インターネットは「天皇」のあり方を変えるのか?小林よしのり×本郷和人×大田俊寛
メディアが成熟した現代、天皇の「聖性」は保てるのか
堀:
さっきと同じ質問ですが、そういう状況で私たちは天皇を畏敬の念を抱き続けられますかね。
大田:
小林さんがおっしゃっているのは、皇統という血の絆が持っているオーラが勝るか、人格が勝るかというその二者択一というところがあります。
小林:
ところが、そこがまさに今の時代なんですよ。こういうメディアが発達してネットから全てが発達してこの時代においてね、人格を無視することは出来ません。とにかく血だから血統だからということでは国民の敬愛心というものが育たないんです。それは今の陛下だからこそああいう言葉を述べられて、みんなが是非やってくださいという敬愛心が育っちゃったんです。これは人格抜きには出来ません。
それは各天皇が昔は権力と権威が一緒でしたからね。だから多少無茶苦茶な人がいたかもしれませんよ。愚劣天皇がいたかもしれません。今はそんな時代じゃないんですよ。各天皇が自分が即位したら、全身全霊で国民のために務める。これをやらないと天皇制って続きません。絶対国民が見放します。滅びます、皇室が。
堀:
歴史的に振り返る中で、皇室の歴史の中を見てみても権力欲が出てきた人のときは世が乱れるという話がありましたけれども、天皇の人格によってという関係性で言うと?
本郷:
面白い例になるかどうかは分からないですが、鎌倉幕府のときに天皇家を2つに分けたんですよ。持明院統と大覚寺統という2つに分けて両統迭立というのをやるんですよ。
堀:
なんでそんなことをするんですか?
本郷:
天皇家が一つにまとまっていたら鎌倉幕府にとって脅威だから。鎌倉幕府の後期の天皇たちって、ものすごく勉強家なんですよ。それは国民に対して責任を持つということは言わないんですけれども、天に対して責任を持つと。自分は徳を積むんだと、天がそれを認めてくれるから自分は天皇になるんだと。それをぶち壊したのが後醍醐天皇なんですけども。そうなると2つに分けますか?持明院統と大覚寺統みたいに。
大田:
自由競争させて。
小林:
それは面白い話なんだけども。
堀:
議論の一つの材料として。
大田:
逆に言うと人格の問題って女系を入れたところで解決しますかね?
小林:
聖域の中で育っていらっしゃる方ですから。例えば、漫画だって読めないんですよ。それなりの教育がされているんですね。たとえば愛子さまを見たら、スポーツはすごいですね。短距離はすごいですね。習字もすごいとか。バイオリンが弾けるとか、水泳も遠泳が出来るとかね。本当に普通ありえない、ものすごい才能を多様に持ってらっしゃるんですよ。ああいう人は民間から出てこないんですよ。あれほどオールマイティーに能力が長けている人はいないですよね。わしはそういう風に教育されているんだと思います。次の代も考えてね。
堀:
そういうことを考えると先ほどおっしゃった側室、側室というのは武家用語ですよねという話もありましたけれども、そういう形も議論としてするべきなのか、端から遡上に乗せないべきか。
本郷:
それは無理だと思いますよ。
堀:
たとえば市民社会においてのフランスみたいに、非嫡出子を認めますよというのはありますよ。それは皇室に関して言えばそれはありえない。
本郷:
だけど、この間のベッキーの問題を見ていると、やっぱり女性は嫌いでしょう。
堀:
それこそ権威がね。
本郷:
絶対無理だと思う。だから、それはやっぱり今更、中宮がいて、それから女房がいっぱいいてみたいな。それは無理だと思う。
時代に合わせて少しずつ変化するのが伝統。同じことを続けたら滅びる
小林:
結局ね、伝統っていうのは何かひとつの固定観念やドグマが延々と続いていくって話じゃないんですよ。伝統っていうのはバランス感覚なんですよ。だから、時代に合わせて少しずつ少しずつ変化していくものが伝統なんですね。
堀:
まさに陛下はその話を今回のお言葉の中でされていましたよね。時代に合った。
小林:
そうなんですよ。皇后陛下もそういう風に言われていますよ。だから伝統とは何かってことは天皇皇后両陛下の方が、国民よりもよっぽど知っているんですね。伝統なんて、例えば老舗の駄菓子屋見ても一緒でしょ。ずっと同じものを作り続けていたら滅びますよ。やっぱり少しずつ少しずつ、時代に合わせて変化させていくわけですよ、和菓子だって何だって。そしてずっと老舗が残っていくんですね。
ドグマ主義に陥ったら滅びる。
堀:
昔、備前焼の人間国宝の伊勢崎淳さんって方にインタビューさせて頂いた時に、一番最初に言われたのが「堀君、伝統と伝承の違いを知っているか」と言われたんですよ。えっ、伝統と伝承ですかと。伝承と言うのは、昔からあるものを今にそのまま伝えること。民話とか、それが伝承であると。伝統と言うのは、その時代の職人が最新の新しい試みをしてきたことの連続。伝統は革新だと言うお話で。それに通じるなと。
小林:
全くその通りですね。だから、例えば昭和天皇と今の今上陛下っていうのは全然違うんですよ。昭和天皇は人前に現れる時でも、子どもが寄って来た時に「あっそ」と。「いい子ですね」って感じで。それはもう、全く権威というものを態度に表す中で、それでも庶民感情に応えようとしたら「あっそ」しかなかったんですよ。けど、今の陛下ご覧なさいよ。膝を着くんですよ。石原慎太郎とかは立っているのに。
堀:
石原慎太郎さんに戻って来ましたね(笑)
小林:
そんでもう、同じ目線になる。庶民よりも低い目線になってしまうくらい、態度にもう変化が現れてしまっているんですよ。これはその時その時で変わるんですよ。時代によってね。
動画サイトと「天皇」
堀:
今、メディアの時代というか、誰もが見られる時代において、天皇のあり方そのものについて、これからまた変わっていくのでしょうか?テレビはもう旧来型のメディアになりました。インターネットが登場しました。インターネットもこれから先どんどん変わっていくでしょう。もう、触れるもの全てがメディアになるような時代がやってくると言われてますから。
こういう情報化社会の中での皇室・天皇・象徴天皇、このあり様っていうのは、どういう意義を果たしていくんでしょうか?どなたか、我こそはという方がおられましたら。
大田:
この前、トルコでクーデターがありまして、僕、その事情もあんまり押さえてなかったんですけど。軍部でクーデターが起こった時に、エルドワン大統領がスマホでですね、自分でYoutubeか何かで国民に向かって語りかけて。「今、こういう形で国が危機に陥っているから、クーデターを抑えるように協力してくれ」って大統領が直接スマホでトルコ国民のみならず、世界中に呼び掛けて、それで世界を動かすっていうことがあるわけですから。
そういう風にスマホ一つ持っていれば、政治的発言をしないようにとバリアをされている未来の天皇陛下であっても、突然Youtubeに天皇のお言葉がアップされて、天皇陛下ってこういう人だったのかって。
堀:
それはすごい。まあ、可能性としてはね(笑)
大田:
それはいい方に転ぶ場合もあるし、悪い方に転ぶ場合もあるわけですよ。だから、そういうふうに過剰に天皇の人格であるとか振る舞いというものが可視化されていって、それが突発的にこう世界中に広がるっていう時代を生きていく上で、やっぱり、さっきお話したのと同じ結論ですけれど、市民としての成熟というか、結局、それに対して、我々がどういう反応を起こすかっていうことが実は一番大切で、我々の受け止め方次第でそれが良い方にも悪い方にも転ぶっていうことがあるので。まあ、なんというか、あのどういうパターンが考えられるのかは難しいですけど。
堀:
でも、もっともっと近くなる可能性はありますよね。
大田:
そうですね。そういうことが起こった場合の心構えをしておくってことじゃないかと。
小林:
わしはねえ、市民の成熟なんか絶対ないと思っているんですよね。
堀:
大衆社会は大衆社会であると。
小林:
もう、どんどん劣化していくと思っていますよ。
堀:
逆に。
小林:
逆にね。昔はテレビくらいしかなかったから、大体みんな同じテレビを見ているんですよ。そこにおいては、皆との合意がかなり広い範囲で取れるんですよ。ところがネットとかが発達してくると、タコツボ化していくんですね。そうなると、もう、バラバラなんですよ。価値観が。
堀:
小さいコミュニティ、もしくは、個人、みたいな。
小林:
そうそう。もう、バラバラになってしまうんですよ。そうなるとますます個人の確立っていうものが難しくなっていく。やっぱり、劣化はするけれどもね。例えばこういうことがありますよ。わし、昔、『差別論』とか書いていた時にね、自主規制していたんですね。差別語の言葉を。そこを突破する為に『差別論』書き始めたんだけど。その頃、差別的な言葉ってね、便所の中にしか書けなかったんですよ。
ところが、今ネットが出てきたら、ネットで差別的な言葉でも何でも、全部出て言っちゃっているでしょ。自主規制の意味なんか無くなっているじゃないですか、そもそもがね。だから、その中からヘイトスピーチみたいなのが出てきて、街頭で言い始めるわけでしょ。あんなものはありえなかったね。かつてはね。あんな連中が出てくるなんて。
堀:
はばかられるっていう……
小林:
ということでしょ。劣化していますよ。市民社会の成熟なんてことはないんですね。これはっきり言っておきます。予言として。10年後、20年後、30年後、ちょっと、この映像、映してください。「あ、小林よしのり、言った通りだなー」と。もっと劣化しているから。
堀:
「映像が残っているんですよ」って言いながら(笑)
小林:
だから、市民社会の成熟なんていうのはね、まず無理です。だから……
堀:
そうした中での、天皇……
小林:
そうなんですよ。だから、閉じているところと開くところが、ものすごく難しいことになるんですよ。
堀:
やはりこう、全てが開かれる在り様はいけないっていうことですね。
小林:
それだと、もう、全然、どうにもならないですよね。やっぱり、その、本郷さんはAKBのあきちゃんに夢中だった時がありますから……。
本郷:
いや、いまでも夢中でございますよ(笑)
小林:
やっぱり、AKBの方が普通のアイドルよりも開かれていますよね。はるかに開かれていますよ。開かれたから普及したというところがあるんだけども、だけど、本当のアイドルには、やっぱり聖性を求めているところがあるんですよ。聖(ひじり)を求めているところがあるんですよ。
堀:
聖ね。確かに。
小林:
そこはね、プロダクションが徹底的にマネージメントしていますよ。本当はどんな事してるか、わかったもんじゃないですよ。
本郷:
くふー(笑)
小林:
マネージャーが閉じています。だからずっと担保できるんです。あの輝きが。オーラの輝きが。あれを、ネットが発達したからっていってね、全部彼女たちの行動を映していったら、どんどん敷居が低くなっていくんですね。
堀:
イギリスもそうですけど、開かれた皇室論みたいな、あれに対しては一定の歯止めというか、その意義を伝えて、守るべきものは守っていく。
小林:
そうですね。向こうのバランス感覚があるでしょう。AKBなんかで言ったら、むしろ全部開いちゃって、直接会うようになっちゃって……っていうことになるわけでしょ?ネット使ってどんどん自分のこと何でもかんでもつぶやくでしょ。こいつバカだなってことがわかるじゃないですか。
本郷:
バカじゃないもん!
堀:
特定の個人を言っているわけじゃないと思いますよ(笑)
小林:
だから結局、もたないんですよ。たぶん。だから卒業した時にね、ちゃんと閉じている本物のアイドルや女優と比較したときにね、寿命が短くなっちゃうんですよ。全部バレてるから。
堀:
やっぱり閉ざされた部分、暗である部分が大事なんですね。
小林:
そう、大事なんですよ、そこが。
堀:
陰影礼賛ですよ。
小林:
全くそうです。
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