「戦争が終わるのは国の資産と人材が尽きた時。中途半端な人道支援は戦争を長引かせるだけ」戦略学の世界的権威の著書『戦争にチャンスを与えよ』を解説してみた
我々が良かれと思ってやっている人道支援・介入は戦争や紛争を長引かせるだけ、と述べている書籍を紹介します。また、難民キャンプを作ることで、難民の状態が継続してしまう現実も。本当に助けるつもりなら、50年以上かけて支援する覚悟が必要なのだ、という戦略思想家・エドワード・ルトワック氏の著書をKAZUYAさんが解説しました。
本編は『KAZUYA CHANNEL GX 2』。「戦争にチャンスを与えよ」をご覧ください。
今日は戦略家としておなじみのエドワード・ルトワックさんの『戦争にチャンスを与えよ』を取り上げます。ルトワックさんといえば、『中国4.0』という本を紹介したことがありました。これも動画を作っているので、まだ見てない人は見てくださいね。
今回も刺激的なタイトルですよね。タイトルだけじゃなくて当然中身も、すごくパンチがあります。『戦争にチャンスを与えよ』という、過去に書いた論文に加え、最近の中国・北朝鮮のことなどについても書かれています。
我々は戦争や紛争に対して、人道的な措置というのを考えますよね。だからこそ介入したり、人道的な支援があったりします。そしてそれが普通だと思っています。ルトワックさんは逆なんですよ。やらせておけ、と言ってるんです。
一章は、『紛争を与えよ』という論文のタイトルを変えたものです。一部見てみましょう。
さて、この論文が明らかにしているのは、「戦争の目的は平和をもたらすことにある」ということだ。戦争は、人々にその過程で疲弊をもたらすために行われるのである。人は戦争に赴く時、力に溢れ、夢や希望に満ち野望に心躍らせているものだ。
しかし、いったん戦争が始まると、今度は、さまざまな資源や資産を消耗させるプロセスが始まる。この過程で、人々の夢や希望は、次々に幻滅に変わっていく。
そして戦争が終わるのは、そのような資源や資産がつき、人材が枯渇し、国庫が空になった時なのだ。そこで初めて平和が訪れる。平和が訪れると、人々は、家や工場を立て直し、仕事を再開し再び畑を耕す。
ルトワックさんが言うには、中途半端な介入だったり人道支援というのが、逆に平和を遠ざけているというのです。疲弊せぬまま介入されて、戦争や紛争が凍結されてしまうと、いつまでも平和が訪れないというのですね。
朝鮮戦争なんかまさにそれで、凍結されて今もまだ停戦状態でしょう。ルトワックさんが言う自然のプロセスを踏んでいないということです。人道的な介入についても述べられているのですが、これもおもしろいです。難民キャンプを中途半端に作ると、難民が永続的に難民になってしまう。難民になった人の子供ができるでしょう。その子供も難民になって、さらにその子供も難民になる。
そしてNGOの無責任さも追及しています。
ルワンダのケースを見てみよう。最初にツチ族がフツ族を虐殺し、フツ族は、国境を越えて東コンゴに逃げ込んだ。その直後、国連の介入により、悪いことが起こった。NGOが介入してきたのである。これは「悪夢」といってよい。
このNGOは、まったく無責任な存在だった。右も左も分からないまま、「フツ族がかわいそうだ」というだけで、ルワンダから越境してきたフツ族をかくまう難民キャンプを設置し、彼らに食事を提供した。
ところが、昼間に配給された食事で腹を満たしたフツ族は、夜中に国境を越えて、ツチ族を殺しに行ったのである。難民キャンプは、国境からわずか三キロの場所にあったからだ。NGOの行動は、あまりに無責任なものだった。
活動資金を募るために、メディアの注目を集めたい彼らは、当事国の事情をろくに調べもせずに、ひたすら「困った人を助ける」という目的で、難民キャンプを設置する、という大失態を犯したのである。
長期的に見ると、人道的なのかどうかわからなくなってきますね。もし介入するならば、相当な覚悟が必要だとルトワックさんは説きます。つまり、50年間ほど駐留して安定化を図る覚悟が必要だと。だけど実際にはそんな覚悟もなく、中途半端に介入するから、紛争がいつまでも終わらないのだと言います。
この本は翻訳もすごく読みやすいし、かなり頭を叩かれる感覚になります。続きはぜひ買ってお読みください。お値段はなんと800円+税です。この本の後半でLGBTに触れている部分があるんですが、これも相当パンチがきいてますよ。日本の政治家が言うと問題発言で炎上しそうな感じはあるのだけど。なるほどなと思います。