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「アメリカのニュースを真に受けてはいけない」ブッシュ政権下で戦争をエンターテイメントにしたFOXニュースの手法をジャーナリストが解説

 9.11アメリカ同時多発テロ以降、イラク戦争まで向かっていく中で、アメリカの世論形成に大きな存在感を示したと言われる「FOXニュース」。

 その生みの親であるルパード・マードック氏は多くのメディアを所有し、サッチャー政権時代にはイギリスのメディアを使いフォークランド紛争でイギリス軍を支持するなど、中間層を取り込むポピュリズム路線で成功を納めました。

 「FOXニュース」のような強い路線を持っているメディアの登場について、ミュージシャンでジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏、インターネット放送局ビデオニュース・ドットコム代表の神保哲生氏、NHKを退局し、現在社会学者で、武蔵大学社会学部教授の永田浩三氏が解説を行います。

※本記事は、2015年9月に配信した「メディアの公平性ってなんだ!?メディア帝王とジャーナリズム」の内容の一部を再構成したものです。

ルパート・マードック氏。画像はWikipediaより。

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FOXはいかにして今の地位を得たのか

左からモーリー・ロバートソン氏、神保哲生氏、永田浩三氏。

神保:
 FOXがいかにして今の地位を得たのかっていうのは、普通は「すごい勢いで伸びた、すごい放送局だね」っていうふうにただ思っている方もいるかもしれないところが、実はアメリカの9.11以降のかなり特殊な空気感を引っ張った。

 むしろ火に油を注ぐようなことをやることによってあそこまで伸ばしたんだっていうことがすごくよくわかる。

永田:
 私はFOXニュースの断片は見てきました。ビル・オライリーという司会者が出てくるんですけれども、私が知っているニュース番組っていうのは、少なくとも公平性とか公正さみたいなことを担保したものなわけです。しかし、それとは全く無縁です。

 つまり、あれだけ過激で、一方的な攻撃をスタジオで行うとか、「Some people say」とか「Some say」という言葉のように、つまり、調査とか検証とか、そういうこととも無縁のものだと思います。

モーリー:
 自分の言いたかったことを、「だれかがさっき言ったんだけど」みたいな(笑)。

神保:
 「みんな言っているよ」みたいな感じですよね。

永田:
 「みんな言っている」とか、「友達が言っている」とか……「それは、だれ?」と私は感じますけども、そういうものがニュースと名乗っています。それはブラックジョークのような世界だなと思いました。

FOXニュースの生みの親、ルパート・マードックの政治観

モーリー:
 世界のメディア王にのぼりつめたルパート・マードック氏とはどのような人物なのか、彼が資本主義の世界の中で、どのような政治的スタンスを辿っていったのかをおさらいしてみたいと思います

モーリー:
 ルパート・マードックの簡単な年表です。1931年、当時オーストラリア最大の新聞メディア経営者、キース・マードックの長男として生まれ、そして52年に父の急死により、新聞『ザ・ニューズ』の社長になりました。ですから、これは2世ということですね。

 1960年代にオーストラリア各地の新聞を買収していきました。そしてオーストラリア初の全国紙を発行。さらに69年、イギリスのタブロイド紙『ザ・サン』を買収します。

 『ザ・サン』というのは、イギリスでは大変に影響力を持ち続けたタブロイドで、片方では愛国、片方ではエロの両輪作戦で知識人の反感を買いつつも、労働者階級の人気を集めることには大成功しました。

神保:
 これは最強の組み合わせですね。

モーリー:
 そして、80年代なんですけれども、レーガン政権が大変な勢いを持ったその時代、イギリスの『タイムズ』といわれる新聞、これはインテリの人たちの新聞です。そして、アメリカの「20 Century Fox」、ライトがパタパタって出る、20世紀フォックスを買収してしまいます。

 そして、地上波テレビ局「FOXネットワーク」を80年代に設立します。大ヒットしたアニメ『シンプソンズ』や扇情的な番組で視聴率を拡大したという人なわけですよね。

 マードックの政治的なスタンスなんですが、80年代のイギリスのサッチャー政権と癒着というよりも、結合といった感じで活動しています。

 要は、新自由主義。それまでの手厚過ぎると見なされていたイギリスの社会福祉を止めて、いろんなロスをカットし、財政的に過酷なリストラを行い、そして、同時に金融商品などを活性化するということですが。

モーリー:
  要はルパート・マードックの『ザ・サン』は翼賛新聞であった。そして、サッチャーがやっていたことは、かなり暴力的なスト破りを炭鉱労働者のストに対して行ったと、あと、新聞にまつわる騒動もいっぱいあったんですよね。

 議会がルパート・マードックを止めようとしたときに、彼は輪転機を違う工場に発注して、すかさず次の日に出したりとか。ルールがないんじゃないかっていうぐらい(笑)。80年代は彼はイギリスで悪名をとどろかせたと同時に、ある意味カリスマにもなったのかな。

神保:
 大事なポイントは、マードックさんは、今はこてこての右の方がよくありがちなパターンで、70年代の中ごろくらいまでは左の人だったんですよ。リベラルだったんです。

 79年にサッチャー政権が成立します。80年にアメリカでレーガン政権が成立します。マードック自身はどうもレーガンを神のように、あがめているように言うんですけど、どうも新自由主義路線とかも……。

 今までメディアはほとんどリベラルだった、丸々マーケットが空いていたんです。そこにビジネスチャンスありと見て、右に乗っかったというふうに見る人もいる。

神保:
 つまり、政治的に心底それを信じてそういうことを言っているのか、それとも、ちょっと言い方は悪いけど、ご都合主義的に、それをしたほうが今なら売れるチャンスだと判断した。

 時代が新自由主義になって、政府が給付を切っていく、そうすると、中間層がどんどん貧乏になっていって、非常に不安になっていく。すると大きなものに頼りたくなる。これは「不安のポピュリズム」っていうものですけど、右側のほうの思想にすごく人気が集まるんですね。

 それがレーガン・サッチャーの時代で、そこに乗っかったほうがビジネスとしていけるんじゃないかというふうに、天性のビジネスマンだと見る人もいます。

モーリー:
 なるほど。実は私がいただいた資料だと、オーストラリア労働党やイギリス労働党を当初支持していたんですけれども、その後は保守党の支持にまわり、ところが、同時に反王制でもあったというふうに、多少ちぐはぐな……。

神保:
 そうです。よくわからないんです。

モーリー:
 よくわからない。だけど、一貫して金は儲けようとしている(笑)。

永田:
 ポピュリズムは確かだと思うんですね。

FOXニュースと同時多発テロ以降のアメリカ

モーリー:
 たしか僕の記憶だと、サッチャーは過酷な国内の新自由主義を徹底させていく中で、本当に重要な機会としてフォークランド紛争があり、派兵し、圧勝するんですけれども、そのときにルパート・マードックはそれを大礼賛していたんでしたっけ?

永田:
 と思いますけどね。だから、サッチャーのフォークランド戦争に一番厳しい視線を送っていたのは、やっぱりBBCだと思うんですよ。戦争に一体大義があるのかどうかっていうこともきちんと伝えたし、どちらの兵士たちも傷ついているっていうことも伝えましたよね。

 今までの、リベラルっていうよりも、知性的なメディアではなくて、もっと大衆的な、「悪いやつはやっつけろ」という感じのマーケットを敏感に察知して拡大していったんじゃないでしょうか。

モーリー:
 それで、ちょっと年表を続けて見ていきたいんですけど、90年代以降の年表を見せてもらっていいですか。

モーリー:
 80年代はそうやって自分の力をどんどんつけていったルパート・マードックなんですけれども、90年代になると、「FOXニュース・チャンネル」を発足させます。そして、2000年代の前半、2001年の9.11のアメリカ同時多発テロを機に、愛国心一色の報道姿勢へと転じました。

 というか、イギリスで10年間練習したのをアメリカで、本番をやっちゃった感じです(笑)。反イラクの扇動でFOXの視聴率がCNNを抜いてトップになったんですけども、第一次湾岸は91年でしたっけ? あれはブッシュ・シニアのほうでしたっけね。

神保:
 お父さんですね。

モーリー:
 湾岸へ行って、サダム・フセインがクウェートを占領したから、それを国連の総意で攻撃したと。そのときにCNNが入って報道して、「これはすごい。テレビの歴史が」なんて言っていたのが、91年当時。そのCNNを2003年のイラクではFOXが抜いてしまったんですか?

神保:
 今モーリーさんが言った、91年の湾岸戦争っていうのがCNNの時代の幕開けだった。つまり、それまでは3大ネットワークという、地上波といわれる普通のテレビ局、そこが圧倒的に強かった。

 CNNっていうのは始まったばっかのころは、それこそ「クレイジーニュースネットワーク」なんて言われていたくらいだったのに。

 サダム・フセインが選んだ、西側の唯一バグダッドに残っていいメディアがCNNだった。彼らは衛星放送でリアルタイムで放送ができるから。だから、僕らはあのバグダッドの夜の空が爆弾の照り返しで夜空が明るくなっている画をみんな覚えていると思うんですけど。

 あのときはCNNを見ないと、バグダッドの映像って見られなかったわけですよ。衛星放送でリアルタイムでそれが届いてくるっていうことで、そこで一気にCNNが市民権を得たわけですよね。

神保:
 今度は、2001年の9.11の後のアフガン・イラク戦争で今度はFOXが市民権を得るきっかけになった。ただ、FOXは、実はその2000年前後にすごいことをやっているんですね。

 普通はケーブルのパッケージの中に入れてもらうと、そのケーブルサービスが持っているサブスクライバーの数、契約者の数の分だけ一応1世帯当たりいくらが、入るはずなのに、FOXは自分のほうから1世帯当たり11セントお金を払うという形でアメリカ中のネットワークに入れてもらった。

 それはマードックさんがいろんなところで新聞を買収して資金力が豊富だから。そうすると、大変な持ち出しになるわけです。だって、視聴者が増えれば増えるほど、お金が入るんじゃなくて、お金が出ていく。でも、その期間を経て、そこにこのイラク戦争というものがくっついた。

 FOXニュースの画面の3分の1くらいは常にグラフィックなんですね。絵とか大きな字とか、それから音楽効果もすごい。それでどんどん煽っていく。必ずイラク戦争のときは背景にアメリカの国旗がサブリミナル的に漠然と揺らめいている(笑)。

モーリー:
 「アメリカによる解放戦争」みたいな。

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