーリーの魅力について語ってくれた。こういったゲームの世界観をわかりやすく解説してくれるのもshu3の動画の魅力だ。
(画像は「絶望を越えた超やりこみ聖剣LOM #13(エスカデ編完結)」より)

──それだけ時間をかけて動画を作る熱量ってどこからきているんでしょう?

shu3:
 ゲームを調べていると、ストーリーだったり攻略要素だったりで、絶対に新鮮な発見があって、自分がそのことにまず「おもしろい!」って思うんです。

 それを視聴者の方に「こんなおもしろい発見があるよ!」と伝えるのがとにかく好きなんだなと、最近気が付きました。

──今のお話を聞いてちょっと気になったのですが、ゲームをプレイして動画を投稿して、ユーザーさんから反響が返ってくるまでの中で、shu3がいちばんうれしいのってどの瞬間なんですか?

shu3:
 コメントで反応があるときももちろんうれしいんですけど、やりこみプレイは答えがないものも多いので、自分で考えて、試して、失敗を重ねつつもクリアできた瞬間がいちばん楽しいですね。

──そのクリアした瞬間って、頭の中に何が思い浮かぶものなんでしょう。

shu3:
 最近の話ですが、『聖剣伝説 レジェンド オブ マナ』をクリアしたときには、達成感が溢れてきて号泣してしまいました

 1年かけてゲームに向き合ってきて、喫茶店で原稿を書いたり、行き詰ったときにはコンビニまで歩きながらずっと攻略を考えていたりと、そういう思い出がバーっと頭の中に流れてきて、脳が処理できずにバグってしまって。気づいたら涙が出ていたという。

 自分のことを無感動な人間だと思って生きてきたので、これには本当にビックリしました。自分がやったことの達成感で泣くなんてスポ根漫画だけの空想上のお話だと思ってたので……。

声を聞いているだけで泣いている様子が伝わってきたゲームクリア後のshu3。恥ずかしいからと、号泣しているところはほとんどカットしたそうだ。溢れるコメントで見えないがゲームクリア後のプレイ時間は217時間を超えていた。
(画像は「(終)絶望を越えた超やりこみ聖剣LOM #35(最強ゴーレム作成)」より)

──号泣のなか最初に何をしたんですか?

shu3:
 終わったな……いい動画が撮れたな……って1時間くらい放心状態でした。

──クリア後にお祝いだったり頑張った自分へのご褒美だったりはないんですか?

shu3:
 なぜ始めたのか理由は説明できないんですが、クリアしたあとに必ず、そのタイトルの気に入ったイラストを額縁に入れて部屋に飾るようにしています。実績解除【※】みたいな。

※実績解除……ゲーム内で設定されている目標を達成することを指す。

最近発売された『ゼノギアス』ラカンが描いた「ソフィア肖像画」も秒で購入し、部屋に飾っているshu3。
(画像はshu3のTwitterアカウントより)

──クリアした証みたいでかっこいいですね。それがゲームをクリアするたびにどんどん増えていって。

shu3:
 増えていけばいいなって思っています。

──ここまでゲームを愛して、楽しんでいて、しかも今の世の中ってゲーム実況者ってひとつの職業として確立しているじゃないですか。それに集中すればもっとゲームをやる時間も増えるのに、あえて働きつつゲームをやりこむってプレイスタイルを貫いていることには何か理由があるんでしょうか。

shu3:
 とくにこだわりはなくて、純粋に仕事も楽しいからだと思います。もしかしたらですが、仕事が楽しくなくなったら動画一本でやっていくかもしれないですし(笑)。

──ご自身ではあくまで楽しいことをやっているという。

shu3:
 そうですね。あくまで楽しさがベースにあります。

──では最後に、やりこみプレイに興味はありつつもなかなか踏み出せない方に向けて、shu3さんからアドバイスやメッセージをお願いします。

shu3:
 まだまだアリアハンをうろついている僕が言える立場ではないですが、 “好きなキャラだけ使う”みたいな簡単なものでいいので、1回自分なりに考えたルールで、自分の大好きなゲームをやってみるといいと思います。

 やりこみの難易度自体は関係なくて、自分とゲームとの関係性に広がりができて、プレイの過程を楽しめるようになるっていうのがとても大事なので、ぜひ好きなゲームを自分なりのやりこみを通して目いっぱい楽しんでみてください。

──ありがとうございます! (了)


 「ゲームと真剣に向き合って本気で動画を作ってみよう」と思い立ったのがきっかけでやりこみプレイの世界に身を投じることになったshu3。その根幹には“ゲームの魅力、新しい発見をたくさんの人たちに伝えたい”という想いがあった。

 取材後、改めて「絶望を越えた超やりこみ聖剣LOM」シリーズを視聴し直してみたのだが、実況プレイの中でshu3はいつもゲームに本気で向き合い、そしていつも楽しそうにプレイしていた。

 その“楽しさ”はボスを倒した瞬間だけではない。雑魚モンスターに倒されてしまったとき、何度も失敗が続いているとき、普通ならゲームを投げ出してしまいそうになるその瞬間でも、shu3は楽しそうに笑うのだ。そう、それは“ゲームを最大限楽しんでいる”ように。

▼shu3投稿のやりこみプレイ動画視聴はコチラ▼
shu3 さんの公開マイリストPart1リンク

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