羽生善治竜王、紫綬褒章の受章が決定 将棋界では佐藤康光九段、森内俊之九段に続き15人目【記者会見コメント全文】
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将棋棋士の羽生善治竜王(48)が平成30年「秋の褒章」において、紫綬褒章を受章すると日本将棋連盟より発表され、東京将棋会館にて記者会見が行われた。
紫綬褒章は、長年にわたり学術・芸術上の発明、改良、創作に関して事績の著しい者に授与されるもので、将棋界での紫綬褒章受章は、谷川浩司九段、佐藤康光九段、森内俊之九段に続き15人目。
羽生竜王は2017年12月に竜王位を奪取、永世竜王の資格と同時に永世七冠の資格を獲得。2018年2月には囲碁の井山裕太六冠とともに国民栄誉賞を受賞している。
現在、羽生竜王は第31期竜王戦第3局の真っ最中で、防衛すればタイトル通算100期、失冠すれば約27年ぶりに無冠となる。
紫綬褒章は「大変な名誉なこと」
司会:
それではお時間になりましたので、平成30年秋の褒章の記者会見を始めたいと思います。それでは羽生(善治)竜王お入り下さい。
それでは始めに代表質問を行ないます。代表質問は東京記者会幹事より行っていきます。代表質問の後、質疑応答に移りますので、質問ある社は挙手をお願い致します。それでは代表質問、お願い致します。
──記者会幹事の共同通信のイケマツです。本日はおめでとうございます。
羽生竜王:
はい、どうもありがとうございます。
──2月に国民栄誉賞を受賞されて、今回紫綬褒章ということで、今のお気持ちからお聞かせいただけますでしょうか?
羽生竜王:
そうですね、1年で2つも大変名誉ある賞をいただきまして、とても驚いていますし、また大変な名誉なことであるなというふうにも思っています。今までの活動だけではなくて、これから先の棋士としての歩みに対しての期待も込められているのかなというふうにも受け取っています。
──今回の受章に関して、ご家族は何か仰っていらっしゃいますでしょうか?
羽生竜王:
そうですね、やはりあのとても栄誉ある章であるので、喜んでくれましたし、祝福もしてくれました。
──羽生さんはこれまで永世七冠など、数々の偉業を成し遂げられてこられたんですけれども、今年48歳になられました。今までの棋士人生を振り返って、いかがだったでしょうか。
羽生竜王:
もうすでに棋士になってから30年以上という長い歳月が流れていますので、長いといえば長いんですけども、無我夢中で続けていたら、この年齢になっていたというところもあります。
──タイトル100期というのが目前にされてるわけですけども、今後のまだまだ先、棋士人生長いと思いますが、目標といいますか、何かそういったものがあればお聞かせいただけますか?
羽生竜王:
そうですね、将棋の中身といいますか、内容そのものは、ここ5年くらいでも大きく変わっていますし、自分自身も対局をしていく中で、新たな発見とか、知らなかったことというのもかなりたくさんあったんだなということを実感しているので、その中で自分なりに何か新しいものといいますか、自分なりの発見みたいなものを見つけ続けられていけたらいいなというふうにも思っています。
──わかりました。幹事からは以上です。
前進を続けていかなくてはいけない
──フジテレビのウメダと申します。この度は受章、誠におめでとうございます。
羽生竜王:
どうもありがとうございます。
──先程タイトル通算100期というお話が出ましたが、一方でこのタイトル戦に負けてしまうと、無冠ということにもなってしまいます。ある意味その勝てば100期、負ければ無冠という非常に羽生さんにとってもこれは大きな分かれ目の対局かと思いますが、そういったタイミングでこの度受章されまして、改めて今どういったお気持ちでしょうか?
羽生竜王:
そうですね、もちろんその棋士の活動というのは、休みなく続いていくわけですし、安定した状態というのは常にないので、そういった中で自分なりに持てるものを出し切っていくということが問われているというふうに思っています。
その時期といいますか、それが続いている中で今回こういった章をいただけるということで、ひとつ大きな形で評価をしていただけるというのは、とてもありがたいことでもあると思ってますし、またそうですね、これを大きな契機といいますか、励みにして前進を続けていかなくてはいけないなというような気持ちを新たにしています。
──ありがとうございました。
──東京新聞のヒグチと申します。この度おめでとうございました。
羽生竜王:
どうもありがとうございます。
──羽生さんと言えばですね、将棋の対局以外でも、いろんな各界の著名な方との対談とかですね、講演とかですね、そういった幅広い活動……活躍をされてらっしゃると思うんですけど、先だって、奥様のTwitterとかでも、講演を少し抑えるみたいなそういうお話をちょっと伺ったりしたんですけども、いわゆる将棋にちょっと集中したい、集中するというふうなお考えが今あるのか、それとも引き続きそういった講演等の活動も並行してやっていく、今竜王戦の季節だからというそういうことなのか、ちょっとそこのところ伺ってよろしいでしょうか?
羽生竜王:
そうですね、なんというんでしょうか。将棋の世界は基本的にオフシーズンがないので、1年中何かやっているということがあります。ありがたいことにですね。その将棋以外の話もいただくこともあるんですけど、もちろん対局に支障がないようにやるというのが大前提だと思っていますので、その辺りを見極めながら活動していきたいというふうに思っています。
ただ一方でですね、やはりその将棋の世界以外の人達に興味や関心を持って貰うということも大切なことだと思っているので、完全にそういう活動しないとそういうことではないです。
──産経新聞のナカタです。この度はおめでとうございます。先程30年以上棋士になったという、これからも長い棋士人生が続くと思うんですけれども、これまでで思い出に残っている対局あるいはなんか出来事等あったら教えていただけますか?
羽生竜王:
そうですね、うーん、まあでも例えばやっぱり1番最初のデビュー戦とか、それはパッと言われてすぐに思い出すという意味では印象に残っています。
私は棋士になるまで、あまり記録をとった回数が少なかったものですから、あまりその何ていうんでしょうかね、その公式戦の雰囲気といいますか、わからない中でデビューしたということもあるので、パッと思い浮かんだのはそのデビュー戦の宮田先生との一局は非常に印象に残っています。
──ありがとうございました。
合間の時間に頭の中で研究
──毎日新聞のマルヤマです。この度はおめでとうございます。
羽生竜王:
どうもありがとうございます。
──講演とかいろんなことでご多忙な生活を送られているということなんですけども、その中でご多忙の中でいつ研究を、将棋の研究をされているのかなというくらい忙しいと思ったんですけども、その研究のタイミングってどういったところでやられているのか、まずは教えて下さい。
羽生竜王:
そうですね、特になんか定時で何時から何時までやるということではなくて、空いた時間で行っているということもあるというのと、あとその棋士にとってちょっと良いところっていうのは、仮にその将棋盤と駒がなくても、頭の中で考えることも出来るということはあるので、ちょっとした合間の時間、隙間の時間とかそういった時に少し考えたりするという感じです。
──すみません。別のことで、今、若手棋士が特にソフトで研究するということも多くなっていると思うんですけども、そういったことも含めて今までにない指し方も増えていて、そういった若手に対抗するには、どうしたらいいかということをお考えでしょうか?
羽生竜王:
そうですね、これはやっぱりソフトにどういうふうに向き合っていくかというのは、今全ての棋士に与えられている課題みたいな面もやっぱりあるので、実際その戦術的なところでも、大きな変化っていうのがあるので、何というんでしょうかね、そのセオリーとか定跡みたいなものを今現在進行形で、ひとつずつ再確認して、また構築していっているという状況だとは思っています。
もちろんその非常に便利なものでもあるし、優れたものだと思ってるんですけども、そこにですね、いかに自分なりの個性とか、スタイルを付け加えることができるかということが問われているのかなと思っています。
──NHKカワイと申します。この度はおめでとうございます。羽生さんがこれまで将棋を歩んで来られた歩みの中では、タイトルをひとつとり、そして七冠を達成したとか、様々な目標を超えていって今にあると思うんですけれども、今タイトル100期を目前にしていて、ただ今も最前線で将棋を指されていて、今やこれから、今の時点でですね、羽生さんの将棋に対するモチベーションの根本にあるものというか、なんかやはりどういう気持ちが1番こう自分をこの将棋の盤に向かわせるというかですね、大事に持たれているものなんでしょうか?
羽生竜王:
そうですね、やはり何ていうんでしょうか、もちろん公式戦だけでももう約2000対局をしていますので、類似した形とか同一した展開とかってなるケースももちろんあるんですけども、ただやはりまだまだ新たな未開のテーマとか、研究すべきところとか考えるべきところとか、そういうのはやっぱりたくさん残されているというところが、非常に面白い、また将棋の奥深いところなのではないかなというふうに思ってまして、そこがですね、一応続けていく前に進んでいく、ひとつのエンジンのような役割にはなっているのかなあと思っています。
──ありがとうございます。
佐藤九段、森内九段の存在は「長く続けていく中で大きな刺激」
──報知新聞のキタノです。この度は受章おめでとうございます。昨年、佐藤(康光)会長、森内(俊之)九段が紫綬褒章受章されてですね、お二人とは同世代で同期でもある存在だと思うんですけども、ある競技において、同期でその競技を始めた方が3人紫綬褒章を受章するというのは、中々過去にも歴史的にあることなのか、すごい珍しいすごく異例のことだと思うんですけれども、そこにはそれぞれの切磋琢磨というか、それぞれの存在というのはあったんじゃないかなと思うんですけども、そのお二人の存在、今までの歩みにおいて受けてきた影響みたいなものを伺えますでしょうか?
羽生竜王:
そうですね。佐藤さんとも森内さんとも、10代の頃から、本当にお互いに切磋琢磨をして、今日まで続いてきたというところがあります。もちろんその対局している時には、非常に厳しい相手でもあるんですけども、逆にですね、それが長く続けていく中で大きな刺激になったり、自分も頑張ろうというような気持ちになったりという意味では大変ありがたい存在だなというふうにも思っていますし、今まで数多くのタイトル戦とか大舞台で対局してきたということもありますので、そういう意味では非常にたくさん記憶に残る対局も残っている存在です。
──あともう1件、年齢に関して伺いたいんですけども、48歳にちょうどなられたんですが、今も最高位につかれていて、例えば同世代で生きる皆さんとかその活躍する姿に励まされているところがあると思うんですけども、今先生はプレイヤーとして48歳というご年齢をどのように捉えて、日々戦っておられるんでしょうか?
羽生竜王:
そうですね、もちろんその何ていうんでしょうかね、将棋の世界の場合は、若さとか勢いとか、あるいは新しい感覚とか、そういうものも非常に大事ですし、また一方でそのまあ長く積み上げてきた経験みたいなものも問われる時もあるということもあるので、何というんでしょうかね、うーん、たくさんの様々な経験した厚みみたいなものをどうやって現代的なものとして、残していけるかどうかということが常に考えてはいます。
──あの体力的に落ちてきたなとか、逆にこういうふうに工夫して若くあるというか、その辺りあのもう少し伺えますか?
羽生竜王:
ああそうですね、一局で対局していることに関して言えば、そんなに20代の時と今の時とそんなに違いはないという感覚なんですけど、ではその昔年間で一番多い時で89局やったことがあったんですけど、今はちょっとその89局をちゃんときちんとこなせるかとなるとちょっとそこは難しい所もあるのかなあという感じはあるので、まあ一局一局に関しては特には大丈夫かなあとは思っています。
──朝日新聞のムラカミです。この度はおめでとうございます。
羽生竜王:
ありがとうございます。
──今の質問にも絡むんですけども、これまでって将棋界って年齢を重ねるとだんだん戦いが厳しくなっていくという歴史があるんですけど、人工知能AIの出現によって、これって羽生さんにとっては、いい方向に向かっていくのか、それとも人工知能の出現というのは逆風になっているのか、その羽生さん自身はその人工知能を自分にとってはどういうふうに捉えてらっしゃいますか?
羽生竜王:
どういったらいいんでしょうかね、すごくソフトが強くなって、どういうことが起こったのかということをその考えた時に、個人的にはですね、何かこう全員が同じスタートラインに立ったという感覚なんですよね。だから同じスタートラインに立って、そこから何ができるかっていうことなので、それはその若い人でも経験のある人でも同じスタートラインから何を作り出せるかっていうことだと思ってます。
──それはまあそうするとですね、これまでの蓄積みたいなものは、1回さらにして、スタートしなければいけないということなんですか。
羽生竜王:
その感覚もあります。もう1回、何かこう元の状態に戻って、やり直さなければいけないという感覚も、実際はあります。ただ何というんでしょうかね、そういうソフトにとっては古いも新しいもないんで、時には古い将棋が出てくるということもあるので、そういう時には昔経験してきたことは役に立つというケースはあるかなと思っています。
──お気持ちとしてはですね、大変だなという気持ちなのか、それとも未知のものが出てくるワクワク感があるのか、どういう気持ちでそのAIの出現というのを捉えているんでしょうか?
羽生竜王:
もちろんそうですね、それに対応していくという点では、非常に大変というか、厳しい状況だというふうにも思っています。ただ一方で、棋士として何というんでしょうかね、アナログの時代から今の時代のところまで、なんかこう様々な経験をこの30年くらいで出来たというのは、中々こう得難い、いい時期に棋士になれたんじゃないかなというような気持ちも持っています。
──朝日新聞のムラセです。どうもおめでとうございます。2点ありまして、まず1点が紫綬褒章は師匠の二上九段も受章された章なんですけども、師弟でご受章になった、受章ということになったことについてのご感想を1言いただきたいのと、2点目は今まで仰ってたことと多少重なるところがあるかもしれませんが、長年将棋を続けて来られて、研究を重ねて更にはAIソフトの出現もあってという中で、羽生さんご自身としてはこう将棋の真理というかですね、どんどん最善の方に近づいているなという実感がおありなのか、その辺りの自分のやってきたことがこうどういう方向に向かっているかということを、どういうふうに考えていらっしゃるかということをちょっと伺えればと思うんですけども。
羽生竜王:
はい。最初の方の質問は、そうですね。師匠はもちろんプレイヤーとしてだけではなくて、将棋連盟の運営に対しても、大変こう長きに渡って貢献をされていた先生ということでもあるので、何というか、同じ章をいただくというのは、比較してしまうとちょっと申し訳ないというような感覚もあります。
それでもう1つの方の質問に関して言うと、もちろん何というんでしょうかね、何かこう少し前に進んでいるとか、前より変わっているという感覚はあるんですけど、じゃあそれが何かその究極的に何か解明できる方向に進んでいるかとか、何か本質的に進歩しているかどうかということは、全くわからないというのが実感ですね。もちろん進んではいるんでしょうけども、ちょっとやはり今でも、暗中模索というか、それが続いている感覚だとは思っています。
──例えばその将棋全体の、ちょっと表現が難しいんで100だとして、何十くらいわかってるんじゃないかとか、そういうことはボンヤリと、半分くらいかなとか、ボンヤリとイメージできる数字っていうのはありますでしょうか。
羽生竜王:
いやでも、何というんでしょうかね、あまりにも膨大な可能性を前にして、あまり何というか、どれくらいまで来てるかというようなところは全くわからないというところですね。結構実際将棋のいろんな局面って漠然としたものがすごく多いので、何手で終わるとか、どっちが有利とかそういうのは全くわからないので、やっぱりなんかこう漠然としていて、よくわからないものに対峙しているという感覚は今も続いているという感じです。
──東京新聞のヒグチと申します。ここ最近で動きが大きい将棋界ではありますが、将棋関連のニュースで羽生先生がこのまあ1~2年くらいで1番印象の残っている出来事っていうのを、もしお伺えたらと思うんですが、いかがでしょうか。
羽生竜王:
そうですね、やっぱりそれは藤井さんの活躍ですね、なんといっても。デビューしてやっぱり連勝記録の、新しい記録を塗り替えたというところで、非常に大きなインパクトがあったと思っています。
──実際にその藤井さんの登場以降、何か羽生さん自身も変化というか、何か変わったなというふうにお感じの所はおありでしょうか。
羽生竜王:
そうですね、何というんでしょうか、新しい時代の感覚といいますか、将棋を藤井さん指されているので、たくさんの棋士が今影響を受けているという状況だと思っています。
──はい、ありがとうございました。
座右の銘「玲瓏」はほとんど実現出来ていない
──報知新聞のキタノです。先程師匠ところでも少しお話されていましたが、佐藤九段、森内九段の2人、連盟のトップで運営に携わっていらっしゃいますけれども、(羽生)先生も今会館の建設準備委員会を率いていかれることになると思うんですけども、ゆくゆくその運営側でこの世界を率いるといいますか、立つというか、そういうビジョンというのは、今、かなり先のことになるのかもしれないですけれども、どのようにイメージされてらっしゃいますでしょうか。
羽生竜王:
そうですね、現状で特になんかそういう具体的な何かを考えてるということは、全くなくて白紙の状態ではあります。もちろんその現状でその自分が出来ることをしっかりと関わってやっていくということが大切なのかなというふうにも思っています。
──毎日新聞のマルヤマです。座右の銘というところをお伺いしたいんですけど、将棋を指す上での羽生さんの座右の銘というものがあったら、お聞かせいただけますか。
羽生竜王:
そうですね、これは色紙とかにもよく書く「玲瓏」という言葉がそうで、もともとは、「八面玲瓏」という四文字熟語なんですけども、まっさらな気持ちといいますか、明鏡止水といいますか、邪念が入っていない状態で臨むというのが、1つの理想として座右の銘として持っています。
──実際に指していてどのくらい実現できているかどうかというのはいかがでしょう。
羽生竜王:
いやほとんど出来ていないので、あくまでも理想で、ほとんど実際は出来ていないですけど、まあまあ1つの理想ですね。
──ありがとうございます。
司会:
はい、では他に質問ある方いらっしゃいますでしょうか。特になければこれで終わりたいと思います。ではないようですので、これで記者会見を終わりたいと思います。羽生竜王ありがとうございました。
羽生竜王:
はい、どうもありがとうございました。
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