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『ブレードランナー』をSF映画の金字塔にした“4つの要素”をリアルタイム世代の映画評論家が解説

 SF映画の金字塔『ブレードランナー』(1982年、リドリー・スコット監督)の続編『ブレードランナー2049』が全国公開中です。映画ファン待望の本作は、日本での興行成績が公開日からの3日間で動員20万4100人、興収3億0528万3600円というまずまずの出足を記録しました。

 これを受けて『WOWOWぷらすと』では映画解説者の中井圭さん、SF映画評論家の添野知生さん、映画評論家の松崎健夫さん、DJのLicaxxxさんが「ブレードランナーのこのシーンが好きだ」をテーマに、『ブレードランナー2049』が公開中の今だから語りたい『ブレードランナー』論を語りました。

『ブレードランナー 最終版』画像はAmazonより。

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ブレードランナーがコケたと言っているやつは……

左から添野知生さん、松崎健夫さん、Licaxxxさん、中井圭さん。

スタッフ:
 『ブレードランナー』のこのシーンがとにかく意味なく好きだ、っていうのを聞きたいです。

松崎:
 僕はね、写真を機械に入れてカシャカシャとやって目標を発見するじゃないですか? あれがすごく斬新だと思ったんです。劇場で観て興奮して、友達に「あのシーンがすごい」って言いまくったんです。そうしたら、テレビ放映のときにそのシーンはカットされた(笑)。

添野:
 あれって動画スナップだから、今流行っているものを予言していたんですよね。

中井:
 テクノロジーは超新しいのに、道具は超アナログですよね(笑)。『ブレードランナー2049』が公開されましたが、どうでしょうか。

添野:
 100点です。

中井:
 松崎さんはどうですか。

松崎:
 同意です。これって前作のファンを納得させないといけないし、前作を観ていない人も納得させないといけない。しかも同じことはできない。リドリー・スコットの真似じゃないかと言われかねない。そこを新たにしないといけないけれど、元を踏襲しないと文句を言われる。そのハードルを全部越えてきているんです。

 95年に発売された続編の小説があったんですが、これより全然いい。

添野:
 これの愛読者も……。

松崎:
 そうなんです! 読んでみたら、そういった要素も見つかるのでそこもすごいんです。

中井:
 Licaxxxさんは?

Licaxxx:
 ちょっと被っちゃうんですが、オタク心をバカにしないと言うか、オタクは全員喜べた作品じゃないですかね。ちょっと違うじゃんっていうオタクが一番文句を言うと思うんですが、そういうところは全然大丈夫でした。そこが一番良かったのかなと思います。

 賛否両論が多いのは、初めて観た人とかがどこまでついてこれたのか問題があったのかなと個人的に思います。前作を観ていたほうが確実に楽しいのかなというのは言えますね。

中井:
 宣伝文句的に「これだけ観ても面白い」っていうのはよく観るし、そういう作品も実際に多いんだけど、この作品に関しては絶対に観ておいたほうがいいと思います。

Licaxxx:
 あと映画って裏切られてきたことが多かったので、裏切られなかった感動があります。

スタッフ:
 すごい大事なポイントだと思ったのは、いろいろな形で映画を観ることができる。オンデマンドやWOWOWも含めて。そういうのがちゃんと監督の中にベースとしてある。今までは「観ていない人をちゃんと考えろ」って映画界では言われていたけれど、今はどうやっても観れるじゃん。

 だからこそ、こういう立て付けにしたのかな。

中井:
 今はタイトルに「2」とか「3」とか付いてないですよね。付けちゃうと、前作を観ていない人は観なくなりますから。『ブレードランナー』に関して言うと、いろいろ工夫されていると思いますけれど「お前ら、『ブレードランナー』はどこかで観るよな?」という目線が入っているように感じます。

添野:
 やっぱり35年の新作じゃないですか。リメイクじゃなくて35年ぶりに続編が作られるって映画史的にもあまりないんです。こんなに時間があったんだから大勢の人が観ていて当たり前だよねっていう感覚があると思いますよ。

スタッフ:
 Yahoo!ニュースで全米でコケてるみたいなのがありましたよね。儲かってないみたいな。

添野:
 あれムカつくよね(笑)。

一同:
 (笑)

添野:
 本当にああいうニュースを書くやつは絞め殺してやりたい(笑)。元のソースの英語のニュースがあるわけで、それを訳しただけなのはわかっているんだけど、本当によくないと思うのは映画について『ブレードランナー』に何も興味もない人が、ああいうことを書くのはやめてほしいですね。

リアルタイム世代が受けたブレードランナーの衝撃

中井:
 松崎さんは『ブレードランナー』の公開当時に観ているわけですよね。

松崎:
 そうですね、小学校6年生でした。すごい衝撃を受けたんですよ。観たいと思った理由がハリソン・フォードがへばりついている写真を見て、それで観たいと思ったんです。それで観に行って衝撃を受けたんです。ガラガラまではいかないけれど、ガラっとしてました。

Licaxxx:
 小6ってすごくないですか(笑)?

中井:
 この人ヤバイですよ(笑)。添野さんは最初に観たときはどんな印象でしたか。

添野:
 事前情報も知っていたので、めちゃめちゃ期待値が上がった状態で観て「惚れた」という感じがありました。原作はもちろん読んで、原作とは違うという情報も入っていたし、実はそんなに違わないんだけど、当時はまったく違うなと思った。だけど、映画の世界に呑まれるような体験だった。

中井:
 同時期に『E.T.』も公開されていたと思うんですが。

添野:  
 なんか『E.T.』の印象が薄くて(笑)。悪いんだけどね。

松崎:
 僕、すごく覚えているんですが小6のときに卒業文集を書いて、そこに尊敬する人の欄で「スティーブン・スピルバーグ」って書いているやつがいたんですよ。それって、『E.T.』を観たからなんですよ。それにすっごい腹が立って(笑)。

一同:
 (笑)

松崎:
 その頃からスピルバーグは『ジョーズ』か『激突!』だと思っていたんです。今はそんなことは思わないですけれど、当時は生意気だったから(笑)。

私物の銃のレプリカを披露する松崎さん。

中井:
 生意気ですよね(笑)。Licaxxxさんは最初に観たのはいつですか。

Licaxxx:
 大学生のときに観て、正直そのときはハマれなかったんです。疑問が残る作品ですし、「何回も観たい!」と思うようになってからハマった作品です。

中井:
 それまではそこまで繰り返し観たいと思うようなものではなかった?

Licaxxx:
 そうですね。それまでは商業映画とか、恋愛映画を観たりとか高校生らしいものを観ていました。でもそのうちに映画の伏線じゃないですが、いろいろなシーンが気になってハマってしまいました。

松崎:
 当時細部まで描かれているので感動したシーンがあって、ハリソン・フォードが殴られて家に帰って酒を飲んでいるときに、グラスに血が混じるんです。あれを観たときに小学生の僕は衝撃を受けました。映画ってそういう表現があるんだ! って。僕の萌ポイントです(笑)。

 ハリソン・フォードのぶら下がっている下で車が動いたのが見えたんです。普通はハリソン・フォードだけ見えたらいいじゃないですか。でもこの映画はその下に車が動いているんですよ。それを観たときに「こんなことを描いている映画はすごいな」と思ったんです。

スタッフ:
 普通は必要ないもんね。

松崎:
 そういうものが今までなかったんです。よく見ると実景みたいなところでも遠くに映っている車が追っかけっこをしていたりするんです。映画の作り方みたいなものに惚れたと言うか、映画を作ることに興味をもった一本です。

スタッフ:
 初のディテール萌えが『ブレードランナー』だった。

松崎:
 そうなんです。レイチェルが最後死んでるんじゃないかっていうときに音がなるんです。でもこれはテレビ版では音がしないんです。ところが劇場版では銃か何かの電子音がなっているんです。当時、「映画でもそういうことをやるんだ!」って感動しちゃったんです。

中井:
 この作品が制作された背景についてちょっとお伺いしたいんですけれども。

松崎:
 1970年代の中頃くらいから原作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』を映画化しようという動きがあったんですけど、映画化まで時間がかかったんですよ。アラバマ物語のロバート・マリガンが監督するという話もあったんですよ。そうなったらどんなSFになったかわからない。

 元々の脚本も何度も書き直されています。ラストの描写は外の世界にデッカードとレイチェルが出て、レイチェルに雪を見せてあげるんだけど、雪を見てわーいってなっているところに後ろから撃ち殺すというのが一番最初のラストだったようです。

 お金が集まらないので、色んなプロデューサーが関わり、アラン・ラッドジュニアが関わったことでいろんなところがお金を引っ張ってこれるようになって……。香港の資金も入って1982年になってやっとGOサインが出た。

 リドリー・スコットも、そもそもエイリアンのあとなのでSFはやりたくないと言っていたのがお兄さんが死んだりとか砂の惑星に関わることもやめたんですよね。もしもブレードランナーではなく砂の惑星を作っていたらブレードランナーは他の人が監督をしていた。偶然色んな要素が重なってこの映画が生まれていった。

添野:
 つまりさ、必然性でこうなったわけじゃないんだよね。偶発的に作られたというのがすごく面白いんだよね。

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