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ハリウッドのほぼ全ての作品が“アニメ”になった理由――その秘密はCGが可能にした「天才不要の制作システム」にあった

 『GHOST IN THE SHELL /攻殻機動隊』や『機動警察パトレイバー』シリーズなどを代表作に持つ押井守監督は、2001年に「すべての映画はアニメになる」と語った。

 15年以上が経ち、とりわけ映画ビジネス面においてはその予言は現実のものとなろうとしている。2016年の北米興行収入ランキングトップ10のうち、『ファインディング・ドリー』、『ズートピア』をはじめとする4作がCGアニメ長編で、その他の作品もCGを活用するアメコミ原作映画がひしめいている。

 ——要するに、いまや、大ヒット映画のほとんどは“広義の意味でのアニメーション”だと言える。そしてそれは同時に、ハリウッドビジネスの“キャラクター化”、そして “ファンタジー化”を意味している。

『ファインディング・ドリー』 画像は 公式サイト より

 この傾向をいち早く指摘してきたのは、アナリストの増田弘道氏だ。彼の長年に渡る分析は、単なる数字の見通しではなく、日本のアニメ制作や映像・音楽・出版ビジネスの現場を踏まえた上でのもの。

 増田氏は、1980年代にキティ・レコードで『うる星やつら』のアニメ映像と音楽ビジネスを仕切り、2000年には日本有数のアニメスタジオ・マッドハウスの代表取締役に就任。そして2005年には株式会社ビデオマーケットの取締役として、国内でいち早くモバイルアニメ配信ビジネスを手掛けた。現在は同社監査役のほか日本動画協会の「アニメ産業レポート」の編集長を務め、制作現場からビジネス周りまでを熟知する数少ないエキスパートである。

 21世紀に入り、ハリウッドで顕著になった“キャラクター/ファンタジー化”だが、日本においては昨今、マンガ原作映画が隆盛である。2016年には『君の名は。』、『この世界の片隅に』、『シン・ゴジラ』と、世間を揺るがす話題作が続出した。日本の映画もこれからハリウッドのようなCG制作による大変革は訪れるのか、それとも’80年代から宮崎駿監督作が長年存在感を放っていたように、これからも手描きアニメーションの快進撃は続くのか。

 また、先のハリウッド作品は大規模な制作体制にもかかわらず高い作家性や作品性も備えている。一般論として、商品と作家性のバランス取りは難しいと言われるが、それを両立するハリウッドメジャーの作品作りにはどんな秘密があるのだろうか。

 これらを含めた映画とアニメの業界のビジネスと作品作りの近未来について、著書に『ヒット番組に必要なことはすべて映画に学んだ』のあるドワンゴ・外国政府/メディア渉外担当最高責任者の吉川圭三氏が聞いた。

取材/TAITAI
文・構成/日詰明嘉
カメラマン/小森大輔


吉川圭三氏(左)と増田弘道氏(右)。対談は終始和やかなムードで行われた。

ハリウッドのファンタジー化の潮流は『ジュラシック・パーク』から始まった

――増田さんは2016年の著書『デジタルが変えるアニメビジネス』の中で「すべてのアニメはCGになる」と書かれています。また実写についてもCGと組み合わさることで、それまで体験し得なかった驚きや快感があり、全体の傾向として映画はキャラクター/ファンタジー化に向かっていると述べられています。

吉川圭三氏(以下、吉川氏):
 これを読んだ時、なかなか勇気がいることをおっしゃるなと思いました。ただ、現実に世界中の映画はその方向に向かっているんですよね。そこにはいろいろな事情があると思いますので、今日はそのあたりを伺えればと思います。

増田弘道氏(以下、増田氏):
 「勇気がいる」っていってもね、アメリカの映画興行成績を見ているだけなんですよ(笑)。でもホントに、映画の世界はファンタジーへと向かっています。2016年北米BOX OFFICE ベスト10を見るとアニメーションが4本、マーベルコミック原作が2本、DCコミック原作が2本、それにアニメーションのリメイク作品(『ジャングルブック』)、そしてスター・ウォーズですからね。唯一日本だけがこの傾向を先取りしていますが、ハリウッドのトレンドってやがて世界的な潮流となりますからね。

1995年と2016年の北米興行収入ベスト10の比較(表はBox Office Mojo掲載のデータを元に編集部作成)。CGを多用したファンタジー作品は、1996年が10作中5作品なのに対し、2016年は10作品全てとランキング上位を独占する結果となっている。

吉川氏:
 こうして見ると将来、映画はアニメかCGを多用した作品しかなくなるのではないかと思えてきます。

増田氏:
 ディズニーの『ジャングルブック』なんて、実写にジャンル分けされていますが主人公の男の子以外はすべてCGですからね(笑)。最近ヒットした実写ドラマ作品といえば『ハドソン川の奇跡』ですか。あとほとんどCGを使っていない映画といったら『ラ・ラ・ランド』くらいじゃないかな。

吉川氏:
 この流れのきっかけとなった作品は何だったのでしょうか?

増田氏:
 転換点になったのは1993年の『ジュラシック・パーク』だったと思います。あれを見た時、全世界がビックリしましたよね。CGならイメージしていることが何でも実現できるんじゃないかと思ったんじゃないですかね、あれを見て。そしたらホントにそうなってきた。

 あのインパクトを受けて想像力が解放され、CG技術がこなれてきた2000年代に『ハリーポッター』シリーズや、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズといったファンタジー作品、それにアニメーションがドッと増えました。CGによって考えていることが何でも映像化できるようになってどうなったかといえば、観る側も創る側もファンタジー指向になったということだと思います。

ジュラシック・パーク(1993年)
画像は Amazon より

――その頃、アニメーションの雄であるディズニーはどうだったんでしょうか?

増田氏:
 2000年頃のディズニーは瀕死だったんですよ。「ディズニー・ルネッサンス」と言われた1990年代前半の快進撃も94年の『ライオン・キング』を頂点として終息し、CGに移行できないままウォルト・ディズニー生誕100周年超大作『アトランティス失われた帝国』をつくったもののもコケちゃって、2004年にはとうとう伝統の手描きのスタジオを閉じてしまいます。

 そして全面的にCGに移行しましたけどやっぱりダメでした。そんな瀕死の状態であった2006年にディズニーはピクサーを買収します。

増田氏:
 そこで驚くべきことに、ピクサーの社長を務めていたエド・キャットムルをディズニー・アニメーション・スタジオの社長、『トイ・ストーリー』などを手掛けたジョン・ラセター監督をチーフ・クリエイティブ・オフィサーに任命しました。

 つまり、子会社の社長をあの伝統のあるディズニー・アニメーションの社長にしたわけです。そして、キャットムル/ラセター体制が浸透した2010年の『塔の上のラプンツェル』でディズニーは大復活を遂げました。

吉川氏:
 日本では考えられませんよね。

増田氏:
 ピクサーの何がスゴいって、作品外したことがないんですよ。こんな会社、今までの映画界になかったんじゃないですか。しかも『ファインディング・ニモ』より続編の『ファインディング・ドリー』の方が、『トイ・ストーリー』も最新作(トイ・ストーリー3)の方がお客さんの入りがいい。続編の興行収入が増え続けるというのは驚異的です。

吉川氏:
 ピクサーの作っている作品は、CGアニメといっても内容が尖っている。精神分析をモチーフにした『インサイド・ヘッド』とか、人間社会の縮図を描いた『ズートピア』とか、高度な内容ですよね。

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