「漫画が無料公開され続けることで新人にチャンスがなくなる」 山田玲司氏が“漫画村”に物申す
「タダで見られる」ことに慣れてしまっている
山田:
一番怖いのが、ポピュリズム【※】なんだよね。
※ポピュリズム
大衆に迎合して人気をあおる政治姿勢。
乙君:
ポピュリズム?
山田:
「タダで見られる」ことに慣れてしまっているんだよ。テレビをずっと見ていたから。
乙君:
まあまあ、そうですね。
山田:
タダで見て何が悪いのか? って思っているわけだよ。漫画がアップされていて、タダで見て「別にいいじゃん」みたいな感じ。
しみちゃん:
うん。
山田:
全体として何か大事なことは、野次馬が集まってくるっていうことが一番大事なことになっちゃう。要するにバズるということが、一番大事だということの弊害なんだけど(笑)。それは結構キツイよね。
要するに、地上波のテレビみたいになっちゃうわけ。だから、大相撲だ不倫だとやるわけよ。とりあえず皆見てくれるから。でも、そんなんじゃ本は絶対買わないよね。
乙君:
まあね、ゴシップだらけになっちゃうんで。
山田:
かつて好きだった本は恐らくそこにはないし、俺が本当に描きたいものはそこにはないから、それはみんなに届けることが出来ないんだよ。だからメインの商業ルートでやろうとしたら、それも出来なくなっちゃう。だから、結構この「報酬なきポピュリズムの罠」というか、沼みたいなものっていうのは、文化全体がガクンと落ちてしまうな、という気がしますね。
ただ、法令遵守の形で、流れが一つ行くだろうなというのと、もう一つ、コピーガード技術っていうのも同時に、本気を出せば絶対すぐ出来るはず。というかもうすでにあるはず。
乙君:
うーん。
山田:
だから、違法に見れなくするような技術は、とっくの昔にできてるはず。多分どこかで手打ちがあって「こうしましょう」と言った瞬間に見れなくなるんじゃない? それは実は技術的に可能で、何とかなっちゃうんじゃないかなと思うね。
あと、大事なのは野次馬を相手に疲弊していくということを止めなきゃいけない。
乙君:
マスを相手にということですか?
山田:
マスではなく野次馬。
乙君:
はい。
野次馬を相手にしていてはいけない
山田:
つまり「この作品が人気らしいぜ」とワーッと騒ぐ。そういう人達を相手にしてたらおしまいなんだよ(笑)。そこに来てる人達を、ついつい「マーケティングだ」と捉えちゃう。本当に大事なのは「読者の編集」だ、と。
乙君:
ほう。
山田:
うん、つまり然るべき送り手と受け手の関係みたいなものを、Webでもう一度作り直していく時代というのもあって、それはあるかなと思うよね。奇しくもゼネプロさんが、日本のアニメ産業についてちょっと嘆いていて。
乙君:
うん。
山田:
これだけ多くの優れた作家が日本にはいるのに、国内市場でお金が回らないから、みんな情熱を失ってしまっている。これはもったいない。だから国外からお金が入るような形にして、海外で成立するようなやり方が必ずあるはずだと。
さっきの話に戻ると、アメリカはマーベルとかのペーパーバック、要するに安くて読み捨ての雑誌だったじゃん。ヨーロッパはバンド・デシネ【※】じゃん。
※バンド・デシネ
ベルギー・フランスなど中心とした地域の漫画のこと。
乙君:
うん。
山田:
アートブックなんだよね。これがヨーロッパとアメリカで、漫画文化が分かれてるんだよ。その間に日本があった。
日本の間にあった雑誌文化というのは、このままではもたない。両方に分かれてる。要するに読み捨てはWebになる。そして手元に残しておきたいような作品としての、わりと豪華な大判の漫画っていうのが、淘汰されて残っている。
乙君:
愛蔵版とかね。
山田:
それは、やっぱり手塚治虫がとっくの昔にやってた。
乙君:
やってたんだ(笑)。
山田:
とっくの昔にやっていて、手塚先生は漫画は大きなサイズで読んで欲しいと言っていて、文庫化は反対してたんだよね。
乙君:
はいはい。
山田:
ましてや、スマホで漫画を読むなんて言ったら、治虫はもう泣いてますよ。「このサイズで読んでくれ」って言って、わざわざこの判型で出しているんだから。
乙君:
はい。
雑誌はいつか消える
山田:
雑誌で何がまずいかというと、1つの企画が当たったら、単行本が売れてる間は延々長く続けようってやるじゃん。そうするとどうなるかっていうと、一試合に20巻とかやるわけだよ。
乙君:
はい。
山田:
そうすると、誰もついていかない。俺はついていかないよ、少なくとも(笑)。ついていく人はついて行くかもしれないけど。俺はついていかない。
乙君:
俺はそういうのは慣れてますからね。「いつ空島終わるんだ?」みたいなのはありましたけど。
山田:
はっきり言って、あれについていけなかった人たちはたくさんいるし、俺もその一人。もう週間連載なんか無理なんだから。
乙君:
ははあ。
山田:
「漫画村」のように、Webで見るみたいな形だけで残っていく。雑誌はいつか消えます。だけど、これが残る。この大判を思い出してください。『火の鳥』も『ナウシカ』もこういう感じで出ている。
乙君:
でも、これはお言葉ですけど、すべての漫画を、そういった豪華版には出来ないわけじゃないですか。
山田:
俺はそういうものを描きたい。
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