「最も良い防衛手段は、その手段を持たないこと」コスタリカに習う平和国家の作り方とは【話者:伊藤千尋】
コスタリカから私たちは何を学ぶことができるか?
日本はどのようなビジョンを持って、平和を築いていくのか?
そもそもあるべき「日本の国防のかたち」とは?
5名の有識者が”国防”について各々の意見を展開する番組『日本国防論~宮台・白井・伊勢崎・孫崎・伊藤インタビュー集~』がニコニコで配信された。
1948年に軍隊を廃止したコスタリカは、軍事予算をゼロにしたことで、教育や医療や環境に予算を充て、国民の幸福度を最大化する道を選びました。独自の安全保障体制で平和国家を構築したコスタリカに、私たちが学べることは何なのか。
そして、「日本の国防のかたち」とは、どうあるべきなのか。ジャーナリストであり、NGO「コスタリカ平和の会」共同代表の伊藤千尋氏へ、日本が目指すべき「国防」のかたちについてインタビューを実施しました。
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最も良い防衛手段は「防衛手段を持たないこと」
伊藤:
『コスタリカの奇跡~積極的平和国家のつくり方~』、いい映画ですよね。アメリカ人が、アメリカ人向けに作った映画。アメリカって、戦争大国、戦争中毒って言われる国だし、そういう国に対して別の生き方、国の別のあり方がありますよっていうのを、極めて具体的な例で教えるいい映画ですよね。
この映画で思ったのは、僕の知ってる人が4人出ているんですよね。例えば、大統領で言うと、オスカル・アリアス・サンチェスとアルベルト・モンへ。アリアスは、1986年に大統領に当選したんだけど、その時に僕は、朝日新聞の中南米特派員だったんですよ。それで大統領選挙の取材に行って、彼が当選して。当選するとすぐに彼は、周りの戦争やってる3つの国を周って、3つとも戦争を終わらせちゃったんですよね。
それで彼にインタビューして、「なんで戦争終わらせたんですか?」「どうやって終わらせたんですか?」と聞きました。そうしたら、「うちの国は平和憲法持ってる平和憲法国家だから、そういう国は自分ところだけ平和で満足していいんじゃないんだ」「周りも平和にするのが平和憲法国家の役割だ」って言うんですよ。うちの首相に聞かせてやりたいじゃないですか。そんなことがあった。
それからこのアリアスさんも、日本に呼んだことあるんですよ。朝日新聞でシンポジウムをやった時に、彼、ノーベル平和賞受賞者って資格で呼んだんだけど、そのシンポジウムで彼が成田に着いた時に、空港に迎えに行って、成田から空港から都心に帰る、車の中でいろいろインタビューしたことがあって。
そのシンポジウムの中で、彼は名言を言ったんですよ。それは「最も良い防衛手段は、防衛手段を持たないことだ」と。名言だと思うんですよね。
それから憲法学者で出ていた、ロベルト・サモラ。彼はあの映画の中では出てなかったんだけど、2003年に、大統領をたった一人で憲法違犯で訴えた人ですよね。
そして、判決が1年半後の2004年の9月にあって、彼の全面勝利ですよ。その時以来、ずっとメールでやりとりして。彼、何回も日本に来てるんですよ。去年、彼に会った時に、大統領憲法違犯で訴えた時に、なんでそんなことやったのかって言ったら、彼、こう言うんです。「僕を見てくれ」と。
「今も昔も体重55キロしかない。このヒョロヒョロの僕が、大統領をたった一人で訴えるなんて、とても大それたことなんだ。でも、国民にとって憲法が危機に陥った時、国民には戦う義務がある」。こう言うんですよね。これも名言だと思うんですよ。この言葉って、今の日本にそのまま当てはまるような言葉じゃないですか。
そういうような人がこの映画に出てて、僕はとても近しい気持ちになりました。
「コスタリカ平和の会」ではどのような活動を
2002年に、弁護士の「コスタリカ視察団」というのが、日本からコスタリカに行ったんですよ。僕、その時に、コスタリカの2002年の大統領選挙も取材に行ったんですよ。僕、当時のアメリカの、朝日新聞のロサンゼルス支局長をやってて、そこからコスタリカの大統領選挙取材に行って、その時に日本から来た弁護士の視察団と一緒に、コスタリカの仕組みを見て回った時に、コスタリカの仕組みを素晴らしいと思ったんですね。
そして、それを日本に応用するような、日本の参考になるような、そういった足がかりとなる橋渡しをする、そういうNGOを作りたいと思った。で、その場で作ったんですよ。日本側は、僕と弁護士の人が共同代表になって、コスタリカ側は、コスタリカの国際弁護士という人が共同代表になって作って。そして以来、日本の中でコスタリカを知らせる、という仕事をやってきたんです。でも、この一回の映画にはかなわない。
コスタリカ式は日本に応用できるか
コスタリカは、平和憲法を持って軍隊を廃止した。そして、日本は平和憲法を持っている。それは同じじゃないですか。何が違うかというと、軍隊を持っているかどうかの違いですよね。でも、日本ってみんな忘れてるけども、1947年に今の日本国憲法ができてから、自衛隊ができる1954年まで、軍隊はなかったんですよ。
つまり、その7年間はコスタリカに先んじて、軍隊を持たないという平和憲法を持ち、本当に軍隊を持たなかったという、世界最初の国だったんですよね。コスタリカより早い段階でそれを実現してるのが、我が日本ですよ。だから、コスタリカを応用してるんじゃなくて、元の日本に帰ればいいだけの話ですよね。そんなに難しい話じゃないんですよ。