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『君の名は。』が”萌え”に支配されたアニメ業界から僕を救った――山本寛・アニメ監督への復帰を語る

「萌え」とは何か、僕も含めて誰も分かっていない

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 「山本監督作品、岡田さんの評価は」についてはいかがでしょうか。

岡田:
 ああ、『らき☆すた』見たんだけども、まあーなにがなんだか……

山本:
 SFじゃないですよ。

岡田:
 そうなんだよ。SFですらないし、似非ですらないし。『フラクタル』も見た。今日のために。

山本:
 ありがとうございます!

岡田:
 それぐらいね、ごめんなさい、本当に21世紀になってからのアニメ見てなかったんですよ。で、『らき☆すた』の方はね、コレ僕が分からない萌えアニメですわと思ったんですけれども、アレはどうやって見るものなんですか? 楽しみ方。

山本:
 僕も「萌え」分かってないと思いますよ。「萌え」じゃなくて、普通にギャグパロディ4コマ漫画だと思ってます、僕は。「萌え」っていうのは、正に岡田さんの『オタク・イズ・デッド』で仰られた通り、本当にカタチがよく分からないんですね。

 この世代でもそうです。あの一種の仲間意識であるとか、同調圧力を発揮させるために使う言葉だと僕は思ってるんで。「萌え」が何であるのか?って誰も分かっていないと思います。今だに分かんないし、僕の下の世代も分かんないと思うんですよ。何かにときめいたら「萌え」なんですよね。まあ、強いて言うなら。

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『らき☆すた』はパンドラの箱だった

岡田:
 じゃあ、「萌え」が分からないというこの便利な言葉を外して言うと、自分と関係ない女の子がダラダラ日常過ごしているのだけをお前ら何が楽しくて見てるの?っていう(笑)。そうなるとクリエイターに対する疑問じゃなくて、見ている側に対する疑問になっちゃうの。まず、作り手側としては何が楽しいの?

山本:
 その例えとして適切かどうかは分からないですけど、何も起こらないじゃんって言うなら、『渡る世間は鬼ばかり』も何も起こらないんですよ。でも、本当に何でもない日常、ですね。ラーメン屋の中でぐちゃぐちゃ喋っている中で、ドラマは微妙に動くんですよ。

岡田:
 でも、その中でそれはドラマとしてさあ『渡る世間は鬼ばかり』って言うんだったら、色んな年齢層の色んな性別のキャラが出てくることによって、リアリティが担保されてるじゃん。

山本:
 だから一応、親も出したんですよ。で、こなたの親父も出したし、これは原作にある通りなんですけど、親父もオタクの親父で、そこに影響を受けてこなたという少女が出来たと、オタク少女が出来たと。あと亡くなったお母さんも一番最後だけ出てくるですね。ちゃんと家族の話はやってるんですよ。そこはね、ちゃんとフィーチャリングしようと思って、このこなたの親友であるかがみ・つかさ……

岡田:
 俺、もう既に言い訳を聞いている顔になってるけど(笑)。

山本:
 ああ、言い訳じゃないです。

岡田:
 ごめん、ごめん。ついつい言い訳を聞く顔になってる。

山本:
 ああ、まあ言い訳ですよ。で、柊姉妹っていうのも家族がいて、ちゃんとお父さんお母さんがいて、あとお姉ちゃんが二人いるんですね。その家族の話っていうのもちゃんと描いているんですよ。その何でもない、「あれとって」とか「これ食べた」とかみたいな4コマの中にちゃんと入れてるつもりではあるんです。あとパロディ要素ですね。ちょっとした車アニメのパロディとかやったりね、あとちょっと古いですけど、ティモテ、ティモテとかやったりね。

岡田:
 いわゆる、何だろう、「原作あるから仕事としてコレやってみようかアニメ」だったんですか?それとも、「ヤルぜぇ!みたいな魂込めたアニメ」だったの?

山本:
 えーと、これをちゃんと自分の文脈言わないといけないなあ。(『らき☆すた』は)一種のパンドラの箱だったと思います。パンドラの箱を開けたのはその2年後の『けいおん!』って作品だったと思うんですけど。

 これ開けたらたぶんウケるんだろうなぁー、でも自分としてはやっぱりみたいな、いわゆる日常系ですね、僕はポストモダンとも言ってるんですけど。この箱開けたらたぶんウケるけど俺が開けるのはチョットなぁーと思ってチラッと開けた程度です。

岡田:
 アニメ業界に入る時にやりたかったようなコトじゃないでしょう?

山本:
 やりたいコトではないです。もうその当時のアニメーションの流れ、アニメーション史って言っても良いけど、その流れの中でココで必要とされているんだな、というのは感じました。なので、ちょっといろんな言い訳をつけて、ちょっと最後の5分くらいは……

岡田:
 これは儲かるぞって思った?

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山本:
 当たるぞ!とは思いましたね、うん。当てに掛かったっていうのはあります。

岡田:
 当たったらさ、監督として次やりやすくなるじゃん? いわゆる自分の好きな作品というか……

山本:
 当たったんですけど、僕降りたんで……非常にいいタイミングで当たって、次に自分のやりたい作品みたいなことを考えてたんですけど、当たる前に降りちゃった、降ろされちゃったっていうのが……

日常系ばっかりをやっていたら、楽々食えてたよね?

岡田:
 『フラクタル』はやりたい作品の方向だったの?

山本:
 あれは困ってました。そのパンドラの箱が開いちゃって、ウワーっと。まあ「萌え」が氾濫してきて、その流れに……

岡田:
 言っちゃえば、そのあとずーっと日常系ばっかりをやっていたら、今だに楽々食えてたよね?

山本:
 そうです。

岡田:
 そっちの方向で財を成していたと思うんだけども。

山本:
 いやー、それは自分が許さなかったっていうか。あの、「萌え」でも良いんですよ……

岡田:
 さすが京都大学、訳のわかんないプライドで、銭金を失って死ぬ京都大学(笑)。

山本:
 反権力の京大です! まあそういう風に教育されたんで、それもあるのかなって思いますけど。

岡田:
 京大って反・権力っていうか、非・権力だよね?

山本:
 ないんですね。

岡田:
 アンチですらないっていう。

山本:
 そもそも持ってないっていう。

岡田:
 そうそうそう。

山本:
 だから「萌え」やっても良いんですけど、次はやっぱり違う作品、これは生意気にも言いますけど宮崎さんがね、トトロなんか二度と作らねーよって言ってるのと一緒で、「萌え」はもちろんあっても良いんだけど、二度と作らないなっていうのが自分の考え方ですね。一貫してやってます。

岡田:
 同じものを二度とやらないっているのは分かるんですけども、どっちの方へ行きたかったの? 過去形で話すのはさ、一回アニメ業界引退宣言をしてらっしゃるじゃん? あとでまた、そこらへんもクエスチョンが出てくるとは思うから。

山本:
 しらない!引退なんかしらない!引退するときは死ぬときだ!まあいいや。

岡田:
 そうだね。こういう仕事してるからね。

学生のときに作ったアニメは、夢も希望もない戦災遺児の暗〜い話

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山本:
 本当はもっと暗〜い、それこそ学生のときに作ったアニメは、阪神大震災をモチーフとして戦争物に変えたんですけど、瓦礫の中で生きる少女、戦災遺児の話を学生のときにアニメにしたんですよ。こんなの今出来る訳がねぇっていう。

岡田:
 あの『火垂るの墓』で生き残ったのが逆みたいな感じだよね。

山本:
 『火垂るの墓』どころじゃないくらい夢も希望もない話をアニメにして、これは世に出てないんですけど。これ、今できないなと思って、その周縁をウロウロしているような。まあ、状態としてはそんな感じです。本当はたぶんものすごく暗いんですよ。その前の高校時代にやったのは、これは芝居でやったんですけど、ナチス時代のユダヤ人の女の子と指揮者の男の子とのラブストーリーとかね、作れねーよなー今ってそういうのが大好きならしくて。

岡田:
 そういうの高校のときに『愛の嵐』っていう映画で見たけども、そんな感じ?

山本:
 たぶん、そんな感じです。

岡田:
 あのー、基本的に絶望的な状況の中で酷い目にあってる女の子が生き残るような話?

山本:
 悲壮感が大好きなんですよね。だから僕は宮崎駿さんの悲壮感に主に惹かれたんですね。だからナウシカですよ。特に原作の方ですね。これがアニメでできるんだって勘違いしちゃったんですね。で、入ってみたらできなかったっていう。それどころじゃねえって話に……

岡田:
 それどころか、お前、日常系の「萌え」やれと。

山本:
 まあねぇ、方向性としては逆ですよ。

岡田:
 日常系の「萌え」やれって言われて、技術的には出来るし、おまけに開けたらコレ、たぶん大当たりするぞ、化けるぞっていう感覚はあった?

山本:
 ありましたね。その前の『ハルヒ』(『涼宮ハルヒの憂鬱』)という作品でなんとなく掴んでた。あれがいわゆる世界系から日常系へと僕は言っているんですけど、世界系全盛の中で本当にSOS団って何にもしないんですね。もう部室でダベってるだけっていうのは結構あるんですよ。それを丸々一話にしたのもあるんですけど。あ、これキテるなってのはそこで感じ取りました。

岡田:
 そん中に1話だけ、さっき言ってた暗〜い女の子が生き残るような話っていうのを何で入れなかったの?

山本:
 それは無理だと思ったんですよねぇ。

岡田:
 ものづくりやってる人間だったらさ、絶対考えるじゃん?

山本:
 う〜ん。もっと言うと、あ、そう(悲壮感が好き)だったねって思ったの最近なんですよ。休養宣言して、自分の仕事とかずーっとぼーっとパソコン見ながら、あ、そうだったねって思い出したくらいで、忘れてたんですよ。

 だから、たぶん『ハルヒ』とか『らき☆すた』やってた当時、僕思い出してなかったんですよね。自分は本当はそっち行きたかったんだっていうのを何時しか忘れてしまうくらいに、なんか業界に溺れていたっていうのが。あと、功名心も正直ありましたよ。当てなきゃ、当てなきゃっていう。

岡田:
 だって、当てないと何も作らせてもらえないもんね。

俺何やりたかったんだろう?と思って、非常に困ったのが『フラクタル』

山本:
 それに焦っていた部分は正直あるんで、そのうちに忘れちゃったっていう。だから、『フラクタル』のときは「?」なんですよ。それやればよかったんですよ、だから正直に。でも、あれ?って思って俺何やりたかったんだろう?と思って、非常に困ったのが『フラクタル』です。

岡田:
 結果、終わったあとに東浩紀に悪口を言われるっていう(笑)。

山本:
 東さんごめんなさい。もう、謝るしかない。

岡田:
 謝んなくて良いよ(笑)。

山本:
 オリジナル作品は監督が統括するもんだから、そこで何を作れば良いんでしょう?とか言ってたらダメでしょ?「俺、分かんないんすよぉ」って言ってたら皆引くでしょう?っていう話ですよ。

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岡田:
 監督って別に何やっても良い職業だからさ、あの俺、昔DAICON FILMのときに庵野とか赤井とか山賀に「監督ってなんの職業?」って聞いたら、「周りが優秀だったら何もやらなくて良い職業です」と、だからただ単にOKとNOだけ言っていれば良い職業。で、「周りが無能であればある程、動かなければいけない職業です」と。だからそういう意味で、あとあと考えてみたら宮崎駿の不幸を語っていて、宮崎駿監督作品って宮崎駿が一番遅くまで仕事してるじゃん? これはどんなに彼から見て周りが無能に見えてるのか?っていうのの証明でしかないからさ。

 まあ、そういう意味では作品できちゃったんだからさ、監督としては良い仕事したんじゃないんですか?

山本:
 あ、まあだから後悔はしてないんですけど、その迷いも含めてね、当時の自分の全てがここにあるっていうのは作品に込めたつもりなんですけど、う〜ん、まあもうちょっと……

岡田:
 まあ、スタッフは文句言うものですよ。バカ当たりしない限り、スタッフは文句言う。スタッフが文句言わない作品ってさ、文句が言えない形にされてるだけであって、そんなもの蓋を開けたら...いろんな人が死んでいろんな証言が出て来れば良いなとか時々思うんだけど。まあいいや。

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