油揚げ製造工場で起きた“急激沸騰”の恐怖。硫酸よりもキケンな劇薬「苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)」をじっくり解説
今回紹介するのは、takaradaさんが投稿した『『強アルカリ性』がなぜ「硫酸よりも危険」なのか【労災事例ゆっくり解説・苛性ソーダ事故】』という動画では、音声読み上げソフトを使用して、苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)の危険性を、実際に発生した事例を挙げながら解説していきます。
沸騰した水酸化ナトリウムを浴びてしまった事故
霊夢:
本日は苛性ソーダに関わる労働災害について解説していきます。「苛性ソーダ」って呼び方は一般名で結構有名な物質なのだけど、アルミニウムや化学繊維、石鹸や洗剤の原料にされたり、さまざまな工業製品の製造や各種作業の排水処理など、幅広い分野で使われるため、工業的に非常に重要な基礎化学品のひとつと言われている。
この苛性ソーダは化学名では「水酸化ナトリウム」というんだけど、その水溶液は強いアルカリ性を示すため、高い需要と同じぐらい有名な「代表的な強アルカリ物質」でもあるの。身近なアルカリ性の液体にも、タンパク質を溶かす作用があって、肌に触れると溶けてぬるぬるしてくるし、仮に目に入ると失明の恐れもあるのよ。だから強い洗剤を使って掃除をする時は、手袋をすることが大事なの。
これまで紹介したアルカリ性が持つ性質というのは、苛性ソーダの持つ危険性のあくまで一面だから、その他の危険性は今から実際の事故事例に交えて解説するわね。ではまず概要から。蒸煮釜の洗浄作業中、釜に投入した苛性ソーダが急激に溶解沸騰し、飛散した溶解液を浴びた作業者が熱傷。油揚げ製造工場において、蒸煮釜の洗浄作業中、苛性ソーダ水溶液が飛散し、作業者が化学熱傷を負ったものである。
蒸煮釜は豆乳を製造する球形の設備で、内径80cm、容積は150リットル。蓋付きの投入口(円形直径40cm)が設けられており、水に浸してすり潰した大豆を99℃で4~5分加熱する作業が行われていた。蒸煮釜の清掃作業では、蒸煮釜の内部に80リットルの水が入っていることを確認した後に、殺菌洗浄剤として使用されている粒状の苛性ソーダ(純度99%)を袋(25kg入り)から柄杓を使用して釜に4kg投入している。
被災者はふたつの製造ラインに設けられた同型の蒸煮釜6基の清掃作業を担当しており、災害が発生した蒸煮釜に苛性ソーダの袋に最後に残っていたもの全量(約4kg)を柄杓を使用しないで、袋から直接投入口に投げ入れたところ、蒸煮釜の内部が突沸状態となり、苛性ソーダ水溶液が飛散し、被災者が上半身に40%の科学熱傷を負ったものである。
災害発生時の釜内の水量は80リットルより少なく、また水温は確認されていないが釜の余熱もあり、苛性ソーダの溶解熱の発生が急激に進み、突沸状態となったものとみられる。苛性ソーダは水和熱が大きいことから、爆発的な反応を起こすことがあって、高濃度のフレーク状態の苛性ソーダに水をかけると、急激に発熱して突沸が発生するのよ。
この水和熱というのは、水と混ざったときに起こる水和反応という化学反応による発熱のことで、セメントと水を混ぜると生じる熱もこの水和熱よ。
魔理沙:
水と混ざったときの化学反応の熱で一気に沸騰したのか。普通の突沸と違って、苛性ソーダで発生した突沸の場合だと、大量に発生する蒸気と一緒に、高温の強アルカリ性の水溶液も周囲にバラまくって、恐ろしい即死コンボだな。
霊夢:
まさに苛性ソーダの危険性がよくわかる事故事例ね。そろそろ事故原因の解説に入るわね。1、蒸煮釜内に残った湯を完全に排出しなかったこと。蒸煮釜の湯の余熱があったため、苛性ソーダの投入時、釜内部の水の温度が高くなり、溶解時の発熱が大きくなっていた。
2、蒸煮釜内部の水の量が少なかったこと。釜の内部に残った水の量や温度を確認しなかったので、水量が定められていた量の80リットルに満たず、また水温も高かったため、苛性ソーダ溶解液の濃度が濃くなっていた。
3、蒸煮釜への投入を袋から直接行ったこと。一度に大量の苛性ソーダを投入したことにより、急激な溶解と発熱反応により、内部の溶解液が沸騰状態となり、投入口から溶解液が飛散した。
魔理沙:
めんどくさがって一気に苛性ソーダを入れちゃったのかもしれないけど、柄杓を使って少しずつ入れるように定めていたのは、こうやって突沸が起きるのを防ぐためだったんだな。
霊夢:
4、苛性ソーダの投入時に定められていた柄杓を使用せず、また作業位置も投入口の正面に位置したため、飛散した溶解液をかぶってしまったこと。被災者は作業に必要な用具の使用を怠り、飛散した溶液がかからないような位置で作業をしなかった。
5、火傷防止のための保護面などの保護用具等を使用していなかったこと。保護具を使用していないため、飛散した溶液に上半身がさらされていた。
6、清掃作業に関する安全教育が実施されていなかったこと。蒸煮釜の清掃作業に伴う危険・有害な要因の把握、安全な作用方法等の教育と訓練が行われていなかった。
対策1、蒸煮釜への苛性ソーダの投入時の作業方法について改善すること。(1)、釜内部への適正な注水量を確認する。(2)、釜内部の温度上昇を防止するため、水温の測定等により温度管理を徹底する。(3)、苛性ソーダの投入量と投入に使用する作業用具や作業方法を改善する。
魔理沙:
水量の確認、温度の測定、掃除のたびにすべての釜でやるとなると、なかなか大変そうだな。
霊夢:
2、安全な作業方法を再検討した上で、安全な作業マニュアルを作成し、教育を行い徹底を図ること。(1)、清掃作業に必要な薬剤の有害性、危険性。(2)、安全な作業方法の徹底、(3)、保護眼鏡、手袋、保護衣の着用の徹底、(4)、作業前の安全確認と単独作業の排除。
3、災害発生時の救急措置等の徹底を図ること。有害物との接触・誤飲、吸引等について救急措置の徹底を図るとともに、救急薬品、資材等を作業場の必要箇所に配置する。 4、異常反応などが発生した時の対策の樹立を図り、作業者に徹底すること。MSDS等により、化学物質の性状を把握して、異常な反応が出現した場合の作業方法等の教育と訓練を実施する。
魔理沙:
MSDSっていうのは、化学物質等安全データシートの略だな。危険性や有害性の恐れがある化学物質を含む製品を、他の事業者に譲渡、または提供する際に、大正化学物質等の性状や、取り扱いに関する情報を提供するための文書なんだ。
霊夢:
5、工場全体の危険有害な作業、工程等を見直し、安全管理の水準の向上につとめること、安全点検の実施とその結果に基づく改善を図るとともに、安全衛生委員会での検討を通じて、作業者の安全意識の向上を図る。解説は以上です。
魔理沙:
そういえば肌にかかったり、飲んだりした場合の対処法の話をしてなかった気がするんだけど、塩酸の時と何か違うところはあるのか?
霊夢:
対処法としてはあまり変わりないわ。基本的に肌にかかったり 目に入った場合は、しっかり洗浄した後に病院で診察を受けること。誤飲してしまった場合は、粘膜を痛めるから無理に吐かせず、水や牛乳を飲ませてすぐに病院で処置を受けること。
魔理沙:
塩酸の時とほぼ同じ感じだな。
霊夢:
結局その場でできることって限られてるしね。素人考えで無理に中和しようなんて考えたら駄目よ。
魔理沙:
でもこれだけ苛性ソーダの危険性を減ったあとだと、今回の事例のような作業は保護衣で全身を守らないと怖くてできないな。
霊夢:
苛性ソーダの突沸の危険性も知っていれば、一気に投入することもなかったでしょうね。
魔理沙:
事故防止の第一歩は、まず「知ること」なんだなというのを痛感するな。
霊夢:
時間のかかる面倒な作業手順も、なぜそうなっているのかということを考えるのも大事ね。
皮膚に付いてしまうとただれ、目に入ってしまえば失明するおそれもあるほど危険な物質です。取り扱いには十分に気をつけたいですね。解説をノーカットで聞きたい方はぜひ動画を視聴してみてください。
『『強アルカリ性』がなぜ「硫酸よりも危険」なのか【労災事例ゆっくり解説・苛性ソーダ事故】』
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