人はなぜ廃墟に魅せられるのか?「日本の廃墟ベスト5」を愛好家が選出理由&写真付きで解説【ブルーシャトー・長崎刑務所・大仁金山etc…】
第2位 貴重な戦前の木造建築「須原村診療所」
ニポポ:
2位いっちゃいましょうか。
中田:
須原村診療所。これは岐阜県須原村ですね。戦前の木造物件ですね。
ニポポ:
まるでアドベンチャーゲームが始まりそうな雰囲気。
中田:
これが入り口を入ってからなんですけれど、診療所、つまり病院なんですね。下に診療録とかが落ちていたんですけれども……。
ニポポ:
うわ、綺麗。椅子が映えますね。
中田:
あの小さい窓が病院窓口で、薬の受け渡し場所。これは100年を超えているんじゃないのかな。いわゆる木造建築で100年モノの物件って、ほぼないんですよ。ですから木造建築物として、これだけ使用性が高い物件はなかなかないなと。当時の様子が非常によくわかる物件でしたからね。
ニポポ:
よく見たら足元に新聞が結構落ちていますね。
中田:
これは中ですね。
ニポポ:
これもセットに使えそうですね。
中田:
棚に薬が残っているんですね。
ニポポ:
100年モノですからヒロポンまでありそうなレベルですね。
中田:
薬棚なんですけれども、水溶液が結晶化している状態ですね。全部水溶液だったんですけれども、結晶化しちゃって瓶の中に粉になって残っているんですよね。
ニポポ:
そこまでの年月が経っている。
中田:
薬のアンプルから注射器からみんな残っていて、当時の医療の状況がよくわかりますよね。
ニポポ:
このあと、もしかしたら盗まれちゃったのかもしれません。
中田:
ここは結構、愛好家でも人知れず大事にしていこうみたいな物件なんです。「押し入るのはやめようね」と。
次は薬袋とお医者さんが使う道具がそのまま残っていたり。
ニポポ:
これは何だろう。
中田:
『薬品道』と書いてありますね。
ニポポ:
「これは重要文化財」というコメントがありますが、本当にそう思いますよね。
中田:
床に落ちている古本自体が、相当な価値があるような戦前の雑誌ですとかが落ちているわけですよね。
ニポポ:
もったいない。取り壊し業者が全部処分しちゃうもんなんでしょうかね。
中田:
廃墟を味わう者のマナーとして、そこにあるものは当然持ってこないし、そのまま見て、そのまま出てくると。持って帰っちゃうとかはやっちゃいけないですよね。
ニポポ:
壊しちゃうとか、落書きはだめですよ。動かさないことが大事ですね。
中田:
これは二階ですね。岐阜も空襲にあっているんですが、須原村というところは疎開先でもあったんですね。ここの二階が今で言うと学校になっていたわけです。下が病院、上が学校だったんです。
ニポポ:
ということは、落ちているのは教科書?
中田:
教科書だったり、当時の雑誌だったり。
ニポポ:
すごいなこれは。本当に価値があったんでしょうね。
これも何か医療系の?
中田:
当時の資料がわかるようなものが結構残っていて。
ニポポ:
ここでお産なんかもあったのかもしれません。
中田:
全部ですね。昔の病院はお医者さんは全部の科をやるので。今は内科、外科、泌尿器科とかわかれていますけれど、昔は全部見ましたからね。
ニポポ:
コメントにもありましたけれど、「二階なんて影も形もないぞ」と。
中田:
岐阜もひどい空爆を受けていまして、物件を調べた時は図書館まで行って調べたので、そこになぜ診療所ができたかとかも含めて調べましたね。
ニポポ:
僕も最近知ったんですけれど、医師免許を取ると、何科にするかというのは、医師免許を取ったあとに自分で勝手に決めていいんですね。
中田:
そうです。
ニポポ:
今だったら精神系に行くとか。
中田:
僕だったら皮膚科ですかね。患者が死なないじゃないですか。患者を殺さずに済むし、お客さんがひっきりなしに来るのは皮膚科です。
ニポポ:
なるほど。遠い知人なんですけれど、医師免許を取って、最初は外科だったり内科だったりという所にいたらしいんですけれど、「儲けよう」みたいなところに走っていくようになって、眼科や歯科、そして心療内科に落ち着いて。
中田:
心療内科医は多すぎじゃないですか。
ニポポ:
今はそうですね。みんな行っちゃったんですよ。
第1位 今は無き幻の楽園「大仁金山」
ニポポ:
1位は話だけでいろいろ紐解いていこうかと思います。
中田:
大仁金山は残念ながら写真がないんですね。当時、フィルムでデジカメじゃなかった時代の人が心に残る物件という意味で1位。似た物件では竜山鉱山があります。
岡山県の竜山鉱山。これは銅山ですね。木造建築が斜面上に建てられているんですけれども、これは階段構造になっているんですね。大仁金山もそうだったんですけれども、上から1トンの岩石を入れると、下から3グラムの金が出てくる。
ニポポ:
気の長い話ですね(笑)。
中田:
金の粉砕から精錬まで、この工場の中で全部やるわけですね。大仁町は静岡の中心あたりなんですけれども、静岡の伊豆半島のほうは、だいたいどこを掘っても金が出る。温泉が出るところって、金が出るんですよ。熱水鉱床と言って、温泉の脈と金の脈は似たところにありまして、いずれにしても金山だらけですよね。今でも掘れば出るんです。ただ、コストが見合わないだけです。
ニポポ:
当時ですら1トンで3グラムですから。
中田:
金の他にも銀も出ます。亜鉛も出ます。日本は金銀銅は全部出るんですね。資源大国だったんですよ。
ニポポ:
石炭の時だって相当ですもんね。
中田:
石炭はいっぱい。軍艦島も石炭なんですけれど。
ニポポ:
今の財閥ができたのって、石炭ですよね。
中田:
三菱の財閥とかは石炭様様ですよ。エネルギー革命で石炭から石油へとなりまして、石炭の炭山がみんな閉山になりましたけれど、1トンで3グラムなんですけれど、銀は15グラムなんですよ。
ニポポ:
もうちょっとコストパフォーマンスがいいんですね。
中田:
出るのはかなり良質なものです。大仁金山というのは、良質な金山でたくさん算出したんですけれども、やはり自由貿易競争で海外の金とか銀とか銅が……。そうするとコストが合わなくなって、日本の鉱山はみんな閉まるという。
ニポポ:
炭鉱の山と一緒で、この大仁金山も金山を掘るという人の町や集落というものは?
中田:
もう大変な賑わいでした。あまりにも儲かっちゃって、ヘルスセンターを造るわ、何やら……。
ニポポ:
すごい。
中田:
温泉もあるわけだから。今で言うスパや、映画もある。だから昔の鉱山町って、かなり最先端を行っているんですよ。水洗式のトイレだったりだとか。当時は汲み取りじゃないですか。でも鉱山町は潤っているので、テレビがあったり、水洗トイレがあったり、映画館があったり。楽園ですよね。
ニポポ:
遊郭みたいな施設も?
中田:
そういうのもある。
ニポポ:
すごい。
中田:
でもやっぱり長く続かないわけですね。
ニポポ:
僕らなんかちょっと計り知れないですけれども、ひとつの鉱山で金が出る、銀が出る、炭が出るぞとなって、町ができるまでの期間であったり、その町が繁栄してなくなっていく期間というのは、どれほどのものなんでしょう。
中田:
たとえば神岡鉱山【※】なんて、1000年の歴史があります。
※神岡鉱山
岐阜県飛騨市にあった亜鉛、鉛、銀鉱山。
ニポポ:
長いところはやっぱり長いんですね。
中田:
長いところは1000年の歴史がありますから、掘っていく度に出てくる鉱物が変わるんですよ。神岡の場合は最初は銅山だったけれど、掘っていくと銀が出てきたり、亜鉛が出てきた。どんどん掘っていったら1000メートルになっちゃって、東京大学の宇宙線研究所がスーパーカミオカンデ【※】を作った。
※スーパーカミオカンデ
東京大学宇宙線研究所が運用する世界最大の水チェレンコフ宇宙素粒子観測装置。本実験施設と KEK-PS(陽子加速器)を用いたニュートリノ振動実験によって、ニュートリノに質量があることが世界で初めて確認された。この発見により2015年に梶田隆章がノーベル物理学賞を受賞。
ニポポ:
そうなんだ!
中田:
閉山したあとに使い道がないわけです。神岡の場合は1000メートルを掘っちゃっているわけだから、もうそこに東大の宇宙研がカミオカンデを作って、ニュートリノの観測に使おうということで。
ニポポ:
縦に1キロメートルって、とんでもないことですからね。
中田:
那須鉱山もそうですし、とてつもなく巨大な穴が縦横無尽に掘られています。日本は資源輸入国と言われていますが、実は資源大国なんですよね。コストが合わないだけ。まだ掘れば出るんです。
ニポポ:
ロボット技術みたいなのが発展して、マンパワーが必要なくなってきたりすると、一発逆転の可能性が。
中田:
今、注目されているのは海洋資源ですよね。海の下にエネルギーや古物があるんじゃないかとか言われていますが、コストは合わないだろうなと思います。
ニポポ:
中国もそこを狙っていますけれどね。
中田:
静岡の伊豆半島ですと、川を漁ると砂金が出ます。砂をふるいにかけると金が出る。
ニポポ:
僕も現地の人に聞き込みじゃないですけれど、面白半分で「金が出るんですか?」って町の人に聞くじゃないですか。「その辺掘ったら出るよ」って普通に言っていますから(笑)。
中田:
嘘じゃないと思いますよ。
ニポポ:
普通にそこら辺にある川ですからね。
中田:
掘れば今でも出るんですよね。
ニポポ:
もったいないと思うところもありつつ、コストが見合うか見合わないか。
中田:
日本人のコストが上がりすぎて見合わなくなっちゃったんですよね。発展途上国の時代から先進国になった時に、人件費が上がりすぎちゃって、「こんな肉体労働やってらんねえよ」っていうふうになっちゃいましたね。
ニポポ:
よくCS放送でやっている『ゴールドラッシュ』じゃないですけれど、「ひとりで何でもやっちゃうぜ」みたいなやつがいたら、一発逆転行ける可能性が……。
中田:
聞いたことがあって、鉱脈を見つけたやつがお金持ちになると。
ニポポ:
やっぱりそうなんだ。
中田:
地質学なんですよ。鉱脈を見つけられるかどうか。熱水が噴き出すところは、岩が変色していると。鉱脈を掘っていくと、金や銀とかが出てくる。昔の山岳修験者たちが鉱脈を見つけていたわけです。真言宗は厳正利益を否定しませんからね。
ニポポ:
なるほどな。大仁金山なんですけれども、中田さんが訪れた時には?
中田:
ありました。今のこの竜山鉱山みたいに、木造工場が斜面にへばりついていて。
ニポポ:
斜面を利用して。金は重いですからどんどん下に残っていくという原理を利用して。
中田:
そうです。階段状の13段構造の木造工場で、中に入った時は感動的でした。ラビリンスですよ。
ニポポ:
いいな~。
中田:
びっくりしました。
ニポポ:
木造で残っていたというのは、またすごいですね。
中田:
素晴らしかったですね。
酒瓶です。陸の孤島で酒を飲むしかないんですね。
木造工場なので、瓦解しちゃうんですね。これは自然瓦解です。木造なので、こうなっちゃうんですよね。森に飲まれていくか、潰れていくか。
ニポポ:
雨風やシロアリと、いろいろやられていきますからね。
ニポポ:
光の差し込み具合が美しい!
中田:
機械は撤去されちゃって、上の屋根の木造しか残っていないですけれど、大仁金山はこれが全部残っていたんですよ。階段が縦横無尽に張り巡らされていて、本当にラビリンス。「何だこれは!」という感じ。
ニポポ:
見たかった。もうないですもんね。もったいない。
中田:
大仁金山も有名になりすぎちゃって。人が来ちゃったんです。木造だから危ないんですよ。踏み外しちゃったり危ないので、壊しちゃったんです。
ニポポ:
こういう木造建築で100年クラスというのは、保存は無理ですかね。
中田:
ほぼないですね。
これも画になるんですよね。今で言うならインスタ映えと言うんでしょうか。
ニポポ:
綺麗。
中田:
下に水が溜まって、反射して。
ニポポ:
下が水面だ。すごい。
中田:
それが鏡のように映っているわけです。
ニポポ:
美しい。これがどんどん廃墟になっているじゃないですか。本当に有名なところであれば、軍艦島であったり池島であったり、北海道でもいっぱいありますけれども、今、一番新しいものはどの辺になりますか。
中田:
炭山に関して言えば、廃山はみんな同時期です。エネルギー革命で潰れて、廃鉱になっちゃっているので時期的に同じですね。あとは鉱量の枯渇。掘っても出なくなってしまった。
岡山県なんか大体そうですけれど、鉱量の枯渇で廃山、閉山するケースもあって、時期はまちまちですけれど、今でも掘っているというところはほぼないですね。
ニポポ:
愛媛県でマチュピチュ【※】って言われているようなところの鉱山が山の上にあって、そこも財閥が財を成したところなんだけれども、そこは未だに新入社員が山登りをして発展を願う、みたいなオリエンテーリングがあると言っていましたね。
※愛媛県でマチュピチュ
別子銅山のこと。愛媛県新居浜市の山麓部にあった銅山で“東洋のマチュピチュ”と称され、住友家が経営していた。
番外編 真っ白なラビリンス「藤原(白石)鉱山」
中田:
藤原鉱山、あれも木造工場なんですよね。それがまた素晴らしい。廃墟界では有名なんですけども。
ここは石灰工場です。石灰はゴムの強化剤とか歯磨き粉とか。真っ白い工場なんですけれど、これは木造工場で上から見た感じですね。
ニポポ:
全部木造ですか。
中田:
これは工場の全景ですね。右手に見えているのが石灰の乾燥櫓と言って、乾燥とか貯蔵施設なんです。
これは後ろにサイロがあって、手前が出火場ですね。
ニポポ:
美しい! 白い!
中田:
石灰貯蔵庫ですけれど、木造で天井が真っ白なんですよ。
ニポポ:
飛び散りますからね。
中田:
ここも工場内部がすべて木造で、真っ白い純白の世界なんですよね。入った時は「うわ~!」という感じでしたね。
ニポポ:
歩いたりすると舞いそうですもんね。
中田:
舞います。入って感動する物件って、そうないんですよ。でもやっぱりここは、すごいなって。
ニポポ:
確かに感動しますね。
うわ~、これは完全にアートですね!
中田:
石灰をめちゃくちゃ吸い込んじゃうから、マスクをしないと体に悪い。触らないように歩いていたけれど、それでも真っ白けになりましたね。
これは石灰の品質を上げるために実験を繰り返していたんですね。石灰の実験施設、実験道具みたいなものが落ちていました。
ニポポ:
ここでより良い物を、というのがあったんですね。
中田:
鉱山系の廃墟というのは、日本の産業史もそうだし、廃墟というだけではなくひとつの歴史を感じさせる。廃墟の入り口としては鉱山系廃墟はいいですよね。ひとつの踏み絵のようなものですからね。そこにハマるか、ハマらないかが廃墟への入り口として分かれ目になってきますね。
ニポポ:
踏み込んだら帰ってこられない可能性もありますけれどね。
中田:
なかなか不便なところにありますので、行くのも大変ですけれどね。ただ、廃墟が好きな人は女性の方に多いんです。自分では行かないけれども、本や写真、ネットで見ていれば行った気になるという、疑似体験という方もいらっしゃるので、意外と女性ファンが多いんですよ。
ニポポ:
「行きたい」とか「連れて行って」みたいな声があって、今は結構廃墟ツアーとかがあるじゃないですか。
中田:
大谷採石場跡とか、万田坑、奔別炭鉱、佐渡金山。これがツアーで見られる観光廃墟ですね。世界遺産になっちゃいましたけれど、石見銀山もそうですね。軍艦島もそうですね。世界遺産になるずっと前に見に行っていますけれど、正直、あんなものが世界遺産に……(笑)。
ニポポ:
「あんなもの」って言っちゃいましたよ(笑)。
中田:
「お前たち、ごみ扱いだったろ!?」って。
ニポポ:
本当にそうですよね。今、あまり目を向けられていないものが未だにあるという事実もあって、それを保存、保管していく手立ては、何とかならないものですかね。
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人はなぜ廃墟に魅せられるのか…
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