アイドルソングの“いい下手さ&悪い下手さ”について吉田豪らが提言「スキル主義もわかるけど、アイドルの魅力はそこじゃない」
久田将義氏と吉田豪氏がパーソナリティをつとめるニコニコ生放送「タブーなワイドショー」。今回の特集は「アイドルのいい上手さ、いい下手さ」。吉田氏が自身のTwitterでもこの話題について言及し、話題となっています。
ゲストにはアイドル事情に詳しい掟ポルシェ氏が登場し、「歌唱力を求めていない」「アイドルはかわいいのが仕事」と独自の理論を展開。吉田氏も「スキル主義の人の気持ちもわかるけれど」と前置きしつつ、「アイドルの魅力はそこじゃない」と語りました。
ずっと言ってることなんですけど、アイドルの歌には「いい上手さ」「悪い上手さ」「いい下手さ」「悪い下手さ」があって、ただ単に「下手ならいい」「上手いのはつまらない」って話じゃないんですよ。そして、それはおそらく様々なジャンルで言えることなんだと思ってます。
— 吉田光雄 (@WORLDJAPAN) July 11, 2018
「アイドルって何が仕事かって、かわいいのが仕事だったりするわけでしょう」
吉田:
だいぶ前から僕がよく言っていた話で、しょっちゅうこういう話題が出るたびに過去の発言でも引用しようかなと思ったら、過去にちゃんとTwitterでつぶやいていなかったから、きちんと書いてみようと思って。アイドルの歌にはいい上手さ悪い上手ささ、いい下手さ悪い下手さみたいなのがあってみたいな話を。
それはアイドルに限らずいろいろなものにもあると思いますと書いたら、「わかります」みたいな意見が7割ぐらいと、「意味がわかんない」、「やっぱり上手いのが重要なんだ」みたいな人、いろいろな人がいて、是非そういう事情にも、詳しい掟ポルシェを交えて話してみたいな感じです。
久田:
「AKB48って、口パクなのは……」って言ったら、掟さんは面白い意見があって。「それは関係ないですよ」って。
吉田:
口パクがいい、悪いじゃないですからね。
掟:
たとえば技術論ですごいほうがいいと言う人は、口パクを非難しますよね。
吉田:
「歌ってねえだろ、あいつら!」って。
掟:
歌を聴かせたいのか、歌の技術を聴かせたいのか。でも見ていたらそうじゃないのはわかるじゃないですか、Perfumeにしても。リアルタイムでAuto-Tuneがかかっているわけだし、あれだけ派手なダンスをしながら息を切らさずに歌うっていうことは無理だろうし。
抑揚のある歌声ではないから、リアルタイムで歌うことはそれほどファンの人は求めていないと思うんですよ。ファン以外の人は非難するかもしれないけれど。全然口パクだったとしても、口パクであることは別に何の問題もない。
吉田:
AKB48にも歌心を求めて行っている人はそんなにいないから。
掟:
それでも「歌は心」と言う淡谷のり子先生のような考え方の人から見ると、歌はリアルタイムで歌うべきでしょうし。
吉田:
個人的には僕は生歌推奨派だし、ユニゾン嫌いだし。だからAKB48にはあまりピンとこない。
久田:
ユニゾンって何なんですか。
吉田:
グループアイドルで、それぞれの声質を活かしたソロパートが多い。AKB48とかは公演で本人が歌えないことが多いんですよ、休んでいるから。自然とソロが減るというか、ユニゾンでみんなが歌う。
掟:
同じメロディを何人でもって歌うというやつです。
久田:
なるほど。
吉田:
合唱とかと違って。
久田:
ハーモニーとかでもなくて?
吉田:
ただ同じメロディを全員で。正直、声質の良さも消しちゃうから僕の中ではかなりピンとこない。アイドルの魅力を消す文化。
掟さんはどうですか、アイドルの歌に関しては。
掟:
俺は昔から下手なのが好きっていうふうには公言していますけれどね。特殊な声のほうがいいですよね。
吉田:
新田恵利みたいな、超音波みたいな声が「最高!」ってなるっていう。
掟:
最高ですよね。やっぱり歌唱力をその人に求めていない。アイドルって何が仕事かって、かわいいのが仕事だったりするわけでしょう。上手くなりすぎるとかわいいよりちょっと目減りしちゃうんですよね。
技術のほうに目が行ってしまって、技術をコントロールできる人格みたいなのが出来上がっちゃうと、なんか、アイドルとしてちょっとどうかなって。なんかもっと拙い感じのほうがいいですよね。
久田:
小泉今日子とか、ちょっと歌が上手い。
掟:
僕の中では「アイドル」というより「スター」という感じですね。
吉田:
RHYMESTERの宇多丸さんがかつて言っていて名言だと思ったのは、アイドルというのは何らかの実力よりも魅力のほうが秀でている存在。その足りない部分をファンが応援で補完する。本当にそれがそうで、実力を高めようとしていくものではあるんだろうけれど、そこが際立ちすぎちゃうと、魅力よりもそっちが目立っちゃうんですよ。
実力の人になると、だったら普通にアーティストやってくださいっていうか。実力が高くても、それよりも魅力が上回ってくれないといけない。
久田:
たまに吉田さんが言っている眉村……?
吉田:
眉村ちあき? 彼女は歌は上手いんだけれど、プラス魅力が破壊的なものがすごくあるから、ちゃんと超えているんですよ。
「アイドルを超えた」は間違い?
久田:
アイドルとミュージシャンの境目……境目と言ったら失礼なのかな。
掟:
別にそこははっきりわけなくてもいいんですけれどね。
吉田:
本人が言うかどうかなので。ただ、そうでもない人が「私はアイドルじゃない」と言い出すと、僕らは毎回モヤモヤして、「あなた、アイドル的な売り方をしてなんでそこを嫌がるんですか」って。
掟:
アイドルイベントしか出てなくてね。おかしいよっていう。
吉田:
そう。「きょうから私たちはアーティストです」とか言われると、ちょっと待ってっていう。
掟:
そういう宣言があって。ファンとしては心苦しいんですよ。「そこじゃないよ」って。
吉田:
アイドルというものも運営サイドも差別的なものだと思っているんですよ。かっこ悪いもの。アーティストのほうが上だと思っていて、私たちもそっちに行きたい。いつかこの肩書きを捨てたいと思っているのにこっちはモヤモヤして。「そんな悪いもんじゃないよ、これ」っていう。
掟:
でもレッスンをしなきゃいけないわけじゃないですか。レッスンをする時に、その道のプロの人が先生として来ますよね。できたほうがいいという指導なんですよね。でもちょっとアイドルでも、たとえばハロプロさんなんかは、ものすごく技術の高い先生で技術を上げるようにしているけれど、そうでないアイドルの運営の方は「このぐらいの下手さで止めておいて」と指導する人も今出てきちゃっています。
久田:
そうなんですか(笑)。
吉田:
その拙さがいい。
久田:
そんな人いるんですか(笑)。上手ければいいというもんじゃないんですか。
吉田:
僕らのツボに入るような適度に声がひっくり返っちゃうような。それがイカす! っていう。
掟:
アイドルってすごく特殊な音楽ジャンルだと思うので。
吉田:
すべてのジャンルを入れられる枠なんで。
掟:
アイドルが歌っていたら何でもアイドル歌謡曲になるわけですから。
吉田:
しょっちゅう僕らが文句を言う「アイドルを超えた」とか言い出すたびに、いやいやアイドルは超えられないんですよ。すべての枠がアイドルなんですよっていう。すごいロックをやったら「アイドルを超えたぞ」って言い出す層がいるんです。やっぱりみんな、アイドルっていうのが恥ずかしい存在だと思ってね。「アイドル枠じゃないぞ!」って。
掟:
アイドルがすごく恥ずかしかった時代にはそれを声高に言っていかなきゃいけない時代もあったと思いますよ。初期のPerfumeが出てきて、『コンピューターシティ』ぐらいから褒める時も俺、そういう言葉を引用して使ってたと思う。意図的に。
久田:
Perfumeってどっちなんですか。
掟:
初期はアイドルとして名乗っていたんですけれど。テクノポップアイドルユニットと名乗っていたんですけれど、途中からアイドルって名乗らなくなりました、やっぱり。それはたぶん意図的にファン層を変えてきている。
久田:
今はアーティストなんですか。
掟:
途中でいろいろ雑誌でスキャンダルとか出たりした時期と重なるんですけれど。
吉田:
その時にアイドル売りだとどうしてもそれが言われるから。
掟:
一人称が変わるんですよ。それまで一人称は「僕」で歌われていたんです。僕に向けて歌っている、僕の気持ちで歌っている歌詞だったんですけれど、そこからはPerfumeと同世代の女の子の気持ちで歌っている。それもカラオケで歌ってもいいような歌詞に変わってきている。どんどん身近な内容に変わってきています。
80年代のアイドルは「アイドルだから下手だ」とされていただけ
吉田:
AKB48も一人称を変えてから売れたとかよく言うよね。
久田:
僕的には『ポニーテールとシュシュ』から変わってきたと思うんですけれどね。1年か2年ぐらい前に「AKB48紅白対抗歌合戦」をやったんですけれど、全部生歌だったんですよ。
吉田:
スターダストの、歌の上手い「3Bjunior」の子とか、やばいのを入れたガチの戦いのやつですよね。普段生歌で歌っていないAKB48がボロボロにされる様を。
久田:
ミッツ・マングローブさんとかが「あんたたち歌えるじゃん」って(笑)。審査員にいるんですけれど、見ていて俺は別に下手だったんですけれど、それもいいんじゃないのって思ったりもしたんですけれどね。松田聖子とかってデビュー当時めちゃめちゃ下手だったじゃないですか。
吉田:
めちゃめちゃってほどでは……。松田聖子が歌が下手な代表って言われるのが結構複雑で。
久田:
今は上手いよ。
吉田:
当時からちゃんと歌えてるよね。
掟:
当時下手だと言われている人は、今デビューシングルとかデビュー当時の映像とかを見ても、そこまでめちゃめちゃ下手じゃないですよ。
吉田:
大場久美子とかあのクラスとかだと……。
掟:
大場久美子は別ですよ(笑)。
久田:
松田聖子はラジオから聞こえてきた『青い珊瑚礁』とかで、スイートボイスというか、甘い声だなと思ったし、結構みんな上手かったですよね。
吉田:
当時、松田聖子とか田原俊彦とかを下手と切り捨てる風潮だったけれど、上手いよって。
掟:
アイドルだから下手だっていうふうにされているだけで。だから俺の中では松田聖子はアイドルじゃないんですよ。
吉田:
まだ松本伊代とかのほうが声も変だし。
掟:
そうそう。
吉田:
松本伊代の取材を今年かな、やった時に言っていたのが、やっぱりあそこはプロデューサーがよくできていて、最初レコーディングをした時に言われたらしいんだよ。もうちょっと声を直すとかちゃんとした歌にしようと。でも「いや、お前のこの鼻声を活かす」ってなって。わざともっと変な声を活かせと。
掟:
鼻にかかっている声のほうがセクシュアルなんですよね。歌の技術が上がっていけば上がっていくほど、生のその人の声から離れていくわけですよね。そうすると地声の魅力が味わえなくなって、親近感みたいなものはなくなっていく。
久田:
親近感って結構大事ですよね。
掟:
身近な感じのアイドルを秋元先生がおニャン子クラブから作って、その親近感みたいなものが売りになってから、アイドルというもの自体が変質していったんだと思います。
久田:
僕もそう思います。前までは小泉今日子とか中森明菜とか歌も上手い人が多かったですね。石川秀美とかはちょっと違ったと思うんですけれど。おニャン子クラブの時に、ド下手でしたもんね(笑)。
吉田:
だから面白かったというか。
掟:
あの破壊的なのものを、秋元さんが面白くて「これでいこう」と。
久田:
『冬のオペラグラス』とかも。
吉田:
最高ですよね。
久田:
すごかったですもんね。僕も大好きなんですけれど。
掟:
すごいよね。今聴くと録音もすごくて、ものすごいリバーブがかかりすぎていて。すごいシングルですよ、『冬のオペラグラス』。
久田:
新田恵利は大好きだったんで。