『うる星やつら』『めぞん一刻』『らんま1/2』etc…熱血漫画の時代を終わらせた“高橋留美子伝説”を現役漫画家が語る
高橋留美子氏と言えば、『うる星やつら』、『めぞん一刻』、『らんま1/2』、『犬夜叉』といった後世に影響を与える数々の名作を描き上げてきた漫画家です。
ニコニコ生放送「山田玲司のヤングサンデー」にて、漫画家・山田玲司氏は、高橋氏がどのような作品を描いてきたのか解説。さらに、高橋氏が次々と名作を生み出せた理由に関しても言及しました。
※本記事はニコニコ生放送での出演者の発言を書き起こしたものであり、公開にあたり最低限の編集をしています。
▼タイムシフト視聴はこちら▼
第200回『終わらない日常の誕生と終焉〜高橋留美子が生み出した「読まれる漫画」の法則!』
―あわせて読みたい―
・特撮作品が多くの人を魅了し続ける「特撮の魔法」とは? 能や人形浄瑠璃で育まれた“想像力で補う文化”に迫る
■ラブコメからダークファンタジーまで。高橋留美子作品の春夏秋冬
山田:
いい意味で、高橋留美子さんは化け物なんです。ロックでいえばデヴィッド・ボウイのような存在。あらゆる時代に変化しながら漫画を描き続けているすごい人なんですよ。
奥野:
中島みゆきとか、ユーミン(松任谷由実)のようなランクのイメージがありますね。
手掛ける作品のほとんどが大ヒットして、時代の寵児(ちょうじ)であり続けたことからも、各々が推す高橋留美子作品も違ってくると思います。
山田:
まず『うる星やつら』、『めぞん一刻』が1970年代~1980年代に描かれて、そこから『らんま1/2』につながっていくわけです。これが春から夏にかけての高橋留美子ですね。
久世:
へえー……。季節で分けられるんですね。
山田:
高橋留美子さんの作品は春夏秋冬で表現することができます。春から夏にかけての3作品、これら1作品ずつ語るだけでも3、4時間はかかってしまうほどすごい漫画なんです。
それだけじゃなくて、あいだに『人魚の森』や『1ポンドの福音』などの作品がいろいろありつつも、その後に『犬夜叉』、『境界のRINNE』と続いていきます。『犬夜叉』以降の作品は、ダークな雰囲気になっていくので、そこからは秋冬の留美子になります。
そして、冬の留美子が描いた『境界のRINNE』の後に、ダークファンタジーの『MAO』が連載されています。だから、いまは真冬を描いているんですよ。63歳、超現役。恐ろしいですね。
■「努力・根性・命がけ」に終止符を打った高橋留美子デビュー作
山田:
これが高橋留美子デビュー作『勝手なやつら』が掲載された1977年の『週刊少年サンデー』です。表紙に『勝手なやつら』と書いてあるのが、高橋留美子さんの作品ですね。
その下に書いてある小山ゆうさんの『がんばれ元気』が大人気のころですね。これは熱血漫画です。そのうえ、『男組』と『ヒットエンドラン』が連載しているので、ほとんどが熱血漫画なんですよ。
久世:
『まことちゃん』もやってる!
山田:
『まことちゃん』も連載してました。『まことちゃん』は、破壊的ギャグという1970年っぽい作品でしたね。後は『プロゴルファー猿』も連載していて、さいとう・たかをさんが『サバイバル』を描いていたりもします。
奥野:
だいぶスポーティーな雑誌ですね。
山田:
しかも、村上もとかさんが『赤いペガサス』をやっていたので、F1も題材としていました。事故にあったときに、血液型の問題で手術ができない男の話が描かれている素晴らしい名作漫画なんですよ。
そういった熱き男たちが全力で戦っている中に、しれっと入ってくるのが高橋留美子なんです。高橋留美子という隕石が落ちたんですよ。隕石が恐竜を絶滅させたように。
このときに、恐竜じゃなくて何を絶滅させたかというと「努力・根性・命がけ」というテーマを終わらせたんですよ。
それまでは命をかけなければ、恋もしちゃいけなかったんです。恋愛するのも命がけ、野球をするのも命がけ。『侍ジャイアンツ』もそうでした。生きるか死ぬかで戦っていた青春が、高橋留美子の登場で終わるんです。
■当時のオタクたちが本当は欲しかったものをすべて提供した高橋留美子
山田:
ちなみに、アグネス・ラムという、僕らよりも上の世代、オタク第1世代は全員知っているほどのグラビアクイーンがいたんです。シミちゃん、知ってますか?
シミズ:
もちろんです。アーカイブで。
山田:
アーカイブでご覧になりましたか。昔、黒船がやってきたような衝撃のアイドル……。
シミズ:
リア・ディゾンですね。
山田:
リア・ディゾンが来たような感じで「ラムが来た!」というのが、この時代なんです。アグネス・ラムの登場と『うる星やつら』のラムがほとんど同時期に登場するんですよ。この時代は、空前のビキニブームだったんです。
シミズ:
うーん……。いいね!
山田:
いい時代だよね。これまでエロって退廃的で隠すもの、暗いもの、死に直結するもの、戦い……。学生運動や貧乏など、陰のあるものとしてのエロだったんですけど、このあたりから青空の下に出てきます。
いまや当たり前になっている、海辺でビキニを着るようなことが本格的になってくるんですよ。
1970年代にもアイドルはいたんですが、清楚系だったんですよ。ロングスカート姿の高原の美少女みたいなイメージが強い時代もあったんです。でも、このあたりから、陰のないセクシーというものが始まっていくんです。
当時の高橋留美子さんの何がすごかったのかをまとめると、まず最初から売り込まれていたのが、在学中にデビューしているということ。『うる星やつら』は、当時20歳の女子大生が描いているビキニの女の子が登場するSFギャグだったんですよ。
当時のオタクたちが本当は欲しかったもの、陰に隠れていた欲望みたいなものを全部しれっと提供する女、それが高橋留美子だったんです。描き手が女の子というだけで、ちょっとざわつくんですね。
しかも、この当時は女子大生ブームで、『オールナイトフジ』が始まったりして、女子大生が日本の中心なるんですよ。その後に女子高生が日本の中心になるんですけど。
読者が欲しがっているものが、ほぼ全部乗せなので、売れないわけがないし、これによって時代が変わらないわけがないんです。
・「山田玲司のヤングサンデー」YouTubeチャンネルはこちら
―あわせて読みたい―
・特撮作品が多くの人を魅了し続ける「特撮の魔法」とは? 能や人形浄瑠璃で育まれた“想像力で補う文化”に迫る