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ソウルの慰安婦像問題、日本は怒ってあたりまえ

田原:
 僕はね、日本が怒るのは当然だと思う。ソウルの慰安婦像を撤去するといっておいて、撤去しないどころか、新たに作っちゃった。

李:
 田原さん、慰安婦の問題に関しては、日本が譲ったんじゃなくて、日本の方が有利に作られています。合意文に関しては。

田原:
 どういうことですか。

李:
 韓国では慰安婦問題について4つ要求しています。まず、真相究明。日本軍の強制性があったのか。日本政府に責任があるのか。これが実は曖昧に書かれています。

田原:
 曖昧じゃないでしょ。まずね、強制性はないですよ。慰安婦を集めたのは韓国の業者です。ただし、集めて戦場に送ったのは日本の軍艦です。だから日本に責任はあります。

李:
 業者に関しては軍もあれば民もあり、軍と民の共同体もあるので、一律に強制性があった、なかったとはいえない複雑な構造です。

田原:
 強制っていうのは、韓国の女性たちを、日本軍が拉致してくることを強制っていうんですよ。

李:
 強制性ということに関していうと、騙されて行く場合もあります。現地で女性が現場を見て「ああ、この選択は違った。」と思ったら、すぐ戻ることができるはずが、戻れなかった。強制性は色んな所でいえることがあります。

田原:
 じゃあなんで日韓合意したのよ。韓国政府は。

李:
 韓国の外務大臣は朴槿恵(パク・クネ)大統領にいったんですね。もっと時間を下さいと。今ここで合意しなくても、もっと時間が欲しいですと。でも準備がないまま合意してしまったことが、韓国国民の反発を招いているわけです。

田原:
 当時はまだ、朴槿恵さんの事件は起きてないよ。

李:
 起きてませんが、日韓が国交正常化50周年のイベントをしなきゃいけないというのもあった。だからこの記念日が終わるまでに何か作りたいと、焦っていたのかもしれません。

 しかし国民が期待していた謝罪のあり方も、たとえば首相が謝罪するのかどうかも決まっていなかった。賠償のお金もこのお金が賠償金なのか保証金なのか治療費なのか。ほとんどトラウマの治療費みたいになってます。

 さらに、再発防止の為には、教科書に載せるのかどうかということも。

田原:
 再発? そんなのありっこないよ。

李:
 こういう問題が二度とない為に教科書に載せるのか。記念碑を建てるのか。

田原:
 載せればいいじゃないか。

李:
 そういうことを当事者たちが要求してるんです。でもそういう議論が全くない。

田原:
 そりゃあ政府の問題だ。

李:
 政府間が合意しても、当事者たちが抜けて合意してるのに、これは日韓合意だから全部認めろといわれても。

田原:
 だけど、げんに10億円のお金の70%を元慰安婦の人たちは受け取っているじゃない。

李:
 その人たちは、ほとんど意識がない方です。本当に意識を持ってこの問題に意思表現ができる人たちは、みんな反対です。ほとんど意識不明状態で、病院にいて、家族が間接的に関わっています。

アジア女性基金は政府が勝手に決めた?

田原:
 それも問題。実はアジア女性基金っていうのは、韓国だけでなく東南アジア、色んな所の慰安婦さんの為に作った。このアジア女性基金っていうのを、最初は韓国政府はOKしたの。ところが過激な反対団体が反対したんで、途中から韓国政府、ひっくり返るんだよ。

李:
 それは反対団体だけじゃないです。当事者たちが受け取ってなかったんです。

田原:
 当事者というのなら、反対団体だよ。だって受け取った当事者は、反対団体から糾弾されてるじゃない。

李:
 実はこのアジア女性基金を作った方も、ここには問題があったと認める方もいます。

田原:
 歳川さん、合意は政府が勝手にやったんで、韓国の国民としては関係ないということについてどうですか。

歳川:
 それは成り立たないですよ。なぜならば韓国も民主国家だから。しかも大統領制という、国民が直接自分たちの国家最高指導者を選挙で選んで誕生している政府です。

 日本も安倍さんに対して反対する人は沢山います。しかし我々の代表である、衆議院、参議院。とくに衆議院は衆議院本会議で、首班指名するわけです。

 つまり両方とも、国民が選んだ政府ですよ。その政府同士が、条約ではもちろんないけれども、それに準ずる拘束性が国際法上ある、両外務大臣の共同記者会見のコミュニケ【※】として発表されてるんですから。紙として発表されてるんですから。

※コミュニケ(仏:Communiqué)
文書による国家の意思表示のこと。

李:
 政府の合意があった後に国会で批准するとか、内閣で批准するとか。場合によっては国会が批准しても国民が反対することがあります。アメリカでさえも、TPPが議会で……。

歳川:
 だからこれは条約じゃないから、批准する必要がないんです。

李:
 そうです。国会が一方的に国民の一部の意見だけでやる場合もありますから。しかし韓国の多数派の国民が反対することを尊重するのが、民主国家じゃないですか。

日韓関係は慰安婦問題だけじゃない

李:
 実は今、朴槿恵大統領の弾劾には、そういう問題も含まれて国民から罷免される直前なんです。

歳川:
 それは後付けじゃないですか?

田原:
 従軍慰安婦問題で朴槿恵大統領弾劾が行われるなんて聞いたことないよ。

李:
 それが原因というわけでなく、一部の国民の信頼を崩している側面が大きいです。ただ、朴槿恵大統領も悩んだと思います。悩んだ結果この合意になったと思います。

 日韓の問題は難しいので慎重にいくべきでしょう。適切な時期に少女像の問題は朴槿恵大統領が処理しないと。しかし大統領は弾劾される。政治空白の状態です。適切な時期じゃないんです。

 日本にとっての慰安婦問題解決は、この少女像を撤去したいだけじゃないですか。当事者のことはまったく見てないじゃないですか。この問題、日本は加害者です。

田原:
 当事者の意見を代表するのは政府ですよ。韓国政府ですよ。

李:
 だから韓国はまだ時間がかかります。当事者が動けない状態ですから。しかし日韓関係は慰安婦問題だけじゃない。色々問題があるのに、大使を呼び出して、それが韓国にとっては反日感情を煽ることになっています。

歳川:
 僕はあくまでファクト、事実を見出すジャーナリストとしてフェアにいうと、日韓関係の中で、韓国は非常に大きなイシュー【※1】として、慰安婦問題をお皿に乗せているわけですよ。こういうことを批判の材料として、プライオリティー【※2】の1番目か2番目に置かされている日本国民も、逆に韓国に対する反発を強めている。

 これはどっちが先という問題ではないんです。韓国国民が強く反発をして、朴槿恵大統領、弾劾運動が過半であるというのも認めます。しかし弾劾運動とこの慰安婦問題を同列、同次元では少なくとも日本では語れないし、日本国民の過半はそう見ていないという事実も、知るべきだと思っています。

※1 イシュー
「論点」「課題」

※2 プライオリティー
優先順位

慰安婦像を60体も作って何がしたいのか?

田原:
 僕が聞きたいのは、韓国は慰安婦像を60体も作って、目標は何ですか。何がしたいの。

李:
 日本も同じで、たとえば日本の戦争被害者が、政府によって追悼されなかったら、国民から何かしてあげたいと思うでしょう。

田原:
 たとえば広島や長崎で、原爆で亡くなった市民に対する援助や支援はアメリカはやってませんよ。日本の政府がやってるんですよ。

李:
 韓国政府が長く慰安婦問題を放置してきたというのがあったので、韓国憲法裁判所が、これは国家責務を放棄したという判決をしたから、韓国政府は日本政府に動き出したわけです。

 しかしそこで作られた合意文があまり中味のない合意文だとしても、一部は認めたわけです。さらに当事者たちへ、韓国、日本、もっと何かあると思っていたわけです。

田原:
 え? どういうこと。

李:
 たとえば、首相が手紙を書くとか。

田原:
 そしたら韓国政府は、手紙を書けといえば良かった。

李:
 そもそも、当事者たちに対する人権的な気持ちを持っていれば。この問題はお金の問題ではありません。私たちは当事者たちに、もっともっと慎重に付き合うべきだった。でもその基本的なことが抜けてる。

 少女像の問題、慰安婦の問題。永遠に日本と韓国は歴史問題ばかりなのか。韓国は何度もいってます。これはとても譲っている合意案です。韓国国民が反発しているにも関わらず、作った合意案です。

 この問題が大事だと思うなら、プサンの少女像は韓国の政治状況の上で作られたのだから、日本は大人の対応をすべきだったんです。

大使の呼び戻しは、最高の警告、反対、遺憾の意思表示

歳川:
 ということは、2015年12月に両外務大臣の共同コミュニケという形で、急いで仮の決着はすべきではなかった?

李:
 しかしそれはもうできてしまった。慰安婦問題、私たちは積み上げ方式でやってきました。これをわざわざ崩壊させる必要はないんです。

しかし今の状態は、この合意文自体を、韓国国民に否定させるような動きに日本が対応しているようになります。

田原:
 どうして?

李:
 日本が大使を呼び戻して、少女像のことを強調するようなことをするから。

田原:
 じゃあなんで、合意文がありながらプサンに作ったんですか。ソウルの慰安婦像を撤去するといいながらしないで、なんでプサンに作るのだと。日本が怒るの当たり前じゃないか。

李:
 もちろん日本の気持ちはわかります。でも感情的に大使を呼び戻すというのは、外交断絶直前を意味します。

田原:
 大使を呼び戻すのは感情的じゃないよ。それは日本の意志の表明ですよ。ねえ、歳川さん、大使呼び戻すのはとんでもない話?

歳川:
 いやこれは、外交儀礼上、最高の警告、反対、遺憾の意思表示のひとつです。

李:
 大使がいないと韓国は情報もない、判断もできない。そして韓国では、若い人も、日本大使は戻らなくてもいい、韓国大使も呼び戻せ、という反応になってるんです。でも意味ないじゃないですか。

 日本の気持ちもあれば、韓国の気持ちもあります。じゃあいつ帰すんですか。どういうタイミングで。時間が経てば経つほどハードルが高くなります。韓国は今のレベル以上のものをあげることはできないし、弾劾の気持ちを反日の気持ちにすり替えていくことになります。

 大統領選挙で次が決まる前に早く戻すべきだと思います。次の政権が、最初からこのハードルの高い段階で始まると、日韓関係はすごく時間がかかってしまう。

 なにかの口実で早く戻して、次の政権が動きやすいようにし、日韓関係を回復することが、東アジアの情勢的にも必要だと思います。 

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