ファンに愛され続けるアニメ『ゆゆ式』プロデューサーが作品への並々ならぬ愛情を隠し続けた理由
2017年2月22日に発売された『ゆゆ式』OVAは、2013年のTVシリーズから4年が経過しているにもかかわらず、品切れが続出するほどの大きな盛り上がりをもって受け入れられた。
前回は、TVシリーズから引きつづき監督を務めたかおり氏に、クリエイターの視点からOVAでの演出コンセプトや制作現場の舞台裏をたっぷり語ってもらった。今回は一連の新作リリースの締めくくりとなる、5月7日のイベント「ゆゆ式 情報処理部課外活動2017」開催を機に、プロデューサーの視点から見たアニメ『ゆゆ式』の全貌を、企画立案者である小倉充俊氏に語ってもらう。
先の取材でかおり監督の口から飛び出したのは、原作の魅力を的確に映像化するためにとことんこだわりぬく“『ゆゆ式』愛”に満ちた制作姿勢だった。原作もののアニメが原作をリスペクトするのは当たり前と思われるかもしれないが、“『ゆゆ式』らしさ”を求めるあまり、OVA1本30分の脚本を仕上げるのに半年以上の時間をかけ、改稿や全ボツも厭わなかったというその情熱は並大抵ではない。そしてその規格外の情熱は、かおり監督ら現場のスタッフのみならず、製作サイドにまで共有されたものだ。
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小倉プロデューサーが『ゆゆ式』へと注ぐ無尽蔵の愛は、Blu-ray BOXのブックレットを見るだけでもうかがい知ることができる。
「メインスタッフはみんなとにかく『ゆゆ式』愛がすごかったんですよ。〔…〕なかでも企画立案者の小倉プロデューサーは特に激しくて」(高橋ナツコ氏)
「とにかく小倉さんの情熱がすさまじくて、私とナツコさんは「うんうん」とお話を拝聴してることも多かったです(笑)」(かおり氏)
さらにOVAに至っては、「ゆゆ式文芸部」名義での連名とはいえ、ついには脚本にまでクレジットされているのだ(ゆゆ式文芸部:高橋ナツコ、渡邊大輔、かおり、小倉充俊)。これは極めて異例な事態と言える。
しかしそれでいながら、各所での小倉氏のインタビューを見るかぎり、他のスタッフが口にする氏の武勇伝と比較しクールな語り口が目立つ。それはなぜなのか。
そこで今回は、その秘密を皮切りに、TVシリーズから新作OVA、そして今後の展開まで、アニメ『ゆゆ式』の歩みのすべてを小倉プロデューサーに振り返ってもらった。
取材・文/高瀬司
―ゆゆ式 インタビュー記事―
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原作者のセリフですらボツになる!? ファンを虜にし続ける“ゆゆ式らしさ”の秘密
プロデューサーが取るべき距離感
――TVシリーズから4年ぶりとなる待望のOVAが大変な好評を博しましたが、はじめにリリースへと至った経緯からうかがえるでしょうか。
小倉充俊氏(以下、小倉):
TVシリーズのあとも、次の機会のチャンスはずっとうかがっていたんですよ。スタッフの方々も望んでいたことですし、何よりファンのみなさんがTVシリーズ終了後も変わらず愛しつづけてくださっていて。そうしたありがたい状況のなかで、2015年末に出たBlu-ray BOXのセールスが非常に好調だったことが最後のあと押しになりました。だからスタッフとファンのみなさんがずっと作品を好きでいてくださったことと、Blu-ray BOXの結果とが重なり合ったことでようやく実現できたのが今回のOVAだったんです。
――そのBlu-ray BOXのブックレットで小倉プロデューサーは、かおり監督や脚本家の高橋ナツコさんから、最も“『ゆゆ式』愛”の激しい関係者として語られていました。対して、いまでこそよく知られているとは言え、当時の小倉プロデューサーは、公の場ではそれほど熱狂的な様子を見せていなかった印象があります。
小倉:
そこは黒子の役割に徹するべきだと思っていたからです。クリエイターの方が作品への愛を語るのはいいんですが、僕のような立場の人間まで愛情を出発地点に語ってしまっては、逆にファンのみなさんが作品に入りにくいのではないかと考えたんです。だから、たしかに僕は『ゆゆ式』にただならぬ愛情で接してきましたが(笑)、そうであるからこそ、どう振る舞うのが一番作品に貢献できるのか考え、そのうえでの結論が、前に出過ぎることなく、プロデューサーとしての距離感やテンションで語るということでした。
特に『ゆゆ式』に関しては、企画から制作まで深くコミットしている分、プロデューサーとしてやるべき作品の方向づけは120%達成されているんですね。クリエイターの立場であれば、どんな作品でもテクニカルな面での反省点は出てしまうものだと思いますが、僕にとっての『ゆゆ式』は、もう一箇所も直すところも付け足すところもない、希望どおりの作品でした。なのでインタビューではあくまでクリエイターをサポートする立場を守り、ファンのみなさんの楽しい雰囲気を壊すようなことはあってはならないと考えました。
――このお話から切り出したのは、新作OVAの脚本は「ゆゆ式文芸部」名義で高橋ナツコさん、渡邊大輔さん、かおり監督、そして小倉プロデューサー4人の連名になっていることに驚いたからです。クレジットにもお名前を出されたということは、今回はいわばクリエイターの一人ということですから、覚悟がぜんぜん違うのかなと。そもそもプロデューサーが脚本にクレジットされるということ自体が、極めて異例な事態だと思います。
小倉:
覚悟というほど大袈裟なことではなく、かおり監督や(高橋)ナツコさんから「このシナリオはみんなで話し合ってできたものなんだから連名にしましょう」と誘われたというのがそもそもの理由ですね。そうだなと思えるくらい皆で話し合って、直してきましたからありがたくお受けしました。あと大きかったのは状況の変化ですね。TVシリーズの放映から4年近くが経ち、ファンのみなさんの熱量や作品の楽しみ方、われわれとの距離感などの面で、『ゆゆ式』は裏方がもっと前に出てもいい作品になったように感じたんです。つまりある種の小説や映画などがそうですが、物語や登場人物を味わうのはもちろんとして、同時に作者の顔が見えることでより楽しめるタイプのコンテンツというのがありますよね。『ゆゆ式』もネットの感想やインタビューへの反応を見ていると、作品を楽しむと同時に、スタッフや制作現場の裏側についての話題でも楽しんでもらえている雰囲気が感じ取れたんです。だから最近は、もう一歩であれば自分も前へ踏み出していいのかなと。