WELQ問題の火付け役と騒動を振り返り、1年以上経った今、Webメディアはどんな影響を受けたのか考察【話者:中川淳一郎・ヨッピー・朽木誠一郎】
まだまだ怪しい!? 「WELQ」以外の健康系、医療系キュレーションメディア
中川:
「ヘルスケア大学」はどうなんですか? 【医師監修】って表記することが流行ったじゃないですか? ここらへんの信憑性はいかがなものなのかと。
朽木:
これはヨッピーさんのおっしゃったGoogleのアップデートの前のことですが、「ヘルスケア大学」というサイトも問題になりました。「WELQ」と同様の手法を用いて検索上位に表示されていたサイトです。このサイトは、“5000人以上の医師が参画しています”ということを看板に掲げていたので、本当に5000人の実態があるのか? と、調査してみました。すると、実際のところは病院の上層部と契約しているだけで、その病院に所属するお医者さんを勝手にたくさんカウントしていたことがわかりました。
中川・ヨッピー:
う~ん……。
朽木:
例えば病院の上層部を取材し、その後に「この病院に所属している300人のお医者さんをカウントしてもいいですか?」というような聞き方をしていたということです。
中川:
そ、そんな聞き方あるの!?
朽木:
実際問題として、サイトに顔と名前が載っているものの、「自分はこのサイトに許可を出した覚えはない」という医師もいました。
怪しい情報はWebに限った話ではない。そして、Webは自浄作用がある
中川:
Webメディアにおける医療や健康の話をしていましたけど、そもそも健康情報ってうそ臭い話がつきまとうものですよね。以前、雑誌でも「紅茶キノコを飲むと健康になる」っていう怪しい話が特集されていたし、2007年には『あるある大事典』(フジテレビ系)で「納豆を食べると痩せる」というテーマを扱ったところを、スーパーから納豆がなくなる事態に発展した。ところが、実はねつ造だったことがわかり、番組は打ち切りに追い込まれたわけですよ。
健康系のネタって信憑性のあるなしは二の次で、大衆が飛びつきやすいから、どのメディアでも似たような事例があるんだよなぁ。
ヨッピー:
たしかに。でも、テレビのねつ造に比べればまだネットの方がマシじゃないですか? ネットは、自浄作用が働きますからね。
朽木:
僕もネットには自浄作用があると思います。2017年12月のGoogleのアップデートによって、最も確からしい情報を出しているサイトが上位検索として表示されるように改善されました。例えばがんの記事であれば、国立がん研究センターの情報が一番上に表示されるようになっている。問題が起こると自浄作用が働くのがネットの良いところで、書籍やテレビなどの媒体ではそういったことが起こりづらいと思います。
いまだにゴールデンタイムのテレビ番組では、“夢の治療”みたいに、怪しい「治療」を紹介することがある。本当かどうかわからないものを発信する媒体はネット以外にもたくさんあるわけで、そういったものを制作している人たちに対しては、「WELQ」の一件は問題意識として届いていないのかな? というもどかしさはありますね。私としては、そういうところにも届かせることができたらと思っています。
ヨッピー:
僕、メディアの方々が集まる医療情報を発信している勉強会みたいなものに出席したことがあるんですよ。「10秒で痩せる! 的な怪しい情報を掲載した書籍がたくさんある! あのへんをなんとかせにゃならん!」「そうだそうだ!」と皆さん紛糾していたんですけど、「ああいう、怪しい健康本の広告って、朝日新聞なんかにも載ってませんでしたっけ?」って聞いたら、新聞社とか雑誌社の方々は黙ってしまいましたからね(苦笑)。
中川:
たしかに新聞などでは何十万部突破! とか、よく喧伝しているもんなぁ。
ヨッピー:
結局、あんたたちも片棒担いでない!? って思っちゃいますけどね。
命にかかわる情報だからこそもっと真剣に、丁寧に
中川:
健康情報ってデリケートに扱うべきだよね。川島なお美さんは、胆管がんで亡くなったんだけど……。彼女は、金の延べ棒を触るっていう治療法をやっていたんですよ。
ヨッピー:
えぇ、どういうことです?
中川:
藁にもすがる思いで、彼女はその治療法を実践していたんだよね。 金というのは純粋な成分であり、金と同化することで……なんて言われたら、状況によっては信じてしまう人もたくさんいるわけで、メディアの扱い方もたしかに重要なんですけど、こういった治療法を提唱する人が居続けていることに対しても、きちんと声を挙げていかないといけないと思うんですよね。
ヨッピー:
ああ……。末期がんって宣告されたら、たとえ0.0何パーセントでも「復調する可能性がある」と思ったのなら、どんな治療法でも藁にもすがる気持ちで実践する人はいるでしょうね……。
朽木:
全国にお医者さんとして登録されている方って、約30万人いるんですけども、30万人もいれば……。
ヨッピー:
ヤバい奴もいるでしょ!?
朽木:
(苦笑)。もちろん多くのお医者さんは現場で奮闘していて、頭が下がる思いなんですけど、それだけの数がいれば、中には自分のお金儲けを優先してしまう人や、勉強をせず知識が止まったまま発信する人がいるという可能性は、考慮しなければならないと思います。
ヨッピー:
医者の中にも信用できない人がいるってことですよ。僕も、大阪から上京したばかりの頃に、一時期アトピーでものすごく悩んでた時期があって。何度も皮膚科に通ったんですけど、(主観では)明らかに悪化してたんですよね。かゆみとかもひどくて。
「いよいよこれは!」と思って、「今日はちょっと強い薬出してもらおう」なんて思いながら再びその皮膚科に行ったら、僕を見るなり「だいぶ良くなってきたね」と抜かしやがった(笑)。全然良くなってなんてないのに! 「全然わかってねえ!」と呆れて、翌週に違う皮膚科に行って、そのお医者さんの言う通りシャンプーを変えたり洗剤を変えたりしたら、みるみるよくなったんですよ。お医者さんであっても、全員が正しいってことではないってことですよね。
朽木:
医療的なことだけではなく、人間的に合う合わないっていう問題もあります。患者さんとお医者さんが、もっとコミュニケーションが取れるような環境なり、情報の共有が必要なのですが、これこそ言うは易し行うは難し、ですね。
一方で、明らかにおかしいクリニックについては、一つ一つ、つまびらかに報道していかなければいけないのかなって思います。