猛暑日の野外学習で小1児童が熱中症に「途中でトイレに行かれると不都合」等で道中での水分補給が禁止!? 2018年に愛知県で起きた熱中症死亡事故を振り返る
今回紹介するのは、ゆっくりするところさんが投稿した『【2018年愛知】「先生疲れた…」熱中症で亡くなった6歳の児童 何故気温37℃の猛暑日に野外学習を?【ゆっくり解説】』。
この動画では2018年に発生した、児童が熱中症で死亡した事例について解説します。
記録的な猛暑が続く中での野外学習
魔理沙:
2018年7月17日。豊田市内の小学校では、1年生のクラスによる、校外学習が行われていた。この校外学習では、学校の近くにある公園に学年の児童全員で向かい、そこで野外授業を行うというものだった。
霊夢:
へぇ、ちょっとした遠足みたいな感じね。
魔理沙:
そんな感じだな。授業は「公園で遊ぼう」という、お花摘みや虫取り、遊具遊びなど、非常に簡単な内容だった。児童たちはこの授業を楽しみにしており、1年生全員、122名が参加していた。
霊夢:
結構多いわね。
魔理沙:
4クラスが合同で行う授業だったからな。引率は各クラスの担任が行っており、児童たちに帽子をかぶせ、あらかじめ持参するように指示していた、水筒を持たせ、学校を出発した。
霊夢:
でも7月だとかなり暑そうよね……。
魔理沙:
ああ。時刻は午前10時過ぎ。豊田市の気温は約33℃の真夏日。
霊夢:
うぅ……聞くだけでもう暑くなるわ。
魔理沙:
学校を出発して数分後、Aクラスの男子「Aさん」が、公園までの道中で、担任に「先生、疲れた」と声をかけた。担任はAさんに、「もう少しでつくから頑張ろう」と、励ましながら彼の手を引き、移動を続けた。
Aさんは担任に手を引かれながらも歩き続け、約20分ほどで、目的地の公園に到着した。
霊夢:
近所って聞いてたけど、結構歩くわね。
魔理沙:
公園までの距離は約1kmだったが、子どもの足では20分以上かかる距離だった。それに集団で安全に移動しようとしたら、それくらいの時間はかかるだろう。
霊夢:
それもそっか。
魔理沙:
公園到着後、担任は各自持参している水筒から、水分補給をするように指示を出した。その後、所定の時間まで子供たちは公園内で自由に歩き回り、虫取りや植物の観察などを行った。Aさんもこの時は担任から離れ、友達と虫取りなどをして遊んでいたという。
霊夢:
夏って感じで楽しそうね。
魔理沙:
彼らはこの公園で、約45分間自由に行動した。そして学校に戻る時間になったため、担任は児童たちを集め、出発前にもう一度水分を補給しておくように指示を出した。
午前11時ごろ。学校に戻るため、担任は児童たちを連れて公園を出発。しかし、児童たちの列の最後尾にいたAさんが、「先生、ちょっと疲れた……」と、また疲労を訴えていた。彼は確かに疲れた顔をしており、児童たちの列から遅れてしまうほどだった。
霊夢:
う……もうイヤナヨカーンがしてるんだけど。
魔理沙:
担任はまたAさんを励ましつつ、往路と同じく、彼の手を引いて引率を続けた。午前11時半ごろ。何人かの生徒も暑さで無口になる中、ようやく学校に到着。
霊夢:
お疲れ様。大変だったわね。
魔理沙:
だが、学校に到着したころ、Aさんは体調をさらに崩していた。
霊夢:
えっ……。
魔理沙:
顔色は悪く、唇にはまるで血が通っていないような、真っ青な状態。
霊夢:
ヒッ!?
魔理沙:
先ほどからしきりに「あつい……」と訴えていたため、担任は風通しの良い教室の床に彼を座らせ、休ませていた。しかし、Aさんの体調は悪くなるばかり。声を出すことはできていたが、意識は朦朧状態で、上手くしゃべることができないような状態になっていた。
午前11時50分ごろ。そんなAさんだったが、うまく呼吸ができておらず、ついに意識を失い、倒れてしまった。
霊夢:
ちょ……。
魔理沙:
Aさんはこの時、心肺停止状態。担任は慌てて別の教員を呼びに走り、AEDを使い、心肺蘇生を試みた。しかし、AEDの自動判断で電気ショックが作動しなかったため、心臓マッサージを開始。
午前11時53分。学校側は救急、そして保護者に連絡を入れ、その約15分後、現場に緊急車両が到着。Aさんは近くの病院に搬送されていった。だが、Aさんは重度の熱中症にかかっており、医師たちの懸命の処置もむなしく、午後1時頃、彼はこの世を去った。
霊夢:
なんでそんな急に!
魔理沙:
いや、実際は全然急ではなかった。警察、自治体、学校関係者は、Aさんが亡くなった原因や経緯について、調査を開始。彼が亡くなった直接的な原因は、重度熱中症による心肺停止。
熱中症には大まかに分けて、軽度、中度、重度の3段階になっており、このうちの重度熱中症は、脳や肝臓、腎臓などの臓器に障害を起こしている状態であり、意識不明、痙攣、会話の返答がおかしい、まっすぐ歩けないなど、様々な症状が出る。
これは暑さで脳の温度が上昇し、体温調節中枢に障害が起こって、その結果汗が止まり、皮膚が乾燥して異常な対応上昇が発生する。肝臓や腎臓など、全身に大きな影響を及ぼす臓器にも障害が起こると、多臓器不全となり、死亡に至る危険性が極めて高くなる。
霊夢:
脳が熱くなってそんなことに……。
魔理沙:
仮に助かったとしても、脳が熱でダメージを負ってしまえば、二度と元に戻ることはない。そのため、様々な重篤な後遺症が残る場合もあるため、こうなる前に対策を取らねばならなかった。
この事故では学校側の管理責任が問われた。豊田市教育委員会は、会見を開き「学校の教育活動の中で児童が亡くなるという重大な事態が発生した。深くおわび申し上げます」と陳謝し、また学校長も続けて「結果的に大事な子どもの命がなくなってしまい、判断が甘かったと痛感している」と話した。
霊夢:
学校の管理が甘かったんだ……。
魔理沙:
気象台は高温注意報を出しており、この日の豊田市の気温は午前9時前後ですでに30℃を超え、野外学習を行っていた11時ごろには、33.4℃、学校に到着したころには、34.8℃を観測していたという。
霊夢:
そんなに暑かったんだ……。
魔理沙:
当然学校側もこの情報は把握していたが、学校側は「これまで校外学習で大きな問題は起きていなかった」とし、校外学習を決行した。Aさんは出発直後あたりから、疲労感を担任に訴えていたことから、この地点ですでに軽度の熱中症にかかっていたと考えられた。
学校側は、あらかじめ熱中症予防として児童たちに飲料の入った水筒を用意させていたが、それは道中で飲ませることはなく、Aさんが最初に疲労を訴えていたときにも、水分の補給を許可していなかった。
霊夢:
20分も歩いてたのに?
魔理沙:
だが、学校側の説明では「歩いている途中でトイレに行きたくなっちゃうと、不都合が起きる」「1年生だと漏らしてしまう子も中にはいる」という理由から、この約20分間の間、児童たちに水分補給を一度もさせていなかった。
霊夢:
そんな暑い中で……。
魔理沙:
到着後に水分補給を指示し、飲み物を飲ませていたが、この時の公園の気温は30℃を優に超えていたと考えられ、公園内で児童たちが活動している間、水分補給の指示や注意は行っていなかった。
Aさんは学校へ戻る途中にも、疲労を訴えていたが、担任はこの時も、「がんばろう」と彼に声をかけ、手を引いて歩いたが、やはり移動中に水分補給や休憩などをとらせたりはしていなかった。
霊夢:
もうそのころにはかなり具合が悪かったのかも……。
魔理沙:
ああ。帰り道の途中で彼の熱中症はかなり進行していたと考えられる。そして、Aさんは学校に戻ってきた後、エアコンのない教室に座っているうちに、更に体調が悪化していたことが分かった。
霊夢:
えぇぇぇ!? 今時エアコンないの!?
魔理沙:
この教室には、扇風機3台が設置されていたものの、エアコンが設置されておらず、彼はこの教室の床で休んでいた時に、意識を失っていた。
霊夢:
そこもあんまり涼しくなかったんだ……。
魔理沙:
いくら風通しがいい教室とはいっても、このような暑い日では「涼しい」と感じるほど気温が下がっていたとは考えられないからな。
高温注意報が出ていたにもかかわらず、校外学習を決行したこと、適切な水分補給、休憩などの熱中症対策が不十分であったことなど、学校側の対策には疑問が多く、この事故が報道されると、学校側には多くの非難の声が集まった。
霊夢:
そりゃそうでしょ……。
魔理沙:
また、当時体調不良を訴えていたのは、Aさんだけではなく、ほかの児童3名も学校到着後に体調を崩し、その後保護者に連れられ、早退していたということもわかった。
霊夢:
他の子も具合悪くなってたんだ……。
魔理沙:
学校側は「今まで問題が起きていなかったので決行した」と話し、事前に公園などの状態も下調べを行っていたとしているが、後の調査で、過去に校外学習が行われていたのは6月27日、7月12日で、学校はこの時のデータや、安全に行われたという事実をもとにしていたことがわかった。
気象庁が公開している過去の気象データによれば、一昨年の校外学習が行われた、2016年6月27日の最高気温は26.2度、公園で学習が行われた午前11時では、25.3度。
昨年の2017年7月12日の最高気温は28.3度。午前11時では27.4度。一方、事故が起きた2018年7月17日は、前回の校外学習に近い日付ではあったものの、最高気温は37.3度、午前11時は33.4度で、状況が全く違っていた。
霊夢:
10℃近くも違ったんだ……。それじゃ去年のことなんてあてにならないわね……。
魔理沙:
ああ。これらのことから、学校側が説明していた「過去に問題がなかったから」という判断基準は不適切だったと考えられたため、多くの批判が集まったんだろうな。少し長いが、一応記者会見で明らかになった当時の状況をまとめておこう。
Aさんに持病などはなく、事前の健康観察でも異常は認められなかった。公園での外遊びは、生活科の一環だった。公園までの道には日影がなく、炎天下の中アスファルトの上を20分以上歩かせた。
児童の状況を注視することなく、炎天下で日陰の全くない公園で、45分間自由に遊ばせた。復路はさらに気温が上昇していたが、1年生だとトイレが我慢できない子もいるので、往路復路共に水分補給は禁止されていた。
教師は経口補水液を持参していたが、児童に「いらない」と断られていた。学校に戻って全クラスが集合するまで、児童たちは日陰のない校庭に待機させられていた。
霊夢:
細かなことだけど、結構いろんな部分で熱中症のリスクを高めるようなところがあったのね……。
魔理沙:
ああ。この事故の影響は非常に大きく、全国の小学校で猛暑対策が周知され、野外活動の制限、水分補給などの重要性などが周知されることになった。
また、この学校では通用口や救急キットに、温湿度計が設置され、各教室にはエアコンが設置されることとなった。その後、豊田市はAさん遺族に対し、市の責任を認め、損害賠償を行った。(金額は遺族に配慮し非公開とのこと)
市によれば、この賠償は公費ではなく、日本スポーツ振興センター災害共済の給付金、および市が加入している全国市長会学校災害賠償保障保険の保険金が充てられたということだった。
また、当時の市長は会見で、「学校の管理下で発生した事故ということで、学校に注意義務違反があった」と説明。「事故を受け、エアコンの設置を前倒ししたり、職員研修を強化したりしている」と、改めて再発防止を誓った。
霊夢:
うぅ……子供が犠牲にならないとまともな熱中症対策すら取られないなんて……。
魔理沙:
そうだな……。 この学校がそうなのかはわからないが、組織の上層部が高齢の場合、古い価値観や常識にとらわれ、それを現在の児童に当てはめてしまう場合があるからな。
かつては運動部などの練習で、「終わるまで水を飲むな」といった、非科学的な根性論や、「エアコンが教室にあるなんて贅沢だ」といった、歪んだ常識のなかで育った世代が、現在の常識を無視し、間違った教育を行ってしまうこともある。
霊夢:
確かに……。古い映画とかドラマだと、結構そういうシーン出てくるわね……。
魔理沙:
時代と共に気候も変われば、健康に関する常識も全く変わってくる。子どもたちの命を預かる教育機関というのは、柔軟にその時代に合わせて、児童たちを守っていく責任がある。「前はこうやったけど大丈夫だったから、今回も大丈夫だろう」というのは通用しないんだ。
霊夢:
そうね……それはどんなことでも同じかも……。
魔理沙:
豊田市は、このような事故が二度と起こらないよう、熱中症を防ぐためのマニュアルを作成し、教職員の研修を実施し、「命を守ることを最優先に考え、毎年対策を積み重ねていきたい」と話した。
現在は情勢的にも、あまり野外で活動することはなくなってきてはいるが、室内であっても、熱中症にかかるリスクはあるので、私たちも気を付けていかないとな。
霊夢:
ほんとね。エアコン使ってるからって必ず安全とも言えないし、正しい熱中症対策をして、安全に夏を乗り切りたいわね。
「今まで問題が起きていなかったから」という理由で真夏日に決行された野外学習。学校側が適切な対応をとっていれば防げたかもしれない悲しい事故でした。
解説をノーカットで聞きたい方はぜひ動画を視聴してみてください。
『【2018年愛知】「先生疲れた…」熱中症で亡くなった6歳の児童 何故気温37℃の猛暑日に野外学習を?【ゆっくり解説】』
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