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学校に通わないことも一つの選択肢として受け入れられる社会に── 「明日、学校へ行きたくない」という人たちから寄せられた投稿について考える【話者:茂木健一郎、信田さよ子、山崎聡一郎】

 「2学期が始まるけど学校に行きたくない」

 自殺総合対策推進センターのデータによると、子どもの自殺が最も多いのは夏休みが終わる8月後半と言われています。

 ニコニコ生放送では、8月24日に『「明日、学校へ行きたくない」投稿をもとに みんなで考える生放送』を実施。

 本番組は、「いじめに遭っていて学校に行きたくない」「何かしらの原因があって学校生活がつらい」「過去、いじめを受けた経験がある」等という人たちから寄せられた「いじめ&不登校」等に関する投稿について、脳科学者の茂木健一郎さん、原宿カウンセリングセンター所長の信田さよ子さん、『こども六法』著者の山崎聡一郎さんの3名と一緒に考えるという内容。

 実際に、「将来が不安」というフリースクールに通う中学生、いじめられているけど「学校には行きたい」と話す中学生の投稿など計6つを紹介し、茂木さん、信田さん、山崎さんがこれらの投稿やいじめ・不登校などについて考えた模様を紹介していきます。

※本記事はニコニコ生放送での出演者の発言を書き起こしたものであり、公開にあたり最低限の編集をしています。


茂木:
 みなさん考えてください。昔は学校って行けることがどんなにありがたいことだったか。時が流れていつの間にか学校に行くことが重圧になってしまったり、それが本当に苦しいことになってしまったりしています。
 そして今、新型コロナの影響で、学校に行くこと自体がなかなかできない状態になっています。

 今日は我々と学校の関係、特に今、学校に行く年齢の子どもたちがどういう思いでいるのか、「明日、学校に行きたくない」というテーマでこれからいろいろお話しします。

出演者紹介

脳科学者・茂木健一郎さん
原宿カウンセリングセンター所長・信田さよ子さん
62万部発行された『こども六法』の著者。教育研究者、写真家、ミュージカル俳優と多様な肩書きを持つ山崎聡一郎さん

コロナ休校で周りと差がついてつらい

山崎:
 15歳の男性の方からの投稿です。

投稿者1:
 私は県下一の進学校に通っています。志願理由はただ単に楽しそうだったからです。将来の夢もなく、目標もなく、医者になるようなやつが入る学校です。

 周りとは違っていました。このコロナ禍による休校により、1学期の半分以上がなくなったのは周知の事実でしょう。しかし進学校だからか、休校中に高校の課題を与え、先に勉強していました。いきなり高校の課題を与えられて、自分で勉強しなさいと、今までになかったことをいきなり強いられました。

 しかし自分で勉強するモチベーションがそもそもなく、そのせいで周りとかなり差がつきました。結果、1学期の成績は留年の2歩手前、絶望的です。以前より感づいていたうつ状態が、より進行したように感じます。

 正直、学校に行くのがつらいです。先生の目も、同じクラスの目も怖い。親の目も怖い。親の期待が怖い。世間の目が怖い。必然的に自分の居場所を求めて、ついネットの世界に閉じこもってしまいます。

 いったいどうしたらいいんですかね。思春期もあって、親とのコミュニケーションも取りづらいです。これはカウンセラーとか、心療内科とかを受けたほうがいいのでしょうか。

左から、茂木健一郎さん、信田さよ子さん、山崎聡一郎さん

信田:
 ズバっと言っちゃって申し訳ないんですが、カウンセリングでいいんじゃないですか。

 別に医療機関に行く必要はないし、すごく文章力もおありだし、留年も1歩手前ではなく2歩手前でよかったねって思います。こんな事態で、やすやすとそれをクリアしていく人もいるだろうけど、この投稿してくれた方のように、何していいかわかんないよいう人もいるでしょうし、楽しいと思ったのがコロナによって全然楽しくないわけじゃないですか。

 だから再び登校できるようなったときに、また楽しいこともあるかもしれないから、そういう自分を批判しないで聞いてくれる場所を1カ所持つといいでしょう。それはカウンセリングでもいいと思います。

山崎:
 今、ニコ生のコメントでも、「ネットにつながってるんだったら、それは閉じこもっていることにならない」とか「ネットのほうが広い世界だよ」っていう意見もあります。

茂木:
 文章力あるし、高卒認定試験があったら通るでしょ。だから最悪、行きたくなかったら、学校に行かなくてもいいんじゃないの?

信田:
 でも話を聞いていると、リアルな高校生活を楽しみたいという感じも伝わってくるんですね。

茂木:
 大学なんていろんな行き方あるじゃん。そもそも学校に行かないと勉強ができないというのが全く意味がわからなくて、別に教科書や参考書を読めば勉強なんかできるじゃん。僕の中には基本的に学校というものに対する必然性はないから。

 でも今の投稿者の方のように、親の期待とか学校のほかの人と進路を合わせる必要はないじゃんと思うんだけど、きっと焦っちゃうだろうな。

信田:
 そうですね。楽しいからその高校に進学したって言うけど、親からしたら県立トップ校にうちの子入ったのよという自慢の息子さんなんだろうなと思うし、そういう視線もありますよね。

茂木:
 だけど命のほうが大事でしょ。

人が怒られるのを見るのがつらい

山崎:
 次の投稿は、今20代前半の方からです。

投稿者2:
 私が中学生のときの話ですが、クラスの担任の先生が厳しく、授業に集中していない子や、忘れ物をした子をよく叱っていました。
 私自身が怒られることはなかったのですが、人が怒られているのを見るのが苦手で、学校を休みがちになってしまいました。

 今でも会社で誰かが怒られているのを見ると、過剰にびくびくしてしまうことがありますが、会社では席をはずしたりできます。
 学校はそうもいかないので、私と似たタイプの子は本人にしかわからないつらさがあると思います。

山崎:
 これを読みながらDV【※】とも関係あるお話だなって思ったんですけども、この投稿はまさにDVを目撃しているのと、状況としては似ていますよね。

※DV(domestic violence)
配偶者からの暴力を指すが、ほとんどが夫から妻への暴力。また子どもから親への暴力のことを「家庭内暴力」と呼んで区別している

信田:
 そうですね。例えば面前DVという言葉があって、子どもの面前でDVが起こるとそれを見ている子どもが心理的虐待を受けるという言葉です。

 それはなぜかというと、やってる親は子どもを直接やってないからいいだろうと思っているんですよ。本人も子どもも大体平気な顔してますしね。

 この投稿者の方だって平気な顔して一応座ってると思うんだけど、やっぱり人を支配するとか傷つけるのって、されるのと別、もしくは同じくらいの傷つきがあるということを知ってもらいたいです。

茂木:
 人によって閾値(しきいち)が違って、感じ方も違うので、こっちが「これぐらい平気でしょう」と思っていても、相手としたら「いや、それがだめなんだよ」という場合もあります。

 ノイズもそうだし、対人関係もそうだし、その違いというのをやっぱお互いに認め合わないとね。

信田:
 その議論ってちょっと変なのでは?

茂木:
 学校の先生が叱ってんのを見るとつらいんでしょ。それは、そう見ていて平気な人もいるけど、要するにこの方の場合はつらくて、ただその感受性が違うってこと。

信田:
 でも、つらい人がいたら、つらい人に合わせるべきですよね。

茂木:
 もちろん激しく叱責するのはよくないんだけどそうじゃなくて、僕は想像性、想像力が大事だと言っています。

 僕のさっきの投稿は、激しく叱責するんじゃなくて、軽く注意するだけでもつらいと思う人はいるんじゃないかと理解したんだけど。だって明らかに激しく叱責するのはNGでしょ。

 そうじゃなくて「最近、あなた、宿題やってきてないね」というぐらいの注意でも、あるチューニングしてる子は、わあーって感じちゃうことはあると思うよ。

信田:
 それはそうでしょうね。

山崎:
 そういう、ちょっとした受け取り方の違いがきっかけで、ネットでは炎上が起きるケースはいっぱいありますよね。

茂木:
 そうだよね。チューニングが少しずれちゃってるというのが原因でね。

陰口はつらいけど学校には行きたい

山崎:
 もう一個いきましょうか。中学2年生女の子からです。

投稿者3:
 クラスの女子グループから陰口を言われたり、笑われたりしています。授業中とかで私以外の女子で手紙を回していることもあります。これぐらいでいじめられてるとは言えないと思うけどつらいです。

 陰口のことを親に言ったら、学校を休んでもいいと言われたけど、陰口とかが嫌なだけで学校には行きたいです。

信田:
 「学校には行きたいです」っていいじゃないんですか。親は「休んでもいいんじゃない?」と言ってくれたし。でもやっぱり陰口って嫌ですよね。

山崎:
 僕自身、中学生に対していじめに関連する自由記述のアンケート調査をやったことがあって、その中でよく見られたのは「いじめられてるわけじゃないんですけど」という前置きが書いてあって、そのあとに具体的な事例を見るといじめなんですよ。

 あと最後の一文、「陰口とかが嫌なだけで、学校には行きたいです」という言葉。私たちは子どもたちがいじめに遭っている、またはそのほかの理由で学校に行きたくないと思ってるよいうことに対して、ついつい「だったら学校なんて行かなくていいよ」と解決策を提示してしまいがちなんですけど、子ども一人一人が求めてる解決策の定義って、やっぱその子にしかないということを忘れてしまいがちなんですよ。

信田:
 まさにそうですね。カウンセリングもそういう解決策を提示するものだろうと誤解されがちなんですけど、その人は何がつらいのか、陰口されるとどんな気持ちになるのかということを他者にちゃんと伝えるだけで、その陰口を言ってる子どもに対峙できる強さが身についてくということもありますね。

 そんな陰口言う子を変えることはできないから、それにどうやって対峙して、それでも学校に行けるようになるのかなという感じかな。苦しんでる顔見て、楽しいという子が多いからね。

茂木:
 そうなの? そういうの全然意味わかんないや。

信田:
 本当ですよ。いろんな話を聞いてると、相手がつらいなとか、苦しんでるの見て、快楽を得てるに違いないと思うような例があまりに多いんですもん。

茂木:
 へえー、そうなの?

信田:
 それはもう本当人間観が揺すぶられますよ。本当そう考えないと理解できないという人多いですから。

茂木:
 だけど無理しないでほしいんだよな。とにかくもう行きたくない、つらいと思ったら、絶対無理しないというのが大原則だと思うよ。

 もう学校に行けないというときに、何が原因でそれを解決すれば行けるだろうというのは間違っていて、もう「行けない」という答えが出てるんだよね。脳の仕組みからして、行こうと思えば行けるだろうってわけじゃないだよ。

信田:
 なぜこんなに原因を考えるんでしょうね。

茂木:
 脳って複雑だからそんな原因と結果みたいな単純な構造じゃないのに、単純に考えがちなんじゃないですか。

フリースクールに通っているけど将来が心配

山崎:
 もう一個、紹介したいと思います。現在、フリースクールに通う中学生からの投稿です。

投稿者4:
 私は小学5年生のときに嫌なことがあって学校に行かなくなりました。今はフリースクールに通ったり、家で料理をしたりして過ごしています。

 小学校に入った妹が少しだけ学校に行ってから、「お姉ちゃんみたいに学校には行かない」と言って学校に行かなくなりました。今、一緒にフリースクールに通っています。巻き込んで悪かったなと思いますし、親をとても悩ませました。でも「いいよ」と言ってくれています。

 来年から中学生ですが、フリースクールに行くと思います。将来どうなるのか心配です。

茂木:
 僕はホームスクーリングがそもそも日本であんまり概念としてないのが大問題だと思うよ。

信田:
 外国ではホームスクーリングって多いですよね。

茂木:
 当たり前。僕の友達がボストンにいるんだけど、ハーバードの教授の子どもなんて学校に行かないでずっとオンライン戦略ゲームをやっているんだって。それで家で勉強してるんだよね。
 だからアメリカでも、イギリスでも学校になんか行く必要ないという層はいるんですよ。

 しかもデータによると、そういう人たちって成績がいいんだって。だから学校に行かないってことが、ちょっと引け目に感じることであるかのようなことがおかしいと思う。
 むしろ学校なんか行かないほうが勉強もできるじゃんみたいな感じの人がいるんですよね。

 だから僕は正直、「なんで学校なんか行くの?」みたいな感じは強いです。

山崎:
 公教育、学校教育というものを見ている立場としては、とりあえず日本ではそういう海外の教育のあり方が比較対象としてありつつも、日本では原則として親が子どもを小中学校に通わせなければなりません。

 これが子どもたちにとっては権利であり、大人にとっては義務である以上、本当は子どもたちが全部喜んで公立の学校に通えるかたちにしなきゃいけない
のに、なぜかこれが転じて通わない子どもが悪いみたいな空気も出ています。

 結果的に、公立の学校に行かない、または行けないのは自分が悪いと思ってしまう雰囲気ができているのは、それはそれで問題だと思っています。

 実際、この投稿者の方の親は「いいよ」と言ってくれてるんですもんね。それはすべてじゃないですか。

茂木:
 とてもいいじゃないですか。いい親御さんだと思います。

山崎:
 本当にそう思うんですけど、どこかから子どもサイドに「学校に行かなければならない」とか「行くのが普通だ」とか、そんな情報が入ってくるわけですよね。

 そういうところから親はいいって言ってくれているけど、「学校に行ってない自分は将来どうなるんだろう」「行かなきゃいけないんじゃないかな」と思ってしまうのは、これはすごく問題というか、結局いい選択をしているのにもったいない状態になってると思います。

信田:
 コロナって、学校に行かなくても勉強できるということを示せるチャンスでしたよね。

茂木:
 本当そうだよね。

信田:
 みんなにタブレットを与えれば学校なんか行かなくてもいいし、給食で同じものを食べなくてもいいということを国民に周知徹底できるいいチャンスだったのに日本は……。そのチャンスをチャンスと思わなかったということですかね。

茂木:
 たしかにホームスクーリングをやって成功している子は親の理解があって、ある程度素養も高いところが多いんですよ。

 だから公教育って家庭環境にもよって、ある程度の最低基準というか、それを提供するという意味においてはすごく大事だと思うんだよね。

信田:
 「子ども食堂」みたいに、まともなご飯は学校の給食だけはという子もいるわけですからね。

茂木:
 そういう子には給食もたっぷりあげたいね。

山崎:
 今は給食の配膳が新型コロナの感染リスクになるという理由で、献立を個包装のものだけにした結果、パンと牛乳だけみたいな簡素な食事にしてるところもあるようです。

茂木:
 それはちょっとつらいな。

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