現役漫画家が答える「人気漫画を実写映画化すると失敗する3つの理由」って?
7月14日に上映開始された実写映画版『銀魂』。今夏は銀魂のほかにも『東京喰種』『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』など人気作の実写映画化の公開が控えているが、原作ファンから「頼むからやめてくれ」「また実写化か…」といった、作品の仕上がりを心配する声がSNSを中心に多く寄せられている。
『山田玲司のニコ論壇時評』では、「なぜマンガの実写化は駄作が生まれがちなのか」という疑問に焦点を当て、現役の漫画家である山田玲司氏が「駄作が生まれる3つの理由」を語った。
※本記事は2017年1月23日に公開した記事を編集、再掲載したものです。
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駄作が生まれる理由その1~ケインズの美人コンテスト
山田:
(人気マンガ・アニメの実写映画化って)駄作が生まれてしまう確率が高い理由が3つあると思うの。で、まず第1に言ってみれば、『ケインズの美人コンテスト』ですね。ご存知ですか?
乙君:
ケインズっていうのは、経済学者のケインズですよね?
山田:
美人コンテストの話は知ってる?
乙君:
いや、知らないです。
山田:
ケインズの美人コンテストという話があって、女性たちに投票(投資)するのだけど、賞金をもらうのは優勝した女性じゃなくて、1位になった女性に投票(投資)した人に賞金が入る。
そうすると、自分が美人だと思ってる女性ではなく、みんなが好きそうだなと思う女性に投票するようになる。そこには自分の正直な思いはなくて、みんながどう思ってるの? っていう実体のない意見に支配された結果が生まれる。
これで漫画原作の映画とかを作ろうとすると落とし穴になる。今の若い人はこういうの好きでしょ? みたいな非常にふわっとしたものになるんだよね。実際に若い人がそれを求めてるかどうかは、わからないんだよ。
「おまえら一般的にこういうの好きだべ」「こういうキャラ好きだべ」みたいなのは完全にバレる。だから、ケインズの美人投票理論で映画なんか作ると、まあ上手くいかないってわけ。
駄作が生まれる要素その2~俺を認めろ病
山田:
あと、原作があって、原作のファンがついてるのに、「俺病」にかかった人。
乙君:
「俺病」とは?
山田:
俺を認めろ病の人が、制作に関わってくる場合があるんですよ。これ、わかりやすい例で言うと、葉加瀬太郎っているじゃん? バイオリンを演奏している人なんだけど、ずっとクラシック畑に居て、途中でパンクに目覚めるの。
乙君:
パンクに目覚める!?
山田:
パンク超カッコいい! ってなって、パンク聴きながらクラシックを演奏してた時期があるんだよ。
ビジュアル的にも激しいし、パンクってわかりやすいじゃん? それで「座って演奏していたら俺は目立てない…」と思ったらしくて、オーケストラでバイオリンのフレーズがあるときは椅子の上に立って弾いたらしいんだよ(笑)。「俺病」ですよ。
乙君:
俺を見ろと。
山田:
俺を見ろ! っていう、こういう人が制作の中に入っていると、原作よりも俺が目立ちたいって、仕事をするんだよ。で、これも結構な駄作になる可能性が高くて。
乙君:
バランスを崩しちゃうわけですよね。
山田:
そもそも、おまえの作品じゃねえからって、なのにお前が名を挙げるために、今回この機会を利用しようとしているだろうっていう。
乙君:
あっ! それで葉加瀬太郎なんだ! クラシックは、別に自分が流行らせたわけじゃないのに……。
山田:
そうそう、指揮者の方が大事。葉加瀬太郎は、ソリストなんだよ。だから、いいのこの人は、これで立ち上がって、名を挙げちゃって、それでよかったんだけど、それでもその場のコンサートは、台無しだよね。で、そうなりたい人が映画の業界にもいるっていうやつだ。
駄作が生まれる要素その3~たのきん映画への甘え
山田:
あと、もうひとつ、みなさん知らないと思いいますけど、かつて『たのきん映画』と言われる映画がありましてですね。知ってました?
乙君:
『たのきん』はわかりますよ。田原俊彦、野村義男、近藤真彦。
山田:
81年ぐらいに、郷ひろみたちの世代のアイドルが終わるわけ、それで金八先生が始まって、あの3人のアイドル登場で、すべてを持っていってしまうわけ。『たのきん』の商品のひとつが映画だったんだよ。それで、田原俊彦主演映画! ドーン! 近藤真彦主演映画! 野村義男主演映画! ドーン! って。
乙君:
よっちゃん(野村義男)主演映画あったんだ。マジで?
山田:
『北の国から』の田中邦衛さんが出てます。で、俺の当時の彼女が、トシちゃんのファンで、連れて行かれまして、たのきん映画を、高校の時に。非常につらい思い出があるわけ。
『ドカベン』に次ぐ、つらい思い出があるわけ。でも、これ、客満員ですよ。関係ないんだよ。トシちゃん出てれば関係ないから。その時に、マッチがやってたのが『ハイティーン・ブギ』っていう、いわゆる漫画原作なんだよ。
乙君:
そうなんだ。
山田:
あれは、漫画で当たった物を近藤真彦がやると言って、漫画のお客もくる、マッチのお客も来る、ここにビジネス的な成功モデルがある。
スターを出せば客が入るってビジネスモデルは昔からあるんだけど、日本はたぶん80年代ぐらいのこれと、あと、角川映画で薬師丸ひろ子が出てればいい、原田知世が出てればいいっていう、アイドル映画を作るじゃん。そこからの系譜があって、これが大きな保障になるんだよ
で、これがマーケットを支えちゃうから甘えるんだよ。アイドル目当ての客がこの程度居ればいいだろう、って考えるやつが現場に何人かいたら、もうこれは原作の魂がガンガン侮辱されるわけよ。これは、中々きついわけ、で、こっちとしては、命がけでやって、やっと当たった漫画なのに、なんてことしやがるんだ! と思うけど。じゃあ何で断らないかというと、このタイミングじゃないと増刷かからないんだよ。
乙君:
ああ、そうか。
山田:
映画化決定で、帯があって、書店もキャンペーンが打ちやすいから、今は本当に書店にメディア化コーナーがあるわけだよ。だから、今みんなが知っているものは、メディア化しているものじゃなきゃダメっていう、だから、いくら地道に頑張って、いいものをやったって、メディア化されなかったら……とうわけ。
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