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「裏切り者は必ず殺す」── “元KGBの毒殺事件”にみるロシアの危険性を軍事専門家が解説

 3月4日、イングランド南西部ソールズベリーの公園で、ロシア人で元スパイのセルゲイ・スクリパリさんと娘ユリアさんが意識不明の重体で見つかった事件が発生しました。

 この話題を受け、自民党の山本一太議員がホストを務める番組「山本一太の直滑降ストリーム」の中で、旧ソ連圏及びロシアの軍事を専門とする軍事アナリストである小泉悠さんが、この事件は「氷山の一角」と語り、今後の予測を語りました。

ロシアのプーチン大統領。
(画像は駐日ロシア連邦大使館公式Twitterより)

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「裏切り者は必ず殺す」ロシアの軍事力ではなく政治干渉

左から山本一太議員、小泉悠さん。

山本:
 ここにきてまたロシアの存在がクローズアップされていて、まずは一番世の中を騒がせているのはロシアとイギリスの関係悪化。

 イギリスのメイ首相の外交的勝利っていうこともEAU【※】では言いはじめているけれど、確か20カ国、30カ国で140人ぐらいロシアの外交官を追放したということで、ここからプーチン大統領がどういう反撃、対抗措置をとるのかが話題になっていますけれど、この事件をまずロシア専門家として小泉先生はどうご覧になっているのでしょうか。

※EAU
ユーラシア連合。政治的連携を行う。

小泉:
 今回のロンドンでのセルゲイ・スクリパリさん暗殺未遂事件は氷山の一角なんですよね。今回は起こった事件は、ノビチョク【※】という最後に開発した、最新型の化学兵器を使ってるので、非常にセンセーショナルだったわけなんですけども。

 報道を見ていくと、イギリスの専門家なんかは私が把握してる限りで、ロシアがロンドンで人を殺したのはこれで15件目だっていうわけですよね。

※ノビチョク
ソビエト連邦とロシアが1971年から1993年に開発した神経剤の一種。

山本:
 昔、ポロニウム【※】でやられた人がいましたね。

※ポロニウム
猛毒放射性物質。

小泉:
 アレクサンドル・リトビネンコさんですね。彼も元々はSVR、昔のKGB第一総局ですね。プーチンさんも所属していた組織。今回はGRUというロシア軍の情報局。裏切り者のスパイがその後ロンドンに移ってくるんだけども、そうやって安住するのは許さないぞと。裏切り者は必ず殺すと。これまでもやってきたわけですよね。

山本:
 堪忍袋の緒が切れる寸前までいっていたところに、これが起きたと。

ロシアによる電子戦“フェイクニュース”

小泉:
 特に今回の件の場合は、ウクライナ危機があったあとに初めて、「こういう事件だ」と騒がれた。実は先月、イギリスの防衛研究所、有志統合軍研究所と言ったらいいんですかね、そこに行ってきまして、ロシアのハイブリッド驚異の話をしましょうということで、そういう会議があって、私も30分ぐらいのプレゼンテーションをしてきたんですけれど。

 私が考えたハイブリッド脅威っていうのは、ウクライナでやったみたいな、ロシア軍だかなんだかよくわからない連中が攻めてきてウクライナの領土を取られちゃうみたいな、そういう話を想定して自分でプレゼンテーションを作って話したんですけれど。

山本:
 ハイブリッドっていうのは、今みたいな電撃作戦なんだけれど、そこに電子戦も絡めた……。

小泉:
 電子戦も入ってきます。そう思っていたんですけれど、大部分のヨーロッパの人たちが気にしているのはそこではなくて、要はロシア軍は攻めて来ないと。政治干渉とか、インフォメーションウォーフェア、つまり情報戦だとか。

山本:
 フェイクニュースとか。

小泉:
 そうですね。そういう部分のロシアのハイブリッド脅威、つまり我々の安全で繁栄しているはずの生活にロシアがいつの間にか手を突っ込んでくるっていうことに対する脅威認識がものすごく大きくて、いわゆる戦争の話はしないんです。

 どちらかと言うと、政治干渉のほうにみんなはすごく関心が集中したんですよ。たぶんそういう脅威認識は前からあるにあったんでしょうけど、ロンドンなんかロシア人がものすごくいますから、あったんだろうけども、やっぱりそれがウクライナ危機があってロシアとの関係がこれだけ悪化している中で、ロンドンで、イギリスで堂々と人が殺されたと。

 しかも、ノビチョクみたいな非常に凶悪な科学剤を使って殺したということに対する怒りがイギリス側には当然あったと思いますし、スクリパリさんがスパイ交換をしたときの内務大臣がメイさんなんですよね。

メイ首相。
(画像は駐日英国大使館公式Twitterより)

山本:
 そうなんだ。個人的にすごい思い入れがあったんだ。

小泉:
 それはイギリスの怒りだと思うんですけども、これだけ欧州諸国が追随しているっていうのは、その他の欧州諸国のロシアに対する不満というか、大概にしろよ、という気持ちがかなりあって、これだけ追随しているんだろうと。それでもヨーロッパの国を見てもう、実は外交官を追放していない国もあるんですよね。

山本:
 ギリシャとか。

小泉:
 そうですね。あとはオーストリアも確かそうでしたかね。非常に政治的、あるいは安全保障上の立場は微妙で、ロシアとの関係は保っておかないとって、思いとどまる国はあるんのですが、そこは突っぱねるだけの強い国力があるフランスとかドイツみたいな国は、堂々と追放するわけですよね。

北朝鮮の軍事行動はロシアを模範にしている!?

山本:
 ヨーロッパ諸国にはロシアに対する軍事的な脅威よりもハイブリッド、情報戦みたいなものについて脅威を感じていると。その理由は小泉先生の本にも書いてあるように、軍事力だけ見るとロシアの軍事力はNATOに比べると1/4とか1/5であると。もっと低いかもしれない。

 そういう事実があるからなんでしょうか、少し前に北朝鮮が電磁パルス攻撃の能力を持っているんじゃないかみたいなこと言われましたよね。冷戦時代には結構流行った言葉で、アメリカがハワイの上空で一回だけ電磁パルス【※】攻撃を実験したわけじゃないですか。

※電磁パルス
パルス状の電磁波。EMPと略されることがある。

 上空で核兵器を爆発させたら全部パソコンから含めて電子機器が壊れて永遠に戻らないみたいなやつ。あれを急に金正恩が言い出して、なぜかって言うと分析の中で、「こういう兵器を開発してる」っていうのはアメリカの公聴会の中で結構上の人が言ったっていうのもあるけれど、何人かの専門家はウクライナ危機が関係してると。

 やはりロシアが小泉さんが言ったハイブリッドなみたいな電子戦を展開してる中で、実は電子パルス攻撃みたいなこともやるんじゃないかと。そういう関心がちょっと高まったことが背景にあるって言ってたので。しかし今の話だと、あまりヨーロッパの国々はNATOとの戦力差みたいなものから、それを感じてないということですかね。

小泉:
 いわゆる電子戦っていう言葉も、結構細かく刻んで考える必要があると思うんですよ。

 たとえばロシア国防省の中に、電子戦総局というのがあって電子戦のことをやってるわけですけれど、彼らが言っている電子戦っていうのは、要するに敵レーダーの電子妨害とか、無線を使えなくするとか、あるいはサイバー戦をやるとしても、戦時に敵の通信を壊滅させるとか、そういう話なんですよ。

 サイバー電子戦と言っても、これは有事のときにやる。軍隊のキネティックな行動と一緒による電子戦あるいはサイバー戦だと思うんですね。

 一方で、お話ししたようなヨーロッパで本当に懸念されているようなのは、戦争まで至らない。あるいは果たして誰がやったのかもよくわからない。アトリビューションができない段階で、ロシアがやってくるような情報戦みたいな意味でのサイバー戦だと思うんです。

 だから何でも全部サイバー戦で箱に放り込んでしまうと、みんな一緒に見えちゃうんですけども、かなりその国家間対立の烈度によっても相当のグラデーションがあると思うんです。

山本:
 段階があると。

小泉:
 電磁パルスの話は明らかに、本当に戦争がはじまる、あるいはほぼ戦争がはじまるみたいな段階で使われると思うんです。

 もしロシアが欧州諸国上空にEMP爆弾を打ち込んできたら、死者が出なくても、誰が見てもロシアもやった軍事行動だとわかると思うんですけども、誰がやったのかもよくわからないのに、偽情報が欧州諸国で流されて、極右が伸長して不安定化して……みたいな話になると、これはまた話が別だと思うんですよね。

 北朝鮮のEMP攻撃みたいなものを、ロシアから範を得ている可能性はあると思うんですけれども、どっちかと言うと、これは北朝鮮の通常戦力の弱さを補うとか、本当に核攻撃をするわけにはいかないから、寸止め段階でやるみたいな、どっちかと言うと軍事領域な話だと思うんですよね。

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