ヨッピー&中川淳一郎、ネットにクソメディアが氾濫する理由を語る「ちゃんと取材して記事を書いたら大赤字なんですよ」
輝かしい未来を期待されていたはずのウェブメディアだったが、ふたを開けてみると、WELQを代表とするキュレーションメディア問題、氾濫するコタツ記事、そして昨今話題のPR問題などなど、クソメディアが乱立&クソメディアを助長するコンテンツが増えるばかり。
今回ニコ生では、地獄絵図のようなネットメディア時代へと突入してしまった2010年代を振り返るべく、新著『ネットは基本、クソメディア』を上梓したばかりの中川淳一郎氏と、人気ウェブライターのヨッピー氏をゲストに迎え、無法地帯と化すウェブメディアの対処法と未来を考える番組を実施。
『怒涛のクソメディアラッシュ~1年を振り返る~』、『例のキュレーションサイトはなぜ炎上したのか』、『そろそろ決着したいPR問題』、『ネット記事のギャランティー』などをテーマに、ウェブメディアに精通した二人が、正しいネットメディアの歩き方を伝授します!
BUZZNEWS騒動、ヨッピーはなぜ社会問題に切り込んでいったのか!?
中川:
まずヨッピーさんに聞きたいのは、かつては変態仮面の格好をしたり、面白系やトンデモ系のことをして記事化していたと思うんだけど、最近はPCデポの高額解除料問題を含めて社会的な問題を取り扱うようになってますよね? これって何か心境の変化みたいなものがあったんですか?
ヨッピー:
社会派になりたいとかそういうわけじゃないんですよ。僕も決してそういう記事を書き続けたいわけじゃないんです! クソメディアを叩くのが楽しいからやっているわけじゃなくて、誰もやってくれないから渋々僕がやっているというか。
中川:
よろしくないキュレーションサイトに対して、ウェブ代表者の声として文句を言ったりして“世直し男”みたいな感じになってないですか?
ヨッピー:
世直しの前に、ダメ人間である自分自身をなんとかしなきゃいけないんですけどね!
僕がパクリサイトに対して最初に怒りをあらわにしたときは、(ネット上でも)パクリについてはおおっぴらに怒る人がそんなにいないような状況だったんですよね。今でこそ、賛同してくれる人やサイトも増えてきてくれましたけど……。
中川:
最初って悪質バイラルメディアだったBUZZNEWSに物申して閉鎖に追い込んだときでしたっけ?
ヨッピー:
ですね。2014年くらいかな。その頃は誰も「これってダメじゃない?」みたいな声を今ほど大きくは上げていなくて。
中川:
BUZZNEWSの閉鎖は、当時のクソメディアの跳梁跋扈【※】から、「ほどほどにしないといけない」ってクソメディアが気が付いた、クソメディアの転換期になったトピックとも言えますよ。
※跳梁跋扈
ちょうりょうばっこ。悪人などがのさばり、はびこること
ヨッピー:
当時はBUZZNEWSに、僕の周りの人たちの記事がしょっちゅうパクられるっていう状況があったんですよね。
中川:
パクるというのは、文章も画像もすべて?
ヨッピー:
全部です、全部。「お前ら、これはどういうことだ?」と怒ったら、「すみませんでした。以後、気を付けます」と言われたのに、一週間後くらいにまたパクられたんですよ(笑)。
中川:
BUZZNEWSって運営は個人ですか? 法人ですか?
ヨッピー:
シンガポールに会社を置く法人の企業です。それで「話をしたい」と相手に伝えて、渋谷の喫茶店に呼び出したんですね。「画像は著作権違反でしょ!」と文句を言ったところ、「でもリンクを貼っているので問題ないですよ」とのたまったわけですよ。
中川:
謎の理論ですよ(笑)。“インターネットあるある”とも言える珍奇な理論ですね。直リンク【※】もたいがい権利者からは批判されるのに、画像を全部パクって自分のサーバーに置いているのは完全にアウト。それでも最後に出典元を記載すれば許されると思っているんだよ、クソサイトは!
※直リンク
画像のURLをHTMLに埋め込んで別のサイトでも表示させること。著作権的には問題なく、せいぜいがグレーゾーンとの見方がほとんどだが、ぱっと見画像をまるまるパクっているように見え、また元サイトのサーバーに負荷をかけるため、無許可の直リンクはウェブのマナーとして批判も多い。
ヨッピー:
そうなんですよ! 当然、あちらはそれで問題ないと思っているので話にならない。ですから、「一回帰って弁護士に確認してこい」と。弁護士に「こういうことを指摘されたのですが、本当に問題ないんですか」ってきちんと確認してから、もう一度会いましょう、と。後日、会ったら「すみません、弁護士に確認したら全部法律的にアウトなことでした」と。ふざけんなよって!(笑)
中川:
弁護士に確認を取って、自分たちに非があることを認めて謝罪したということは、少しはまともな感じに見えたんでしょうか?
ヨッピー:
そうですね。「もうやりません」と言っていましたからね。とは言え、すでに起こっていることに対しては責任を取っていただかないと困るのでお金を払っていただきます、と。さらに、この内容は記事にさせてもらうからね、ということも伝えました。結局、彼らはパクリを行わないとメディア運営ができなかったので、これからパクリ記事が作れなくなるということは、自分たちで記事も書けないし結果的に閉鎖する、という判断を取らざるを得なかった。それがことの顛末ですね。
中川:
だから閉鎖したんだ。
ヨッピー:
そうなんですよ。でも、僕自身、こういった活動を続けていきたいと思っているわけではなくて、そろそろインターネットチンピラに戻りたいと思っているんですよ。
中川:
ネットチンピラ?
ヨッピー:
僕の古い友人から言われたんですけど、チンピラがたまに良いことをすると褒められる、つまりチンピラっておいしいポジションなんだけど、学級委員長が少しでも悪いことをするとすぐに叩かれる、つまり損なポジションであると。
たしかに最近の僕は「これはよくないでしょ!」的な、学級委員長みたいなことをすることが多かったので、だからいろいろと叩かれる機会も増えているのではないかと。しかも、僕は文句言われると必ず反論してしまう面倒臭い人間なので……。できれば、そんなことは避けたいので、徐々にネットチンピラのポジションに戻っていきたいとも思っているんですよね。今はもう、パクリを怒ってくれる人は僕以外にもたくさん出てきましたしそろそろいいかなって。
クソメディアはなぜ誕生したのか? その背景をひも解く
中川:
なるほどね。昨今は落ち着き始めたけど、当時はBUZZNEWSを始め、クソメディアが氾濫していたから、この件は良いくさびになったことは間違いないと思いますね。これまでにもさまざまなクソメディアが溢れていたと思うのですが、今一度クソメディアの歴史を振り返っていきましょうか。
中川:
クソメディアそのものは2006年くらいからずっとあったんですけど、キュレーションサイトと呼ばれるものは2013年頃から誕生しました。この頃は、私自身、キュレーションサイトの編集に関わったこともありますが、2014年頃になると、「この勝ち馬に乗らない手はない」という雰囲気がIT業界の中で出始め、いろいろな大手企業がキュレーションサイトに入り込んできたんですね。
ヨッピー:
そうでした。補足すると、2013年以前のこの手のサイトってビジネスライクな運営ではなかったと思います。個人が、2ちゃんのまとめサイトに毛が生えた程度のまとめサイトを運営しているとか、その程度のレベルだった。ところが中川さんが指摘するように、2013年頃から有名な企業が参入し始めて潮目が変わってきた。
中川:
2ちゃんのスレッドを使って、まとめサイトを禁止し始めたのっていつでしたっけ?
ヨッピー:
おそらく2013年くらいだったと思います。禁止されたことを受け、まとめサイトの力が一気に弱まったことを覚えています。
中川:
『ハム速』などが、テーマを設けてそこにコメントを書かせてまとめるという手法に変わっていった時期ですよね。
で! キュレーションサイトが台頭することで、広告代理店なども「最近はキュレーションサイトというものがキテますよ」なんてことをクライアントにプレゼンするもんだから、ますます調子に乗ってしまった節がある。これはかつて「Ustream【※】が新しい」と無駄に持ち上げて、クライアントが騙された状況と同じ現象と言えるでしょう。
※Ustream
ライブストリーミング配信サイト。
中川:
キュレーションサイトに掲載されるとフェイスブックのシェアが飛躍的に伸びるという言説が、電通や博報堂などでも広がり、そこにステマ報道なども重なってくることになるわけです。2015年に、山本一郎さんがステマを巡る魑魅魍魎のうヒヒ的企みを刺したことを覚えている人もいるんじゃないでしょうか?
その後、2016年9月に医学部出身の記者・朽木誠一郎さん(当時ノオト所属、現在BuzzFeed Japan記者)が、信憑性が眉唾物のあやふやな内容を大手サイト、つまりWELQに掲載してもいいのか、と問題提起をして大問題に発展していくことになるわけです。
これは大問題で、例えば、「死にたい」と検索すると一位に表示されるのがWELQの記事で、驚くことにその内容が“転職サイトへの広告を貼る”というトンデモない内容だった。
ヨッピー:
そんなにつらいなら仕事変えちゃえば? まずは自己分析から! みたいな内容でしたね(苦笑)。
中川:
ひどかったよね。このような内容が躍っていたわけですから、以後、WELQを筆頭に次々とキュレーションメディアがなくなっていく状況になってしまった。結果として、信憑性が低い情報を取り扱うことを控えるサイトも増えてきたので、WELQ騒動を機に浄化作用が働いたとも言える。ざっと振り返ると、クソメディアの栄枯にはこういった流れがあったわけですね。