『けものフレンズ』たつき監督降板、『るろうに剣心』原作者書類送検など激動のアニメ・漫画界を総ざらい【2017年下半期】
8月・アニメ業界における『ブラック企業の実態』が報じられる。「『好きなことをやってるから薄給でいいだろう』がまかり通っている」
乙君:
さて、8月ですが。
山田:
ブラックアニメ業界についてNHKで取り上げたなって。
乙君:
ありましたね。
山田:
想像を絶するブラックだよね。ずっとそれが改善されることなく、今度は中国の方と押されて、更に競争が激化した。いい方向になるっていうのはどうにもならないというか、そもそも、人々のモルヒネを作る人達に、モルヒネが必要ってどういう状態なのっていう。
乙君:
確かにね。年間何本やってるんだ? って思いますしね。
山田:
なんか、単行本の方も、本屋さんとか出版社とかも件数主義というのがあって、とにかく数打たなきゃいけないみたいな現状がある。その中でどれかが当たったら、それで回すみたいなのがあって、アニメの方もそれがあるんだろうなっていうのがありますね。
乙君:
好きなことをやっているんでしょ? で、ああなってしまった業界。夢を食い物にするビジネスというか。「好きなことをやってるんだから薄給でいいんだろう」みたいな。そういうことがまかり通っているなあというのがあります。
山田:
もう根本的から変えないといけないね。つまり、これは“まどかの願い”でしょ。
乙君:
ほう。
山田:
魔法少女になろうとした人が、魔女にならないためのシステムでしょう。だからアニメーターになろうとした人が、魔女にならないためのシステム必要でしょ、これ。
乙君:
どうすればいいんでしょうね、これ。
山田:
完全に変えないといけないよね。まずストライキとかも出来ないじゃん。アニメ見てる人がデモとか起こさないしね(笑)。
全アニメーターが「もう作らねえ!」 って言ったら、見てる人達からしたら、ただガッカリするだけ。
しみちゃん:
(笑)
乙君:
どうなんでしょう? 契約として個人契約なのか、それとも会社の社員としてなのか。
山田:
いっそ起こしてほしいな。
しみちゃん:
へえ。
乙君:
結局、労働組合的なものがあるのかどうかとか含めて、ないよね? 多分。
山田:
自分で作りますか?
乙君:
そしたら、もう中国とか韓国とかに発注しちゃうという話に、実際なっていると思うんで。
山田:
ジブリがいなくってね、そうね。うん。
乙君:
個人事業主だったらね。
山田:
俺は個人的に思うのが、アニメ業界って手塚先生から始まってるじゃん。それって戦後の復興期だよ。寝ないでとにかくやらないと駄目だよっていう時代から、ずーっと成長続けてきていて、そこから後から来る連中が乱立したわけじゃない。
山田:
そこを根性で乗り切ろうというノリで、ずっと業界が変わんなかったのはキツかったね。漫画業界もそうだけどね。なんかおかしいよね。3日寝ないとかいう世界は、そもそもおかしいっていうところに来てるんじゃないのかな?
乙君:
「手塚を乗り越えなければ」というコメントが。
山田:
手塚先生がいなかったら、日本のアニメーションって週刊でできなかったんじゃない? ただ、やってしまったから(笑)。だから「できるじゃん!」 となって、そこからですよ。
乙君:
(笑)
山田:
週刊連載もそうだね。
乙君:
イチローが毎年200本打ってから、お前も出来るだろうみたいな。
山田:
「お前も打て!」みたいな話ですよね。「えー!? ってイチローだからですよ!」って言っても「出来るでしょ!」みたいな。それで出来上がった文化の中にいるんだけど、そろそろそれが限界に来ているっていうのが、今年よく見えたよね。
乙君:
でも、セル画だったじゃないですか。あれと今のデジタルでやるのと、作業効率的には今の方が効率はいいんですかね?
山田:
これはもう監督に来てもらうしかないと思うけど。
乙君:
そうか。
山田:
でもこの間、錦織監督に聞いたら、やっぱり、かえって大変な部分もあると。要するに技術が変わって、更にやれるところまで。
乙君:
ああ、なるほど。どんどん要求がグレードアップしてくる。
山田:
なってる。確かに手描きは手描きでめちゃめちゃ大変だったんだけど、ここはクオリティが上がってしまので、それを保つためにやらなきゃいけない。
乙君:
なるほど。
山田:
ただ、漫画が一つ大きく変わる。漫画がデジタル化になって、ハイクオリティになって、あるところのピークまで来たけど、今年の『左ききのエレン』で変わるね。
乙君:
『左ききのエレン』?
山田:
そう『左ききのエレン』とONE君の登場によって、ここの漫画業界は2つに分かれますね。
乙君:
2つに分かれる?
山田:
ピクシブ派とONE派に分かれます。
しみちゃん:
ONE派?
山田:
1個はツールでしょ? ONEの『モブサイコ100』がいかにすごい革命だったかというのが、今になってはっきりしてきたのが、『左ききのエレン』のヒットだね。
乙君:
はあ。
しみちゃん:
気になる。
山田:
うん、だからそういう意味では、今年は1本のラインが引かれている気がするね。要するに、『絵師中心のカルチャー』と、『物語中心のカルチャー』。
画がどうであれ「面白かったらいいんだ」ということが、次から次へと証明されてしまっている時代なので、ヤングジャンプとかがものすごいクオリティが高くなって。しかし、だからといって、ヤンジャンの売上は伸びなかったんだよ。
乙君:
そうなんだ。
山田:
要するに、どこに努力をしたらいいかわからなかったんだ。だから画にいっちゃったんだよ。画が良くなっても、売れないってなった時に、ONEのモブサイコが登場。ここが業界ひっくり返るわけ。
だからONEが描いた画を、上手い人がワンパンマンで描いてるけど、あれは恐らく変わらないはずなんだよ。
乙君:
面白さは変わらない。
山田:
そう。それをいくつか証明してる事例が現れた。もちろん、演出の効果として、絵師が上手いとある程度の伸びは期待できるけど、それよりもネームの面白さのほうが圧倒的に重要だとわかってきた。日本は“画”が上手い人が多いからね。
乙君:
画が上手い、ということをきっちり評価できないと、多分、漫画業界は廃れると思うんですよ。
山田:
実はね。
乙君:
そのネームのパワーだけでってなった時に、そんなに新しい革命的な面白さがあるかどうか。
山田:
だからそこで、分かれるのが、『バクマン。』なんだよ。
山田:
絵師とストーリーで分かれるパターンと、絵も話も上手いっていう人を望むというパターン。一部の能力がものすごく突出していいのに、他は全然ダメだったりするような、こういういびつなパラメータのまま出せる世の中っていったら、それがメディアだったんだよ。
だからこそ、変な者がいっぱいいた。だから言ってみれば、永井豪先生とか、決して画が上手いっていうわけじゃないんだけど、画に力がある。
乙君:
はいはい。
山田:
一方で、見やすい画や上手い画とかだけでじゃない、いびつな才能みたいなもの、表現みたいなものが出るという、多彩なメディアだったというのがあったんだけど、ここで分かれてしまって、嫉妬狙いになっていくというと、どんどんいびつなものが消えていく。
それより1番残念なのが、『シン・ゴジラ』がまさにいびつさの象徴みたいな映画だったわけよ。
乙君:
ほうほう。
山田:
だから、庵野秀明の作った『シン・ゴジラ』というのは、漫画家が描いた漫画みたいなものなんだよ。
乙君:
ほお。
山田:
普通は、あんな演出は通らない。
乙君:
へえ!
山田:
あの脚本の演出というのは、本当に個人的にやりたいようにやったものだった。あれはカルト映画であり、実況映画だね。
乙君:
はいはい。
山田:
だから、それが可能であるという媒体が漫画の良さだったんだよ。これが今後。ちょっと出にくくなっていくだろうなという予感が、すごくするなというのがありますね。