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学校に通わないことも一つの選択肢として受け入れられる社会に── 「明日、学校へ行きたくない」という人たちから寄せられた投稿について考える【話者:茂木健一郎、信田さよ子、山崎聡一郎】

カーストでいつ自分が被害者になるか不安で早く卒業したかった

山崎:
 次を読みます。これは過去の体験談ですね。

投稿者5:
 中学生の頃、女子のカーストがあり、常に誰かがターゲットになって無視されたりしていて、私もいつ被害者になるか不安で過ごしていました。

 その状況を見るのもつらく、またいじめられた子をかばうと私にも当たりが強くなるので早く卒業したかったです。

茂木:
 スクールカーストって本当あるんですか?

信田:
 あると思います。それってやっぱり学校のシステムとか、家族のシステムの反映だと私は思っています。

茂木:
 僕のときはスクールカーストってなかったけどな。それって女の子だけ?

信田:
 男子もありますよ。

山崎:
 男子もあると思います。それが明確にカーストになってるわけじゃないですけど、いじめっ子が固定化されてくるんです。

 いじめって被害者は入れ替わってくんだけど、加害者が固定されてるみたいなことが起きたりすることがあって、それはもう完全に、カーストと言わないけれどもカーストになってますよね。

茂木:
 社会学者とかが便利に「スクールカースト」とネーミングすることに対してはかなり違和感あるんだけど、それどうやって定義してんだよって。
 そういう言葉作ることで、逆にそういう現実を固定化しちゃうと困ると思うから好きじゃないんですよ。

山崎:
 どちらかというと、スクールカーストという言葉は、元々、学術用語として定義、深堀りされてきていて、現在では一般用語になっている印象があります。

茂木:
 自然発生で出てきたの?

山崎:
 そうですね。自分は社会学が一応専門ですけれども、論文でよく見るというよりはむしろTwitterなどのSNS上の議論を見ていてスクールカーストという言葉が多く出てきたり、被害経験者が「スクールカーストが~」という言い方をしたりというイメージのほうが強いですね。

信田:
 そういう言葉なんですね。

いろいろつらい。心に影響する

山崎:
 最後の投稿です。これは9歳の女子からです。

投稿者6:
 手の皮がむけて痛い。熱が度々出ます。ずっと休んでいます。久しぶりに行くときみんなと会うのが心に影響する。何か気まずくなるんです、めちゃくちゃ。熱中症と、コロナと、皮と、気まずいのが悩みです。

 家での勉強は学校でやるのよりはましかなと思います。通信教育始めました。コロナだけどみんな休んでないとか言われたらつらいです。

信田:
 つらいお便りでした。

山崎:
 いろいろと読んできて思うのは、投稿してくれた子は9歳ですが、現在進行形でいじめを受けていますという投稿は全体としてはかなり少ないんです。どちらかというと、「あのときいじめに遭ってました」という投稿のほうが多いです。

 番組が始まる前に信田さんと「やっぱりしゃべれるようになるには、そのぐらいかかるのかな」という話もしたんですけど、そういうところを意外と反映しているのかなというふうに思います。視聴者も現役の学生というよりは今は大人になっていて、「あのときは~」と振り返れるようになっているんだと思います。

信田:
 そうですね。トラウマ理論というかトラウマ治療が2000年代からずっともう今、20年ぐらい日本でも多いんですけど、トラウマというのは渦中にいるときはなかなか語れないけど、少し時間が経つと語れるというふうに言われてるんですね。

 だから事後的に、そういうふうに語ることでいじめについて言語化できると思います。だから周辺の人からすると、いじめの渦中にいる人ほど声を上げるべきだし、上げるだろうというのは誤解が多いと思います。なかなか上げられないんですよ。

 だから今、コロナの影響なんかも、来年になったらもっとはっきりしてくると思うんですよね。まだまだ渦中だから、いろんなことがわかっていないというふうに私は思っています。

山崎:
 それは子どもだけじゃなくて大人もですね。

信田:
 そうですね。自殺者や虐待なども。

茂木:
 皮膚はお医者さん行ってなるべく治療したほうがいいと思うんだけど、いろんな調子悪くなったとき、見た目とかいろいろ変わったりするじゃない?
 日本の社会では「ルッキズム」と本当によく言われているんですけど、イケメンとかそういう言葉本当嫌いで、下品な言葉だなとか思うんだよ。

 日本のメディアの中にある、そういうルッキズム的なことって、子どもたちにも絶対降りていってるから。僕、日本のお笑いに対してすごく批判的で、この前も、とある女性のお笑い芸人としゃべっていて、女芸人は見かけとかをネタにするって言うんだよね。

 そういうところが、やっぱり子どもたちにも降りていってる気がするんだよね。

信田:
 そういう子たちにはちょっと過酷ですよね。昔は「見栄えよりも心」というのがあったじゃないですか。今そんなこと言わないでしょ?

茂木:
 いや、言うんじゃない?

信田:
 言うんですか?(笑)

茂木:
 この9歳の女の子、つらいでしょう。

信田:
 大変ですよね。

茂木:
 そういうことで人をいろいろ言っちゃいけないよということを、みんなが言わなくちゃいけないんだけど、地上波テレビとかメディアがそういう価値観を振りまいているから日本の社会は本当にどうしようもないと思うわ。

「言わないけど、SOSに気づいてほしい」子どもの本音

山崎:
 いじめに遭ってる子がそれを言い出せるかという問題があって、今日の投稿を紹介したときに「あのときいじめに遭ってました」をいう話をしましたけど、中学生へのアンケートによると、自分がいじめに遭っているとは親とか先生には言わないそうなんですよ。

 ただ言わないけど、気づいてほしいとアンケートに書いてあって、それは大人からすると「また難しいこと言うね」と思うけれども、やっぱり言えないという気持ちもすごくよくわかります。

信田:
 そうですね。「言わないとわかんないのか」という発言がよくありますけど、親って子どもに関心ない場合が多いですよね。

 子どもの成績や、身長や、走る速さには関心があっても、今何を感じてるのかとか、今日一日楽しかったのかなということには関心のない親ってすごくいますよね。

山崎:
 そうですね。逆に気づける、気づけましたという事例を聞いていくと、よく気にしているなって思うんです。

 その「よく気にしているな」というのは、いじめに気づかなきゃと常に気を張っている、という意味での「気にしてる」ではなくて、普段から何気ないコミュニケーションを取ってるんですよね。それで些細な変化から気づいていくという、普段からの差が出るんだなと思います。

信田:
 私が一番それを感じたのは、「リストカットしたことを親が気づいてくれるかなと思って、朝ご飯を食べるときアピールしてたのに、1カ月間全然気づいてくれなくて絶望した」という体験談を聞いたときで、子どもにご飯を作るけど、子どものことを見てない親もいるんだなと思いましたね。

山崎:
 だから何も言わなくても気づく親もいる一方で、子どもがわかりやすくサインを出しても気づかない親も言わなくているということですね。

信田:
 親子なのにね。

茂木:
 だから本当に子どもが子どもであるだけで、全面的に肯定してあげなくちゃいけないのに成績とかそういう条件つきで愛情とかはおかしいし、そもそも学校の成績なんて別に大したことじゃないし、健康で生きてればいいじゃないですかって思うけどね。それ以上のことある?

信田:
 そう言われたらないですね。

山崎:
 成績といえば、子どもたちの安全と安心というものが、成績と本当は密接に関わっているんです。

 これは学術的なエビデンス(証拠)を参照したわけじゃないですけど、大学生の頃、個人的に家庭教師をしていた子どもで、成績が良くない子ばかり見てたんですよ。

 でも特に勉強を教えなくても、学校の不安とかを取り除いてあげるだけで、成績が基本的に全部上がってるんですね。

信田:
 面白いですね。

山崎:
 それは別にいきなりクラス1位になりましたということではないんですけど、でも平均点に限りなく近づいていくというのはかなりの変化でした。

 同じことをおっしゃる元校長先生もいます。なので、勉強スタートでいいのかなというところは経験上思うところで、いつかそれもデータで示せたらいいと思っています。

茂木:
 そもそも成績を上げることがそんなにいいのかというのも(笑)。僕も別に極論を言ってるつもりなくて、つい20年前30年前はもっと多様な価値観があった気がするし。

信田:
 そうかな。

茂木:
 そうでしょ。だって大学なんか別に行かなくても。

信田:
 私、団塊ですけど、1割しか大学に行けなかったですね。

茂木:
 そういうことも含めて人間の能力なんて多様なんだから、僕から見ると学校の成績ってすごく取るに足らないことのような気がするんだけど。

信田:
 受験ってごく一部の能力だけですよね。

茂木:
 ユーミンみたいな曲をあの年代から書ける能力とかに比べたら、学校の成績がいいって別にごく平凡な能力でしかないじゃない?

信田:
 そりゃそういうふうに思ってもらいたいですよ。

 子どもの問題で相談にいらっしゃる親御さんの中でも特に母親は、子どもが普通でないということに心底、「自分の何が悪かったんだろうか」と自分を責めるので、今の茂木さんのそういう「成績なんてごく一部ですよ」とか「生きてりゃいいんですよ」とか、録音しておいて聞かせてあげようかな。

山崎:
 「学校で習うことなんて取るに足らなくて」という言い方が、学校で本当に勉強をやりがいにしてたりとか、勉強でいい成績を取ることに全身全霊を懸けてる子を追い詰めるような言葉にはしないようにしなきゃいけないなってのは思うんですけど。

茂木:
 もちろん。僕、Rubyを作ったMatzことまつもとゆきひろさんと対談したときに驚くべきこと聞いて「Rubyを作ったから、Rubyって言語を作ったわけですよ」と言うんです。

 さらに彼は高校3年生のときの数学IIIの成績が10段階評価で1だったって言ってたの。

信田:
 本当ですか?

茂木:
 あと、中国の大手IT企業「アリババ」創業者のジャック・マーはプログラムを一行も書いたことないって自分で言ってる。

 だから大らかな気持ちで自分のお子さんを見ていただきたいなと思うんですよ。

山崎:
 それは本当にそう思います。さっきの家庭教師の事例でも、最初の説明で親が「自分の子どもは全然勉強しない子」と言っちゃうんですよ。
 まず成績を上げるというか勉強できるようにしてほしいと言われるんですけど、何てことはなくて「君はすごい!」と言っているだけで、何も教えなくても自分で勉強するようになっちゃいますから。

茂木:
 それ本当にそうで、その子の存在を肯定してあげることなんだよね。これが一番の基本ですよね。

相談窓口紹介

茂木:
 ということで、今日いろいろお話聞けました。

山崎:
 このあともまだ悩みが絶えない場合には、相談窓口もあるのでそちらを最後に紹介しようかな思います。

 「#学校ムリでもここあるよ」。

 「チャイルドライン」。通話無料で午後4時~9時まで相談で電話できます。

 「弁護士による子どものためのLINE相談」。LINEの相談窓口を東京弁護士会、第二東京弁護士会が開いてますので、そちらもよろしければご活用ください。

・#学校ムリでもここあるよ – 公式キャンペーンサイト
https://cocoaru.org/

・チャイルドライン 18さいまでの子どもがかけるでんわ
https://childline.or.jp/

 「弁護士会の子どもの人権に関する相談窓口一覧」。先ほど紹介したのはLINEの相談窓口だったんですけれども、それ以外にも全国に弁護士会というのがあって、そこがそれぞれ子どもの人権に関する相談窓口というのを設置しています。自分の住んでる地域とかの弁護士会に相談をすることもできます。

 「子供のSOS相談窓口」。文部科学省が設置している24時間子どもSOSダイヤルというのがあって、24時間つながる電話番号になってます。

 「子どもの人権110番」。

 「児童相談所の虐待対応ダイヤル(189)」。厚生労働省が設置している電話番号つながります。

・日本弁護士連合会:弁護士会の子どもの人権に関する相談窓口一覧
https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice/search/other/child.html

・電話相談|自殺対策|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/soudan_tel.html

「明日、学校へ行きたくない」書籍化決定

 今回、『明日、学校へ行きたくない』は、KADOKAWAから書籍が出版されることになりました。番組の中で紹介しきれなかった話題も含めて、このあとアフタートークというかたちで別のお話も収録して、2020年内の発売を目指して進めていこうと思っています。

 もちろん今、悩んでいる方っていうのにも有益な情報を届けられればなというふうにも思います。詳細はKADOKAWAの児童書ポータルサイトの「ヨメルバ」というところと、あと児童図書編集部の公式Twitterで随時情報は発信をしていきますので、引き続きご注目いただければと思います。

・ヨメルバ | KADOKAWA児童書ポータルサイト
https://yomeruba.com/

・KADOKAWA 児童図書編集部 Twitter
https://twitter.com/kadokawajidosho

茂木:
 ということで、とても有意義な回だったと思うんですけど、最後に一言どうですか。

信田:
 何度も言いますけど、学校に行けないことがもたらす、この世のどこにも居場所がないというか、こぼれ落ちてしまったということを感じないで、学校ではない場所でも生きていける社会になってほしいなと思います。

 これから日本社会がどんどん変わって、いろんな外国の方も入ってくるようになったときに、本当に学校だけが小中学校の年齢の子たちが行く場所ではないと、もっと広がってもいいかなと思いました。

茂木:
 ありがとうございます。山崎さん、いかがでしょうか。

山崎:
 これからの時代は「学校に行かないほうが~」とか「学校に行かないと乗り遅れる」という話ではなくて、選択肢を増やしましょうという話だと思うんですよ。

 「学校に行かない」という選択肢もありますし、もし何としてでも学校に戻りたいと意志があれば、周りの大人は学校に戻してあげるために何をできるかを考えないといけません。

 自分の幸せな人生に向かって、どっちのほうがいいのかはは人それぞれなので、その選択肢を増やしていって、その選択肢をいろいろ提示できて、またどれもがいい選択肢だよねと言えるようにしていくことが、この番組が終わってからも、まだまだやっていかないといけないことかなと思います。

茂木:
 例えば、昔、不登校でゲームをやってるというのは、だめな子の代名詞みたいになっています。
 しかし、コロナの影響で、ビジネスのやり方自体がオンラインのマルチプレーヤー戦略ゲームみたいになっていて、そうするとゲームをやっているのも選択肢の一つだよねとなってきてるじゃない。

 そういう意味で言うといい時代になってきてる感じがするんだけど、そこの狭間で悩んでいる子もいるだろうから、背中を押してあげたいですね。

 だから、学校に行きたい子は行きたい子でいいし、家にいてオンラインの戦略ゲームを一日中やっている子も、それはそれでありかもしれないみたいな。

信田:
 まず親の世代の意識、変えてほしいですよね。

茂木:
 (笑)

山崎:
 ゲームで本当に稼げるようになるっていうのは、いばらの道だぞと併せて伝えないといけないと思いますけど、それはどんな道に進んでも、楽な職業はどのぐらいあるのだろうという話です。

 今の第一線のeスポーツの選手は分野を切り開いた人たちですから、ゲームのうまさとか世界一というレベルになっている人たちなんですよね。

 世界一にならないと稼げないって思ったらそれは決して楽な道じゃないですし、それに耐える力、それに向かって突き詰めていく力というのは、学校でも学べるかもしれないし、学校じゃないところで学ばなきゃいけないことですよね。

茂木:
 でも好きなものって頑張れるからね。

山崎:
 そうですね。

茂木:
 何が好きかということを自分でいろいろ対応しながら見つけていくのがいいのかなと思います。
 だから学校がそういう好きなものを見つける場所として少しでも役に立てたら学校もいいとこなんだろうなと思います。


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・「明日、学校へ行きたくない」思いを朗読する生放送
https://live2.nicovideo.jp/watch/lv327277753

・「明日、学校へ行きたくない」投稿をもとに みんなで考える生放送
https://live2.nicovideo.jp/watch/lv327277927

 

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