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将棋はスポーツ、見る側にとっては結果よりも過程が全て――小飼弾が将棋ソフト不正疑惑を斬る

 将棋のトップ棋士が対局中にスマートフォンなどを介して将棋ソフトを不正使用したのではないか? という疑惑が浮上し、揺れる将棋界。確たる証拠が出たわけでもなく、疑惑発覚当時には電子機器の持ち込みも禁止されていたわけでもなく、「限りなく黒に近い灰色である」とも言われる。

 渦中の棋士は疑惑を否定し、竜王戦を休場したいと申し出たが、それに対して日本将棋連盟は「休場届が提出されなかった」という理由で出場停止処分を下したという。

 11月7日の『ニコ論壇時評』で、小飼弾氏山路達也氏はこの問題について、将棋は競技でありスポーツであり、観客が喜ぶ方向に解決する必要があると語った。



将棋はスポーツだからドーピング対策があって然るべき

山路:
 将棋ソフトの不正問題ですよね。プロの棋士が対局中にスマホを使って将棋ソフトを利用したんじゃないかという疑惑。それをどう考えるかということなんですけど。

小飼:
 まず、仮に「休憩時間とかも含めた将棋の対局中にスマホを使っちゃいけません」というルールがあって、それに抵触したら懲役刑、刑法犯だとしたら、これは将棋協会が悪い。疑わしきは罰せずに引っかかってしまうじゃないですか? 推定無罪の原則に戻っちゃうわけですよね。
 ですが、それって刑法だけなんですよ。民法や慣習法やスポーツなんかでは、推定無罪というのは原則ではないですよね。それこそサッカーの神の左手じゃないですけれども(笑)。こういうスポーツで言うドーピングみたいなものだったりとか……。

小飼:
 ドーピングと言えば、対局中の棋士の皆さんというのはカフェインとかとっても良いんですよね? 「ドーピングチェックとか無いんですか?」っていうのは真面目な質問としてあって然るべきだと思います。スポーツですから。

山路:
 覚醒剤打って頭パキパキにして対局するみたいな。確かにそういうものというのは今まで聞いたことが無いですよね。

小飼:
 チェスも将棋もスポーツですよ。スポーツというのは競技ですから。別に肉体をバキバキ使うものばかりがスポーツじゃないんですよ。

山路:
 勝負事だったらなんでもスポーツと言えてしまう?

小飼:
 競技です。競技という言葉とスポーツという言葉はほぼ1対1で対応します。実際に英語圏では、チェスは新聞だとちゃんとスポーツ欄に載っていますし、テレビのニュースとかだとスポーツのコーナーに取り上げられます。

山路:
 日本だと文化欄のイメージがありますけどね。スポーツのところには載ってないですね。

小飼:
 だから何でスポーツと分類されていないんでしょうね。スポーツですよ、あれは。


将棋ファンは棋士同士が戦い、競い合う姿を見たいのであって、ただの強さを求めているわけではない

山路:
 でも、よくAIを使った将棋ソフトが人間の能力を超えるみたいな話や、囲碁なんかだとAlphaGoも出来ていたりしますし、もう人間の能力を超えてプロの棋士なんて用済みになるんじゃないか? みたいは話があったりするじゃないですか。

小飼:
 じゃあ、なんで我々はスポーツをするのでしょう?

山路:
 競いあうこと自体が楽しいから。

小飼:
 ですよね。よくビジネスとか、特に選挙とか結果がすべてだという言い方をしますけど、スポーツの場合、逆なんです。過程がすべてなんです。
 例えば速度だけでみれば、最速の車というのは音速をちょっと超えたくらいなのですけれども、競技で競ってレースをやるわけではないですよね? でも、何でレースはレースとして別にあるか? というと、レースをしている所を見たいわけですよ。
 結局のところ、将棋ファンのみなさんは棋士と棋士が戦っている所を見たいんじゃないのですか?

山路:
 ただ今後、これだけ将棋ソフトが強くなってくるのだったら、棋士と将棋ソフトとあわせてハイブリッドなゲームみたいな……。

小飼:
 それはそれで、新たな競技として成立させれば良いと思いますよ。トレーナー同士が殴り合うんじゃなくて、代わりにポケモンに殴り合いをさせるというのと同じでしょう(笑)。

将棋界は「やっぱり観客が喜ぶ方向に決着を付けなきゃいけない」

山路:
 この将棋ソフトの不正疑惑、結局どこで落とし所を付けるつもりなんでしょうかね?

小飼:
 どこで落とし所を付けるのかというので、将棋という競技が、人気がでるのか? あるいは人気がだだ下がりになるのか? というのが決まってくると思いますよ。
 結局、ゲームというのは結果じゃなくて過程なんですよ。もし、そういうことをすることによって過程がつまらなくなる、或いはこんなのやってられないよ、という事になるのであればそれこそ防ぐべきなんですよ。

山路:
 とにかく面白くなる方向として、やっぱり観客が喜ぶ方向に決着を付けなきゃいけない。

小飼:
 その点で、むしろ将棋界がもっと頑張らなければいけないのは国際展開なんじゃないですか。千載一遇のチャンスなんですよね。それはなぜかって言うと、チェスに関してはコンピューターにぐうの音も出ない、ものすごいべらぼうな差がついているわけですよ。でも、まだ将棋というのは。

山路:
 電王戦とかで、良い勝負をしている。

小飼:
 まだ人間がクリンチできる余裕もありますし。とにかくこういうおもしろい競技があるよっていうのを知らしめるということをもっとやっても良いと思います。
 特に取った駒を使えるっていうのは将棋独特なので、厳密に言うとチェスもポーンが一番敵の向こう側まで行くと取られたやつと交換できたりもしますけれども、基本的に将棋というのは「成り」と、取った駒を打てるというスゴイ面白いルールがあるわけじゃないですか?

山路:
 チェスは短くさっと勝負がつくから、手軽に出来て人気が高いみたいな話はありましたけどね。将棋ってどうしても勝負が長くなりがちじゃないですか?

小飼:
 どうなんでしょう? 将棋だってテレビ番組とかだと持ち時間を凄く短くした上で、一手10秒以内でお願いしますとかやっているじゃないですか? だから早指しは早指しでちゃんと競技として成立するわけですよね。とにもかくにも過程ですから。

山路:
 より面白くなる方向にという事で。



次回の「小飼弾ニコ論壇時評」はコチラ

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