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『バーチャルYouTuber』を見て思ったんだけど、“AIによる人類の支配”って軍事力でなくエンタメによって行われる可能性あるよね?

海外のユーチューバーの流入

岡田:
 話を戻すと、ピコ太郎が世界でヒットしたように、海外ユーチューバーとの競争が数年以内に始まります。言語の壁が溶けてなくなって、僕らが喋ったことが、一瞬後に英語になって音声で出てくるようになるからですね。

 アメリカ人のユーチューバーが話した、わかりにくいテキサス訛りの英語が、一瞬のうちに、ほとんど口の動きの不自然さを感じるか感じないかのところで、その人のキャラクターにあった声の日本語で自動的に翻訳される世界というのを想像してみてください。それが10年後の世界です。

 そんな世界の中で、日本人のユーチューバーというのが、どれくらいの優越性を持つのか?

 確かに、日本でしか発売していない商品、例えば「コンビニで売っている新商品のポテチです。これを今から食べます」みたいなことだったら、まだ優越性があるかもしれません。しかし、10年後の世界のコンビニでは、日本全国で売っている商品というのが、どんどん少なくなってると思うんですね。

 この世界というのは“無限にローカル”か、“無意味にグローバル”かのどっちかになっていくんですよ。

 その町内でしか売ってないとか、その地方でしか流通していないご当地商品というのは残るんでしょうけども、日本全国みたいな中途半端な範囲で売るというのは、意味がなくなっていく。「日本全国で売るくらいなら、世界で売った方がいい」と誰もが考えるだろうし、必然的に「世界で売れないものは、大阪の堺市だけで売った方がいい」という判断になるからです。

 そうなってくると、10年後の時代まで「YouTubeで広告収入を得る」という仕組みが残ってたとしても、そこは無意味にグローバルな人達の競争の場になってしまっている。

 そして、日本人に残されたローカルな場だけでは、今現在のユーチューバーのような、広告収入で生きていく人達の生活が成り立たなくなっちゃうんですね。そこはもう、ボランティアの人達の活動の場になっていく。

 言語の壁が全くなくなると、無意味にグローバルな人達との競争が始まるんですよ。

 もちろん、そんな中でも、日本人のユーチューバーとして、面白いアイデア出してやる人もいると思います。

 でも、その裏には15億人のインド人が、「よし、今日の午後はこいつをパクってやろう!」と山のように控えてる。さらにその背後には、その時点では15億人もいないんだけども、同じような中国人たちが「よし、これをパクってやろう!」と待ち構えているんですね(笑)。

 無意味にグローバルな世界の中では、僕ら日本人というのは、全世界、70億人か80億人かの中のたった1億人に過ぎないんですよ。

日本の芸能人によってYouTubeは荒らされる

岡田:
 それ以前に、たぶん2、3年以内に、日本のユーチューバーはアイドルとか芸人に置き換わっていくはずなんですね。

 僕らは、「YouTubeというのは誰でも投稿できるから、実力次第で無名な人間が上がってくるのが当然だ」と思ってたんですが、そういう下から上がってくる人達が次々に不祥事を起こすということになると、彼らに親しみを持つ前に次々と落ちていってしまう。そんな状況を僕らは何度も見てるんですね。

 そして、なにより、これまではアイドルとか芸人さんがYouTubeを主戦場としていなかった。なぜなら、彼らは彼らで、自分たちが活動しているテレビとか劇場という部分にプライドを持っていたからですね。

 でも、そういう人達が、最近はどんどん、そういった“こだわり”を捨てつつある。なのでこれからのYouTubeは、この2、3年以内に、かなりの勢いでタレントさんや芸人やアイドルに荒らされると思ってます。

※上記は、YouTubeでも活躍しているお笑い芸人・ゴー☆ジャス氏のチャンネルの動画。実際にスタッフの採用活動をするなど、かなり本格的に市場に参入している。

 そして、10年以内に、今度はハリウッドスターのような本物のセレブのヤツらに荒らされるようになってくる

 さらに、それと同時に、世界中の何億人というヤツらが、「何か面白いことがあったら、それをもっと工夫して繰り返す」ということをやり出したら?

 そんな中で日本人のユーチューバーが生き残れるかというと、今やってる人くらいでは、まあちょっと無理だろうというふうに僕は思います。

バーチャルYouTuberに人類は勝てない

岡田:
 同時に、もう1つ、僕が「ユーチューバーはこの先いなくなる」と思っている大きな理由は、YouTube上で活躍するスターが“ナマモノ”である必要性を、そろそろ、みんなも感じなくなっているからなんですね。

 ナマモノであれば、その人が老化するところが見えてしまったりしますし、あとは動画の更新やコンテンツを発信するペースというのも、その人の頑張り次第になってきちゃうんですね。

 ところが、これからは、人工知能によるバーチャルYouTuberというのが始まる。まあ、もうすでに初音ミク的なものを使って行われていますけども。

※ブレイク真っ最中のバーチャルYouTuber・キズナアイの動画。上記では、Microsoftの女子高生AI・りんな(@ms_rinna)とのAI対談が収録されている。

 最初は、あくまでも「人間が喋った時の表情とを読み取って、その通りに仮想キャラを動かす」という、中間的なものになるとは思うんですね。これは、AIと言うよりかは“人形劇の人形”みたいなものだと思うんですけど。

 しかし、じきにこれらは、『君の名は。』みたいな、デジタルアニメのような圧倒的な速度で進化を遂げていくはずです。これに関しては、もう本当に、半年から1年の間にザッと流れて行くと思うんです。

 では、その結果、どうなるのかというと、「AIのユーチューバーが住んでる世界そのものを提供する」という娯楽が必ず現れるはずです。

 “ファンタジーの世界”とか、“学園ものの世界”という世界自体が提供されるようになる。こうなると、YouTubeという規格自体が必要ではなくなるんですね。

 実写と変わらない密度で表現されたそういう世界の中で、美形なキャラクターとか、モンスターとかが、毎日毎日、ひょっとしたら1時間に1回、30分に1回、15分に1回、もう自分の番組を配信しちゃうんですね。

 僕らは、そこにログインすることが生き甲斐になり、僕らの身体が物理的に存在する現実というのは、そういった美しい世界と比べるとレベルの落ちたサブ世界の1つになってしまう。

 今のYouTubeというのは、人間が「こんなこと思いついた。やってみた」という動画で出来ているんですけども。こういった、人間が思いついて作れる動画というのは、ヒカキンさんとかがやってるんですけど、1日に4番組くらいが限度なわけですよ。

 1日に10番組を、毎日毎日、繰り返すことが出来るAIのユーチューバーみたいなものに、やっぱり人間は敵わないわけなんですね。

「AIによる人類の支配」は軍事力でなくエンタメによって行われる

岡田:
 大きな流れで言えば、まず、15億人のインド人とかハリウッドスターとかを含めた海外のユーチューバーの流入というのが、言語の壁が溶けることによって始まり、日本人のユーチューバーが淘汰されるということが起きる。

 そして次には、人間のユーチューバー自体が、AIのユーチューバーに淘汰される。AIのユーチューバーというのが、今現在のような「人間の喋っていることを、顔や表情を読み取って再現する」という中途段階の形から、さらにAIで自動化されたものへとどんどん置き換わって進化していくからですね。

 10年後のYouTubeの世界は、まだまだそれらの勝負はついてないんでしょうけども、その決勝戦みたいなものが行われているとは思います。

 そして、そんな10年後の再生数ランキングのベスト10とかには、少なくとも、今の日本のユーチューバーというのは一人もいないんじゃないかなと僕は思ってます。

 「ターミネーター」に、軍事力によって人類を制圧し支配するAIを作る“サイバーダイン社”というのが出てきますよね? まあ、架空の会社なんですけど。だけど、実際の未来は、そんなものではないんですね。

 現実のサイバーダインが作り出す支配AIというのは、武力ではなく、“面白さ”とか“かわいさ”とか、あとは“毎日100回更新する”という、人類にはとても出来ない進撃速度で僕らの日常生活の興味関心を奪ってしまうものなんです。

 かつての20世紀型の世界観で作られた「ターミネーター」では、人工知能が人類を武力で制圧して支配するんですけども。21世紀のAIは、人間をエンターテイメントで支配する

 いや、こうなると、もう「支配する」という言葉すら適切ではなくなるのでしょうね。「フォロワーを最も増やす」ということになるんじゃないかなというふうに思います。

 ユーチューバーの10年後について、僕はそんなふうに考えました。

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