バブル崩壊のあおりを受けた「不遇の世代」。就職氷河期世代が受けられる支援をハローワークの担当者に聞いてみた
※ご覧の記事は厚生労働省の提供でお届けします。
ハローワークと聞いて皆さんはどんなイメージを持つだろう?
「再就職を目指す人が行くところ」「気軽に行ける雰囲気じゃない」そんな印象を持たれている方も多いかもしれない。ところが、実際のハローワークでは親身になってカウンセラーに相談に乗ってもらえるだけでなく、様々な境遇や年代の方に向けて一人ひとりに合わせた豊富な職業訓練、資格取得コースが用意されていることをご存じの方は少ないのではないだろうか。
現在、そんなハローワークを含め、政府機関と自治体、民間が一丸となって就職氷河期世代の方々への支援「就職氷河期世代支援プログラム」が実施されている。平成5年(1993年)~平成16年(2004年)に“新卒”という、就職活動において重要な時期にバブル経済崩壊のあおりを受けてしまい、厳しい雇用情勢の犠牲となってしまった就職氷河期世代。未だに正規雇用に就けず不安定な生活を余儀なくされている人が大勢いることが実施の背景だ。
ところが、就職氷河期世代に対して、ハローワークでどのような支援が行われているのか、まだまだ知らない方が多いのではないかと思う。
そこで、実際にどのような支援が行われているのかを広く知ってもらうため、就職氷河期世代の支援を行うようになった経緯について厚生労働省 若年者・キャリア形成支援担当参事官室の大坪祥一さんにお話を伺いつつ、ハローワークで実施している就職支援の具体的な中身をハローワークの現場担当者である直嶋荘一郎さんにニコニコニュースは取材をおこなった。
直嶋さんからは施設の利用方法や、具体的な就労に向けた手順だけでなく、どのような悩みを抱えた人が窓口に来るのか、長期に渡って就労経験がない場合の履歴書の書き方など、長年現場で就労相談に乗ってきたからこそ知っている貴重なお話を聞くことができた。
本記事が就職氷河期世代にとってはもちろん、働き方に不安を抱えるすべての人にとって有意義なものになれば幸いだ。
[PR]
■「ハローワーク」の就職氷河期世代専門窓口に来られる方は、どのような悩みを抱えているのか?
――さっそくですが、ハローワークの窓口に訪れる方は、どのような悩みをお持ちなのか現場でご担当されている直嶋さんから教えていただければと思います。
直嶋:
基本的に、私が担当している就職氷河期世代専門窓口には、おおむね35歳を下限に55歳未満の方が「安定的な就労」を求めて窓口にいらっしゃいます。その他埼玉しごとセンターでは、わかもの支援、新卒コーナー、マザーズコーナー、また年齢に関係なく、どなたでも就労支援を受けることができるので、ぜひお気軽に訪ねていただければと思います。
窓口に来られる方のお悩みは本当に様々ですね。「正社員になれない」「再就職したい」といったご相談から、「スキル・経験でアピールできるものが少ない」「自信がなく現状を変えられない」「人とのコミュニケーションが苦手」といった内容や「就職したことがない」「長期間ひきこもりでした」という方もいらっしゃいます。
――これまでの就労経験に自信を持ちづらい方が多いのかもしれませんね……。
直嶋:
我々としましては、一人でも多くの方に正社員になっていただきたいと思っていますから、企業から求人を受け付ける部門の担当者とチームで取り組んでおります。確かにこれまでの経験から自信を持ちづらい方が多いのかも知れませんが、どのような状況の方であっても、多くの方は希望の職種をしっかりと持っていらっしゃる印象ですね。当センターのアンケートでは希望職種自体が「未定」という方は全体の4%程度となっています。
――こちらのセンターでは就職氷河期世代に特化した求人や面接対策を用意しているのかと思いますが、具体的にどのような方法で進めているのでしょうか?
直嶋:
実際に当センターを利用するには、まずお電話をしていただいて面談の予約を取るとスムーズに進められると思います。予約なしの場合でも総合受付で「ご利用者シート」を記入していただいて登録をすればご案内できます。次にキャリアカウンセリングで具体的に何をしていくのか説明します。別紙に具体的な支援の手続きと内容をまとめましたので、ご覧ください。
ハローワークへの登録手続きが終わりましたら、ご自身の抱えている課題、就職の価値観、こだわりを確認します(参照1)。
次に計画を立案します。採用を目標としたゴールに向けて期限を設定し、それをゴールに見立てて項目ごとのステップ、時間軸を確認し合意します。そして項目ごとに進捗管理をしていきます。勿論、その都度優先順位を考えながら柔軟に計画を修正・変更していきます(参照2、3)。その作業を通じて仕事に対する姿勢を養ったり、自信を取り戻す取り組みも行います。
更にセミナーにより必要な知識の習得を目指したり、必要と認められれば、希望に応じて、職業訓練、職場実習など、学校の授業のように平日に週5日程度通っていただきながらステップアップし、就労に向けての力を付けていくこともあります。
就職氷河期世代の方に特化した資格取得コースも11種類用意しておりまして、全国でも成果が出ています(参照4)。
最後に就労支援者の了承が得られれば、関係部門と連携しながら仕事をお探しの方にチームでベストミックスの提案、実施をさせていただきます(参照5)。このように大変手厚い支援プランとなっております。
まず、就職氷河期世代を積極的に募集されている業種には、建設、運輸、介護、飲食、警備などがあります。次に、我々が就職氷河期世代の方を推薦する場合の話ですが、その際には書類や面接での判断だけでなく、実際の仕事ぶりを見ていただく機会を設けるなど、窓口に来られる方の「人間性」を見ていただく努力をしています。
たとえば、本来は履歴書の他に職務経歴書が必要となっている求人であっても、これまで就労したことが無い方は職務経歴書に記入できるものがありません。そういった方でも、人間性を見て判断していただけるように採用側と相談して履歴書だけで面接を受けられるように手配するケースもあります。
■“自分の良いところ”を気付かせて、言葉にしてあげる
――これまでの経験よりも、「人間性」を判断していただけるようにしているわけですね。それは、長い間就労経験が無い方の場合でも大丈夫なのでしょうか?
直嶋:
以前、15年以上ひきこもり状態にあるという方が一念発起し、訪ねてくださったことがあります。お話してすぐに誠実な方だということがわかったので、企業側には職務経歴書を不要にしてもらうよう働きかけ、その代わりにご本人の「人となり」を履歴書で見ていただけるよう、「ひきこもり状態になった要因と一歩踏み出したきっかけ」を文章化しました。
このようなことを企業側に伝えることは本人からすればデメリットに感じるかもしれませんが、あえて伝えることで、企業側の不安の払拭とご本人の状態の正しい理解が期待でき、むしろメリットとして捉えて、カウンセリングのなかで文章を作成していきました。その作業のなかで「今は規則正しい生活が送れている」、「体力の維持向上にも努めて毎日1時間走っている」とのことだったので、それも書こうよ! と盛り込むことを勧めました。
ご自身で気が付いていない“自分の良いところ”を気付かせて、言葉にしてあげるのが我々の仕事でもあります。この方の場合は面接で誠実さが伝わり、見事に正社員として採用していただくことができました。この方は現在もお仕事を続けられています。
後にその方からは、当センターを利用される方に向けて、このようなメッセージもいただいています。
『私は長い間ひきこもりのような生活を送っていました。正直、就職することは厳しいと思っていましたが、担当者に親身になって相談に乗ってもらい、就職先が見つかりました。とても心強かったです。何か小さなきっかけでも勇気をもって一歩踏み出すことが大切だと思いました。』
――まるでドラマのようなエピソードだと思いました。これらは手厚い就職氷河期世代支援の賜物ということですね。
直嶋:
いいえ! あくまでご本人が頑張ったということなんです。この事例では企業側から、「誠実で良い人をご紹介いただいた」とお礼の言葉をいただいたほどでした。ぜひ、同じ様な境遇の方も一人で悩みを抱え込まずにご相談いただけますと幸いです。
■就職氷河期世代を企業が採用するメリットとは?
――ここまで仕事をお探しの方側のお話を伺ってきましたが、企業側にとって就職氷河期世代を雇用するメリットとは一般的にどのようなものがあるのでしょうか?
大坪:
厳しい雇用環境の中で、頑張ってこられた方々が多いのが「就職氷河期世代」の特徴ということもあって、我慢強い方が多いという点に採用側から期待の声があがっています。また、企業の人員構成として年齢バランスがいびつだと技術継承が充分に行えなかったり、管理職と若手の間を繋ぐ人材が不足してしまう問題が発生してしまいます。そうした問題を解決する存在として期待も高まっています。
そもそも就職氷河期世代が学校を卒業するタイミングで、バブル崩壊を機に企業の新卒採用求人枠が圧倒的に減ったことが、未就職卒業者が増加した要因の一つです。これはバブル期に企業が大量の人員を採用したため、その後の不況で、余剰人員が発生していたことなどにより、新卒の求人が減ったことによります。加えて、第二次ベビーブーム世代が社会に出るタイミングと重なったことなど、日本の雇用環境の構造的問題が、新卒の時期にちょうど発生してしまった世代です。
個人の意思や努力、能力だけでは仕事に就くことが困難な状況にあったという背景があるので、決して「仕事に就けないのは努力が足りないから」といった考え方が当てはまるわけではありません。
就職氷河期世代の方には、ひきこもりが長期化して同居する高齢の親の年金で生活を賄っている方も少なくないです。そういった方たちがハローワーク等を通じて安定した就労を実現することは、日本が早急に解決しなければならない課題でもあります。
■就職がゴールではない。長く勤められる就職先に出会うことが大切
――先程ご紹介いただいた正社員として採用された方以外にも、カリキュラムを経た後はどのくらいの期間で就職に成功されるのでしょうか?
直嶋:
これは一概には言えません。1ヶ月で就職先が決まる方もいれば、9ヶ月の方もいらっしゃいます。もちろん早く決まれば良いというものではありません。ご自身に合った長く勤められる就職先に出会うことが大事だと考えています。
また、我々は就職が決まれば卒業と考えているわけではなく、離職に繋がらないよう「定着支援」にも力を入れております。このような定着支援は1年間行いますので、就職が決まってからの不安点や困り事もお気軽にご相談いただければと思います。
――お話を伺っていると、仕事をお探しの方一人ひとりに根気よく向き合っておられる印象を受けますが、現場で心掛けていらっしゃることなどございましたら教えていただきたいです。
直嶋:
心掛けていることとしては、当センターでは基本的にマニュアルというものは設けておりません。なぜなら100人いたら100通りのやり方があると我々は考えているからです。そのうえで、自己肯定感が下がってしまっている方が多いので、まずは認知のゆがみ(思い込み)を修正して、自分自身への評価を適正なところまで上げる、そのうえで目的に合わせたカウンセリングに力を入れています。
一般的にハローワークで実施されているカウンセリングはそう長い時間ではありません。しかし、当センターではカウンセリングに50分~60分ほどかけて、しっかりと伴走支援できるようにしています。
この仕事に就いたときに、当時の上司から「生半可な気持ちでは出来ない仕事だよ」と言われた記憶があります。やはり、人生を支援するということですから。就労希望の方は時間や交通費をかけて、真剣な思いでわざわざ窓口まで来てくださっているわけです。なので、そういった気持ちや行動に感謝しながら希望に沿う形での支援が出来ればと考えております。
ハローワークに行くことで「厳しいことを言われるんじゃないか」「現実を叩きつけられるんじゃないか」と不安を抱いている方も少なくありません。しかし、ここではみなさんのモチベーションが高まるよう万全の体制で取り組んでおります。こういった手厚さや支援への情熱こそが、国が運営しているハローワークの意義であると考えていますので安心してご相談ください。
本取材で、ハローワーク職員の直嶋さんは就労支援の仕事を「生半可な気持ちでは出来ない仕事」だと紹介した。
急かさず、ゆっくり長い時間をかけて信頼関係を築きながら“自分の良いところ”に気付かせてゴールまで伴走する、そんな熱い思いを持った現場担当者が、一人ひとりに合った支援を日々行っている。本人や、そのご家族の置かれている状況に関わらず相談の門戸は開かれているので、就労に関する相談があれば、ぜひ気軽に電話で連絡をしてみてほしい。
▼本記事を読まれた方はアンケートにご協力ください▼
アンケートページ(※所要時間5分)
■問い合わせ先一覧
・埼玉しごとセンターについて
国が運営するハローワークと埼玉県の就職支援サービスが一体となった施設として、働き方・ライフスタイルの整理から職業紹介まで切れ目ない支援を提供しています。
お問い合わせ先
URL:https://hwus.jp/
代表 TEL:048-826-5601
就職氷河期世代専門窓口 TEL:048-762-6522
・全国の就職氷河期世代専門窓口の一覧はコチラ
・厚生労働省による就職氷河期世代の方々への支援のご案内はコチラ
今回の取材では、厚生労働省の就職氷河期世代支援における“就職支援”を担当するハローワークの職員にお話を伺ったが、就職に向けて何から始めてよいかお悩みの方をサポートする『サポートステーション(サポステ)』や、ひきこもり状態にある方への“福祉的支援”を担う機関である『ひきこもり地域支援センター』、社会的に孤立してしまった方への自立支援を行う民間団体『認定NPO法人育て上げネット』、についてもここで触れておきたい。
下記にそれぞれの概要を掲載するが、より詳しくこれらの支援をおこなう機関や団体の取組について知りたい方はぜひ昨年の取材記事(関連記事:「無職・ひきこもり・若くない」あなたに寄り添うサポートがある。 30・40代の就労や社会参加支援を行う機関の取組を聞いてみた)を読んでいただきたい。
■地域若者サポートステーション(サポステ)
15歳~49歳の方を対象とした、働くことに踏み出すための相談を受けられる機関。そこでは本記事で紹介したハローワークと同じくきめ細かな面談を行いながら、働くための方針を立てつつ、職場体験を通して職場でのコミュニケーションへの苦手意識の克服などを行っている。
履歴書の書き方や面接対策、就職に向けた資格取得などのサポートも行うが、その過程で自信をつけること自体が大切なプロセスになっている。
興味を持たれた方は、まずは最寄りのサポステへお問い合わせください。(全国のサポステ一覧はコチラ)
■ひきこもり地域支援センター
ひきこもり支援を専門とする相談窓口として、全ての都道府県、指定都市に設置されています。ここでは、社会福祉士、精神保健福祉士等の資格を有するひきこもり支援コーディネーターが、ひきこもり状態にある方やその家族へ相談支援を行い、適切な支援につなぎます。
興味を持たれた方は、まずは最寄りのひきこもり地域支援センターへお問い合わせください。(全国のひきこもり地域支援センターの一覧はコチラ)
■認定NPO法人育て上げネット
民間団体ならではの発想で利用者の自立支援を行っている。職業訓練としてプログラミングなどに特化した訓練を行っている団体だが、ときには『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』といったゲームで遊ぶ交流会を開催することもあるとのこと。
お問い合わせ先
URL:https://www.sodateage.net/
TEL:042-527-6051