電気グルーヴ・ピエール瀧氏の逮捕、狙いは“サブカル界の大物”の逮捕…? 「薬物のどこを問題とするのか」を一連の騒動から考える【久田将義×吉田豪×高野政所】
なぜ取り調べで「20代の頃からやっていた」と白状したのか
高野:
瀧さんの逮捕で一番驚いたことがあって。捕まった後に警察官の取り調べに対して「20代の頃からやっていた」って言う必要ないんですよ。正直に言うと印象が悪くなって刑が重くなるから、普通は絶対に言わないはずなんですよ。俺も言ってないんですけれども(笑)。
言わなかったんですけれども、後でLINEとか調べられて「お前、脱法ドラッグはやったことあるな」って。やり取りが全部見られるじゃないですか。それで「……はい」って言って執行猶予が1年伸びちゃったんです。
だから瀧さんがそこで正直に言ったことがめちゃくちゃ不可解だな、と警察の調べに素直に答えているのを見て思ったんですよね。でも瀧さんは僕にとっては神様みたいな人で、瀧さんは警察を恐れずに言ったのに、俺はなんでビビってそんな隠していたんだろうと思って。
吉田:
だからこそ政所さんも原稿で、「このタイミングだから、ぶっちゃけていってしまうが、拙書『前科おじさん』の中ですら書かず、警察の取り調べでも言わなかったことだ。正直、僕も20代から大麻を使用していた」と告白したんですね。
高野:
悩んだんですけれども、原稿で正直に。お二人は、瀧さんがなんで言ったんだと思いますか?
久田:
相当きつく言われているんだと思いますよ。
吉田:
「瀧さんは20代からやっていて、なんであんなにコンディションが良かったんですか?」って話になってますけど、「やっぱり若い時に鍛えておくといいのかも」と思ったりして。
高野:
バランスを取れる人は取れるとは思うんですけれどね。
吉田:
「容量用法を守ったら意外と大丈夫なんじゃないか説」みたいなね。
高野:
それに気づいちゃった人が今回は結構いるのかなって。Twitterとかを眺めていると、「大丈夫じゃね?」みたいな流れが。コカインってどんなキマり方をしてどんなに危ないのかって、普通知らないじゃないですか。久田さんは大麻はわかりますよね? 危なかったですか?
久田:
全然わからないです(笑)。
一同:
(笑)
高野:
今回の件はコカインで逮捕だったので、僕はコカインのことは正直わからないですが……そしたら今度は「大麻も」ってなって、ちょっとフィールドに入ってきちゃって、あ~! ってなった感じなんですけれども。
僕は酒もタバコもやっていなかったんですが、40代になってからというか、出てきてから飲むようになったんですね。お酒がなにがいいかって、やっぱり捕まらないのが一番いい。
吉田:
これは結構言うんですけれども、やっぱり飲めない人が結構薬物に行きがちで、田代さん【※】も全く飲めなかった。だからみんなでお酒の練習を田代さんに勧めたり。
※田代さん
元タレントの田代まさし氏のこと。現在は薬物依存症のリハビリ関連の活動をしている。
高野:
今回の瀧さんもそうですが、上手く付き合う人はいると思うんですよ。酒だけを見ても、やっぱりアル中になるって結構なことじゃないですか。
いくら飲んでも大丈夫な人も、超悪酔いする人もいて。もしかして全部に言えるのことなのかなっていうのは、今回の20代からコカインをやっていたという発言で考えさせられました。
久田:
今回はマトリ(麻薬取締官)が逮捕したんですが、ワイドショーではマトリと4課が仲が悪いと言われていましたね。でもそうでもないんですよ。最近は仲良くやっているのでマトリの情報も4課の情報も入ってくる。芸能人を捕まえると株が上がるので、これは僕の想像ですけれども、結構強く「おいコラ!」とやられていると思うんですよね。それでその「コラ!」への耐性がないと思うんですよ。
高野:
それは野球部のめっちゃ怖い先輩とかにやられていそう。
久田:
いや、警察はもっと怖いですよ。あの迫力で「20代から……」とか言っちゃったのかな。
吉田:
はっきり言えるのは、“やっていそうな人”を捕まえるよりは“やっていなさそうな人”を捕まえるほうが影響力があるから、だからこそ瀧さんだし、だからこそリリーさんを狙っているって噂が流れるのはあると思うんですね。
久田:
東スポとかに出てくるシルエットで「ある俳優がやばい」とか入ってくるんですけれども、やっぱり言動がちょっとおかしい人だったりするんですが、ピエールさんはおかしくなかったですよね。全然わからないですよね。
海外では大麻解禁に向かう中、薬物のどこを問題とするのか
吉田:
今回の報道ですごいモヤモヤしたのは、ピエール瀧は家族にも迷惑かけたんだから離婚すべきみたいな記事があって。
久田:
それは関係ない。
高野:
迷惑問題って結構あると思っていて、薬物をこっそり摂取している状態で逮捕されていない状態って、実はそんなに人に迷惑がかかっていないんですよ。逮捕されてから迷惑がかかるんですよね。僕もTBSラジオに迷惑をかけてしまったりとか、メジャーレーベルに迷惑をかけたことはすごい反省しているし謝罪もしたんですけれども。
僕、留置場に入った時、指二本ないヤクザのおじさんと、オレオレ詐欺のナンバー2で全国で20億円やったみたいな人と、あとドン・キホーテで万引きしたベトナム人と一緒にいたんです。「お兄ちゃん、何やったんだ?」と言われて「僕、ちょっと大麻のほうで……」なんて。「大麻か~、薬物関係は悪いことをやっている自覚も被害者もいないから逮捕されると割に合わないんだよ」って。
「その点、俺らは人を騙したりお金を盗ったり悪いことをやっている自覚があるから、逮捕されても心の収集がつく」と。悪いことをやって人に迷惑をかけているから、その因果だっていうふうに納得する。「大麻はかわいそうだね、でも兄ちゃんなら20日くらいで出れるから我慢しなよ」みたいなことを言っていて、そうなのかっていう。でも確かに、やっている時は遅刻とかもしていないしなって。
その中で、世界ではどんどん解禁されていくわけじゃないですか。わからなくなっちゃうんですよね。反省したらいいのか、悪いことをしたのか、まったくわからない状況になって。
吉田:
大麻なんて何年か後なら問題にならなくなっている可能性すらあるのに。
高野:
そうかもしれないし。だから薬物のどこを問題とするかというのは考えたほうがいいと思います。
吉田:
被害者がいないという言い方もむずかしくて、家族とビジネス的な被害者はいるんですよ。
高野:
そうですね。毎晩コカインを吸って暴れているとかなら、もっと早くバレているし、殴っていたりしたらそれは迷惑じゃないですか。僕のあとに俳優の高知東生さんが捕まって、あの人は20年とか30年ずっとシャブを決めていたんだけど、普通に俳優としてやっていたじゃんっていう。
吉田:
あの人はしてそうなビジュアルではありましたけれどもね(笑)。
高野:
それを思っていた時に今回の瀧さんだったので、結構僕も訳がわからなくなってしまって。どうなんですかね。薬物は何が悪いんだろうって。
吉田:
依存度のリストみたいなのがテレビで出ていたんですけれど、どう考えても酒がやばいっていうことしか伝わらなくて。
高野:
そう。酒、ニコチンでしたよね。ヘロインがすごくて、下のほうに大麻みたいな(笑)。
吉田:
酒にも種類があるわけでストロングゼロ系は相当やばいはず。あと、毎回モヤモヤしているのが「反社会勢力の資金源になるから薬物はアウト」的な論調なんですよ。
高野:
薬物で捕まった人を一斉に叩くじゃないですか。例えば「反社会勢力に資金を渡してることになる」って言うんだけれども、本当にそうなのかっていう。大麻は儲からないらしいですよ。
吉田:
らしいですね。そもそも自分で栽培している人もいるし、自分で輸入する人もいるし、必ずしも反社会勢力の資金源になるわけじゃない。
高野:
そう考えると説得力もあまりわからないし。酒も精神にエフェクトがかかるので。それに脱法ドラッグがめちゃくちゃ流行ったじゃないですか。それこそカジュアルにサラリーマンがガンガンやっていた時に、あれってめちゃくちゃ安かったんですよ。それこそ道玄坂の「街のハーブ屋さん」っていう、かわいいところで買ったりとかしていたんですけれども。
みんな実は、合法ならキマりたいんじゃないの? という。 脱法ドラッグが危険ドラッグになって、今は完璧にダメじゃないですか。その後に酒が強くなるんですよ。ストロングゼロとかが出てくる。根本的に人間はちょっと酩酊したいとかキマりたいんじゃないかなっていうのは思っているんですよね。
久田:
当時マジックマッシュルームがOKだった時は、売っていましたもんね。
高野:
売っていまいしたね。
久田:
僕は思うんですけれども、自分はクラブとかが好きだったんですけれど「コカインをやらないと音楽ができない」みたいなツイートとかをしている人がいたので、それはダサいなと思ったんですよ。
高野:
それはないと思いますけれどね。
久田:
音楽ライターの方だったと思うんですけれども。
吉田:
久保憲司さんですか。
久田:
たぶんね。
吉田:
久保憲司さんはまた特殊なんですよ。あの人は海外で、各種ドラッグをほとんどやってきたような人なので、ピエール瀧擁護なわけじゃなくて、ドラッグ擁護をしているというか。そして、音楽ってジャンルによって酒で深く理解できる音楽とか、大麻で深く理解できる音楽、MDMAで深く理解できる音楽、いろいろなものがあって。
やっぱりレゲエの人に「大麻は絶対やるな」って言ってもしょうがないというか、ボブ・マーリーに「なんでお前、大麻なんかやってるんだよ! ミュージシャン失格」とか怒るようなものというか(笑)。しょうがないでしょうこれは、みたいな。
高野:
そういうもんだから、と。
久田:
でもやらないとだめだっていうのは、ダサいよ。入れ墨と同じものだと思っていたので、ヤクザとかに会っても「これは自己満足だから人に見せるもんじゃない」って言うんですよ。それと同じでコカインとかをやっていないとだめだぜっていうのは、同じくらいダサい。
高野:
ひけらかすことではないですよね。「そうじゃなきゃ作れない」と言うのも、人それぞれだから違うとは思います。
久田:
やっていい文化を作ったとしても、声高に「やってんだぜ」とか言うのはダサいと思いますよ。つくづく思いましたね。
吉田:
さすがにみんな声高には言ってないとは思いますけど、久保憲司さんは以前、僕の大好きな比較的真面目なミュージシャンと一緒にドラッグをやったエピソードをイベントで話してて、ちょっとショックを受けました(笑)。
久田:
それは隠すべきでしょう。いちいち言うことじゃないんじゃない。「やってんだぜ」とか言わないほうがいいですよ。
高野:
(コメントを見て)「ビートルズもダサいのか」なんて。でもひけらかしてはないですよね。結果そうだった。
久田:
結果はしょうがないですよ。
「今の日本でやるのは割に合わないから全くおすすめしません」
高野:
松本人志さんに「ドーピング作品」って言われたじゃないですか。その問題も今回ありますよね。
吉田:
演技の直前にはキメていないでしょう(笑)。
高野:
さすがにないと思いますけれども、音楽作品でいいますと配信停止とかという処分。あれはどう思いますか。
久田:
僕は良くないと思います。
吉田:
違約金を取るんだったら、金が入るシステムを作れよって思いますよね。
久田:
そんなこと言えばハリウッド映画はダメなのばかりになっにゃう。マーク・ウォールバーグ【※1】も逮捕歴なかったかな。リバー・フェニックス【※2】とか。罪を犯した人の映画がダメなら見られない映画ばかりでしょ。Huluでは『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』を配信していましたが、良い判断です。
※1マーク・ウォールバーグ
アメリカの俳優。主な出演作に『ディパーテッド』、『トランスフォーマー』シリーズなどがある。
※2リバー・フェニックス
同じくアメリカの俳優。主な出演作に『スタンド・バイ・ミー』、『旅立ちの時』などがある。
吉田:
昔、手塚治虫の作品が黒人差別的な表現があるってことで抗議されて一時期発売できなくなったときみたいに、「この作品には差別的な表現がありますが……」みたいな一文をつけることで発売できるようになったじゃないですか。だから「この作者は過去に薬物をやっていました。薬物はこれだけ危険なもので……」みたいな一文を入れるだけで、何も問題はなくなるはずなんですよ。
高野:
確かに「やらなきゃやばいのが作れない」みたいなのはダサいと思うんです。ドラックをキメればいい音楽が作れるんだったら世話ねえよって。みんなが電気グルーヴになれるはずなので、絶対にそんなことはないと思います。
吉田:
「瀧さんの奇行」みたいな感じでワイドショーで流れているのって、“日常”のピエール瀧ですからね(笑)。
高野:
これはドラッグのせいとかではなくて、そういう人なんじゃないかなって(笑)。
吉田:
「ケンタウロスの格好をしておかしい」みたいな(笑)。
久田:
ケンタウロスの格好は、デビューしたてのSTU48岡田奈々もさせられていましたし。
高野:
シラフの人もやる人はいるでしょうっていう。
吉田:
今にして思えば“シミズケンタウロス”(電気グルーヴのビデオ『ミノタウロス』と『ケンタウロス』がDVD化されたときの、オマケ映像の名称)っていうのもよくできたネタだなって(笑)。
高野:
僕も作品を止められちゃったんですよね。ユニバーサルミュージックというところから出していたので、担当の人に「すいませんでした。僕はどうしたらいいですか」と言ったら「1年は自粛かな」みたいな。「執行猶予中はそういう仕事は来ないので、おとなしくしていてください」と。
それが終わって「いつ頃PVとか復帰させてくれるんですかね」って言ったら、「ASKAさんの配信再開のどさくさでやろうと思っています」みたいなことは言っていただけたんですけれども、まだですよね(笑)。もう4年前のことなので、そろそろいいんじゃないかなっていうのもあるんですけど。ユニバーサルさん、見ていたらPVくらいはお願いします。
吉田:
「大麻ですからね。ヘロインじゃないですからね、世界は解禁に動いていますよ」って(笑)。
高野:
僕のPVも解禁してくれませんかねって思うんですよね(笑)。
吉田:
宇多丸さんですら「たかが大麻」って言い方しますからね。
高野:
されど大麻ですよ。捕まると大変なんですよ。知っていますか?
吉田:
ボクも高校の講演会に呼ばれたことがあって、芸能人のドラッグ事情についてしゃべってくれって依頼で。ボクはいろいろ薬物で捕まった人のインタビューをしているから、それを話した上で日本ではリスクが高いからやめたほうがいいよって話をしました。
高野:
割に合わない。
吉田:
良い、悪いじゃないんですよ。今の日本でやるのは割に合わないから全くおすすめしませんっていう。
高野:
本当は捕まらないほうがいいんですよ。捕まらないほうがいいって言うと、反感を買いそうですけれども。迷惑をかける時は捕まる時なので。
吉田:
ちなみにさっきの“K子”という人の本を読んでいてボクがすごい気になったのが、薬物をやってる人の特徴みたいなのがあって。DJは大体やっているし、冬でもTシャツで、時間の感覚がなくなって遅刻をすごいよくする人がそうだ、みたいに書いてあったんですよ。それ、完全に掟ポルシェなんですよね(笑)。
一同:
(笑)
吉田:
ボクが知っている限り、どう考えても掟ポルシェなんですよ(笑)。
高野:
そんなことを言い出したらみんな容疑者ですよ(笑)。
久田:
スポーツをやっている人は冬でもTシャツ1枚ですからね。
吉田:
きょうも掟さんがTシャツ1枚で「いつものように冬でも汗だく」みたいにツイートしていると見るたびにハラハラするんですよ。この季節にTシャツ1枚は疑われるよ! って(笑)。あともう一個、薬物が好きな人はスパイスとかも好きでカレーも好きっていう説もあって、それも掟ポルシェだ! って(笑)。
高野:
でも掟さんが言っていたのは「僕はお金がないからドラッグはできない」って(笑)。リアルだなっていうか(笑)。ドラッグはお金がかかるので、お金がないことでそこに手を出さないっていう。
吉田:
その結果、ストロングゼロで済んでいる人が日本には相当いるわけですよ。
高野:
(コメントを見て)「宇多丸さんもカレーが好き」だって(笑)。
吉田:
宇多丸さんも異常に酒が好きな人だからね。