東京医科大の”女子受験生減点騒動”の真の問題点「女医を増やさない職場の環境を直せ」社会構造の歪みに合わせた人事の弊害
💡ここがポイント
●東京医科大学で起きた“女子受験生の減点騒動”について議論。
●そもそも「女子の採用数を減らさなければいけない状況がおかしい」と問題を提起。
●2人は「採用の仕組みをずらす前に職場の環境を直せ」と指摘した。
東京医科大学で「女子受験生の試験結果を一律減点していた」という報道が話題になりました。
これを受けて8月5日の『小飼弾のニコ論壇時評』で、実業家の小飼弾氏と、フリーの編集者である山路達也氏が、現在日本で起こっている“逆”差別問題について激論を交わしました。
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社会の歪みに仕組みを合わせるスタイル
山路:
東京医科大学で女子受験生を一律減点していたという報道が話題になっています。ツイッターなどの受験生の声みたいなのを拾っていたりすると、実は、「こういった点数調整があるということは、予備校の人からも言われていました」みたいな声が上がってきていたりしますよね。
小飼:
その理由というのが、女医ばかりになると、彼女たちは産休も取るし、キツイ外科とかは選ばないしということで、人手に偏りが出ちゃうんで、という。おかしいよね、これ(笑)。
山路:
それを言うなら、「職場の環境を直せ!」という話ですよね。
小飼:
現時点の社会の構造が歪んでいるのに、歪みを直すのではなく、歪みに合わせて人事をやっているということでしょう。
山路:
しかも、その採点の仕組みを黙ってずらすという、とんでもない方策に出たわけですよね? 何を考えてるのか。
小飼:
こうなると、ありとあらゆる分野で、そこの部分というのをレビューしないといけないでしょう。東京医大だけがそれをやってるのか。そして、他の所はやってないのか。やってないならやってないで、やってないという証明が必要ですよね。
山路:
やってない証明というのも、結構難しいのかもしれないですよね。どうやって出せばいいんでしょうね。
小飼:
全試験の結果をオープンにすることですよね。匿名でもできます。でも、そこまでやっているところ、あるいはそこまでできるところというのはないでしょう。
山路:
例えばアメリカではアファーマティブ・アクション【※】というのがあったじゃないですか。黒人、マイノリティに下駄を履かせるみたいなことがあって。そんな中でアジア人は、逆に不利を強いられているみたいなことで、今訴訟が頻発しているという。
※アファーマティブ・アクション
Affirmative action。歴史的経緯や社会環境に鑑みた上で弱者集団の不利な現状を是正するための改善措置のこと。
小飼:
頻発してますね。
山路:
これと同じ構造と考えていいんですか? 向こうで起こっているアファーマティブ・アクションの、アメリカの大学で起こっているような訴訟問題と、今回の問題の根っこは同じなんですかね?
小飼:
例えば人種というのは、かなり曖昧な概念なんですよ。母親がドイツ人で、父親がアメリカ人だ、というのは、どっちになるのかというのは、選べちゃうんですよ。結構アファーマティブ・アクションのことを考えて、都合がいい方、有利な方を選ぶというのが、僕がいた頃にもありましたよ。
山路:
国籍を選んで有利な方で入った医者っていうのが、告白の記事とかを出してたりもしますよね。「あれ枠、決めてやってるんでしょ」(コメント)ってありますけど、その枠のルールっていうのが完全に明らかになってるわけじゃないですよね。
国に頭が上がらない日本の大学事情
小飼:
明らかになっているわけではないですし、アメリカの場合は学長の権力というのがすごいわけです。ちょっとした王国の王様並みにあるんですよ。なので「ちょっとこいつを入れたいな」で、入れさせられるんですよね。
山路:
その事自体の問題はないんですか? 学長の権限で、自由に受験生を入れたり入れなかったりできるというのは。
小飼:
学長が責任を取る限り許される。その程度の裁量はあることになっているし、その程度の裁量があるお蔭で入れた人もいるわけです。でも、日本の場合は、学長よりも文科省の方が強いでしょう。
なのでオリンピックの時にボランティアに配慮したスケジュールを立てて下さいと言って、ブチ切れたかと言ったら、その肝心の文科省が「ちゃんと生徒を受講させなさいよ」と言って、厳しくしたんですよね。
だから1学期に15週は確実に受けさせることですとか、そうやるとどうやったってオリンピックに食い込むんですよ。「オリンピックは8月にやる」と言ったらどうしろって言うんだ? という話ですよね。でも、米国の場合は、もう各大学の学長なり理事会なりが強いので、本当にちょっとした独立国なので。ハーバードなんてアメリカよりも歴史ありますからね。
山路:
結局、東京医大の問題というのは、ルールを明らかにしてなかったというところが問題?
小飼:
いや、明らかにしていたけど、そのルール通りにやっていなかったというところが悪いんですよ。
山路:
うちらは依怙贔屓(えこひいき)とか、学長の権限で決めることはしませんよという。
小飼:
会社の経理であれば、二重帳簿です。
ルールは破るためにある?
山路:
日本のあらゆるところで、こういう構造が見える気がするんですけどね。実はルール上はこうなってるんだけど、実は運用してないみたいなことっていうのが、あらゆるところで、医大に限らず見えるような気がしますけど。これって受験生から、例えば女子の学生なんかは、もしかしてこれによって通った人が落とされている可能性があるわけじゃないですか。
小飼:
とてもありますね。
山路:
損害賠償とかの訴えを起こすことって出来るんですか?
小飼:
可能ですし、実際に受験に不備があったっていうのは、大阪大学の例ですけれども、賠償してますね。それくらい日本においては受験というのが、公正であることのシンボルだったわけですよね。
山路:
だからこそ、学力受験競争だ、なんだかんだ、と言っても、我慢ができてたところがあるわけですもんね。
小飼:
そういうことです。
山路:
そういうネポティズムじゃなくて、一発勝負だからと思うから。これって今後めちゃめちゃ影響が大きくなってきそうな気がしますよね。
小飼:
デカいですね。すごく大事な建前だったんですよ。これで就職のときですとか、あるいは医大の場合というのは、どの医局に配属される、どこそこの付属病院に行くっていう人事に関しては、これはフェアでもなんでもないですよね。コネでやってるわけですよ。
山路:
なんか白い巨塔みたいな(笑)。
小飼:
でも、それはどこの職業人の世界も同じじゃないですか。だからお祈りメールというのは、雇用する側の一存で出せるわけですよ。それはどこの世界でも同じですよ。学校は学校で、本当にこれが公立とかっていうのは、どこのクラスに行くのかっていうのは、時の運じゃないですか。それが実力かどうかというのは、僕は疑問なんですけれども、テストするべきではなくて、テストしやすいものをテストしてるだけじゃないかって。疑念はありつつも、でも少なくともテストの点だけを見ますねっていうのは、日本の受験の建前だったわけですよね。
山路:
女子だけじゃなくて、3浪以上の受験生も合格しづらくするという調査もあり。
小飼:
それもよくわかんないんだよね。3浪以上とかいうのは実はどうでもよくて、これでちょっと思い出したのは、群馬大学で56歳の女性が受験して、試験の点は十分だったのにも関わらず、入学を認められなかったという。これは、群馬大の裁量が認められたんですよ。そういった判決が出ていて。
山路:
それは「医師免許取ってから活動できる期間が短いから」みたいな。
小飼:
本音はそこでしょうね。ですが、入れる入れないは、最終的に決めるのは、大学の裁量である。試験ではなくて。
山路:
でも、そこで判例は出ちゃってはいるんですね、一応。
小飼:
群馬大の場合は、ですけどね。これはあくまでも個人が訴えたケースなので。