“円谷プロの特撮”を見た米軍人「これは本物の戦場か?」——映画における特撮技術の歴史を評論家が解説
『スター・ウォーズ』や『シン・ゴジラ』などでよく耳にするSFX。いまさら聞けないSFXや特撮とはどういったものなのか。
『WOWOWぷらすと』では、映画評論家の松崎健夫さん、SF作家の堺三保さんが、MCを務める落語家の立川吉笑さん、ぷらすとガールズの梨衣名さんに、SFXに代表される特撮技術と映画の関係をポイントに分けて解説しました。
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いまさら聞けない日本のSFX
立川:
きょうは日本のSFXについて、いまさら聞けない基本の基本から教えていただきたいと思います。そもそもSFXって何なんですか。CGとは違うのですか。
堺:
スペシャルエフェクトというやつですね。特殊効果。
立川:
これはCGとは違うのですか。
堺:
CGはビジュアルエフェクトです。でも大まかにいうと全部特撮なんですよね。その中で、絵を直接いじるものがビジュアルエフェクトで、本物じゃないものを作るのがスペシャルエフェクトです。
立川:
SFとは違うのですか。
松崎:
元々の言葉が違いますね。
堺:
SFXという言葉を使いだしたのは中子真治さんというライターです。80年代に特殊撮影のことをアメリカではSFXというんだと広めたんですね。
松崎:
現場で何か特殊な撮影をするのがスペシャルエフェクト。撮影したものに何か効果をつけるのがビジュアルエフェクトというように考えれば簡単です。たとえばミニチュア撮影やブルーバック背景で合成する撮影、人形アニメ、『ゴジラ』のような着ぐるみ、模型を使ったものは、SFXと呼ばれます。
堺:
でもアメリカでは特殊な機械を使って撮影するものはすべてSFXといったりするんです。
梨衣名:
『ジョーズ』もSFXですか。
堺:
そうですね。当時はCGとかないから、サメとかも本物のメカです。あとウルトラマンのスペシウム光線は、手書きだけVFXです。あれは撮影したフィルムに一本ずつ線を引いているんです。
スタッフ:
ワイヤーアクションのワイヤーはSFXだけど、そのワイヤーを消すのはVFXなんですよね。
映画の歴史は、特撮の歴史
堺:
よくいわれているのですが、映画の始まりから特撮があり、SFがあるということです。SFは当然映画より前からあるのですが、作りたい絵をどう作るかというときに特殊効果が必要だったんですよね。だからこんな絵を作りたいという技術の進歩が、映画の進歩であり、そのまま特殊撮影の進歩でもあるわけです。
ですから映画の歴史は、特撮の歴史でもあるわけです。
スタッフ:
そこがすごく重要ですよね。少し話がずれてしまうのですが、テレビと映画の違いで、テレビはそこにある技術でできることをやる。映画っていうのは、やりたいことに対して技術を追いつかせるという、順番が違うよね。
立川:
当時は新しい技術が出てきて面白かったですよね。円谷プロは特撮でもすごかったと思うのですが、実際はやはりすごかったのですか。
堺:
日本の特撮映画は円谷英二さん、円谷プロ、東宝映画を抜きにしては語れないです。『ハワイ・マレー沖海戦』という戦争映画があります。
松崎:
1942年の作品ですから戦争真っ最中ですね。お金もそんなにないような時代の作品です。
立川:
それの戦闘シーンがすごいのですか。
松崎:
このフィルムを接収したアメリカ軍の人たちが、本当の戦場を撮ったんじゃないかと思ったといわれています。面白いのは、戦闘機が飛んでいるシーンがあって、戦闘機をピアノ線で吊るんですが、そのピアノ線が見えないんですよね。
梨衣名:
なんでですか?
立川:
特殊効果? 照明の工夫とか?
松崎:
そうじゃないんですよね。実は逆さに吊るしていて、カメラを反転させているんです。みんな上から吊られていると思って、上を見ちゃうんですよね。
堺:
特撮はトリックなんですよ。つまり見る人の錯覚を利用しているわけですよね。そこが上手です。
松崎:
特撮の予算は決まっているんです。その中でいかに実現するかということで頭を使うんだと思います。『ゴジラ』は制作が決まったときに公開日も決まっていたんです。そうすると間に合わないから、結果的に苦肉の策として着ぐるみだったといわれています。
堺:
僕、『ガメラ3』で樋口監督の特撮班に取材をしたのですが、京都駅が壊れるシーンがあって、それが1秒あるかないかのシーンで5時間やっていたんです。しかもそれで、ちょっとやり直そうかってなると、また何時間もかかるんです。
堺:
すごい大変なんです。じゃあ今の予算でどういうものを作るのかという話になるなら『シン・ゴジラ』になるわけです。