「マンガ」が禁止された近未来!? SF漫画『CICADA』作品に込めた想いを原作者語る
「マンガ」が禁じられた近未来の日本で、マンガを取り締まる“焚書官・レム”の日常を描いたSF大作『CICADA』。
月刊スピリッツで連載中の『CICADA』第一巻発売を記念して、原作者の山田玲司氏が2月1日配信の『ニコ論壇時評』にて、作品に込めた想いを熱く語った。
マンガが禁止された近未来の日本。『CICADA』の世界観とは
山田:
言論弾圧150年後の話です。150年後はネット規制どころか、あらゆることが管理されているだろうなと思っていて。そういうことをこの漫画で描いているんですけど。
漫画というものを持っているだけで捕まって殺されることもある、みんな影に隠れて読んだりしていて、麻薬のような扱いをされているという世界で、一度も女に愛されたことがない、一度も彼女ができないまま、ひたすら漫画を取り締まる作業員として働いているうちに、30歳も近づいてきたレムという男がいるんですけど、ある漫画を読んでしまう。
それが『うる星やつら』なんだよね。そこにあるのが明るさだし、自由だし、ひとりのどうにもならない男を徹底的に愛する女が描かれてる。だからこれは、150年後の世界から今の漫画というのを見るという、ちょっとした実験でもあるわけ。(150年後の漫画が規制された世界の人間が)どう読み解くとのか? このあと『ケロロ軍曹』が出てきますけど、難しくて読めないわけ。
この世界で、ケロロを読めるというのは、よほどの文化リテラシーがあるってこと。ロルカって女の子は最初、ケロロ軍曹のことを「あれはカエルでしょ?」って言うんだけど、みんなに「カエルじゃないんだよ」って言われるっていう。
乙君:
カエルじゃないの?
一同:
(笑)
山田:
あれは、カエルではありません(笑)。
乙君:
ケロロって言ってるのに?
山田:
ケロロって言ってますけど宇宙人ですから。カエル型宇宙人です。それで、人生初めての恋に落ちるんです。漫画も取り締まられて、彼女も同じ漫画を大好きで。
この世界では、『CICADA』という、特殊な能力を持っている存在がいて、それが何をできるかというと、漫画を武器にすることができるというのが分かっていくという展開なんですね。問題は「能力を発動したときにどうなるか?」なんだけど……。
乙君:
なんか全部言いそうだよね。発売前に。
一同:
(笑)
山田:
ここまでにしましょうか。でも、ほとんど断片しかしゃべってない。
なんで、俺この話を描こうかと思ったかというと、「大人って子供を幸せにするためにいるんじゃないの?」ってずっと考えてて。なのに、なんかこの国の子供って、大人のせいで不幸になっているんじゃないかって。今になって、「大人いいかげんにしろよ」みたいな気持ちがある。だから、子供たちの視点からの『CICADA』を描いてるみたいなところがあってね。
この世界は150年後。俺はどういうふうに近未来を考えてたかというと、資本主義っていう世の中じゃん。金融工学が進みすぎて、貧富の差がとんでもない。上位60名ぐらいが世界のほとんどの資産を持っているという、とんでもない格差社会が生まれちゃった。
だから、『CICADA』の世界は、ものすごい格差社会で、貧しい人は、ここにリングがつけられてて、そのリングの色で階級がひと目で分かってしまう。で、上に上がれないという階級制度が出来上がってるんだけど、それは、資本主義の行き着く先の世界を予測して描いている訳。
先代が創った文化は時空を越えた人類の価値
山田:
「資本主義を続けていったら」 というものが、漫画そのものと被っていることに気がついたのね。資本主義をやるんだったら、まず絶対に守らなければならないのは、先祖を大事にするということなのよ。要するに、その世代が作った文化というのを下の世代が引き継ぐこと。今まで伝達することによって、引き継ぐことができて、それでこれだけの蓄積がある。つまり、先祖がやってきたものっていうのは、時空を超えた価値で、これが人類の価値だという。
山田:
これって、文化で言ったら何っていったら漫画じゃないですか? 日本の誇る、先代からの教え時空を超えた価値、哲学、愛、いろいろなもの全てみたいなもの。漫画というものが、資本主義から守る価値。この価値はコンテンツ産業が商業時代の中で生き残るためにも使える。
乙君:
漫画だけじゃないですよね。音楽も、コンテンツつまり文化ですよね。
山田:
そうそう。文化そのもので、コンテンツという言い方は商品的な感じがするから、ザックリ言ってアルバムだったり、映画みたいなそういうのをコンテンツと言うじゃない。だから、漫画もコンテンツで、「文化的なコンテンツ」というものがないと、資本主義に対抗できない。資本主義なるシステムが生み出す病にワクチンとしてあるんじゃないのかというのが、俺は、漫画だと思ってて。それで描かないといけないと思っているというのはあってね。
乙君:
なるほどね。
山田:
漫画って個人的にやってるから、非常に人間の幼稚で、尊い理想を描くんだよね。「こんなこといいな、できたらいいな」とか言って。でも、尊いんだけど、幼稚な理想を語っている。これ大事だなって思ってね。
山田:
今回、『CICADA』の話をしようかなと思ったのは、世の中ってこのままではヤバイよってことに対して、何を護って、何を変えるかということに対して、ちゃんと議論した方がいいんじゃない?って。
俺は、漫画は護らなきゃダメだぞって思ってるわけ。なぜなら、先代が命がけで繋いでくれた自由の生んだ宝でしょ? 漫画が弾圧される時代に何が起こっていくか? そして、一度も愛されなかった男は、愛されるようになるか? そして、『CICADA』とは? みたいな話です。
これ、今2巻描いてますけど、最高ですよ。是非皆さんよろしくお願いします。
乙君:
これがいきなり生まれたんでなく、玲司さんが、ゼロ年代もそうだし、前からずっとやってきて、何が一番ピュアで大切なものなのか? ということで。
山田:
そう。何が一番大事かっていうことを。
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