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【全文書き起こし】Kindleアンリミテッドに限界はくるのか? 出演:津田大介×西田宗千佳×福井健策×現役出版社社員【ニコニコニュース特番】

電子書籍だからこそ可能なAmazonの戦略

津田:
 ありますと(笑)。それによって日本の出版業界というのはAmazonとどのような付き合い方をしているのでしょうか?

平田:
 価格の値付けに関しては出版社によって違います。ホールセールモデルとエージェンシーモデルの違いというのがあるのですが、紙の本というのはどこで買っても同じ値段です。ところがこれが家電となると、ヨドバシカメラでは〇円、ビックカメラでは△円というようにオープン価格になりますよね。同様に、電子書籍も価格が変わるものであり、紙とは異なり再販制度の対象ではないと見なされています。値段をつける側がプラットフォームを使った際に、出版社が決める価格がエージェンシーモデル、対して価格決定権をプラットフォーム側(ストア側)にゆだねるのがホールセールモデルです。

津田:
 大手出版社がkindleに参入するときに、割とホールセールが多かったんだけど、老舗出版社は自分たちで骨格を作りたいためエージェンシーを選択したというのがありましたね。

平田:
 一概にどちらがいいか分かっていないのですが、ホールセールモデルであれば1000円のものをいくらでAmazonに卸して……例えば700円でAmazonが仕入れたものをAmazonが1000円で売るのか、逆ザヤを取ってでも500円で売るのかはAmazon次第です。いくらで売ろうと、700円を出版社に返さなければいけないわけですね。

津田:
 僕自身の経験で言うと2013年の話ですが、『ウェブで政治を動かす!』という本を新書で出しました。価格は886円だったのですが、発売日当日にkindleでは500円で出したんですよね。電子の方がお得ということでおかげさまでかなり電子では売れました。するとAmazon側から「250円で売らせてくれないか」という提案がきたんですよ。

 僕は印税が下がるのはいやだったので500円のままでお願いしますと伝えたのですが、「いえいえ違います。出版社とあなたに対する印税はそのままです。Amazonがカバーした上で勝手に250円にして売るんです」と。それはkindleというハードウェアを売るためのプロモーションとしてそういう戦略を取ったんでしょうね。ホールセールだとこういったことが可能なのでAmazonとしてもいろいろできるんでしょう。

西田:
 逆ザヤになっても最終的にAmazon、kindleを使う人が増えればいいという企業の方針があるわけですよね。

津田:
 250円で売り続ければ当然赤字になるでしょうけど想定の範疇であれば問題ない。ところが、今回の「Kindle Unlimited」のような読み放題ともなると、ユーザーの心理的負担も少ない。それだけに大量のユーザーがつめかけ想定をはるかに超えてしまった。Amazon側も怖くなったのかもしれませんよね。

西田:
 約束通り最後までやるのか、それとも自らの利益を優先して途中で切るのかという問題が浮き彫りになった。一つ言えるのはユーザーのため、出版社のためにはなっていないということ。

津田:
 ですね。でも、講談社がAmazonから完全撤退するとは考えづらい。禍根を残すことは否めませんけどね。平田さん、このようなことが起きたことを踏まえ、今後出版社とAmazonの関係はどう変わっていくと思われますか?

平田:
 出版社というよりも、我々が著者に相談しに行ったときに、「そんなトラブルがあったサービスに協力したくないよ」と言われる可能性はあると思います。我々出版社としては、「Kindle Unlimited」のおかげで売り上げが伸びた事実がありますから、協力はしたい。そのためにも著者が安心してコンテンツを提供でき、ユーザーが読みやすい状況になるように仕切り直してほしいです。

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津田:
 平田さんは単純にAmazonという会社が好きか嫌いかで言うとどちらですか?

平田:
 私は月に電子書籍を30冊以上読みます。ですが、kindleはリーダーとしては使いづらいかなぁと。たくさん電子書籍を読む人にとっては、他に優れたサービスがあるので……あ、でも紙の場合は翌日に届くのはうれしいですよ(笑)。

Amazonの創業者ジェフ・ベゾスの総資産は約7兆円

津田:
 プライムであれば当日に届きますもんね。西田さんはいかがですか?

西田:
 平田さんが仰ったことはその通りで、日本においてkindleは電子書籍で最も使われているサービスではあるけれど、一番便利な電子書籍サービスではありません。マンガが好きな人であれば「eBookJapan」が一番便利だし、ラノベをたくさん読む人であれば「BOOK WALKER」かもしれません。Amazonはアメリカの企業ですから、日本事情に完璧に合わせたものを開発することができない。電子書籍のまとめ買いサービスなどは、Amazonでは非常に例外です。こち亀を購入しようと思ったときに、Amazonで200回クリックすることになる(苦笑)。

津田:
 たしかに(笑)。

西田:
 ですが、他のストアだとまとめ買いができたりする。ポイント加算など日本独自のサービスを提供しているサイトもあります。Amazonが今後そういったことをするかどうかは、日本にそれだけの価値があるかどうかということでもある。そう思わなければコストをかけなくなる。

津田:
 今回のことで多少悪印象がついたとしても、世界企業であるAmazonにとってみれば痛くも痒くもないという事実があると思うのですが、福井さんはどうお考えでしょうか?

福井:
 関心があるのは二つ。一つは、今後読み放題、見放題、聴き放題のサービスが普及していったときに、コンテンツ提供者にとってリターンが得られるかどうか? それは非常に関心があります。音楽聴き放題の「Spotify」では、3500万~4000万という曲が揃っているから、いくら全体の収入が大きくても、それを割ったときにクリエイター当たりの配分は微々たるものになると、アメリカでは報道されています。

 サービス全体は隆盛を極めているかもしれないけども、個々のクリエイターにとっては暮らしていける収入に結びつかないという意見もある。どんどん点数が増えるコンテンツサービスの中にあって、果たしてプロフェッショナルなクリエイターは成り立つのだろうかという関心がある。

津田:
 なるほど。もう一点は?

福井:
 クリエイターは儲からないかもしれないけどプラットフォームは確実に儲けていく。Forbesが年間の長者番付を発表したばかりですが、Amazonの創業者兼CEOであるジェフ・ベゾスは2位でした。総資産は約7兆円と言われています。上にはビル・ゲイツしかいない状況です。ちなみに上位10位の中の5人がプラットフォームの創業者です。それほどまでに収益がプラットフォームに集まっている。現状はユーザーにとって便利ではあるけど、それがさらに強大になったときに誰にも止められないんじゃないか? それがEUの危機感などに表れていると思います。

津田:
 7兆円もあるんだったら、ポケットマネーで年末までの「Kindle Unlimited」の上乗せ料金を払ってやれよって思いましたよ(笑)。

西田:
 ほんとですね(笑)。

Amazonに合わせるのか、Amazonが合わせてくるのか

津田:
 でもそれをやらないからこそ、Amazonはここまで成長してきたのかもしれないですよね。西田さんにとって、Amazonという企業はどのように見えているのでしょうか?

西田:
 パラノイアですね。Intelなどもよく言われていますが、成長しないと怖い会社なんですよ。すべての利益を他の新しいものを作り出すためにつぎ込むわけです。ですからAmazonって利益はほぼフラットでゼロのまま。

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福井:
 Amazonの利益率はほぼゼロ%で推移していますよね。

津田:
 Amazonは今人工知能に注力していて、そのチームだけで2000人の技術者がいると言われていますからね……。

西田:
 今は良いですが、良いサービスが提供できずに、ユーザーのためにならなくなったときに、後戻りできるのかなって。

津田:
 彼らのルールに合わせれば幸せな世界になりますよ、というビジョンもあるのでしょうが、ガラパゴス日本と呼ばれるように特殊な商慣行がある国では、あるときを境に齟齬が生じる可能性はありますよね。今回の一件を見るとなおのこと。またAmazon側からはこの件については一切のアナウンスもないですからね。平田さん、Amazon側から出版社へは何のリリースもないんですか?

平田:
 非公式ですが、「山分けにしますよ」という部分が移行しつつあります。Amazon半分、出版社半分という比率を、今回のことがあったので少し出版社側に多くという話はあったりなかったり、ですね。

福井:
 あったりなかったり(笑)。

津田:
 おお、60:40のような話が!? 水面下ではAmazon側も譲歩する姿勢を見せていると。これは内部事情を知る者ではないと分からない情報ですね。西田さんはどういう幕引きをすると思いますか?

西田:
 結局は、「Kindle Unlimited」は読み放題のサービスですから、特質をある程度特化させるのではないかなって気がしますね。

津田:
 たしかに「Kindle Unlimited」は中途半端ですよね。もっと「dマガジン」のように雑誌に特化していろいろな雑誌が読めるとかだと分かるんですけど、「Kindle Unlimited」は雑誌もマンガも文芸も中途半端。

西田:
 アメリカではベストセラーばかりある特別なサブスクリプションをやろうとしています。そっちを別に契約してくれればベストセラーばかり読めますよ、というサービスですね。

津田:
 なるほどね。日本においても「Kindle Unlimited ラノベ」とか「Kindle Unlimited コミック」のような可能性もあるかもしれない。

西田:
 そこまで日本に合わせてやってくれるかは謎ですけどね(苦笑)。

津田:
 そしたら楽天も対抗して「コボちゃん」だけが読み放題になる「kobo Unlimited」というのを作ればいい(笑)。

福井:
 (笑)。でも、ここ10年のプラットフォームの成長度というのは本当に脅威だと思います。Amazonの売り上げの増大率って年率20%以上を10年以上続けている。どんどん大きくなっています。自己肥大欲望の塊というか、もちろん良い面もあるけども、クリエイターへのリターンは少ない、自分たちの利益も出さない……ただただ大きくなっているだけというイメージは期待もあるけど恐怖もある。ここまで大きくなったものが消え去ることも考えづらい。となれば、我々はこの巨大なプラットフォームといかに幸福な共存を図っていくべきか、ということをより真剣に考えなければいけないと思いますね。

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徹底して秘密を貫く国家的企業Amazon

津田:
 それにもかかわらずAmazonは一切情報を出さないですよね。

福井:
 まさに。国家ともなぞらえられるような巨大な企業ですから、当然そこには責任も伴うし、公平さも求められてくる。「民間企業です」では済まないところまできている。であれば自分たちで、こういう仕組みでどう運営しているのか、もっとオープンにしていく必要があるのではないか。それをしないなら日本の政府も働きかける必要があるし、ユーザーもきちんと見ていかなければならない。
 
津田:
 どうにも説明をしないままであれば非関税障壁的な最悪のパターンも考えられるかもしれない。でも、外資系のプラットフォーマーって押しなべてそうですよね。まぁ、とにかく説明しないですよね。

福井:
 ブラックボックスの代名詞のようになっていますよね。

津田:
 もともとAmazonはオンライン書店としてスタートしています。Amazonにとって本というものが特別な存在であることは間違いないと思うのですが、彼らの台頭により書店がどんどん潰れているという事実もあります。平田さん、出版社の書店全体との関わり方ってどのような感じなのでしょうか?

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平田:
 必ずしもAmazonがあるからと言って地方の書店が潰れているわけではありません。話がずれるかもしれませんが、だったら出版社が書店を作るなり、プラットフォームを作ればいいじゃないか、という声を聞くのですが、皆さんが思っている以上に出版社は事業規模が小さいです。すべての出版社の売り上げを足しても、トヨタ自動車やソフトバンク一社に敵いません。我々とすると皆さんが楽しめるコンテンツを作ることが第一義なのではないかと考えています。

福井:
 「Kindle Unlimited」の問題で何よりも害されたのは、ユーザーが「Amazonの新サービスって今後何を信じて手を出せばいいのかな」って部分ですよね。

津田:
 たしかにネットを見ていると、これを機に解約しようというユーザーも少なくないです。

福井:
 短期的なビジネスという視点から見ても、「こういう風に改善していきますよ」と示していかないとAmazonとしてはプラスにならないような気がするなぁ。

津田:
 平田さん、Amazon側に改善の雰囲気であるとか、そういう話し合いの余地があると感じますか?

平田:
 騒動前の採算でないと成り立たないという出版社は撤退していくでしょうし、利益になると踏んでいるところは続けていくでしょうし、出版社によって判断が割れるところでしょうね。

津田:
 弱小の出版社であろうが、既存本に悪影響が出ず少しでも収入が増えるのであれば続けようという出版社もあるわけですよね?

平田:
 「Kindle Unlimited」、既存本、kindleでの単体での購入、これらがカニバることはないとほとんどの出版社は判断しています。電子書籍を作るには実はそれなりのお金がかかりますから、そういったコストを「Kindle Unlimited」で回収できるかどうかの話になってくると思います。

津田:
 なるほど。読み放題はユーザーとしては便利ですが、我々のような本を書いて生計を立てているものからすればまた違った見方があります。西田さん、著者としてはそれで大丈夫か……という不安もあるのですがいかがでしょう?

西田:
 一著者とすると発売されたばかりの本は単品で手に取ってもらいたい気持ちが強いですよね。でも、読む人が少なくなったり、発売日からだいぶ経っていたりすれば、少しでも多くの人に読んでほしいから読み放題に陳列させることも必要だと思います。両方があることが望ましいけど、何より重要なのはユーザーが本を読める環境にいるということ。その上で読み放題をどういうポリシーに位置付けるか。それは難しいところですね。

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Amazonと“仲良くケンカ”できるようになるためには!?

津田:
 では最後に、このトラブルから我々は何を学ぶべきか一言ずつ、福井さんからお願いします。

福井:
 前述したように一人一人のクリエーターに対する売り上げからの配分って残りうるのだろうかということ。プロフェッショナルのクリエーターが成立するのか? もし成立するとしたら“〇〇放題”という中でどんなモデルでそれが成立するのかということに注目したいですね。文化が貧しく細っていくようではつまらないから、プラットフォームと共存した上で、豊かな文化を生み出し、人々がそれにアクセスできるような状態を保っていくにはどうしたらいいかを考え続けなければいけないですよね。

津田:
 プラットフォーマーが誰を幸せにするのかといったときに、プラットフォーマーだけが豊かになっていくのは不健全ですよね。西田さんはいかがですか?

西田:
 日本の出版社、著者、ユーザーに対して良い環境を作ることが求められる中で、Amazonがどこまでそれを考えているのか。いまいちよく分からない読み放題というサービスをAmazonがやるのであれば、「Amazonとしての読み放題の定義」を作らなければならないと思います。読み放題であっても、面白かったら単品で買うことや紙で買うこともできる、つまりは収益のモデルを多様化できるようなシステムを、Amazonだけでなく我々も考えていかなければいけないということだと思いますね。

津田:
 他の外資系企業同様にAmazonの情報って本当に取りづらい。中でもAmazonは徹底して秘密主義ですから、今回の一件を機にもう少しいろいろな情報が表に出てきてくれればいいなぁなんて思うのですが、そういうなかで今日は内部事情を暴露していただいた平田さんには感謝ですね。帰り道、気を付けてくださいね(笑)。

平田:
 ちゃんと帰れるかな……(笑)。コメントでももっといろいろな本や新しい本が読みたいと言っていただけるのですが、新しい本、新しいコンテンツを出すためには、我々出版社は本が売れないといけません。その中でヒット作が生まれて、その利益のおかげで本が出せるという状況にあります。

 紙の本を届けるだけでなく、「Kindle Unlimited」は少し残念な展開になっていますが、いろいろな形でコンテンツを届けるチャレンジをする出版社がほとんどだと思います。Amazonとの関係は、“仲良くケンカする”という状況が、おそらく読者にも著者にも出版社にも一番健全なんじゃないかなぁと思っています。ぜひ、本でも電子でも「Kindle Unlimited」でも構いませんので、本を買って応援していただければと思います。

津田:
 今、平田さんは大事なことを仰いましたよ。仲良くケンカですよ。そのためには、両者の実力が均衡しなければならないですよね!? 出版社の大問題は、本当に出版社同士が仲が悪いことなんですよ(苦笑)。業界全体で一緒に何かやってやろうという雰囲気が全然ないんですよね。

西田:
 その割には一緒にやろうと言いがちですよねぇ。

津田:
 そうそう。だけど政治力がないからできないんですよ。音楽業界と全く逆。音楽業界はそのロビー力があるけど、出版業界はそれがない……そもそも小学館、集英社、講談社の仲が悪い。

福井:
 締めの挨拶じゃなかったの!?(笑) なんで新テーマが浮上しているのよ。

津田:
 いやいや大問題なんですって!(笑) 仲良くケンカするためにも、そろそろさすがに恩讐を越えて、出版社で一緒に何かをしないとプラットフォーマーにいいようにされてしまうぞ! という問題意識につながると思うんですよ。最後は若干危険な方向に話が行ってしまいましたが、それはまた別の機会に平田さんにお話を伺えれば。皆さん、ひとまず本日はありがとうございました。

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