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第1譜『後悔』 金井恒太六段―高見泰地六段:第3期叡王戦 決勝七番勝負 第2局 観戦エッセイ

 今期から新たにタイトル戦へと昇格し、34年ぶりの新棋戦となった「叡王戦」の決勝七番勝負が2018年4月14日より開幕。
 本戦トーナメントを勝ち抜き、決勝七番勝負へ駒を進めたのは金井恒太六段と高見泰地六段。タイトル戦初挑戦となる棋士同士の対局ということでも注目を集めています。

 ニコニコでは、金井恒太六段と高見泰地六段による決勝七番勝負の様子を、生放送および観戦記を通じてお届けします。

(画像は叡王戦 公式サイトより)

■第3期叡王戦 決勝七番勝負 観戦記
『save your dream』第1譜 金井恒太六段―高見泰地六段:第3期叡王戦 決勝七番勝負 第1局 観戦記(白鳥士郎)


第3期叡王戦 決勝七番勝負 第2局 観戦エッセイ
第1譜『後悔』

鈴木 大四郎

 数年前、僕は『ナリキン!』という今で言えば藤井聡太六段のような史上最年少プロ棋士・成金歩(通称・ナリキン)が、ひょんな事からプロサッカー選手となって、将棋の力で試合に勝利していく……という今考えるとかなり荒唐無稽な漫画を描いていた……将棋とサッカーには共通点が多くそれを漫画で表現すると面白いのではないか? という発想からだ。
 そんな僕に第1局の観戦記を書かれた白鳥士郎先生を通じてドワンゴ社から連絡が来たのが4月15日、「第2局の観戦記を書いてくれませんか?」というもので、「ありがたいお話なのだが先に断っておくと一応将棋絡みの漫画を描いた事があるとはいえ僕は将棋が全く指せないですよ?」と念を押すと「むしろだからお願いしたい。今までにないような初心者が読んでも楽しめるような観戦エッセイという気持ちで描いてもらえれば……」という内容だったのでお引き受けする事にした。
 今にして思えば白鳥先生の観戦記を読んでから返事をすれば良かったと今でも後悔している……。
 というのも第1局の観戦記を読まれた方ならおわかりだろう……。
 白鳥先生の書いた観戦記がとにかくとんでもなくて、例えるなら……

 もし第1局の観戦記を読んでない方は是非ご一読を。まるでノンフィクション小説を読んでるような、とにかく凄いので……。
 ぶっちゃけ「もうやめたい……」と始まる前は後悔しかなかった。
 そのままの気持ちの中、前夜祭当日を迎える。

 4月27日 第3期叡王戦 第2局 前夜祭
 今回の叡王戦は世界遺産や歴史的名所といった特別な場所での対局で第2局は宗像・沖ノ島と関連遺産群の構成資産の一つとして世界遺産に登録された宗像大社での開催。

 宗像大社に到着したのは待ち合わせの1時間前、まだ時間もあるのでいろいろ見学させてもらおうと中に入っていくと、たまたまちょうど結婚式が執り行われていて一気に厳かな雰囲気が漂う。
 折角なので参拝していると不思議と気持ちが落ち着いてきてこれが「神宿る島の力か……」などと無理矢理腹を括ろうとしていたのを覚えている。一通り見学を終え、担当の方に連絡するとすぐ来てくれて対局場や中継のためのセッティングをするスタッフの方がお仕事中だった。まだ誰もいない対局室に入ると既にセッティングが完了していて両対局者を待ち構えるように将棋盤や駒台、座布団などが置かれている。

 こういう世界遺産で対局が行われた事があるのか聞くと電王戦で姫路城など何度か開催した事があるという。当然ながら文化遺産なのでカメラや照明のセッティングには相当気を遣う。
 タイトル戦の前日は検分と呼ばれる将棋盤や駒、対局場の中継のセッティングなどの確認を両対局者や立会人、関係者と一緒にするのだが、それを待っている間に対局当日博多にて大盤解説をする中田功七段と豊川孝弘七段がいらっしゃったのでまずご挨拶。

豊川孝弘七段、中田功七段

 そんな話をしていると金井恒太六段、高見泰地六段の両対局者、更には第2局の立会人・深浦康市九段と連盟役員の脇謙二常務理事が入室し、検分が始まった。第1局同様、両対局者の緊張をほぐすかのように立会人の深浦九段が声をかける。しきりに話をしていたのは照明の明るさ。第1局に比べるとかなり暗い印象だったらしくどのくらい明るくできるのかや、あまり明る過ぎると駒の影ができて見ている人が見づらいかもと些細な事にも気を配る様子が見られた 。
 検分が終わり対局場から出て廊下に立っていると渡辺棋王の姿が!

渡辺明棋王

 そして部屋から出てきた金井恒太六段が僕の存在に気付いてくれて声をかけてくれた。

金井恒太六段

 一通り金井六段との挨拶を済ませると今度はそれを待ってくれていたように高見泰地六段が声をかけてくれた。

高見泰地六段

 僕が初めてで緊張してるのを察してか「本当に気にせず好きなだけ取材して下さいね、観戦記者は対局室の出入りはいつでも自由ですしそれが特権なので。それにあまり緊張して座っていられるとそういうのって対局者にも伝わってくるんですよ」と高見六段がいうと金井六段も「そうそう、本当に。高見くんのいう通りですから気にせず自由に……」両対局者のこの言葉が後々僕の大きな支えとなるのですがその時の僕は当然知る由もない。

 その後すぐニコ生のコメント撮りが高見六段だけあるという事でその場を離れ、金井六段と二人だけの状況となり少し落ち着いてお話しさせてもらった。

 福岡に来た事あるのか? や漫画読んだりするのか? など他愛のない話から小学三年生から一年ほど子供将棋スクールに通っていた時、野月八段が講師の一人だったらしく一年間負けなしだったのに最後に野月八段に負けて将棋の厳しさを教わったと話をして下さり、こんなこと言うと失礼だがあまり棋士っぽくないなというのが最初の印象だった。それは高見六段も同様に……。

 検分を終えホテルに移動して前夜祭となるのだがその車での移動中、隣に座っていたのが脇謙二八段。サッカーはご覧になったりしますか? とお聞きすると「Jリーグ開幕当初は見てましたが最近は全然です、野球はよく見るんですけどね」とそこからは埼玉西武ライオンズの話で盛り上がる。脇八段は西武ライオンズの熱狂的ファンで西鉄ライオンズ時代から応援しているそう。今年はいける! と終始上機嫌でした。そんな中、もう一人僕の前の席に座っていたのが記録係の宮嶋初段。関西所属の奨励会員でプロを目指す若手棋士。今回初めてタイトル戦の記録係をするという事で僕同様にかなり緊張している様子。今回の叡王戦は記録係も着物を着るので袋に何を入れておけば良いのかなどをベテランの脇八段に質問するなど準備に余念がなかった。

 ホテルに到着し、前夜祭は宗像大社から車で10分程にあるRoyal Hotel 宗像にて盛大に執り行われた。

 将棋のタイトル戦は前夜祭というのがあって抽選で選ばれた一般の将棋ファンを招いて行われる。この日は80人くらいだったか。この模様はニコ生でも中継されていたのだが僕にはそれに気を配る余裕はなかった。
 乾杯の後しばしご歓談、まず話しかけたのは今回のニコ生中継でリポーターを担当する事になっていた北村桂香女流。え、アイドル? と勘違いするようなキュートな方で、その様子がたまたまニコ生の中継にもがっつり映り込んでいたらしく、対局が終わった後、知り合いから「あの時ガッツリ映ってましたよ! めっちゃ楽しそうに笑ってましたね!」と言われたのだが画面だけ見れば僕が北村桂香女流にデレデレしていたように映っていただろうがアレには実は真相がある……

村田智穂女流二段、北村桂香女流初段

 僕にも観戦記の事を知ってるファンの方がいて「観戦記大変でしょうけど頑張って下さいね!」と応援してくれた……ある意味僕の観戦エッセイも注目されているのだなと改めて思い知らされる。
 とにかく非常に女性ファンが多いのが印象的だった前夜祭。それはやはり両対局者の人気なのだなと実感させられた。僕が初めて将棋の取材をさせてもらったのは6、7年前のA級順位戦最終日。いわゆる将棋界の一番長い日と呼ばれる日で将棋会館に詰めかけたファンの中に女性の方はほとんどいなかったと記憶している。それから考えると将棋も明らかに裾野を広げ本当に将棋ブームなのだなと改めて思った。

 前夜祭も中盤、やはりここでのハイライトは両者の意気込みだろう。高見六段の挨拶は24歳らしくフレッシュで笑いも交えて第1局勝っているという余裕も感じられるものだったが、金井六段はこれまでの歩みと共に自分が強くなるために関わった人への感謝とそれに報いるという強い決意が滲み出ていた。昼間、野月八段との思い出話を聞いていたのでこのために用意していたというより常にこの方はそういう姿勢で 日々生きているのだろうと格調高さの一端を見た気がした。後で中田七段にお話を聞いたら……

 その時の中田七段の顔はまさに将棋指しそのものだった。ここで対局者は明日に備えて先に退出。
 立会人の深浦康市九段にもお話を聞いた。深浦九段といえば将棋界でも有名なサッカー通で将棋連盟サッカー部初代部長を務めた方なので今回僕が一番頼りにしていたお方でした。

深浦康市九段

 壇上では渡辺棋王、中田七段、豊川七段による明日の戦型予想。
 戦型とはサッカーで言えばフォーメーションや戦術か。ニコ生が用意した戦型予想は
 1、角換わり 2、雁木模様 3、相掛かり 4、可能性薄いけど横歩 5、振り飛車希望 6、その他
 しかしそれを見た深浦九段が……

 二人が指摘したこの矢倉囲いという戦法、実は高見六段の得意戦法でしかも先手番(先に指す)時は決まってこの矢倉が多いのだという。慌ててニコ生サイドも予想に追加し改めて集計。視聴者予想でも矢倉囲いが一番人気となった。明日の対局は果たしてどうなるのか?
 そういった辺りであっという間に前夜祭も終了、ホールの外に出ると肌寒い空気。まさに熱気の中に包まれた前夜祭となった。
部屋に戻って怒涛の1日を終え、しばしクールダウン……。
 ようやく一息ついた事で明日の本番はもう少し冷静に観戦記者としてやれそうかなと思っていたのだが、翌朝、自分がいかに浮き足立っていたのかがわかる事件が起きる。

(続く)

■続きはこちら
第2譜『覚悟』 金井恒太六段―高見泰地六段:第3期叡王戦 決勝七番勝負 第2局 観戦エッセイ

第2局はこちら

第3局はこちら


■第3期 叡王戦観戦記
『save your dream』第1譜 金井恒太六段―高見泰地六段:第3期叡王戦 決勝七番勝負 第1局 観戦記(白鳥士郎)

高見泰地六段が初のタイトル戦登場 丸山忠久九段ー高見泰地五段

金井六段、初のタイトル戦進出 行方尚史八段ー金井恒太六段

(画像は叡王戦 公式サイトより)

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