極上ドキュメンタリー『クィア・アイ』を語る。過去に地獄を見た陽気なLGBTQ5人組が「あなたを素敵にします!」と人生に行き詰った人を大改造
『クィア・アイ』は、Netflixで製作され、2018年から配信されているリアリティ番組です。2019年11月1日には、日本を舞台とした『クィア・アイ in Japan!』も配信されました。
ファブ5というLGBTQの5人組が出演する本番組について、ニコニコ生放送「山田玲司のヤングサンデー」にて、漫画家・山田玲司氏が、番組の解説とファブ5の紹介を行いました。
山田氏は、一見明るい5人がどのような過去を抱えているのか、どういったテーマが番組に込められているのかを言及。5人の出身地やその家庭環境にまつわるLGBTQ【※】への考えとともに、5人が乗り越えた過去と現在の活動を読み解いていきます。
※LGBTQ……レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、クエスチョニングなど、性的少数者 (セクシャルマイノリティ) の代表的な呼びかた。
※本記事はニコニコ生放送での出演者の発言を書き起こしたものであり、公開にあたり最低限の編集をしています。
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人生に悩む人々の衣食住を大改造! 相談者を肯定して自分自身を受け入れさせるファブ5の活動とは
山田:
『クィア・アイ』は、5人のLGBTQな人たちが、イケてない人をイケてる人に変身させるドキュメンタリーです。
でも実際には、それよりもっと深くて、人生に行き詰ってしまった人を解放して、自由にしてあげるというのが番組の主旨なんですね。
たとえば、オシャレするのが嫌になっちゃった人、部屋もどうでもよくなって汚くなっちゃってるような人など、いろいろなことをないがしろにしてきた結果、人生がくすんだ状態にある人たちがこの5人に依頼するんです。
そうすると、この5人が「あなたを素敵にしてあげます!」と、やってくる番組なんですが、奥野さんはこの番組知ってました?
奥野:
知らなかったです。でも、これは『大改造!!劇的ビフォーアフター』や「亭主改造計画」など、単体でやっている改造系の企画をまとめて、さらに心理カウンセリングまで入っている。行き詰った人を余すところなく救済するという番組ですよね。
山田:
この『クィア・アイ』の「クィア」は何という意味か知ってます?
奥野:
調べました。奇妙な、とか……。
山田:
あるいは、変わり者という言葉から始まって、それがわりと肯定的な意味になったんですね。「イケてるはみ出し者」というニュアンスになっていくという感じです。
奥野:
だから、別の視点で人生をもっと豊かに見ようというような意味。
山田:
男や女というところに生きていない人たちが、もっと自由にもっと素敵に生きましょうとエネルギーを注入してくれる。それで縛られていたものから自由にしてくれるという番組ですね。
元となる番組はけっこう前からあって、2003年から2007年に第1シーズンがあるんです。それが2018年にリバイバルすることになり、新たなメンバーを募集して始まったのが今回の『クィア・アイ』なんです。久世さんはどうでした?
久世:
めちゃくちゃ面白かったです。自分に自信がない牧師さんが相談する回があるんですが、まずキリスト教がそもそもLGBTQを認めることができなかった宗教という前提がありますよね。
それなのに、5人のLGBTQの人の影響で牧師がきちんとリーダーシップを取って教会が自立するという構造が、本当にすごいことをやっているなと感じました。見ていて衝撃でした。
山田:
シミズさんは見てみてどうでした?
シミズ:
僕自身も美容師という人を変える立場にいるので、すごく納得できる部分もありました。
今日もひとりのお客さんが最後に鏡を見て「あ、(自分)変わった」と、自信を持ってもらえたような表情をしていて。そういう変えることで自信を持たせるところはすごくいいなと思っています。ただ、気持ちの半分は心配になっちゃったんです。
山田:
何が心配だったんですか?
シミズ:
全部を劇的に変えるじゃないですか。僕はノースフィラデルフィアの回を見たんですけど、あの地域であそこだけ豪邸みたいな家になるのを放送したら、強盗とか入るんじゃないかと心配でした。
山田:
あっはっはっはっは(笑)。
シミズ:
それと、成功体験の後の言葉は、すごく妄信しやすいんですよ。
山田:
騙されちゃうんじゃないかと。
シミズ:
「ファイナンシャルプランナーの人を用意したよ」と言われたときに、ちょっと見てて心配になったので、いい部分と心配な部分が半分半分というのが僕の感想です。
一見陽気な5人組でも過去は壮絶──LGBTQに対する理解からシリアスな過去が
山田:
続いては、メンバーの紹介をしていこうと思います。
まずは、料理担当で超イケメンのアントニ・ポロウスキさん。両親がポーランド人で、カナダ生まれなんですが、お父さんがめちゃめちゃきびしいお医者さんだったそうです。
『クィア・アイ』のメンバーは基本的に、性的指向に関して家族が理解してくれなかったんです。
この人は、18歳でほとんど無一文の状態で家を追い出されて、そこから料理に興味を持って独学で料理を研究して、学んでいくんですよ。しかも、追い出されたのに大学行って、心理学の勉強してるんです。ただのイケメンじゃないんですよ。
だから、家族の問題で彼も傷を抱えながらも、自分のことをだんだんと受け入れて、明るくなっていく。そういう生き様にとてつもない説得力があるわけですね。
つぎは、ファッション担当のタン・フランスさん。
イギリス生まれで、両親がパキスタンの方なんですが、お父さんが宗教的な理由からLGBTQカルチャーをまったく許してなかったそうです。だから、父親が早く亡くなったことで自分は潰れなくてすんだと、言っていました。
タンさんはファッションを大事にする方なんですが、昔一時期、自分のファッションや生活がどうでもよくなってしまった時期があったんです。そうしたら彼氏に振られてしまったと、ファンサイトに書いてありました。
そして、カルチャー担当のカラモ・ブラウンさんは、オーディションのときにカルチャーについて聞かれると「俺がカルチャーだ」と言ったらしいですね(笑)。
久世:
かっこいいなあ……。
山田:
テキサス生まれで、テキサスはマッチョなところじゃないすか。なのに、そこで17歳にカミングアウトしてるんですよ。その後、大変な思いをしながら自分の力だけで生きてきた人らしいです。
この人がとても心理面のサポートが見事で、人を肯定し、受け入れるということがものすごくうまいんです。
奥野:
カルチャー担当というよりもメンタル担当ですね。
山田:
そうですね。とても優しくて素敵な人ですね。次はインテリア担当のボビー・バークさんなんですが、この人もテキサス出身なんです。家もキリスト教で、同性愛は悪というような家庭で育ったんですよ。
教会に行っては、お父さんが自分の息子について「どうか同性愛者にならないでくれ」と神様にお祈りしてたそうです。
そのせいでこの人は教会に行くのを嫌がってたらしく、それがトラウマになって家を出てから、15歳でホームレスになってるんですね。すごいのは、この後、24歳で家具ショップを立ち上げて、それが成功してるんです。
ボビーさんが部屋をいい感じにしてくれるんですが、どうやらファブ5の中でいちばん働いているらしいですね。
奥野:
ボビーさんの負担が大きい番組ですね。
久世:
確かに。
山田:
最後にジョナサン・ヴァン・ネスさんは美容担当のイリノイ州の方で、お父さんがジャーナリストだったそうです。
奥野:
自分自身のチアリーダーになるの、ハニー!
山田:
この人は本当に高校生のとき、チアリーダーだったらしいです。ただ、このメンバーの中でも相当ハードな過去があって、教会で性的な虐待にあってたらしいですね。
久世:
大変やん……。
山田:
だから、すごい重いものを抱えているわけです。後、この人はHIVポジティブを告白しています。いまは薬で抑えているので、体は元気でやっていけると。
それで、男でも女でもない、どちらでもないというノンバイナリーとして生きています。あらゆることを克服してて、この人がいちばん明るいですよね。
奥野:
いちばんはしゃいでる。
山田:
ずっと踊ってるし、歌ってるし(笑)。
奥野:
日本版の回とかめちゃくちゃはしゃいでたもん。
山田:
もうすごいよね(笑)。でも、基本的にこの人たちは最初から明るかったわけじゃなくて、いったん地獄をくぐってから、光の方に抜けた人たちなんです。
・「山田玲司のヤングサンデー」YouTubeチャンネルはこちら
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