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【全文書き起こし】Kindleアンリミテッドに限界はくるのか? 出演:津田大介×西田宗千佳×福井健策×現役出版社社員【ニコニコニュース特番】

5ヶ月分の予算を1週間で食いつくすほどの想定外

津田:
 僕が知る限りでは本当に想定外でやむを得ず、という観点から読まれている人気作品を除外していったと聞きます。場当たり的だったとも言えますが。

西田:
 想定外のレベルが違ったと聞きますね。本当に一瞬でAmazonが用意していた予算が消えていったと聞くのですが、平田さん、どうなんでしょう?

平田:
 サービス開始から約1週間でおそらく予算をほぼ使い果たしたと言われています。

津田:
 (笑)。報道で言われている年末までの数ヶ月の予算?

平田:
 はい。上乗せ用として用意していた年内予算ですね。

西田:
 福井先生が仰っていたようにある程度のキャパシティを越えたら下げるという判断が最初からされていた可能性はあったでしょうね。ただこれほどまでに早いとはAmazonも思わなかった。

福井:
 おとり商品になりかねない。それを極端な方法でやってしまうと景表法の不当表示であるとか、不正競争防止法に該当する可能性が出てくるわけです。やっぱりユーザーの中には、「Kindle Unlimited」を見て、これもあれも読み放題なのかと期待をして申し込みをした人もいるでしょう。いき過ぎた誇大広告となれば法律上の問題が出てきます。

津田:
 いくら想定外だとしても年末までその支払いに応じると約束していたからには、そこは守れよと思ったりするのですが、それが想定の何十倍ともなると……(苦笑)。

福井:
 どれくらいの予算を用意していたかにもよりますよね。「この程度じゃ足りないだろ」という予算であったならば不当表示ではないけど、あまりに未熟としか言いようがない。

津田:
 平田さん、どれくらいの予算があったか想像できますか?

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平田:
 例えば他のサービス、「auスマートパス」だとローンチの際にCP(コンテンツプロバイダー)に6億円を用意したと発表しています。何百万人集める予定です、ただし最初からレベニューシェアですという感じですね。Amazonに関しても、契約上はそれに近い。ただ、上乗せ条件に対して延長の項目がありました。つまりAmazonは用意していた予算消化にもっと時間がかかると思っていた節があります。

津田:
 となると、見積りをした人はやってしまった感が強いでしょうね。Amazonからすれば、信じられない勢いでユーザーがマンガや雑誌を読んでいったということなんでしょうね。「プレタポルテ」で西田さんが書かれていた記事が分かりやすかったんですけど、席の制限がない食べ放題で想定外の人がなだれ込み、これ以上は赤字になるから終了という感じに近いのかもしれませんね。

西田:
 食べ放題の焼肉屋さんでも、釣りという意味で高級な肉を少し用意して、それが切れたら「ごめんなさいね」といって並の肉を並べるということはあります。とは言え、結局食べきれないので、食べ放題のビジネスとしては成立するシステムがあるのですが、「Kindle Unlimited」ではお客が大食漢ばかりでバクバク食べ続けるわけです。そして人気作である最高級の肉ばかりがどんどん消費されてお金が飛んでいったわけです。

福井:
 お店は入場のためのお金をもらっているわけですよね。返す予定も今のところはない。皆が期待していた肉がもうないとなると、まだ食べていない人は最初の宣伝に対して不当表示と思うか、それとも単なるポカだったと思うかの境界は、最初にお店側がどれだけ期待していた肉を用意していたか、ということ。つまり最初にどれだけ常識的な予算を用意していたかによって変わってきますね。

津田:
 これって裁判になったりする可能性はあるのでしょうか?

福井:
 まず景表法違反だったら誰かが訴えるのではなく、消費者庁なり公正取引委員会なり国が動きます。一方で出版社にとっての契約違反だった可能性がまだゼロではありませんから、出版社が訴える可能性もあります。

津田:
 なるほど。平田さん、今回の一連の騒動は出版業界ではどのように受け止められていますか?

平田:
 各社契約条件は異なるとは思うのですが、前提として契約上、「Kindle Unlimited」に入る外されるの上げ下げは、ある程度Amazonの自由なんだなと思っています。また、マンガ、写真集、雑誌以外にも、聞く限りでは実用書や他のジャンルのものも非常に売れていると耳にします。

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津田:
 全体で見れば「Kindle Unlimited」は好評なんですね!?

平田:
 そうですね。具体的に鈴木みそ先生が数字を上げていますよね。

一同:
 あれは生々しいですよね(笑)。

津田:
 何百万という単位で儲かっていましたね~。

平田:
 鈴木先生は商品一点で18万円くらい、12点で140万くらいと仰っしゃっていましたけど、出版社によっては一点で売り上げ1000万円を越えるところもあると聞きます。

津田:
 きちんとしたサービスになれば出版社としてもうま味はあるわけですね。

西田:
 普通に売っている本と「Kindle Unlimited」で売っている本って被っていないんですよね。ビジネスとしてどちらかに寄っている傾向があります。「Kindle Unlimited」の影響で本が売れなくなるということはない。

出版社をランク付けするAmazon

津田:
 サブスクリプションサービス(定額制)の良いところは、それによって読書習慣がついたり、音楽を聴く環境になったりするということですよね。結果、すそ野が広がり売り上げにつながるという現象がけっこうある。そういう中でこういうことが起きてしまった、と。

 一方で、業界への影響力を持ちすぎているAmazonの弊害があることも事実だと思います。例えば人気作や話題作が発売と同時にAmazonで売り切れた場合、なかなか入荷しないということがあります。これに関しても出版社とAmazonの契約によって在庫の状態がまったく変わってくるという状況があります。彼らに対して上納金じゃないけど売り上げが少ない弱小出版社は非常に不利だとよく聞きます。

西田:
 弱小の出版社はAmazonへの依存度が高まる傾向が強くなる。納入分が売り切れてしまうと、売り時なのにビジネスチャンスを逃す。電子化していればいいんだけど、電子化するには結構お金がかかる。小さな出版社にとっては電子化は簡単なことではない。ゆえに紙の本と売り出したとしてもAmazonに頼るところは大きくなる。痛しかゆしですね。

津田:
 日本でkindleが売られるときに真っ先にKADOKAWAと組んだのは、大手出版社の中でもKADOKAWAが最も親和性が高かったんですよね。ラノベを含めたオタク層を多くのニーズとして持つ KADOKAWAだからこそAmazonも優先的に交渉を進めた。あまり知られていないけど、Amazonは出版社側に対するメニューを用意していて、どれだけお金を利用して払うかによってAmazonにある「合わせて買いたい」のような(リコメンドの)出現比率が変わるなんて言われています。

西田:
 電子書籍ストアの最大のポイントは本が見つからないということなんですね。そのためにランキングと広告を一緒に出すことが重要になる。それってサイトと協力してプロモーションを打たなければいけないということ。大手の出版社にとっては容易いことだけども、小さい出版社にとっては難しい。

津田:
 Amazonは「純粋な協調フィリタリングか?」と言われればそうではないんですよね。

福井:
 Amazonというのは出版社を4段階に分けるプログラムを持っています。Amazonに対してどれくらい喜ぶような条件で電子書籍を提供したかなどによってランク分けが決まります。一番下がベーシック、次がシルバー、そしてゴールド、最上級がプラチナというように非常に分かりやすく分けられている。どんなことでこれが変わるかというと、Amazonがより儲かるような形で電子書籍を収めたり、たくさんの電子書籍を提供したりすると、ランクが上がりやすいと言われている。

 ただ、いつランクが上がるかはAmazonの基準で決まるだけで、出版社は何をやったら次のランクに上がるのか分からない。ランクが上がると、おすすめの本としての出現率が変わることが資料で明らかになっている。我々が自分の過去の購買行動によってオススメとして出現して本の中には、一部“売られていた”ものがある。

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津田:
 合わせて買いたいに出てくる欄は、ものすごく分かりやすく言うとバナー広告のような性質を含んでいるということですね。

福井:
 合わせて売りたい、なんですよね(笑)。

津田:
 この点、平田さんはどう見ますか?

平田:
 まず西田さんが仰った点からいえば、おそらく読者が知っているような有名出版社はAmazonでの売上比率は大きくないです。例えば講談社の売り上げの半分がAmazonであるなんてことはありえません。ただ、電子書籍そのものの売り上げは少なくない。ではAmazonとどう組んでいくか? ということなのですが、今回の「Kindle Unlimited」でも9月に入ってから2000冊増やした出版社もあるわけです。

 ですから、「Amazonの闇」とかそういったことではなくて、我々は彼らの主張にどう付き合っていくかが問題となる。一緒になってがんばりましょうなのか、あるいは違う相手と組むのか、違うビジネスをするのか、そういったところが各社によって判断が異なると思います。

津田:
 Amazonはビジネスにしたたかなだけであって、「それの何が悪いの?」という意見も確かに聞こえてきますよね。ただやはり、支配的になればなるほど、最初は良い条件だったにも関わらずあとあとになって条件を変えてくるというのは気になりますね。そういったことが違法性があるのかということも気になりますし、今年よく言われている“違法じゃないけど不適切”という問題にもつながる。

西田:
 kindleが始まる前に日本の出版業界が電子書籍のプラットフォームを作りましょうなんて話がありましたが、それは売る店が一カ所か二カ所にならないようにしようという真意があったわけです。こっちのお店で売っているHな本は、あっちのお店では売らないとか。そうすることで独占性、支配性のあるお店を作らないようにしようという話だった。

 ところがユーザーにとって重要なことは店がたくさんあることではなくて、便利か否かということ。その結果プラットフォームの出来不出来の話に集約していってしまう。出版社がプラットフォーム依存性をなくしたいのであればDRM(デジタル著作権管理)の問題を何とかしなければならなかったと思います。

津田:
 ほほう。それはまたなぜでしょう?

西田:
 DRMがあることで、Amazonで買った本を他の電子書籍のリーダーで読むことができなくなります。どこで買ってもいいということができなくなる。DRMをある程度透過的にして、どのサービスで買ってもいいですよ、ということにすればよかった。

津田:
 なるほど。確かにそうすれば、「ひろし、kindle買ってきたよ」「お父さん、これkoboだよ!」なんて悲劇が起きないわけですね(笑)。

福井:
 ひろしって誰なんだよ(笑)。

西田:
 非常に難しいことではあるけれど、音楽の世界ではDRMがなくなったわけです。 

津田:
 Amazonで買った音楽をiTunesで聴くことができるようになっていますね。

西田:
 どうしてもDRMがいるというならば、アップロードした人が誰であるか分かるとか、この人たちが悪いと特定できるもの……ということを期待した発想は分かるんですけどね。それを出版社側として現在飲める状況になるかというと、残念ながら各出版社が考えていることは、きちんと権利を守ってくださいねという点。結果、各プラットフォームのDRMを使ってくださいということになっている。

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グローバル問題に発展する“強すぎる”プラットフォーマー


津田:
 Amazonとしてもプラットフォーマーとしての地位を濫用しているんじゃないのかという問題はあるのですが、そうなるとコンビニだって今や超巨大なプラットフォーマーだろうと。コンビニ対出版社という構図もよく耳にします。強くなり過ぎたプラットフォーマーということに対して福井さんはどういった見解をお持ちでしょうか?

福井:
 西田さんがさっき仰った2つ、あるいは3ついるよね、ということに尽きると思います。強いということは便利でもあるからいいんです。ですが、強すぎるというのは別です。今年の8月に公正取引委員会が独禁法違反だろうということで 初めてAmazonに立ち入り調査をしました。なぜこのような事態になったかというと、最恵国待遇という条文が問題視されたんですね。

 Amazonで言うと、「出版社さん、うちに電子書籍を出すときには必ず他の電子書店と同等か、それよりも良い条件で出すように」と出版社に義務付けるわけです。Amazon側はそういう義務は負いません。つまり常に最有利条件でAmazonに書籍を提供すべし、と。中にはAmazonに依存する出版社もあるでしょうから、この条件を飲んだ出版社も少なくないと言われています。

津田:
 となると?

福井:
 Amazonは営業努力をする必要がなくなる。放っておけば最有利条件が入ってくるわけですからね。これを多用するとユーザーに対して良いサービスを提供しようという力がそがれてしまう。ということで独禁法違反の疑いがあり、立ち入り調査となったわけです。これは日本だけではなくEUなんかもどんどんこういったケースの立ち入り調査を行っています。一つのプラットフォームが強くなりすぎることへの警戒心は日本だけの問題じゃなくなっているわけです。

津田:
 フランスではDRMそのものが違法なのではないか、という問題が噴出しましたよね。

福井:
 欧州議会はGoogleの分割決議をしています。域外の民間企業の分割を欧州議会が決議してしまった。それくらい警戒心が強いということです。

津田:
 グローバルなプラットフォームに対して国レベルで対抗策を考えているわけですね。

福井:
 そう考えるとコンビニは日本国内のみであり、競合他社がいる。世界を股にかける一強の企業とは別扱いになるでしょう。

西田:
 どの業界でもそうですが、一社寡占になると彼らの言い分がルールになってしまう。いかに競合を増やしていくか。また、最恵国待遇があると、一方側にのみ有利に働きすぎるので改善の余地がなければならない。とは言え、出版社もAmazonを利用している。

 Amazonにはプライスマッチングという考え方があります。Amazonが一番安い値段で売りますよと言っているので、それに合わせて他の電子書籍サービスが値段を下げた場合、さらにAmazonは値段を下げてくる。ですが、そうすることでAmazonが出版社に払う値段は高くなります。それをうまく使えばどんどんAmazonからお金を引き出すなんてこともできる(笑)。

津田: 
 なるほど(笑)。このような問題って、Amazonが企業努力の範疇で行っていることと、それって道義的にどうなの、という部分が滲んでしまう傾向がありますよね。この点、平田さんはどうでしょう?

平田:
 まず最恵国待遇があるかどうかですが……(唐突に小保方晴子氏のモノマネを披露)

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