可不・星界が歌い、ナースロボ_タイプTがポエトリーリーディング! 波の音や電話音がやけに頭に残る『メモリー』
今回紹介するのは、kyikuさんの「メモリー」。作中でポエトリーリーディングが使われる楽曲で統一したコンピアルバム「詩集」の収録曲になります。アルバムコンセプトの通り、本作はポエトリーリーディングが使われていることが大きな特徴で、歌唱パートを可不と星界が、ポエトリーパートをナースロボ_タイプTが担当。
文/「め」
ボーカリストとしてだけでなく、話声――文字読み上げ技術の進歩が目覚ましい昨今の合成音声。特に、ずんだもんや春日部つむぎに代表される無料テキスト読み上げソフトウェア「VOICEVOX」が登場してからは、ボカロ曲でも”語り”の部分を用意する、ポエトリーリーディング楽曲が爆発的に増えています。歌唱パートは歌声特化の、ポエトリーパートは話声特化の合成音声を用意することでボーカルを分業する・・・この「メモリー」は、そんな潮流を取り入れた作品です。
ポエトリーを活かしている点は他にもあります。拍子変化です。
『–、やりたいことを書き出してみた』『5月–、特にやりたいことも無かったらしい』という歌詞が曲中で二度登場しますが、前半が4拍子なのに対して後半は3拍子になっています。
ポエトリーとは淡々と発話する語りです。歌うのと違ってリズムに細かく乗る必要がありません。これが歌唱だった場合、違う拍子で同じような歌詞を使おうと思ったら譜割りやメロディの置き方をかなり意識しなければなりません。
たとえば以下の「絶対的関係性推進論」では1サビと2サビで拍子を変化させていますが、これを実現するために2サビの歌詞を3拍子に合わせて細かく調整しています。
対してこの曲は前半も後半も全く同一の歌詞です。曲のリズムと厳密に同期しなくてもよいため、リズムが4拍子だろうが3拍子だろうが関係なく同じ語りを使うことができます。
こうしたポエトリーの明確な強みが曲に深みを与えています。
また、本作のもうひとつの特徴を語る上で欠かせないのが”自然派”の存在です。環境音のようなゆったりしたテンポ、水音にも似たサウンド使い、音程の変化をグラデーションさせて音に丸みを持たせるピッチベンド、波の満ち引きを想起させる音のフェードイン・フェードアウト・・・。確立された音楽ジャンルとされているわけではありませんが、これまた近年ボカロシーンにおいて急速に勢力を拡大している曲調です。PVもそんな特徴に対応して、光が反射する水面のような映像がたびたび使用されます。
作者のkyikuさんは以前から”自然派”の要素を少しずつ導入しており、今では「kyikuさんの音だ」と評されるほど氏にとって大きな強みのひとつになりました。先述のポエトリー要素と合わせて考えると、今の時代を強烈に象徴している楽曲だと言えるでしょう。
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