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「無職・ひきこもり・若くない」あなたに寄り添うサポートがある。 30・40代の就労や社会参加支援を行う機関の取組を聞いてみた

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 「就職氷河期世代」という言葉を知っていますか?
 概ね1993年〜2004年頃の雇用状勢が厳しい時期に学校を卒業し、就職活動を行っていた方々を指します。
 
 この世代には、
 ・不本意ながら不安定な仕事に就いている
 ・無業の状態にある
 ・ひきこもりなど社会参加に向けた支援を必要としている
 など、今なお困難な状況に立たされている方が多くいます。
 
そんな就職氷河期世代の就労や社会参加を後押しするために「就職氷河期世代支援プログラム」が立ち上がり、厚生労働省をはじめとする政府機関、自治体、民間が一丸となって本格的な支援に乗り出すことになりました。

 しかし、実際にどのような支援が行われているのか、まだまだ知らない方が多いのではないでしょうか。
 そこで、実際に現場で就職氷河期世代へのサポートを行う方にインタビューを行いました。

 お話を伺ったのは、「働きたい」という気持ちにマンツーマンで寄り添う『若者サポートステーション』就労支援や居場所づくりを民間事業ならではの発想で行う『認定NPO法人育て上げネット』、そして、ひきこもり当事者とご家族を長い目で見守り、サポートする『ひきこもり地域支援センター』の3機関です

 「働いたことがない」「新しいことを始める自信がない」「若くない」。一歩踏み出すのをためらう理由はいろいろあると思います。しかし、今回お話を伺った機関はいずれも、支援が必要な方それぞれの事情を丁寧に聞いた上で、ご本人の希望や考えに沿った形でサポートを提供しています。

 一人で抱え込まずに、是非、お近くの支援機関を気軽な気持ちで利用してみてください。

目次

よこはま若者サポートステーション 熊部 良子 施設長 インタビュー

認定NPO法人育て上げネット 工藤 啓 理事長 インタビュー

北九州市ひきこもり地域支援センター「すてっぷ」 和田 修 所長インタビュー

問い合わせ先まとめ


就労支援を行う「若者サポートステーション」でお話を聞きました

就労に関する相談ができる

──「若者サポートステーション」(以下、サポステ)は、どのようなところですか?

よこはま若者サポートステーション・熊部施設長(以下、熊部): 
 15歳~49歳の方を対象とした、働くことに踏み出すための相談を受けられる場所です。

──利用方法を教えてください。

熊部:
 よこはまサポステの場合、まずは電話やメールで予約を取っていただきます。1回目の相談で、これまでの経緯や現在の状況をお聞きします。
 2回目からは担当制となり、1対1で「伴走支援」を行います。
 よこはまサポステ以外にも、サポステは全国に177か所あるので、お近くの通いやすいサポステにご連絡して頂ければと思います。

──利用される方はどのような方が多いでしょうか?

熊部: 
 よこはまサポステの場合、年間約13,000人の方が利用されており、10代から40代まで幅広い年齢層の方が来られます。女性の方の利用も増えています。

──どのような経歴を持った方がいらっしゃるのですか?

熊部: 
 一度も就労されたことがない方が約15%で、残りの方は、不定期のアルバイトを含めて、何らか就労経験のある方となっています。いわゆる「ひきこもり状態」だった方や、「家族以外と話すのは久しぶり」という方もいます。

──就労までにどのくらいかかるのでしょうか。

熊部:
 支援期間は人それぞれですが、多くの方は1年半~2年程度で、職業訓練を受け始めたり、働き始めるなど、次のステップに移る印象です。
 就職後も3ヵ月~半年程度、困ったことがないか話を聞くなど、職場定着のためのサポートを行っています。

「就労支援」ってどんなことをしてくれるの?

──「就労支援」では、どのようなサポートを受けられるのでしょうか。

熊部:
 2~3週間に1度、担当者による50分間の面談を行いながら、働く上で困っていること、不安に感じていることを一緒に整理し、働き始めるための方針を立てるのが基本的な流れです。

 それ以外に、よこはまサポステでは、近隣の企業にご協力いただき、一連の支援の中で、職場体験の機会を持てるようにしています。
 また、職場でのコミュニケーションに苦手意識を持つ方も多いので、そうした支援も積極的に行っています。

──「コミュニケーションの支援」とはどのようなものですか。

熊部:
 まずは、サポステの担当者と、話ができる関係を築いていただくことが第一歩です。また、「ソーシャルスキルトレーニング」と言いますが、上司役と部下役にわかれて、ロールプレイングで、職場でよくある場面でのやりとりの練習を行うセミナーなども開催しています。それ以外にもテーマを決めて参加者同士で話すグループワークや、面接の練習など、様々なセミナーを開催しています。
 人に話しかける、相づちを打つ、会話をつなぐ、考えを伝える、といった様々なコミュニケーションの場を提供したいと思っています。

就職氷河期世代への支援について

──15歳~49歳と幅広い年齢層への支援を行っているサポステですが、特に30代後半~40代の就職氷河期世代を支援する中で感じることがあれば教えてください。

熊部: 
 就職氷河期世代の方は、「支援の手が届かなかった期間が長い」という特徴があると思います。学校を卒業・中退したときに希望通りの就職ができず、その後、離職や転職を繰り返す中で、どうしたらいいかわからなくなってしまった方も多いように感じます。

 仕事を始めたい、安定した職に就きたいと感じながら、どうしたらいいかわからないという方は、まずはサポステにご相談いただければと思います。

──就職氷河期世代のサポートに当たって心がけている点などありますか?

熊部:
 10代、20代の場合、試行錯誤が成長につながることが多くあります。それに対し、40代の方の場合、ある程度のスピード感が求められると思います。
 例えば、働いた経験のある方なら、まずは、「職務経験の棚卸し」と言いますが、ご本人が持っているスキルや経験を整理します。その上で、ご本人が希望される働き方を実現するにはどうすればいいかを一緒に考えます。

──スピードが必要となると、資格取得などの支援は難しいのでしょうか。

 いえ、そのようなことはないと思います。
 横浜市では「横浜市就職氷河期世代就職支援プログラム」の一環として、2020年10月からビジネスパソコン講座などを開始しました。ここに参加されている方も多くいます。このような講座を受けてスキルアップすることは、就労への大きな自信につながると思います。

──やはり自信を付けることが大きなきっかけになるんですね。

熊部:
 そうだと思います。
 真面目過ぎて、例えば残業を頼まれたときに、仮に予定があっても、相手や会社のことを考えるあまり断ることができない方もいます。無理をしてでもやろうとして、これまで仕事がうまくいかなかったという方が少なくないように思います。きっかけさえあればしっかりと働ける方も多いと思います。

就労につながる「シゴトライアル」

──長らく働いた経験のない方を就労につなげるために、具体的にどのような支援をしていますか?

熊部:
 個別相談の中で、履歴書の書き方や面接対策などのサポートも行います。

 よこはまサポステの場合、3年前から職場体験と採用を結び付けた「シゴトライアル」というプログラムを実施しています。
 働き手を求める企業と連携し、試しに一定期間働いてみて、双方がいいと思えばそのまま採用につながります。

 また、接客からものづくり、IT関連、CADスタッフなど幅広い職種で、職業紹介・会社紹介を兼ねた「仕事セミナー」を開催しています。IT関連やCADスタッフは経験者のみと思い込んでいる方もいますが、未経験で正社員として採用された方もいます。
 企業の皆様からは、「サポステから来た方は本当によく働いてくれる。また是非」というお声を頂いています。

「人生の作戦会議」を一緒に

──サポステが考える「就労支援のゴール」って何でしょうか?やはり正社員就職ですか?

熊部:
 私たちはご相談いただいた方全員に「正社員」を目指すよう伝えるつもりはありません。アルバイトから始めたいと思う方もいれば、残業などの負担を考えると、あまり正社員になりたくないと考える方もいます。
 その方がどういう働き方をしたいか伺い、それを実現することが支援のゴールです。

──なるほど。本当に「利用者のため」を考えて活動されているんですね。

熊部: 
 一人で考えすぎて、元々何がきっかけで働けなくなってしまったのか、ご自身でも分からなくなってしまった方も多くいます。1対1で話す中で、その絡まった糸がほぐれ、解決の糸口が見えてくるのは嬉しい瞬間ですね。
 働き始めるにはどうするか戦略を練る。「人生の作戦会議」をともに行う気持ちで臨んでいます。

──利用者の方と接する上で、心がけていることなどはありますか?

熊部:
 長らく人との接点を持たずにきた方も少なくないので、私たちのような「社会との窓口」の対応は一つ一つが重要です。「やっぱり相談しなければよかった」とせっかくの一歩を逃してしまわないように、常に、慎重にかつ真剣に臨んでいます。

──最後に、この記事を読んでサポステに興味を持たれた方にメッセージをお願いします。

熊部:
 ここに来ればすぐに問題が解決するとか、すぐに仕事が見つかるといったことはもちろん言えませんし、実際にそうではありません。

 ですが、お一人お一人に合わせて一緒に考えることはできます。「何かのきっかけになるんじゃないかな」という気持ちで来ていただけると嬉しいです。
 どなたにとっても「遅すぎるということはない」と思っています。今までこうしたサポートにたどり着けなかった方も、サポステを知った日から少し挑戦してみてほしいです

問い合わせ

『よこはま若者サポートステーション』

URL:https://www.youthport.jp/saposute/

TEL:045-290-7234


民間ならではの発想で支援を行う「認定NPO法人育て上げネット」でお話を聞きました

“働きにくさを抱える方”を支援

──「認定NPO法人育て上げネット」は、どのような活動を行う団体か教えてください。

認定NPO法人育て上げネット 工藤理事長(以下、工藤):
 広く言うと「自立支援」の活動です。働きたいけれど働けない方、働くことに困難を抱える方を支援していく。自立支援の中でも、「働く」ということに重点を置いた事業になります。 
  ゴールは全てが就職や正社員ではありません。様々な「就労」の選択肢の中から、ご自身に合った働き方を探していただき、そこに向けて伴走していく。これが私たちの事業です。

──利用方法を教えてください。

工藤:
 まずはメールや電話でご連絡いただきます。最近はWEBでのお申し込みも増えています。

──「育て上げネット」は民間の事業ですが、費用はかかるのでしょうか?

工藤:
 登録料はかかりません。月々の利用は有料ですが、ご本人の経済状況に応じた減免制度を設けています。交通費の支給を行う場合もあります。現在、多くの方に無料でご利用いただいています。

──どのような方の利用が多いのでしょうか?

工藤:
 年間、約2,000人の方からの問い合わせがあります。私たちは若者への支援に力を入れてきたこともあり、20歳前後と30歳前後の方の利用が特に多いように思います。
 最近は、コロナの影響で仕事を失った方からの相談も増えています。

「就労支援」は企業にとってもメリットがある

──「育て上げネット」が行う支援の内容について教えてください。

工藤:
 職業訓練として、プログラミングなど、ITに特化した訓練を行っています。
 それ以外に、例えば一人暮らしの高齢者の庭仕事の手伝いや、近隣の農家の収穫の手伝い、学童保育のサポートなど、近隣の方からの依頼に応じた仕事体験を通じて、就労に向けてステップアップする「ジョブトレ」というプログラムなどもあります。
 人に頼まれて何かをしたり、信頼して任せてもらえたという経験は、大きな自信につながります。

──「就労支援」には、協力してくれる企業も必要ですね。

工藤: 
 そうですね。うちにも、人手不足に悩む中堅・中小企業から多くの問い合わせがあります。そうした企業のうち、「ともに育てる」という意識を共有できる企業と連携し採用につなげています。
 特に先に述べた「ジョブトレ」では、9割が就職に成功し、8割を超える人たちが3年後も同じ企業で働き続けています。

──企業側にとって「ともに育てる」メリットはどこにあるのでしょうか。

工藤:
 「ともに育てる」という過程を経ることで、すぐに辞める方が減ると思います。短期間で辞めてしまうと、企業はコストをかけて採用と育成を続けなければなりません。技術の高さも重要ですが、長く働いてもらえることも、日本の組織社会にとって同じくらい重要なポイントだろうと考えています。

就職氷河期世代の方への支援

──40代の方の利用も増えているそうですが、どのようなルートで来られるのでしょうか?

工藤:
 年間500件ほどのご家族向けの支援を通じて来られる方が大半だと思います。また、つながりのある様々な機関からの紹介で育て上げネットを知ってくださる方もいます。

──立川市と共同で、就職氷河期世代への支援プログラムを立ち上げられたそうですね。

工藤:
 内閣府の交付金を活用し、先日、立川市と共同で「シャフト・プログラム」という就職氷河期世代向けのサービスを立ち上げました。
 「シャフト」は車のエンジンとタイヤをつなぐパーツのことです。新卒当時、「正社員」の枠に入ろうともがいてもなかなか入れず、厳しい環境に置かれてきた就職氷河期世代の方の意欲とエネルギーを活かせる場へとつなぎたい、という思いで名付けました。
 プログラムの特徴の一つが「オンラインサポート」です。少しでも利用のハードルが下がるよう、オンラインでの相談や講座の受講が可能となっています。数に限りはありますが、パソコンや通信回線の貸し出しもできるようにしています。

──立川市にお住まいの方が対象となるのでしょうか。

工藤:
 立川市との共同事業ですが、立川市在住・在勤の方だけでなく、広く地域をまたいで支援していくつもりです。
 今回のプロジェクトに協力いただいている企業からは、多磨地区の企業は採用意欲にあふれていて人手が足りない、年齢よりもやる気やスキルが大事、そうした方々と出会う機会がほしいといったお話も伺っています。

「育て上げネット」の居場所づくり、取り組み

──育て上げネットは居場所作りにも積極的ですね。工藤理事長のブログには、ゲーミングPCをそろえて利用者のみなさんと交流を図る様子がありました。 

工藤:
 実は、先日も『大乱闘スマッシュブラザーズ SPECIAL』交流会を開催しました(笑)。利用者には、仕事につながるかどうかに関係なく、「ゲームをしに来てね」と伝えています。「仕事」や「就労」が目的になると足を運ぶ気持ちになれなくても、「ゲームだったら行く」という方も多いので、自然と多くの方が集まります。

 大阪や沖縄など、離れた場所の若者や支援団体とも一緒にオンライン大会を開催しています。自宅から出づらい方や対面だと緊張してしまう方も、ときに参加し、ときにチャットで会話する。必ずしもその「場」にいなくても、一緒に居場所として遊べるのは今の時代ならではです。ゲームは、場所や距離を超えて、様々な立場の人が緩やかにつながるためのツールになるだろう、という期待を持っています。
 フットサルやキャンプなどもやっていますが、ゲームの力はこれらと同じくらい大きいです。小・中学生から40代くらいまで幅広い参加があります。

必ずしも「就職」がゴールじゃなくていい

──工藤理事長が、利用者の目線に立ったきめ細かなサービスを提供されていることがよく分かりました。最後に、この記事を読んで育て上げネットに関心を持たれた方にメッセージをお願いします。

工藤:
 働き方の選択肢は思う以上にたくさんあります。私たちは、その方に合った働き方を最初に考えて、そこにたどり着くにはどうするかをともに考えていきます。必ずしも「就職」がゴールではないと思っています。
 また、過去の経験やスキルを問わず、働き手を求める企業も多くあります。「働きたい」という思いがある方は、是非お手伝いをさせてください。ともにキャリアを考え、ともにチャレンジする場ととらえていただけたらと思います。
 また、最近では在宅勤務の企業が増えました。実際に人と会って話すことは苦手でも、チャットでのコミュニケーションが中心の会社で活躍できることもあります。コロナで減ってしまったチャンスも多くありますが、その分、新たに見えてきたチャンスもあると思っています。

問い合わせ

『認定NPO法人育て上げネット』

URL:https://www.sodateage.net/

TEL:042-527-6051

ひきこもり支援を行う「ひきこもり地域支援センター」でお話を聞きました

“コミュニケーションの再開”を目指す

──北九州市ひきこもり地域支援センター「すてっぷ」では、どのような活動を行っているのか教えてください。

北九州市ひきこもり地域支援センター「すてっぷ」  和田修所長(以下、和田):
 利用者の方に、周囲の方とのコミュニケーションを再開いただけるようサポートしています。 

──「ひきこもり地域支援センター」(以下、センター)の利用方法を教えてください。

和田: 
 当センターの場合、直接来られる方もいます。また、ご家族やご本人から、電話やメールで相談が入ることもあります。電話で簡単にお話を聞かせていただいた上で、来所いただくのが一般的なパターンだと思います。
 また、火曜日と木曜日の午後は、センター内のフリースペースでご本人やご家族が自由に交流できるようになっています。

──ご家族からの相談が多いのでしょうか。

和田: 
 ご家族からの相談が全体の約半数です。また、ご本人からの相談のほか、医療機関や学校、公的機関からの紹介もあります。

──「訪問支援」も行っているそうですが、どういった方を対象に行うのですか?

和田:
 ご本人が部屋から出られない状況でも、私たち「すてっぷ」に会いたい気持ちを持っているケースや、ご両親が高齢のために来所いただくのが難しいケース、あるいは家庭内暴力があるケースなどは訪問支援させていただきます。

 ご本人とご家族との関係がこじれているケースも少なくないです。
 そういった場合、無理にご本人と会おうとするのでなく、定期的に訪問し、「あなたのことを気にかけている人が来ています」というメッセージが伝わるよう、その都度短い手紙を残します。訪問しているうちに、「無理やり自分を部屋から引きずり出すような人ではない」と分かってもらえるようになります。

 親御さんがご高齢のケースも多いので、ご家族に何かあると孤立してしまう恐れがあります。そうならないよう「あなたを気にかけています」「しっかり見守っています」というサインを伝え続けることが大切だと思います。

──センターを利用されるのはどのような方が多いのでしょうか?

和田:
 男性が約7割です。年齢層は20代の方が多いですが、最近は40代の方も増えています。

──どのくらいの期間、ひきこもっていた方が多いですか?

和田: 
 ひきこもりの期間については、1~2ヵ月で親御さんが心配されてこられる方から、30年以上の方など幅が大きいです。

まずは「楽しく語ること」ができるように

──支援のゴールや目標はどのようなところにあるのでしょうか。

和田:
 ご本人が孤立しているケースも多いので、まずは人と会えるようになることが大事です。会えるようになると、多くの人は自然と何か話したくなるように思います。大半の方が、誰かとつながりたいという気持ちは持っているので、まずは私たちとつながって、一緒に楽しく話をできるようになることが最初のステップです。
 その過程でフリースペースへとつなぎ、今度は横のつながりを増やしていただきます。

──なるほど、コミュニケーションが広がっていくのですね。

和田: 
 そうですね。同世代の方たちとのつながりができると、自然と行事などにも参加できるようになります。
 そうすると、今度はその行事に参加したメンバーで声をかけ合って遊びに行ったりするようになります。こうしたゆっくりとした、安心できる環境の中で人との関わりが増えることで、少しずつご自身のエネルギーが蓄積し、活動範囲も広がっていき、最終的には就労等へとつながっていきます。

──長くひきこもっていた方に心を開いてもらい、雑談できるような関係を築くのは難しいように思いますが、支援のプロセスを教えてください。

和田:
 まずはご両親に会いに行く形で、親御さんからご本人に「お母さんに人が会いに来るけどいい?」等と尋ねてもらいます。大丈夫なようであれば訪問します。
 また、人によってやり方はいろいろだと思いますが、私の場合、毎回、短い手紙とともに、お菓子を置いて帰るようにしています。手にとってくれたり、お菓子を食べてくれることも一つのコミュニケーションだと思います。
 
 そうしたことを重ねていくうちに、偶然に顔を会わせることもあります。その際、「いつもお菓子を置いて帰る人」だと言えば、初めて会う人よりは抵抗感が少ないと思います。「あれ美味しかった?」「ありがとうございます」というやりとりから会話が始まることもあります。

ひきこもりのきっかけ

──ひきこもり状態になった原因は、どういったものが多いのでしょうか?

和田:
 きっかけは、学校でのいじめや、学校や会社に上手くなじめなかったなど人によっていろいろです。ただ、ご本人が動けなくなった時に、焦るご家族から「どうするんだ」「どうしたいの?」と迫られることが更なるプレッシャーとなり、ひきこもり状態となるケースが多いように感じます。

──プレッシャーに感じるのでしょうか。

和田:
 ひきこもる方は、真面目な方が多いと思います。
 そもそも、ふざけたり怠けたりできるのであれば、ひきこもらずに遊びに行きます。これまでまじめだった方が急に学校や仕事に行かなくなり、1日中家にいるので、ご両親も驚いて「どうするの?」と迫るのだと思います。しかし、自分でもどうしようもない状況で「どうするの?」と聞かれても答えようがない。いよいよご本人も行き場がなくなる。
 
 「親に会いたくない」という理由で部屋にひきこもり、ご両親との関係が更に悪化してしまうケースが多く見られるように思います。

40代以上の方への支援について

──40代以上の方への支援を行う中で、何か感じることなどありますか?

和田: 
 20代、30代の方と、40代以上の方では、家庭の状況も抱えている問題も大きく違うように思います。
 40代以上になると、ご両親も高齢で入院されたり亡くなられたり、あるいは生活費の問題も生じるなど、日々の暮らしの問題に直面します。同じような環境にある方同士でないと自然な交流は生まれないため、3年ほど前から、20代、30代の方と、40代以上の方のフリースペースを分けています。

──若者への支援と違う部分はありますか?

和田:
 人にもよりますが、40代以上の方の場合、ひきこもりの期間も長期化しているため、次のステップに進むのに時間がかかるように思います。
 急かさず、ゆっくり時間をかけて、横のつながりをつなぐことが重要です。

──なるほど、「つながりをつなぐ」。

和田:
 今はコロナで難しいのですが、2ヵ月に1回、支援者を入れて飲み会を開いています。
 支援する側・される側の区別なく、普通の40代以上の仲間の飲み会として開催します。あの頃何が流行っていたよね、といった普通の会話を重ねる中で元気になってもらう。何かのタイミングが来たときに活かせるよう、人とのつながりや信頼関係の土台作りをしています。

──40代以上の方への支援で大切にしていることがあれば教えてください。

和田: 
 焦らないことです。40代以上になると体力的な問題もでてきますし、自分ができることの限界も見えてきます。そのため、ご自身の「心の折り合い」が大切になると思います。私は面談にきてくださる40代の方に「将来の話」はせず、映画の話など世間話をします。1年2年、ずっとそれを続けます。やがて「こうしたいんですけど、どうしたらいいですか?」「情報はありますか?」という相談をしてくれた時に、こちらから情報提供するようにしています。

──焦らず待つのですか。ご本人を信頼することも必要ですね。

和田: 
 親御さんからすると、「ずっとこの状況が続くのではないか」と不安に思うかもしれませんが、ご本人は「このままじゃいけない」と絶対に考えています。その一歩を踏み出すタイミングを待ちます。そこまでは、「ともに今の時間を過ごせる仲間がいる」というスタンスの方がずっといいと、私は思っています。

「生きづらい世の中を一緒に乗り越えていく仲間」

──支援を受けたい方も、連絡するハードルはやはり高いのではないでしょうか?

和田:
 もちろん、ご本人にとって「ひきこもり地域支援センター」の門をくぐるのは大変な思いです。ご自身がひきこもりだということを認めなければならないので、ハードルが高いです。親御さんとともに来たものの、玄関先の看板を見て「ひきこもり扱いするのか!」と喧嘩が始まるケースもあります。
 私たちは、ご本人の意思を尊重したいと思っています。「働きたい」という気持ちが少しでもあれば、まずは就労支援を行う地域若者サポートステーション(サポステ)に行かれてもよいでしょう。もちろん、こちらからサポステをご紹介することもあります。

──サポステとも連携されているんですね。

和田: 
 サポステに行かれて、まだハードルが高いと思われれば、こちらに来ていただいても大丈夫です。ご本人が納得した上で、様々なサポートにつなぐことが大事です。
 ご本人の意思を飛び越えてしまうと、またひきこもり生活に戻ってしまうことも少なくありません。ですので、私たちはご本人の意思を何より大切にしています。

──最後に、センターに連絡したいと思いながら踏ん切りがつかない方や、支援を求めるご家族に対してメッセージをお願いします。

和田: 
 長い人生を考えた時に、道はまだまだありますし、考えられる方法もいろいろあるので、ご家族で抱え込まずに是非相談していただきたいです。
 ひきこもり支援機関というと、無理矢理引きずり出されたり、働くよう追いつめるというイメージがあるかもしれませんが、全くそのようなことはありません。
 「生きづらさ」がたくさんある時代だと思います。その生きづらい世の中を一緒に乗り越えていく仲間だと考えていただけると嬉しく思います。

問い合わせ

『北九州市ひきこもり地域支援センター「すてっぷ」』

URL:http://www.step-kita.com/

TEL : 093-873-3130(相談専用)


 これまで支援の手が届きにくかった就職氷河期世代ですが、今回、新たにスタートした「就職氷河期世代支援プログラム」では、官民を挙げて様々な支援メニューが用意されています。

 また、厚生労働省の就職氷河期世代活躍支援プラン特設サイトには、各支援機関の一覧も掲載されています。記事で紹介したように、いずれの機関も、ご本人の意向や事情を一番に考えた支援を提供しています。最近では、対面での相談に限らず、オンラインでの相談が可能な支援機関もあります。
 お近くの支援機関を探して、まずはお気軽にメールや電話で相談してみてください。


日本全国のサポステ 一覧

https://saposute-net.mhlw.go.jp/station.html

日本全国のひきこもり地域支援センター 一覧

https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000515493.pdf

連絡先一覧

『よこはま若者サポートステーション』

URL:https://www.youthport.jp/saposute/

TEL:045-290-7234

『認定NPO法人育て上げネット』

URL:https://www.sodateage.net/

TEL:042-527-6051

『北九州市ひきこもり地域支援センター「すてっぷ」』

URL:http://www.step-kita.com/

TEL : 093-873-3130(相談専用)

 

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