『君の名は。』が”萌え”に支配されたアニメ業界から僕を救った――山本寛・アニメ監督への復帰を語る
オタキングこと岡田斗司夫と、『涼宮ハルヒの憂鬱』シリーズ等のアニメーション演出家であり、『らき☆すた』『かんなぎ』の監督・ヤマカンこと山本寛の初対談が行われた。
岡田のオタク解散宣言である『オタク・イズ・デッド』を見て号泣し、その影響を受けて今年、講演で『アニメ・イズ・デッド』を表明した山本。オタクが死に、アニメが死んだ今、『シン・ゴジラ』と山本の復帰のきっかけにもなったという『君の名は。』の話から、「萌え」とは何か、今のアニメ業界についてまで話はどんどん広がっていき…
20年以上前、京都大学でオタキングに会い、質問をしていたヤマカン
山本:
今日はとても緊張しています。
岡田:
なんで緊張するの?
山本:
僕は本当に1ファンとして岡田さんを見ていて、不躾ながら20数年前に一大学生として岡田さんに質問したことがあるんですよ。
岡田:
京都大学時代?
山本:
母校に来ていただいた時に、僕が最初の質問をしたんですよ。
岡田:
京都大学でDAICON FILMの上映会をやった時?
山本:
いや、それじゃないですね。もうちょっと後ですね。95年か96年くらいです。
岡田:
あーじゃあ、講演をやっていた時だ。
山本:
ガチ講演をやっていただいて、その時に訳のわからん質問をしたのが僕なんですよ。かなり僕もしどろもどろだったので、本当に残念なオタクみたいな感じで質問させていただきました。
岡田:
初顔合わせで一瞬だけ、さっき挨拶して、俺すぐ2階に逃げて…… 本番まで話しないで行こうって言ってたんだけれども、いきなりスタートしてそれをぶつけられると俺もビビるよね(笑)
山本:
そうなんですか!? そういう緊張感を引きずった状態で今もお話させていただいているんで。
岡田:
ヤマカンさんに関しては、俺がアニメ業界辞めてから入ったんですよね?たぶん。90年代ですか?
山本:
そうです。業界に入ったのが98年ですね。
岡田:
なので、ヤマカンさんに対しては僕が全然分からないアニメ業界を見てきた人っていう印象があるんです。
山本:
まあ、そうですね。本当に入れ替わりですね。
twitterで本音を喋るヤマカン「宮崎さん庵野さんを真似したらこうなった」
岡田:
でも、最近の僕のヤマカンさんの主な印象はtwitterで大暴れする人(笑)。
山本:
暴れてないですよ(笑)。僕としては普通に喋っているだけなんですけど。
岡田:
大体アニメの監督とかで、作家みたいなことをやっていて、twitterで本音で普通に喋る人っていないでしょ?
山本:
今は居ないですけど…… コレもいろんな所で言っているんですけど、僕がアニメージュをずっと読んでいた学生時代は、宮崎さんとか庵野さんが無茶苦茶語っていた訳ですよ。アニメを基本褒めないっていうスタイルだったんで、あれを真似したらこうなったっていう。
岡田:
そうだよね(笑)。
山本:
非常に悪いコピー世代ですね。
岡田:
押井守なんてもっと酷かったよね。
山本:
酷かったですよね。だからアニメ監督はそういうものなんだというのを刷り込まれて、勉強したんですよね。そうしたらインターネットというとんでもなく怖い悪魔がやってきて、そういう発言が全部シャットアウトされるっていう。
岡田:
宮崎さんもそうだし、押井さんとかさ、何がズルいというか良いのかと言ったらアニメージュ編集部が検閲してくれる訳じゃん? で、もっとエグいことを喋っているのをどんどん良いように書き換えて、もうこれでセーフだろうという状態にして出してくれるけども、ヤマカンさんの場合は素で出すから。
山本:
そのままです。もぎたての発言をそのまま。
ヤマカンが新海誠を羨ましいと思った『君の名は。』
岡田:
アンケートお願いします。ユーザーの皆さん、どのトークテーマが良いですか?
山本:
だと思った。
岡田:
『シン・ゴジラ』『君の名は。』どっちが面白い?
山本:
これはもう、僕はあんまり評論をしようと思っていないので、やればやるほど叩かれるのもあるし、なんか作っている方に専念したいのであんま細かく評論をしたくはないとは思うんですけども、『シン・ゴジラ』と『君の名は。』でいうと、それはもう『君の名は。』です。
岡田:
『君の名は。』の方が面白いなの?それとも好きなの?優れてるなの?
山本:
好きですね。好きというか自分と同じフィールドだなと思ったんです。これ本当に正直なところです。もっと言うと羨ましいと思ったんです。まずそこですね。批評の目で客観的な目で見たら、ちょっとブログでもあげつらったんですけれど……
『君の名は。』はやっぱり年代的に新海さんが一つ上なんですよね。それで『ほしのこえ』をやっていた時も僕若手のペーペーでそれこそ業界入りたての人間だったんで。
岡田:
『ほしのこえ』やられた時、びっくりしたよね。こんな方法あるのかと思ってさ、ずるいっていうのもあるし。
山本:
やり方もびっくりしたんで、あと、その時にファンレターも出したんですよ。とある作品で、新海さんが好きすぎてパクろうと思ったんですね。本人の了承を得ようとおもったら、ホームページにメアドも書いてあったんで、そこにボーンと「好きです。パクらしてください」って言ったら、「良いですよ」って帰ってきて、某作品でパクったというね。
岡田:
おお、おっきい人だねー、あの人は。
山本:
その辺からもう、明らかに差はあったんですけども。
岡田:
でも、『ほしのこえ』ってアニメ下手でしょ? アニメーションとしてみたらさ、俺自分でも書いたんだけどさ、石段駆け下りる時、降りてないじゃん? 足が地面に着いてないの。あれ「いわゆる演技」のカタマリじゃん? だからあれ見てアニメを褒めてるやつは、目腐ってんのかなと思うもん(笑)。おまえらちゃんとしたアニメ見ずにいわゆる絵が……
山本:
これ乗っかっていいのかな?
岡田:
だってアニメ業界の人みんな思ってるんじゃないのかな。
山本:
まあ、それは思った。それを初めて解消したのが『君の名は。』なんじゃないのかな?と思います。それはもう安藤雅司さんの作画監督で、それはもう否応無く、元ジブリのスタッフもいっぱい入っているわけだし、作画面が解消された時点で、やっぱり『君の名は。』は一つ完成したなっていう。それは思いますね。
岡田:
そうかなぁ、俺やっぱり今のアニメって総合バランスで見るから、背景密度と手前の作画に差がありすぎたら気になるでしょ?『君の名は。』って背景のリアルさと手前の人間の演技のリアルさ、アニメーションのリアルの差が何かバランス悪いから、お話、映画としてはスッゲー良いんだけど、アニメーションの映画としては、ちょっと合格点出しにくいなって思ったんだけども。そんなことない? そんなふうに思わなかった?
山本:
まあ背景の豪華さに比して、キャラクターっていうものが描き切れていないっていうところで、それがちゃんとバランスを保っていた、それが新海節だったっていうのは、まあ色んなところで言われている通りなんですけど。だからまあ、大傑作というよりは完成形なんですよね。だから羨ましいなんですよ。新海さんの求めていたアイテムを全部手に入れた、やったぜっていう新海さんに対して、おめでとうと言うしかないっていう。また評論家チックな言い方しますけど。
ヤマカンさんの面白みって語ることにもある。でも、俺がもしヤマカンさんのプロデューサーだったら喋るなって言う
岡田:
評論家チックで良いんじゃない? なんで作る方に専念するから評論は云々っていうの。
山本:
いやー、じゃあお前やってみろって言われるんで。
岡田:
あんなの気にしなきゃ良いじゃん。
山本:
僕は気にするタイプなんでねぇ。
岡田:
本当? あんなの草だよ、地面に生えている(笑)。草をいちいち味見する方がバカなんだよ(笑)。
山本:
乗って良いのかな?
岡田:
良いと思うよ。そんなの言うんだったらお前作ってみろって言うやつが作ってねぇんだからさ(笑)。
山本:
それはよく言います。じゃあお前監督してみろ!っていうのはよく言います。
岡田:
だって、俺だってここで喋っていることがものを作ることだと考えてるからさ。それで考えていると、作ることというのを幅広くとらえてしまっているわけですよ。なので、ヤマカンさんの面白みって語ることにもあるわけでしょ? はたから見た俺からしたら、ものを作ることによってヤマカンさんが語らなくなるんだとしたら、一ユーザー、一消費者としての+−で考えると、ヤマカンさん作るのは2年に1回で良いから、その分語ってくれってことになるじゃん。
山本:
これを言ってくださるのは、岡田さん以外いなかったなぁ。
岡田:
そう?
山本:
他はもう、語らないで作れっていうのが本当多いんですよ。それにまあ世評がそうなんだったら、世論がそうなんだったら……
岡田:
これはまあユーザー目線だよ。俺がもしヤマカンさんのプロデューサーだったら喋るなって言うよ。twitter禁止令出すよ。それは100%出すんだけど、ユーザーとしてみたら喋る押井守は面白いし、喋る宮崎駿は面白いから、そういう情報も漏らしてくれと。だって進撃の巨人が叩かれた時、樋口真嗣の暴れっぷりは面白い以上の何物でもない。もう進撃の巨人はあれ以上面白くなりようがないんだからさ。
+−で考えたらユーザー的に言うとやっぱり語ってくれた方が面白いし、あとね、見ている人の中の1万人に1人居る次のクリエイターって居るじゃん? それって俺らが語らない限り、絶対立ち上がらないんだよね。
山本:
僕もそうでしたからね。
岡田:
そうでしょ? だからなんだかんだ言っても、作品以外の、作り手側が出してくる愚痴とかさ本音みたいなものに、何か感じて立ち上がるわけでしょ? だからそいつらのためには言った方が良いと思うんだけども。
山本:
今はちょっとバランス取ってね。それこそ代表作がボンボン生まれたら、また行けるのかもしれないけど。今は政治的な理由もあって、小出しのおしゃれをしようかなと思っております。
岡田:
じゃあ何でこんな番組出たんだよ(笑)。
『シン・ゴジラ』はCGだっていう時点で何か違う。特撮だったら、僕は号泣してた!
岡田:
『シン・ゴジラ』はどうなの? さっき比べると『シン・ゴジラ』より『君の名は。』って言って、俺どちらかというと『シン・ゴジラ』の方がこの世の中にあれしかないものを作ったという意味で、すごい高いな。『君の名は。』はまあ似た様なもの10年20年単位で見たらポンポン生まれるだろうから、中高生がわんわん泣く様な映画って毎年出るじゃん? わんわん泣くパターンの一つだと。ごめんね、(ヤマカンさんが)良い者ポジションにいるから、俺悪者ポジションについつい行っちゃうんだよ。
山本:
わかります。
岡田:
でも、『シン・ゴジラ』の方がこの世の中に1本のありえない映画だから、映画としての完成度は低いと思うけど俺あっちの方が評価高いんだけど。
山本:
そこでまた岡田さんに申し上げるのは不躾かもしれませんが、やっぱり僕は、特撮映画監督としての庵野さんはやっぱりDAICON FILMまで戻るんですよ。『帰ってきたウルトラマン』ですね。あれにやっぱり強い影響を受けているので、やっぱりそこと比較しちゃうっていうのは大きいかなと思います。もっと言うと特撮であるのか?CGであるのか?っていうのを、僕の中では議論の対象になっちゃうんですね。
そういう意味で、「あー、CGだ!」っていう時点で何か違うなんですよ。僕にとっては。やっぱりミニチュアはちゃんとセコセコ作って欲しいし、着ぐるみであって欲しいし、特にパーティクルですね。これは色んなトコロで議論しているんですけど、やっぱりパーティクルって物凄い3Dは苦手としているので、煙とか火とかあれはやっぱりリアルで、本物の煙と火を使った方が良いと思うと、うーんと思って見ていました。
岡田:
そこらへんはさ、新海さんに感じたような「うわー羨ましい、コレ俺に無い全部をお前見つけたな」みたいなものは、庵野秀明に対しては感じなかったの?
山本:
庵野さんは既にDAICON FILMで完成している…まあ一旦完成している欲しいものを手に入れている……
岡田:
そんなことないよ。あの『帰ってきたウルトラマン』の演技酷いじゃん(笑)? 俺目の前が真っ青になったよ。俺が書いたシナリオのセリフの演技がこんなに酷いとは!って思ったんだから。
山本:
でも、特撮技術としてはあそこで既に庵野さんのやりたいこと=画面っていうふうに僕は感じていたから。だから既に羨ましい人だったから、それをずーっとこすってるなという印象でしかない。
岡田:
こすってる(笑)すっごいさりげないところでディスるよね。
山本:
あー、これはそうですね。しかも3Dに変わっちゃったから何か庵野さんの得意技でもなさそうだし、っていうところでモヤモヤしながら見ていましたね。
岡田:
なんかでも、あの例の『巨神兵東京に現わる』で特撮復活と言いながら、特撮に限界を感じたんじゃないの?
山本:
『巨神兵』も見ました。まあ色んな事情とかもちょっと小耳に挟んでますけど、樋口さんとのタッグですからやっぱりなおさら特撮にこだわって欲しかったなーっていうのはもう…… そういうDAICONファン目線ですね。
岡田:
でもそれで、特撮にこだわった結果、絵がセコくなったり、いわゆるガメラの時の…… 画角狭いじゃん? 特撮にこだわっちゃった所為か? 結局、昔のでっかいステージ組んで、ミニチュアをズラーっと並べて怪獣ポンッて置くとか出来ないじゃん? ゴジラ対メガロなんて映画酷いけどさ、特撮ステージ滅茶広いから見ごたえあるんだけども、新しい平成ガメラとか凄い狭んいんだけど、もし『シン・ゴジラ』特撮で無理にやっちゃったら滅茶狭い絵柄の……
山本:
だから売れなかったと思いますけど、僕は号泣してたと思いますね。「やってくれたぁ!DAICON FILM、庵野さんが樋口さんが帰ってきたよぉー」ってなって。
岡田:
ヤマカン泣かすために興行収益4億ぐらいで我慢しろと(笑)
山本:
だからそういう意味では複雑ですね。