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インターネットは「天皇」のあり方を変えるのか?小林よしのり×本郷和人×大田俊寛

石原慎太郎には尊皇心が足りない

堀:
 ニコ生のコメントを読んでいると、神官、神、君主、元首、公、などのキーワードがよく流れていますが、本郷さん改めてどう思われますか。

本郷:
 象徴という言葉は日本語の中では非常に難しい、普段使わない言葉ですよね。だけどシンボルというとすごくわかりやすい。逆に英語のほうがわかるわけですよ。日本の歴史を見てみると逆にシンボルであった天皇陛下というのは歴史に合っているわけですよね。ずっと江戸時代も、少なくとも室町時代はシンボルだったんですよ。そういう意味からするとシンボルという考え方は決して悪くない。

堀:
 江戸や室町のころのシンボルとしての当時の天皇というのは、一般の市民からするとどのように受け止められていたんですか。

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本郷:
 京都の一般の人たちは天皇陛下のことよくご存知なんですよ。例えば江戸時代に江戸の庶民が天皇陛下のこと知っているかというと多分知らないんですよ。だからそういうことを含めて歴史勉強しましょうねっていうことなんですけど。だから江戸時代というのは簡単に言うと庶民が天皇を知るようになった。平和になった、平和になったら10年後の自分はどういうふうにあるべきか20年後の自分はどうあるべきかと勉強をはじめた。そうすると我々日本人というのはどこからきてどこへ行くんだというのを考えると「あれ?おれたちは一番偉いのは将軍だと思っていたけど、その上に天皇がいるんだ。」と知るんですね。だから幕末の尊皇という考え方が広まるんですよ。

 そういう風に考えていくと明治時代のこともわかってくるし、それが本当にいいのか悪いのかっていう話ももちろんできるわけだし。今のシンボルとしての天皇陛下というのを元首にしたらどうかという声も当然出てくるんだけど、シンボルでいいんじゃないか。中には何%かだけですけど天皇というのはやっぱりみんなが平等であるということに反するから天皇制自体をやめようという考え方も、ないではないでしょう。みんながいろんなことを考えているわけだから、民主主義の世の中なんだからタブーを外してみんなで考えましょうということなんですよね。

堀:
 自民党の改憲論の中でも、最初に天皇は元首でありプラスして象徴であると併記する案が出ている。現在は元首という言葉が使われていない現行憲法ですけれども、たしか小林さんは元首であるということは間違いないとお考えですよね?

小林:
 事実上元首として扱われてしまっているわけですよ。事実上そうなんですけども、ちょっと危惧するのは元首ということを憲法上規定してしまうと、万が一戦争になったときに外国から責任を問われるというようなことがないのかなと、そういうことがちょっと不安になりますね。だからむしろ象徴という言葉は非常にいいんじゃないかなと思ってしまいます。

堀:
 象徴の中にいろいろなものが内在されている。非常に柔軟性に富んだ表現であるということですね。

小林:
 祭祀を行われる方であるとかね。もちろん国事行為というものがあればね。組閣したら認証もしなくてはならないわけですから、そういう権限を与えるということですよね。そういう役割をしておられるけれども直接政治にタッチしているわけではないと。

 だから本当を言うんだったら、明治憲法のときでも本当は立憲君主制度なんですよ。内閣の輔弼があり、国会の協賛というものがあって、天皇は動くしかなかったんですけども、だんだん昭和の終わり頃になってきたら、軍部の連中がね、神だと祭り上げちゃったんですよね。それで戦争責任の問題が後で出てきちゃうんですね。天皇が主権を持っていて、全部戦争も指示していた。かのような誤解をされちゃったんですよ。ああいうことを二度と繰り返してはいけないと思います。

堀:
 いわゆる当時の終戦直前の数年間のあいだの教育と、その前の教育とではまた質が違ったわけですよね。

小林:
 違いますね。同じ明治憲法をどう解釈するかという感覚でも、やっぱり戦争中の軍部ですよ。この軍部が空即の感のように、天皇を非常に持ち上げながら、自分の好き勝手にやるんですよ。まったく天皇は当時の美濃部達吉っていうのがね、天皇機関説を唱えて天皇に主権はない、と言って軍部と対立する。天皇主権説をとった軍部と右翼の人物が利用しちゃったんですね。

 で、その状態といまの日本会議の状態ってそっくりなんですよ。つまり、天皇!天皇!自分は敬愛している!尊敬している!慇懃な言葉じゃないですか、ところが実は慇懃無礼なんですよ。で、天皇を利用しようとしているわけですよ。だから、全然尊皇心がないんですよ。

 で、一般国民だったら自然な尊皇心があるから、もうお疲れになったでしょう、じゃあもう退位させてあげましょうよ、と。おじいちゃんおばあちゃんから子供まで誰でも思うわけですよ。ところがそれを許せんと言い始めるわけですよ、そのまま天皇であり続けろとかね。あるいは摂政を置けとかね。あるいは特別法をつくれとかね。天皇陛下の公務そのものを分割するとかって話じゃない、と。みずから否定されましたからね。あれはすごいと。

本郷:
 僕がびっくりしたのは石原慎太郎が「俺だって頑張っているんだから(陛下も)もうちょっと頑張ってくれよ」と言ったじゃないですか。石原慎太郎って、東京都庁に週に2日しかいかなかったんですよ。その人に俺が頑張っているんだからって言われる筋合いはないだろうなって思うんだけど。それはいかがなものでしょうね。

小林:
 石原慎太郎なんか比較にならないほどの忙しさですよ、天皇陛下は。

堀:
 ご公務は非常に激務ですからね。

小林:
 石原慎太郎なんかのぼせ上がっているから、たとえば弱者に対して石原慎太郎がどんな態度を取れますか。お前なんかどっか行けという態度でしょう。天皇陛下は違うよ、弱者に対してものすごいいたわりの気持ちをもって接することができる人なんですよ。

本郷:
 でもぶれない人という意味では笑えるかなという感じです。

堀:
 石原さんの話は置いておきましょうか?大田さん、日本会議の話もありましたけど、ひとつ政治利用と天皇、これに対しては今回の陛下のお言葉の中でも非常に言葉や現状の立場を鑑みながら慎重にお話されていましたね、距離を置きながら。

大田:
 そうですね、見れば見るほど気が滅入るので最近あまりツイッターとか見ないようにしているんですよ。正直、バカな右翼とバカな左翼が罵り合っているのがよくあってあまり見ないようにしているんですけど。ツイッターやまとめサイトを見ると、本当に誤解がないご発言だったと僕なんかは思ったんですけど。見事にこれは安倍政権の改憲を阻むための言葉だったとか。

堀:
 それは左派の方ですね。

大田:
 そういった自分の政治的主張に都合がいいように都合よく解釈するというのがありましたね。ただ、ノーマルに解釈するとおそらく天皇陛下は改憲は必要ない、ただしやはり皇室典範に関しては、現状に見合うように改正して欲しいという思いがあったように僕は思ったんですけども、それも日本会議とかから見ると、違うという異論が出てくるのかなと。

堀:
 大田先生は日本会議の定義というか見解はどのように考えていらっしゃるんですか。

大田:
 最近は陰謀論的な話が多くて、生長の家の谷口雅春さんを非常に崇敬している人たちが非常に大きな権力を日本会議のなかで持っている人たちがいて、そういった人たちが安倍政権を背後で動かしているという言い方がされるんですけど。

堀:
 そういうウェブの記事が出たりして。

大田:
 僕から見るとそれほど日本会議について詳しいわけではないですけど、あれは保守の連合というかもっと悪く言うと野合というかですね。多分これから憲法改正について具体的にどこをどう改正するのかっていう具体案になってくると日本会議の中の連合も崩れてきて内ゲバが起こっても不思議でないような、いろんな意見の人たちの連合体だという印象がありますね。

堀:
 小池百合子さんが都知事に当選した時にインタビューを選挙特番でしたんですね。日本会議との関係はいかがですか、と。小池百合子さんは、最近ちょっと先鋭化してきているところがあるので私は距離をおいています、と言っておられました。先鋭化している部分とそうじゃないという意見の方々といろんな方々がいらっしゃるということでしょうか。

本郷:
 新しい教科書をつくる会を見ていればわかるとおり、喧嘩ばっかりしていますもんね。どこが本流なんだろうと思うけどよくわかんない。だけどもっと一番大事なところは天皇陛下がおやめになりたいとおっしゃっておられて、上皇というのは歴史的にたくさんいらして、それが普通の形であるわけですよね。だから退位するというのは普通にあったということです。それこそ伝統を重んじるのであれば上皇を認めるというのでいいということですよね。

憲法学を勉強した人だと、陛下のああいう言葉は聞いてはいけないと言う

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堀:
 上皇を認めるとなると、皇室典範は・・・

本郷:
 変えないといけません。

堀:
 憲法は?

本郷:
 憲法は変える必要はないと思いますよ。

堀:
 小林さんはいかがですか?

小林:
 憲法を変える必要はないと思いますよ。皇室典範改正だけでできると思いますよ。

堀:
 みなさんにもアンケートを伺いたいと思います。そもそも陛下の生前退位、生前退位という言い方についてもいろいろな議論がありますけれども、これは生前退位でよろしいものなんですか?

本郷:
 生前退位でも譲位でもいいです。

小林:
 面倒くさいんですよ、政治的な発言がだめと縛られなきゃいけないから、譲位と言うと、もう政治的発言になっちゃうんですよ。本当は退位だけでいいわけじゃないですか。それがないじゃないですか、退位の規定が。生きているうちに退位するという、よりわかりやすいように生前退位という言葉を編み出しちゃっているわけでしょう。

堀:
 今日は便宜上生前退位という言葉を使わせていただきますが、生前退位は認めるべきだ、認めるべきではない、わからない。視聴者のみなさん、ぜひご意見をアンケートでクリックしてください。現在の今上天皇の退位は認めるべき、認めるべきではない、わからない。どうなんでしょうか、街場の感覚としては。僕などはあれだけのご公務が激務でいらっしゃるから違う立場になってゆっくりと日本を見守っていただきたいなという思いはあります。では、結果を見てみましょう。

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堀:
 認めるべきだが8割以上ですね。大方のみなさんは、認めるべきということですね。小林さんはどう思われますか。

小林:
 まったく常識的な感覚。こう聞くとそうなりますよね。イデオロギー的なもの全部介在しない形になればそうなりますよね。わしなんか天皇論なんか書いてしまったもんだから、ものすごく強硬な天皇の崇拝支持者みたいに右翼みたいな感覚に思われているけれども、わしが天皇論を書いたのは50過ぎてからだからね。その前は朝まで生テレビに出たときに、「天皇は天皇!わしはわし!」って書いてフリップに出したぐらい。

堀:
 超個人主義。

小林:
 徹底的な個人主義だったので50過ぎまで天皇のことを知らなかったんですから。驚きですよ、自分でも。流石に50過ぎてしまうと日本の象徴を天皇とされているものの知識が無いというのがだんだん恥ずかしくなってきたんですよ。このまま死んだら恥ずかしいんじゃないかなと思って。じゃあ自分で色々な本読んだりして勉強してみようと思ったわけですから。

 大概の人は日本会議に属している人からね、全員知らないですよ。天皇を。それぐらいのもんですよ。知らなくたっていいんですよ。本当言うと。今のような陛下のご苦労を見てね。まあ、そろそろ退位されたいと言っておられるんだから、いいじゃないですかという感覚がね。それでいいですよ、本当に。

堀:
 本郷さん、そういう意味でいうと先ほどの皇室典範そのものが非常に近代に入ってからのものであるという話をされていましたよね。今後の手続き、改正なども含めてどのようになるでしょうか。

本郷:
 それは法学部の人が案を上げればいいことで、僕に聞いてもわからないです。僕が言っているのは、手続き論ではなく結果のほうが大事な場合もあるんだよということですね。もちろん手続きも踏まなきゃいけないんですけども。

 日本の大学の悪いところは法学部が中心にあるでしょ。法学部が一番でかい顔をしているわけですよ。だけどフランスに行ってみなさいよ。哲学が中心にあるんですから。だからそういう意味から言うと、大学のあり方というものも考えて。日本の場合は重箱の隅をつつくような議論が多い。

堀:
 なるほど。形にこだわるということですね。

本郷:
 それがね、いいところでもあるし、悪いところでもあるんだよな。

小林:
 けど、法的に国会マターになっちゃったから。皇室典範は皇室の家法だったんですよ。だから戻せばいいんですよ、皇室に。自分たちで皇位継承順位ぐらい決められるようにしてあげればいいのに、それを譲位だの退位だのというものは全部典範規定じゃないとダメって話になっちゃうから。それを国会議員がこれを決める権利があると。

堀:
 そこが、民主主義というものと、天皇・皇室というものの抱えているジレンマであると。

小林:
 そうなんですよ。法律家はね、たとえば憲法学なんかを力いっぱい勉強した人は、ああいう天皇陛下のお言葉を聞いてはダメだと言いますよ。全部決めるのは国民だと。国民主権なんだからと。だからあんなのを聞いて政治が動いたら絶対ダメだと言います。そうなっちゃうんですよ、理論的に。憲法学の立場から言うと。

堀:
 そうではないのが、まさに象徴天皇という存在なわけですね。

小林:
 ところがこれが全部憲法経路に入っているわけですから面倒くさいんですよ。奇妙なことが起こっているんですよ。左の日本国憲法を守ろうとする憲法学者とね、百地章とかいう右派とされている憲法学者ね。言っていることは一緒になっちゃうんです。

本郷:
 右と左が回りまわってだいたい同じという。

小林:
 国民主権が一番大事だから、天皇の言葉、言うことを聞いてはいかんと言い始めるんですよ。どっちが左翼かわからないということになるんですよ。

国民がしっかりしていれば、天皇陛下が政治に関する発言をしても問題ない

堀:
 同床異夢ですね。大田さんは今の話を伺っていかがですか。民主主義と天皇・皇室のありようについてジレンマの話がいま出ましたけども。

大田:
 そうですね。最初にお話したように現在の日本の状況では、天皇が良くも悪くも象徴である、政治的権力は一切剥奪されていて、政治に関わるような発言すら許されていないという、ある種の厳格主義的すぎるルールで、天皇陛下の今回のご意見表明についても、非常によくわからない仕方で、リークというか手続きがですね。正式にはこういう表明はダメなんだけども、たまたまNHKがこういう特ダネとしてキャッチしましたよという。これは陰謀だというおかしなコメンテーターが陰謀論を言っていたのが面白かったですけれども。

 僕は思うんですが、天皇陛下が政治に関する意見表明をしたとしても、国民がしっかりしてれば済む問題なんですよね。天皇陛下がひとりの人間として、政治に関わるようなメッセージを発せられたけれども、国民の側で話し合って、国会を中心に話し合って、天皇陛下はこうおっしゃっているけれども政治的選択として、こういうものが正しいという国民の側がちゃんとしっかり理性的な理論を積み上げて政治的決定が出来れば天皇陛下のご発言というのはそれほど決定的なものに本来ならないはずで、もう少しいろんな皇室後継者の問題であるとか、そういうことに関しては自分たちの身の振る舞いに関することですから、当人がどう思っているかということについてもっと意見を表明してもいいはずなんですよね。

 それが我々国民の側がしっかりしてなくて、天皇陛下が何かをおっしゃると非常におかしな右翼や左翼の人に伝播していってですね、想定外の影響力を持ってしまうので、完全に封殺せよみたいなおかしなことになっていて、そこがやっぱり国民の側がしっかりしていて、理性的な議論と民主主義があれば、それほど陛下の発言に左右されないはずなんじゃないでしょうか。

堀:
 しっかりというのは何をもってしっかりと考えればいいんでしょうか。歴史を知っているということでしょうか。

大田:
 それもありますし、いろんなファンタジーに惑わされずにリアルな世界情勢をちゃんと見ることが出来て、現状の国際環境の中で国家として、リアルで適切な振る舞いはこうだという。ちゃんと理性的な言葉に基づいた選択が出来れば天皇陛下のお言葉は問題にならないと

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