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『アウトレイジ』三部作で「ヤクザ映画」を復活させた北野武――評論家が語る、最終章で見せた「ビヨンドからの“引き算”の進化」とは

アウトレイジはヤクザ映画のルネッサンス

宇野:
 2010年に『アウトレイジ』が出るまではヤクザ映画は実録ものがメインストリームだった。それがVシネマの時代からヤクザ映画がメインストリームではなくて二流のものになっちゃったんですよね。

 それには理由があって、一つはヤクザに対する風当たりが強くなったことで、今の日本の映画は出版社やテレビ局がお金を集めて作るというのがメジャーになっているので、メジャーのヤクザ映画は成立しにくくなっている。

宇野:
 あとは単純にVシネマの世界だと本物に近い世界みたいなところで生き延びたというところが続いた中で、たけしさんが『アウトレイジ』を作ったという意味で日本の映画史的に重要なのは「ヤクザ映画のルネッサンス」をやっているんですよね。それはやっぱりたけしさんだからお金も役者も集まるわけなんですよ。

ピエール中野:
 みんな「出たい」って言いますよね。

宇野:
 ヤクザ映画というフォーマットと言うのは、海外だとマフィア映画になる。別にみんな普通の生活をしているとマフィアは好きじゃないですよね。普通は会いたくないじゃないですか。

 ですがフィクションの世界においてマフィアやヤクザをいろいろなものを反映できていて、なおかつすごくドラマとして人が殺し合っても不自然ではない世界が生まれるという意味で、すごく重要なフォーマットだと思うんですよね。

ピエール中野:
 フォーマットとしても優秀なんですね。

宇野:
 私生活ではヤクザに会いたくないけれど、スクリーンでは会いたいんですよね。日本のメジャーのスクリーンでなかなか上映できる機会がないというものも、たけしさんの力で成し遂げたんですよね。東宝や松竹はなかなか今、映画を作れないじゃないですか。

 そういう意味ではたけしさんにしかできないことをやっているなと思います。

笹木:
 私、北野監督作品を勝手に食わず嫌いしていた理由が、日本で銃がメインの作品ってなんか嘘っぽいって勝手に思っていて、リアリティがないなって。

 宇多丸さんのインタビューを聞いて思ったことが、日本で銃を持つ映画ってダサいよねっておっしゃっていて、たけしさんがあえて棒立ちで撃ったりしてアクションをつけないことで逆にリアルに見える。現実感の世界が生まれて受け入れられるようになるっていう話を聞いたときに「それだ!」って思って。

ピエール中野:
 そこでまた音響が活きてくるのが、本物の銃声を使っているんですよね。そこにちょっとアレンジをしているんですよ。

宇野:
 あとテーマの部分で言うと、大友って割と正義じゃないですか。

北野武さん演じる大友。画像は『アウトレイジ 最終章』公式ホームページより。

ピエール中野:
 まあそうですね。

宇野:
 やっぱり一作目、二作目のときは得体の知れない感じがしたんですが、今回は筋を通しにきたじゃないですか。それってやっぱり面白い変化だと思っていて、ヤクザ映画って『仁義なき戦い』とかまさにそうですが、続けられちゃうんですよ。

 たけしさんも『仁義なき戦い』になっちゃうって言ってましたけれど、要するにあれって一作目とか二作目で死んだ役者が違う役で出てくるんですよ(笑)。東映のメインにされる役者を使い切っちゃって、「あいつ殺しちゃったけど違う役で出そうか」って(笑)。

ピエール中野:
 『ビー・バップ・ハイスクール』でもあるんですけれどね(笑)。

宇野:
 たけしさんもこれ以上続けると、同じ役者に違う役を与えないといけないと。続けられるけれど、今回「最終章」になっていて終わるんですよね。塩見さんとかのスピンオフはあるかもしれないけれどね(笑)。

笹木:
 熱い展開(笑)。

宇野:
 大友が軸となったものはこれで終わるんだろうなと思うんだけど、彼があそこまで正しさを背負わないといけなくなってしまったのは、一つの物語の帰結。

 全員悪人って『アウトレイジ ビヨンド』で言ってましたが、今はヤクザに限らず政治家とかビジネスマンでもそうですが、全員が悪人ってヤクザの世界だけじゃなくなっちゃった。

宇野:
 どこの世界でも全員悪人になっちゃっている時代で、それって5年くらいしか『アウトレイジ ビヨンド』から経っていないんだけど、特に大人の世界では際立っている。

 そういうイメージが社会全体にある中で、大友が予測がつかないやつと言うよりは、その中でどう筋を通すかというのを体現しないといけなくなっている。

笹木:
 時代も背負っている。

宇野:
 そう。やっぱりたけしさんの思いも乗っかっていると思うんですよね。

スタッフ:
 最終章になって、たけしさん演じる大友がチェジュ島にいるわけじゃないですか。本流の組織の中から外れちゃって不要の人じゃん。不要の人が筋を通すために戻ってくると言うのは、今のたけしさんの思いとすごく重なるなと思って。

 やっぱりたけしさんって、テレビの中でも第一線で活躍しているし、いろいろなレギュラー番組もあるけれど、ご本人の中では「自分はちょっと遠くの世界にいるんじゃないのかな」という思いがあるんじゃないかな。大友とたけしさんというのが、今回はすごく重なっていく。

 大友が組織を変えるために戻ってくるというところが、ある意味またキュンとするポイントだった。

ピエール中野:
 シリーズを通して一番感情移入しやすいと言うか、唯一できる要素がそこにはあったなと思って。そういう意味で一番正義感があった。

宇野:
 大友の行動原理自体は変わっていないんですが、彼を軸とする世界のあり方が変わってきた。

スタッフ:
 それはまさにたけしさんだと思うんだよね。たけしさんの笑いは変わってないけれど、取り巻く環境が変わってくるというところに、「芸人のたけしさん」が感じるものと大友の孤独が重なってくるんじゃないのかな。

アウトレイジをきっかけにぜひ見てほしい「仁義なき戦い」

宇野:
 やっぱり面白いのは、昔は高倉健とか菅原文太みたいになりきって劇場から出て行ったわけですよ。それがヤクザ映画のたしなみみたいなもので、劇場も男の人しかいないしね。僕のちょっと上の世代の話だけど、「確かににそうだよね」ってわかるんです。

 個人的には『アウトレイジ』一作目を観たときは加瀬亮になって劇場を出てきましたけどね(笑)。だけどこれまでの見方とちょっと違いますよね。大友になりきって出てくるかと言えばそうじゃないですもんね。

ピエール中野:
 『アウトレイジ』は面白かったですっていう人に過去作品の北野映画であらためてオススメってありますか。

宇野:
 それこそたけしさんの作品じゃなくて『仁義なき戦い』とか。べらぼうに面白いですよ。

画像は『仁義なき戦い [DVD]』Amazonより。

笹木:
 まさに私がそれで、『仁義なき戦い』の一作目をオンデマンドで観ました。めっちゃ面白いです。

宇野:
 若い人とか意外に観ていない方がいますよね。最初のシリーズは全部面白いですよ。

ピエール中野:
 『アウトレイジ』を観て良かった人は、『仁義なき戦い』を観ると、より楽しめるんですね。

宇野:
 たけしさんが何がやりたかったのかがわかると思うし、ヤクザ映画のフォーマットがいかに日本映画の財産かということがわかります。優れた作品は過去の作品に対するきっかけになる作品なんですよね。

 『仁義なき戦い』で描かれているのって、まさに今の小池百合子さんと同じだから(笑)。

スタッフ:
 「二枚舌だね~」とかって(笑)。

宇野:
 現代ビジネスのサイトで現役のヤクザの方が今回の選挙のことを語っていて、すごいちゃんとした記事になっていてパワーゲームって結局そういうことなんですよね。一番エンターテイメントでわかりやすいから、ヤクザの映画であるっていうだけで。

スタッフ:
 誰を支持してついて行ったらいいのかっていうのを、ちゃんと見抜かないととんでもない裏切りにあう可能性がありますよ。それで『仁義なき戦い』って当時はすごくカッコイイものだと思うんです。でも今の時代になると子分たちの動きだったり、親分の情けなさがギャグに見えるんですよ。

 ユーモアだったり、ダメさ加減とか、男たちがいっぱい集まるとバカ集団になるという基本の人生観が深作欣二さんの映画の中にも垣間見られるし、あの映画のヒロイズムというのが、最終的に立っていく。でもたけしさんはそこじゃない部分のバカ集団というところを悪という抽出をした。

宇野:
 ヤクザって何という話をすると、突き詰めると日米問題になってくるんですよね。『仁義なき戦い』って米軍が出てくるじゃないですか。地位協定とか、沖縄とかで起きていることとかが見えるんですよね。

 米軍が日本に来たときに誰が日本人を守るのかっていう話で、歴史としてはそういう機能をしていた時代があったり、海外でものすごくヤクザって悪いものとして取締りの対象になっている。日本でここまで暴対法が厳しくなっていたりするのは実は外圧なんですよ。

宇野:
 要するに同時多発テロ事件以降、テロリストが銀行でお金を自由に動かせなくなったという動きの中で、ヤクザというのがテロ組織的な存在として、アメリカにとっての日本の難攻不落の悪の組織みたいになっている。そこから締め付けがより厳しくなっている背景を考えると面白い。

 いろいろな歴史があるというのは一つ面白いポイントですね。たけしさんはそのあたりを全て踏まえ、メタファーとしても入れ込んでいるという気がしますね。

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