なぜ電子と紙で同じ価格なんですか? 流通、印刷代がいらない電子書籍が安くならない理由
紙と電子を切り分けると互いの価値観がわからなくなる
岡田:
僕らの社会に本屋さんを維持するだけの余裕までなくなれば、たぶん、本屋さんというのはなくなります。すると、紙の書籍というのは“お金持ちだけの娯楽”になっちゃうんです。
貧乏人というのは「そんな不便なものがなんで欲しいの? だって2000円もするくせに、紙だからすぐになくなったりして、どこにでも持っていけるわけでもないから、外で読めない。なのに、なんでそんな紙の本みたいな不便なものが欲しいの?」というふうに思うようになる。
金持ちは金持ちで、「紙の本は高いけど、良いんだよね」と言うようになる。そうやって、お互いの文化が理解出来なくなる。これが“階級化”なんですよ。
階級化というのは何かというと、「貧富の差があること」じゃないんですよ。貧富の差が固定化されて、金持ちは貧乏人の気持ちがわからなくなるし、貧乏人も金持ちが何に喜ぶのかが、根本的に理解できなくなることなんです。これは、本屋に限ったことではないんでしょうけれども。
本というのを電子化すれば、書籍の価格は3分の1になる。そのかわり、紙の本の価格は3倍になる。こういう状態を続けていると、徐々に「この本は紙でしか出ない。この本は電子でしか出ない」というような仕切りが、どんどん生まれて行くことになるんです。
僕らの社会、今の日本というのは、かろうじてひとつの文化というのを、なんとか共有しているんですよ。そりゃ、お互い“パリピ”だとか“オタク”だとか“リア充”だとか言いながらも、実は心の底では「お互いの何が面白いのか」というのがわかっている。
こういった世界が全て崩れていって、中世ヨーロッパの野蛮な世界になります。僕が中世ヨーロッパを“野蛮”と言うのは、金持ちと貧乏人という階級にハッキリと分かれていて、お互いが全く理解できなくなっていたからなんですよ。
それに対して、日本の中世と言われる室町から江戸時代というのは、実は庶民であろうと、百姓であろうと、武士であろうと、だいたい同じものを面白がったり喜んだりという、すごくフラットな文化圏を持っていた。そんな豊かな民族なので、「それを失ってしまうのはもったいないな」と思うんです。
なので、「もう本の値段を3分の1にして、全部電子で出して欲しいよ」って思いながらも、それをやっちゃうと、今の本文化というのは完全になくなってしまう。家族の中に障害者がいたら、それを切り捨てるのではなく、一緒に生きていくことで何かがあるのと同じように、ここら辺は負担として抱えるしかないんじゃないかな、というふうに思っています。
▼下記バナーをクリックで番組ページへ▼
─関連記事─
電子書籍のサービス終了で買った本が“消滅”する? 「我々が買っているのはコンテンツではなく読む権利である」と小飼弾が言及
「紙のエロ本は死んだ」――書籍を【紙】で読むか【電子書籍】で読むか調査した結果「エロ本」と「小説」でほぼ正反対の結果に
【全文書き起こし】Kindleアンリミテッドに限界はくるのか? 出演:津田大介×西田宗千佳×福井健策×現役出版社社員【ニコニコニュース特番】