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ゲーム『ウマ娘』で制作済みの音楽をほぼ全曲作り直すことになった理由とは? まるで”ウマ娘2″を作るように──「うまぴょい伝説」から始まった楽曲制作5年間の歩み

 「制作済みだったBGM30曲以上をほぼすべてリメイクすることになった」

 「『ウマ娘2』を作っているくらいの意識に近かった」

 『ウマ娘 プリティーダービー』(以下『ウマ娘』)開発初期より、約5年に渡って二人三脚で楽曲を手掛けてきた本田晃弘氏内田哲也氏はそう語る。

 本田晃弘氏は『メタルギア』シリーズなど数多くのゲームミュージックを担当。『プリンセスコネクト!Re:Dive』(以下『プリコネR』)でもサウンドプロデューサーを務めている。「うまぴょい伝説」を生み出した張本人でもある。

 内田哲也氏は「お願い!シンデレラ」をはじめ数多くのアイドルソングを手掛ける作曲家。『アイドルマスター シンデレラガールズ』では音楽プロデュースを手掛けている。

本田晃弘氏(左)、内田哲也氏(右)。

 楽曲制作陣の豪華さもすごいが、それ以上に、すでに出来上がっていた30曲以上のBGMを作り直していた事実に驚きを隠せない。

 確かに『ウマ娘』は、プロジェクト発表から約5年、事前登録から約3年というロングランを経てのリリースとなったスマホゲームだ。長期開発ゆえに苦労したこと、大変だったことはもちろんあるだろうが、ほぼ全曲リメイクすることに至ったのはなぜなのか

 また、移動中や食事中などに触れる機会の多いスマホゲームにおいて、音を消してプレイするユーザーも少なくないだろう。それにも関わらず、なぜそこまで音楽に力を注ぎこんでいるのか

 そんなおふたりの楽曲制作にかける想いに迫るべく、ニコニコニュースオリジナル編集部では本田氏、内田氏の対談企画を実現。

 いかに楽曲制作に取り組んできたのか、『ウマ娘』の原点とも言える「うまぴょい伝説」の制作エピソード、音楽という視点から見た『ウマ娘』の魅力など、これまでの開発の歩みを根掘り葉掘り聞かせていただいた。

取材・文/竹中プレジデント
撮影/トロピカルボーイ

『ウマ娘2』を作るくらいの意識でゲーム内BGMはほとんどゼロから作り直した

──リリース直前の忙しい時期にお時間をいただきありがとうございます! 「『ウマ娘』は音楽にもこだわっている」と、お聞きして本日は参りました。

 『ウマ娘』の楽曲は本田晃弘さんと内田哲也さんが開発初期から二人三脚で手掛けられてきたとお聞きしました。まずはそれぞれの開発における立ち位置について教えていただけますか。

本田晃弘(以下、本田)
 よろしくお願いします。ゲーム内におけるBGM担当のミュージック・プロデューサー本田です。

内田哲也(以下、内田):
 歌唱曲などを担当しているミュージック・プロデューサーの内田です。よろしくお願いします。

──本日は『ウマ娘』開発初期からこれまでのお話を根掘り葉掘りお聞きできればと思っております。それにしても、グラフィックの進化が本当にすごくて……。リリース前に発表されたPVでもキャラクターがなめらかに動いていて衝撃を受けました。

本田:
 ありがとうございます。僕自身もまさかここまでキャラクターが3Dで動くゲームになるとは思っていませんでした。ですので、それに付随してすでに制作済みだったBGM30曲くらいをほぼすべてリメイクすることになりましたね。

──えっ!? リメイクとはどういうことですか?

本田:
 僕が『ウマ娘』のゲーム内BGM担当として本格的に参加する前に作られていたものは、ここまで3Dで動くゲームになるとは想定していない音楽の作りかたでした。

 以前の『ウマ娘』ならそれであっていたかもしれませんが、開発が進んでいった『ウマ娘』と合わせたときに音楽があっていなかった。

内田:
 開発期間が長くなってしまったことで、その間に技術の進歩やスマホ自体の性能向上もあり、当時は実現したくても難しかったことができるようになり表現の幅が広がりました。プロジェクト全体としても『ウマ娘2』を作っているくらいの意識で取り組み、改良を重ねてまいりました。

本田:
 そう。ここまでゲームとしてのクオリティーが上がっているのに、音楽だけ追いついていないな、と感じて。「新規でBGMを作り直させてください!」と打ち合わせで発言したのが、ミュージック・プロデューサーとしての初仕事だったと思います。

内田:
 2018年4月から放送されたTVアニメ第1期の影響も少なからずありましたよね。

本田:
 うれしいことに、アニメを楽しんでくださった声も多くいただきました。そんなアニメファンの方々にも喜んでもらいたいと、アニメ劇伴(作中で流れる音楽)を使ったり、アニメでも使ってもらえるような音楽を作ったり、いい意味で意識はしていました。

ストーリー、演出、音楽あわせて最大限に楽しんでいただけるように

──ゲーム内BGMをほとんどリメイクしたとのことですが、具体的にどのように作り直したのでしょうか。

本田:
 イメージとしては、それこそアニメの劇伴に近い役割でしょうか。メインストーリーとウマ娘ごとの個別のストーリーに関してはフルボイス対応なのですが、すべてのセリフに対してモーションもついていて、キャラクターたちがまるでアニメのようになめらかに動きます。

 とにかく絵と演出の力が強いので、音楽は一体感を生むためのバックミュージックとして脇役に徹するようにしています。

──なるほど。キャラクターが動くようになり絵の力が増したことで、BGMとしての役割が変化したと。

本田:
 はい。お話やゲームに集中したいのに音楽へ意識がいってしまうのは、音楽としての役割が果たせていないと思っています。一体感を生むという音楽を意識していることで、世間に出回っているゲームと比べると全然ゲーム音楽っぽくないかもしれませんね。

 ただ、ストーリー、演出、音楽あわせて最大限に楽しんでいただけるように作らせていただいたので、メインストーリーだけでもオートモードで見ていただけるとうれしいです。

内田:
 音楽演出まわりについては、ひとつひとつ、かなりの時間と労力をかけて丁寧に練り上げてましたよね。

──ストーリーをオートで見てほしいという想いとは?

本田:
 じつは『ウマ娘』では、ストーリーをオートモードで見たときに、BGMが物語の展開とリンクして演出として機能するように、音量の変化や曲の切り替わりなどを全部制御しているんです

 メインストーリーでは、アニメの音響制作現場で言うところのダビングのように、細かく音声、音楽、効果音をリアルタイムに音量を変化させています。

 普通は音声や効果音が再生されたら音楽の音量を一律に下げる、という自動処理を入れるのですが、『ウマ娘』では演出によって場面ごとに個別に音量を変化させているんです。

──ええ……それはすごい。自分は文章を読み終えたらボイスがあっても、タップして進めてしまうので、このお話を聞けなかったら一生オートで見ることはなかったかもしれません。

本田:
 おっしゃる通り、ゲームのストーリー進行はオートモードにしない限り、ユーザーさん自身のタップのタイミングで進行度が異なるため、シーンにあわせてBGMの細かい演出が難しいんです。

──確かに確かに。

本田:
 もちろんコンテンツによりますが、ストーリーや音楽は、ゲーム開発のなかで削られやすい部分であります。ストーリーが短くても、同じBGMを流しっぱなしでも、ゲームとして破綻するわけではないですから。

 だからこそ、演出として音楽にもこだわることが、「最高のコンテンツ」のうえで外せない条件になっていると思っています。

──とは言え、ストーリーをスキップする層も少なくないなか、そこに力を注ぎこむというのはいやはや……。ストーリーをオートで見てかつその演出に気づく人って割合としたらものすごい少数だと思います。

本田:
 そうかもしれませんが、私が担当している弊社のタイトルの『プリコネR』においても音楽とお話の演出がリンクしていることに気づいてくださる方はいらっしゃって、そのような方々に喜んでいただけることを何より大事にしたいという想いがあります。

 もちろんタップで読み進めた場合にもBGMとして成り立つようにしつつ、オートで見ていただけたときにはアニメのように楽しめる。そう作らせていただきました。

ワインを2本開けて作った「うまぴょい伝説」誕生秘話

──ここからは、2016年に行われたAnimeJapan 2016でのプロジェクト発表と同時に公開された、ある意味『ウマ娘』の原点である「うまぴょい伝説」についてお話をお聞きしていければと思います。本楽曲の作詞・作曲・編曲を担当された方こそ何を隠そう本田さんと。

本田:
 そうですね。恐らく「うまぴょい伝説」を作ったのがこのプロジェクト最初の仕事でした。

──「うまぴょい伝説」の楽曲、さらにはPVともに非常にコミカルなテイストでしたよね。ただ現在は作品全体の雰囲気がガラリと変わっている印象です。アニメの影響が強いのかもしれませんが。

本田:
 全然違いますね。当時は、ゲームなのかアニメなのか、プロジェクトの今後がどう展開していくのか確定してなかったかと思います。

 楽曲のオーダーも「電波ソング」でPVのインパクトを重視。「何かCygamesがおもしろいことを始めた!!」と思っていただくのが目的でした。

──以前、リアルサウンド掲載のインタビュー【※】では、「うまぴょい伝説」を作る際にどうしても電波具合が出せなくて「ワインを2本開けて(パンツ1枚になって)作った」とも語っていられましたが、これは本当なのでしょうか?

本田:
 本当です。それまでに「うまぴょい伝説」のような電波ソングを作ったことがなくて、作っては違う……作っては違う……というのをくり返していたんです。

 そんなとき、気づいたんです。「変に自分に格好つけてるから作れないんだ」と。そこで、「お酒を飲んだら自分を捨てきれるかも」「これは飲むしかない」とワインを2本ほど開けたんです。そんな状況でボイスメモに向かって歌ったメロディが「うまぴょい伝説」でした。

内田:
 だからこそあの曲が生まれたのですね。本当に天才だ、と思いました(笑)。

本田:
 嘘つけっ!(笑)

内田:
 いやいや本当に(笑)。そんな無茶な曲の作りかた、僕にはまったく考えられないですよ。

──ちなみに酔いが覚めてから、この曲を聴いた瞬間どうでしたか?

本田:
 いやあ……めちゃくちゃ恥ずかしかったです(笑)。酔った男が歌うアカペラ「うまぴょい伝説」を想像してみてください……。

──(笑)。

本田:
 ただ、女性が歌えばかわいいものになるかもという感触はありました。ですので、社内の女性に歌っていただいたんです。すると……。

──……すると?

本田:
 劇的にかわいかったんです! 周囲のメンバーからの反応もよくて。最終的に、Aメロの部分だけは調整を入れたんですが、それ以外はワインを開けて歌ったボイスメモのままいくことになりました。

──歌詞についてはどうだったんですか?

本田:
 あくまでメロディだけで歌詞は「うーーーーてけてって」や「うーーーうまぴーうまぴー」って言っているものでしたね。

 ですので、歌詞については後日、お酒の入っていない状態で考えたものです。ただ、1番の歌詞に関しては仮のまま世に出ることになっちゃって……。

──え?

本田:
 歌詞については、まず仮のものを仮歌といっしょに出して、もし採用されたらしっかりと書き直そうと思っていたんです。でも、いつの間にか「これでいこう」となってしまったという。

「うまぴょい伝説」1番歌詞。

内田:
 出だしのインパクトで掴まれたまま言葉の勢い感でまんまと乗せられてしまいますが、とくに1番の歌詞は冷静に読むとよくわからないのですよね(笑)。

 収録の際、よくキャストさんからは「ワッフォー」「ベイゴー」ってなんなんですか、と聞かれました。これ、ワッフルとベーグルのことですよね?

本田:
 ノリで英語っぽく言っているだけなんです。あと、歌詞を見ていただくとわかるんですが、ひらがなや伸ばし棒が多いじゃないですか。なぜだかわかりますか?

──うーーーん、「ひらがなのほうがかわいいから」くらいしか思いつきません……。

本田:
 じつは、ひらがななのはキャストさんが歌う際に歌詞を読みやすいように、伸ばし棒が多いのは歌ううえで伸ばすところをわかりやすいように、あくまでもレコーディング用の歌詞カードとしてそうしていただけなんです。

内田:
 収録の際に使う歌詞と、ブックレットに掲載するための歌詞は表記を整えたりして、ちょっと違ったりすることが多いのですが、公表されている「うまぴょい伝説」の正式な歌詞表記は収録時に使用している歌詞表記そのままですね。

本田:
 そう。「うーーーー」と伸びている部分は「うー」ですとか、「おひさま」も「お日様」と、本当は清書するはずだったんです。でも「このほうがおもしろいからこのままで」いこうと

──まさかの(笑)。

内田:
 僕はそんな緩いところが、曲に合っていていいなあと思いますよ。

本田:
 曲のタイトルも確か100個くらい案を出したんですよ。

──100個も!?

本田:
 はい。最初にこれでどうですか?と出したタイトルが「うまぴょい伝説」だったんですが、違う案も考えてみようという話になって、思いつく限り案を出してその中から選ばれたのが「うまぴょい伝説」でした。

──「うまぴょい伝説」というタイトルが、まさか100倍の倍率を勝ち抜いていたとは……。

「うまぴょい伝説」は歌も踊りもとっても大変

内田:
 『ウマ娘』の歌収録に関しては、僕がほとんどのディレクションを担当しているのですが、「うまぴょい伝説」は本線メロだけでも曲者なのに、追っかけガヤにセリフ、ハモと収録箇所が多く、他の曲と比べても2倍はあります。キャストさんは皆、大変な思いをされたと思います。

本田:
 それはすごく感じました。加えて、当時の振り付けって今と比べるとかなり難しかったので。

内田:
 そうですね。収録でさえ苦労するのですから、ライブとなると振りも加わるのでより一層難易度が上がります。今は若干ではありますが、振りを見直している部分もあり、当初よりかは軽減されてはいますけども、それでもキャスト陣からは「うまぴょい伝説」は歌も振りも大変だと言われます

 歌詞についても序盤から「おひさまぱっぱか」ですからね。これは歌いづらいですよ(笑)。 

本田:
 「たったか」と言ってしまったり、思わず噛んでしまったり(笑)。

内田:
 はい。そのあとも「めんたまギラギラ」が地味に言いにくい。もはや早口言葉ですよね。

本田:
 そうそう。レコーディングで苦戦されている方が多かった。でも、ライブの際にはしっかり練習して完成させている姿を見て、ライブ中はお父さんのような気分で胸が熱くなってしまいました。よくやったよくやった……うんうん……って(笑)。

内田:
 キャスト全員が収録する、いわゆる“全体曲”はさまざまなキャラクターが歌うことを想定し、音域を1オクターブ+2音くらいに設定して作ることが一般的です。

 そうすることで声の高いキャラ、低いキャラ、ウイスパー系のキャラも大声のキャラも、それぞれの個性を発揮しやすくなり、活き活きと歌ってもらうことができるんです。「うまぴょい伝説」はそんなことなど関係なく作られていたので、初めて聴いたときは驚きました(笑)

 ただ例えば、いつもの音域より高い音を歌おうとした際やちょっと歌いにくい歌詞を歌おうとした際の、そのがんばりや必死感みたいなものが自然にテイクに乗ってくるのですよね。

 それらが積み重ねられて楽曲の勢いや力強さに繋がる。とくに『ウマ娘』にはそれがコンテンツの方向性とも合致しているという。大変勉強させていただきました。

──まさか「うまぴょい伝説」がそこまでキャストさん泣かせな曲だったとは。

内田:
 じつは以前、一部の『ウマ娘』キャストオーディション課題曲が「うまぴょい伝説」だった時期もありました。

本田:
 この曲がオーディションだとは……誰だ、こんな曲を選んだのは(笑)。

内田:
 コンテンツを代表する曲でありますし、とくに元気系のウマ娘には合っていると思って選んでいたのですが、歌唱面をチェックする楽曲としては適していませんでしたね……。ですので最近は課題曲からは外しています。

本田:
 それがいいと思います。

内田:
 でもいろいろなキャストさんから「うまぴょい伝説を歌いたい」と言われますよ。

本田:
 本当に? 初期の非難ごうごうだったときの反応を思い出すと、まったく信じられない(笑)。うそでしょーー??

内田:
 本当です本当です。ライブイベントでのトレーナーとの一体感を経験するとクセになるとか、ならないとか(笑)。

ゲームのメインテーマ「GIRLS’ LEGEND U」は「うまぴょい伝説」の正統進化版

──いろいろお話を聞いてきて、やっぱり「うまぴょい伝説」ってファンからもキャストさんからも愛されている曲なんだなあと。

内田:
 ウイニングライブでの「うまぴょい伝説」に関しては、全ウマ娘の歌が収録されているので、担当や推しのウマ娘に「うまぴょい伝説」をぜひとも歌わせてあげてください。

──まさかの全キャラ分収録ですか。でも、『ウマ娘』の代名詞とも呼べる曲ですからそれはうれしいですね。

本田:
 でも、今あの曲を『ウマ娘』用に書いたら完全にボツだと思います。

内田:
 いやいや、そんなことは。

本田:
 でもメインテーマにはならないでしょ?

──と言いますと?

本田:
 当時はインパクト重視だけで作ればよかったんですが、今は違いますウマ娘たちのさまざまな葛藤やがんばり、試練を乗り越えていくという物語がある。あくまで何も決まっていなかったプロジェクト一発目だから作れた曲で、今この曲を作ったら本当にヤバい人になってしまいます。

内田:
 それで言うと、ゲームのメインテーマ(主題歌)は本田にお任せしたんです。僕が作ろうとしてみたこともあったのですが、音楽プロデューサーである立場の自分と楽曲制作者である自分の間に葛藤があり、なかなか納得のいくものが作れなくて……「本田さん助けてーっ」と。

──なるほど(笑)。「うまぴょい伝説」と同様、本田さんが作詞作曲されたんでしょうか?

本田:
 今回、僕は作曲とプロデュース、ディレクションを担当しました。「GIRLS’ LEGEND U」という曲なんですが、じつはこの曲は「うまぴょい伝説」の正統進化を意識して作ったものなんです。

──正統進化ですか。そう言われてタイトルを見てみると、「U」が「ウマ」、「GIRLS’ 」が「娘」、「LEGEND」が「伝説」で“ウマ娘の伝説”で「うまぴょい伝説」との系譜を感じる部分はあります。タイトル以外ですとどのあたりが正統進化たるゆえんの部分があるのでしょうか。

本田:
 長らく待ってくださったユーザーのみなさんに、普通の曲を届けても納得してもらえないだろうな、そしてすぐに飽きられちゃうだろうな、と。

 そう思ったとき、「ん? 待てよ、普通に作ったら納得してもらえなかった時があったな……うまぴょいのときか!」と思い出しまして。「うまぴょい伝説」のようなインパクト重視でありながらも、電波でない正統な方向での「うまぴょい伝説」を作ればよいのではないか! と。

──ふむふむ。ズバリ、この曲で表現したかったテーマとは?

本田:
 ウマ娘たちのひたむきさですね。ゲームを作るにあたって、競馬の知識も増え、競走馬を育てるたくさんの人たちの姿も見させていただいたりして、競馬というのは本当にいろいろな人の想いが詰まっているんだと実感しました。

 ウマ娘もひとりだけでがんばるわけじゃない。ライバルがいる。トレーナーがいる。応援してくれるファンがいる。そんなさまざまな人たちの想いを表現したい。そういう想いを込めました。

「Cygamesのサウンドチームに変な人がいる」と紹介されての出会い

──ここからは『ウマ娘』サウンドチームの体制についてお聞きしていければと思うのですが、そもそもおふたりが『ウマ娘』の楽曲を担当することになったのっていつくらいからなんでしょう?

本田:
 2016年3月に行われたAnimeJapan 2016で発表した「うまぴょい伝説」を作ったのが作曲家としての最初の仕事だったと思います。その後、ゲームのBGMに関わるまでは随分と間があいてしまいましたが。

内田:
 僕はそのAnimeJapan 2016のときはまだ別の会社に在籍していまして、『ウマ娘』や「うまぴょい伝説」のことは噂では聞いていました。

 Cygamesが新しいコンテンツを発表して、そのテーマ曲がものすごいインパクトの電波曲だと。まさか自分がそのコンテンツにがっつりと関わらせていただくことになるなんて、思ってもみなかったですが(笑)。

──内田さんはどんな経緯でCygamesへ?

内田:
 当時、自分の成長のために新しいことに挑戦してみたいと考えていて、新天地を求めていました。その際に、会社も若くて刺激もありそうだと、Cygamesに転職したのが2016年の12月です。

──ではおふたりが出会ったのは、『ウマ娘』のサウンドチームに内田さんが入ったあたりで?

内田:
 いえ。出会いということでいうと、僕がCygamesに入社する半年くらい前ですかね。

 それぞれ別の収録で同じ場所にあるスタジオを使っていたときにたまたま会ったのが最初です。確かCygamesのサウンドチームに変な人がいるって聞いて紹介されたような(笑)。

本田:
 失礼(笑)。かなり昔なので記憶が曖昧ですが多分そうです。

内田:
 その後、Cygamesに合流してその当日から『ウマ娘』の歌収録ディレクションに入るようになったので、わりとすぐいろいろと話すようにはなりましたね。

──では本当にプロジェクト初期のころからごいっしょに楽曲まわりを担当されてきた感じなんですね。実際に開発のなかで直接やりとりする機会って多いんでしょうか。

本田:
 基本的に、BGMチームと歌のチームはそれぞれ独立して動いているので、直接的なやりとり自体は多くないです。僕の場合は歌を作ったときに歌チームに合流したりもしますが、基本は別働隊です。

──体制としては付き合いが長いと先ほどお聞きしましたが、お互いについてどういう印象を持っているかお聞きしてもいいですか。

本田:
 僕とはスキルもキャリアもまったく別のものを持っている方というのはずっと思っていました。歌に関わることを全部お任せできる。自分が口を出す必要はないなと。

内田:
 それは僕も同じで、BGMに関しては本田に任せればしっかり良いものが上がってくると、仕事仲間として信頼しています。

 ただ、お互いそれぞれの担当業務が多いこともあり、またこのコロナ禍の影響で直接話す機会が少ないからか、「じつはあまり仲良くないのでは?」とチームの若い子らが噂しているようで(笑)

──あらっ。

内田:
 もちろん、そんなことなどまったくないです(笑)。ただ、お互いの領域を任せ合っているので、交わることがそこまで多くないだけという。

本田:
 ベテランの芸人さんコンビが近いのかもしれません。楽屋が別で、プライベートもいっしょに過ごすわけではない、でも番組に出たら自分の役割をしっかり果たして良いコンテンツを作っていく。

内田:
 上手いこと例えますね(笑)。サウンド部のメンバーの多くは、僕らよりひとまわりくらい若いから、気を遣わせてしまっているのかも。

本田:
 息子娘世代くらい離れている人もいるからね。

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