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「引き算」「共感性」「意外性」──勢いのある漫画の3つの法則を現役漫画家が解説。「絵で伝える」ことの難しさ

 龍幸伸氏による漫画『ダンダダン』は、本格マンガ誌アプリ「少年ジャンプ+」で連載中のオカルティック青春物語です。

 ニコニコ生放送「山田玲司のヤングサンデー」では、同作を今年いちばんパワフルな漫画として紹介。漫画家・山田玲司氏は、『ダンダダン』が満たしている「漫画をパワフルにする三原則」を提示し、それらを達成することで漫画の勢いが生まれることについて解説しつつ、その前提となる漫画論についても迫りました。

左上段から山田玲司氏、奥野晴信氏。左下段から久世孝臣氏、シミズ氏。

※本記事はニコニコ生放送での出演者の発言を書き起こしたものであり、公開にあたり最低限の編集をしています。

▼タイムシフト視聴はこちら▼
『どうすれば「漫画の勢い」は生まれるのか?〜今年いちばんパワフルな漫画「ダンダダン」1話目から読み解く「漫画をパワフルにする三原則」スペシャル!!』Cバージン第12巻

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■勢いを生むにはセリフで説明しないことが重要!?

山田:
 まず「どうしたら勢いのある漫画が描けるのか?」という話をしたいと思います。ちなみに、奥野さんはどうしたら勢いのある漫画が描けると思いますか?

奥野:
 俺の言葉で言うと「全部をセリフで言わない」というのが必要かなと思います。読者の気持ちを「次はどうなるんだろう」と思わせるには、スピード感を維持するためにキーワードをポンポンポンと言って、後は絵で見せるというのが一番いいんじゃないかと。

山田:
 さすが、俺の相棒を7年もやってるだけのことはあるね! 先にひと言でどうしたらいいかを言っておくと「作者が楽をしない」ということです。

奥野:
 作者がラクをしない!? すごい回答だな、それ(笑)。

山田:
 漫画家が楽をしようとしたら、勢いは出ないんです。そして残りは、奥野さんが言った通り、絵で伝えること。加えてもうひとつ、捨てるということが重要でなんです。

 まず、わかりやすい漫画がどういう漫画なのか、ということをちょっと話します。なんでもかんでもセリフで説明し過ぎな映画ってあるじゃないですか。

 漫画も同じでやたらとセリフで説明するのはどうなのかという……。何か飛んでる状況で、セリフで「鳥だー!」と説明してたらダメなんですよ。本当は。

 だけど「わからない」と言われないように、どんどん説明してしまうんですよ。逆の言いかたをすると、読者を置いていかないように、親切に描写しているというのがあると思います。

奥野:
 なるほど。説明になっちゃうということですよね。

山田:
 そうなんです。久世さんはセリフで説明し過ぎる映画をどう思いますか?

久世:
 もう映画じゃなくていいと思います。見なくていい(笑)。

山田:
 はっはっはっはっは(笑)。見なくていい!?

久世:
 って僕は思ってしまうんですが、いまって説明し過ぎなほどしないと「わかりやすく作れないのは、才能がないんじゃないのか」とか言われちゃう時代なのかなと。そういう話は聞きます。

山田:
 そうそう。あえて「わからない人を置いていこうよ」が制作側ができなくなっているんです

 わかる人に基準を合わせるのではなく、「わかってる人はわかってるから読むんじゃない?」みたいに考えて、むしろわからない人でもわかるように偏差値を切り下げることで、なんとか生きてこうとしてるんです。その結果、どんどんどんどん(偏差値が)下がっていってしまったんです。

 だから、多くのコンテンツが説明過剰になっていった流れがあります。逆にセリフで説明しない方向で進めようとすると、間に入ってる大人の人たちが「ここ、分かりにくいから説明入れようか」と言い出すんですよ(笑)。そこで(説明を入れないために)めちゃくちゃがんばらないといけない。

久世:
 やめてくれよ……そんな……(笑)。

山田:
 たとえば担当編集がそこの感覚をちゃんとわかってて「説明しないでいきましょう」となっても、その上の副編集長とかデスクから「わかんないよ、あの漫画」というひと言が入ったら、直すことになっちゃうんです。

 だからいくつものゲートを抜けないと、説明しないで表現することは難しい。だからどのコンテンツも説明過多になってるんです。

久世:
 それだと勢いなんて生まれにくくなるし、毒まぶしてるのと同じ感じがしますよね。

山田:
 そうだと思いますし、気持ちが離れて読まなくなることもあるんじゃないかと。

 わかりやすくしたがゆえに、失ってしまった読者というのは、非常に多いと思います。だから、説明ゼリフを使わないでわかりやすくする方法がどんなものかを考えないといけない。

 この問題を解決してるのが『ダンダダン』なんですよ。クリアしてるから『ダンダダン』は、1話目がすごい読みやすいんです。読みやすかったでしょ?

久世:
 読みやすかった。

山田:
 『ダンダダン』は冒頭の見開き2ページ、セリフがひとつもないんです。そして本編が始まってからもセリフが少ない。

 もうひとつ先に言っておかなければいけないのが、ノイズを捨てられるか問題についてです。

 漫画をひとつ作るときって、キャラクターをきちんと動かすために、裏設定とか世界観をしっかり作る必要があります。そういう設定が作れてないと、漫画はしっかり書けないので。

 だから、めちゃめちゃ細かく世界観を作って、自分がいちばん描きたいと思うように描き始めるんだけど、言いたいことが多くていろいろ複雑になってくるんです。

 表立って説明する部分で裏にあることを全部書いてしまう人がいるんです。ネームが設定資料になっているような。昔はけっこう許されたんです。

 「西暦何年、人類はなんとかのなんとかであった」というように、バーっとスクロールされるのとか。1970年代までは、あれでよかったし、『NARUTO-ナルト-』ぐらいまでは、それをやってました。だけど最近はあれをやると入ってこれない人がいるんです。

 でも『ダンダダン』には、そういう「何々時代がなんとかである」という前置きが入ってませんよね。

 これは『呪術廻戦』なんかもそうで、キーワードになるセリフのひと言から始まる。ショッキングなシーンから入って、ガッとつかむんです

 つまり、そこにあるノイズを除去しなければならなくて、パソコンで言うところのメモリをクリアする必要があります。

 とにかく軽くするというか、キャッシュをもうどんどん捨てていく。つまり、読者にとっては、そういう説明はゴミなんですよ。

奥野:
 いやでも、お言葉ですけど、それは漫画の種類によると思うんですよね。

久世:
 まあ、確かにそうかもしれない……。

奥野:
 本当に、作者がオリジナルで考えたSFとかになると、ある程度の説明が世界の基準を知るために必要ですよね。

山田:
 もしも、それでよかったら『ダンダダン』もやってたかもしれないですよ。

奥野:
 でも『ダンダダン』は、時代設定が現代じゃないですか。だから入りやすいというか、説明しなくても重力はちゃんとあるし……。

山田:
 たとえば『呪術廻戦』もわりと複雑な設定でしょ。でも、そういう説明はやらないじゃないですか。

奥野:
 でも最近になってやり出したんですよ。

山田:
 それはいいんですよ。なんでかというと、人気出ちゃったから、やってもいいんです

奥野:
 はっはっはっは(笑)。

山田:
 それがものすごい大事なんですよ。最初のフックというか、呼び込むためにはなんにも言わない。説明以外の何が起きているのかという部分で、つかまなきゃいけないんですよ。

奥野:
 なるほどね~。つかみね!

山田:
 じつは『ダンダダン』1話の約70ページで、見事にそれをやってるんですよね。後半に進むにしたがってセリフが増えますから。最後の10ページぐらいは、うるさいほどしゃべってます。

 だけど、それは説明する権利を獲得したんです。キャラクターに興味を持たされて「キャラクターがどうなっちゃうんだ」となった読者は「じつはこの人たちは……」ってバックストーリーなどの細かい説明についてきてくれるんですよ

■読者が共感するのは作者の人間性がこもったキャラクター

山田:
 それはともかく、漫画における流れが何かというと、ひとつは視点なんです。気持ちよく視点がコマ上を動いていくということですね。

 もうひとつは、読者の心理が重要なんです。読者はどんな気持ちでこのシーンを見るかということを作者は想像しなきゃいけないんです。

 たとえば嫌なヤツに、嫌なこと言われているシーンがあるとします。いじめにあってるシーンがあったら、読者は嫌な気持ちになって何を考えるのかまで、想定しなければいけない。

 そこに余計な説明が入ると、流れが止まっちゃうんです。手塚治虫先生がはっきりと言っていたのは「冒頭つかみのところはワクワクさせろ」ということ

 そして「その後は、すぐに中間の盛り上がりを作れ」と言ってました。さらに手塚先生は、そこから「クライマックス手前に少しだけ説明が入ってもいい」と言っています。

 最終的に「クライマックスへと入ったら、一気に畳みかけてオチまでスムーズにやれ」というのが手塚メソッドなんですよ。つまり、手塚先生が言っていることは「説明するときは気を遣え」ということなんです

 説明するときは、読者に負担をかけてるんだから、楽しくテンポよく見せて、楽しいシーン、派手なシーンを入れて、みんなの興味をひいたときに、スっと説明を入れる

 たとえば、めっちゃ強いやつが出てきて活躍した後に、みんなが「こいつ誰なんだ!?」と思ったら、そこで説明を入れるということですね。

 逆に考えると、勢いのない漫画は何かと言うと、読んでいて疲れる漫画なんです。

 それは、まず第一に説明が多すぎるからなんですね。それは、作者が削る努力をしていないということなんだけど、楽したいというよりは漫画をナめてるんですよ(笑)。

 「読者は、これくらいしないとわかってくれないだろうな」と思っているんですね。でも、ギリギリまで削っていけば、ちゃんと伝わるし、シンプルになってくるんです。

 後は、キャラクターの気持ちをわかってなさすぎというのがあります。

 これは共感の話なんですけど、読者が「わかるなー……」と思う登場人物って、作者の中の人間性が出ているキャラクターなんですよ。

 だから『新世紀エヴァンゲリオン』は、おもしろいんです。登場人物が全員ひで(庵野秀明氏)だから。しかもひでは、脱いでますから。

 作者がそこにいる生々しさのようなものは、その作者本人が出ちゃってて、しかもコントロールされてるのがポイントなんです。主演が庵野秀明ではない、シンジ君やゲンドウに分けたりしてますからね。

 共感できるキャラクターには基本的に、作者の人間性が滲み出てるんです。作者の人間性を作品に出さないと、つまりパンツを脱がないと、見てる側の気持ちが動かないんですよ。

 後はテンプレ過ぎというのも、勢いがない漫画にありがちですよね。漫画を描く人は、漫画を勉強すればするほど「こうすれば売れるんじゃね?」ということを言い出して、売れたいから必死になるんですよ。

 でも「こうすれば売れるんだ」ということを全部やると、非常につまらない漫画になるんです。だから、何かしら1個でいいから、新しいものを入れられるかが重要になってきますね。

 そしてこの新しい1個は、作者が人生で見つけたものなんです。その見つけた何かが入ってくると、テンプレが輝くんですよ。

 これは難しいのですが、非常に重要なことなんです。それらを3つまとめた勢いのある漫画を描くためのキーワードはこちらです!

 冒頭で奥野さんが言った通りです! 引き算をしてシンプルにするということですね。ふたつ目は共感性です。読んでる人が「まるで自分だ」とか「このキャラクターわかるわー!」、「こんなやついたな~」と思えるかどうか、ということです。

 3つ目は外しです。読者が「こうなるんだろうな」と思ってたところで全然違ったりする意外性です。この外しが、少しの外しでもおもしろいんだけど、大きく外して「こんなの見たことねえ!」というレベルになると新機軸になります。

 だから、新しいジャンルが生まれちゃうんですよ。そして、手塚先生がいちばん大事だと言っていたのは、新機軸なんですよ。

 意外性の果てに、その作者しかできなかった。もしくは、その人から始まっていくジャンルになるようなのが新機軸なんですよね。『ダンダダン』の何がすごいのかと言えば、この3つを全部やってるところなんですよ


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