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ファンに愛され続けるアニメ『ゆゆ式』プロデューサーが作品への並々ならぬ愛情を隠し続けた理由

同じ世界のままだからこそ変化した関係

――新作OVAも再びイレギュラーづくしだったわけですよね。

小倉:
 そうですね。「スペシャルだからこそ、特別なことはやらない」というのは、かなり勇気のいる判断でした。そこに到るまでの選択肢が多すぎて、紆余曲折の果てに一度書き上げた脚本を全ボツにしたり、30分作品のシナリオに半年以上かかってしまいました。しかしメインスタッフ全員がそれに納得して付き合ってくれて、“『ゆゆ式』愛”に満ちた雰囲気のなかで、ここまで密な信頼関係をもってやらせていただけたのは、本当に人に恵まれた作品だと思います。

――OVAのコンセプトや演出についてはかおり監督に詳しくうかがいましたが、あらためて小倉プロデューサーの視点から見たTVシリーズからの変化というと、どういったところになるでしょうか。

小倉:
 OVAはTVシリーズ全12話のつづきである“第13話”というコンセプトですから、作品世界そのものは『ゆゆ式』のままです。ただそれゆえに、TVシリーズでは毎話毎話この子たちの仲が深まる要素を入れてきたのに対して、OVAは深まり切ったところがスタート地点になっているんですね。つまりあらためて仲良くなるステップが織り込まれていないところが一番の違いになると思います。その象徴が最後のお風呂場での「シュポーン」。

――「シュポーン」と言ってくれる関係ができている?

小倉:
 別に言わなくてもいいんですよ。聞こえるわけではないですから。他の2人が言うか言わないかということよりも、自分が言いたくて「シュポーン」と言っている、というところが大事なんだと僕は思っています。他の2人のことを思い出して、聞こえるわけでもないのに言ってしまう。この子たちは、たまたま仲良くなって一緒にいるのではなく、一緒にいるために努力している3人ですよね。そこが『ゆゆ式』の3人の関係性の特徴だと思いますし、「シュポーン」のエピソードはそれを如実に表していると感じます。“きっと3人で共有している”という本人の望み。そして3人とも同じことを望んでいたというのが、あの子たちの愛らしいところだと思います。あそこをラストにしたいというのはかおり監督のご提案でしたが、流石だなと思いましたね。

©三上小又・芳文社/ゆゆ式SP情報処理部

『ゆゆ式』を支えたプロデュース観

――一通りお話をうかがってきたなかで、あらためて小倉プロデューサーの作品への深いコミットぶりに驚かされました。このようなスタイルに行き着くにあたって、プロデューサーとしてどなたか背中を見てきた方などいらっしゃったのでしょうか?

小倉:
 学ばせていただいた先輩はたくさんいますね。僕はアシスタント時代も長いので、いろいろな手法や考え方を見させていただきましたが、そのうえで、プロデューサーとしての自身のスタイルは自分で見つけないといけないと気づきました。なので、いまの時点での自分らしいやり方というのはありますが、新しい出会いで刺激を受けると、また違うアプローチがあるんじゃないかと考えてしまいます。その時期によっても求められるものは変わってきますし、まだまだ行き着けていないですね。

――では、いまのプロデュース観というのは、あえて言葉にするとどういったものになるのでしょう。

小倉:
 僕が大事にしているのは一点、作品がお客さまに届くところまでをきちんとイメージして臨むということですね。単に作品がおもしろいからのめり込むとか、あるいは逆にビジネスライクに企画だけを成立させてあとは現場に任せるというのではなく、自分が企画したときにイメージした道程を、作品の指針としてどう伝えるか。それにはいまは現場に入って話すことが一番の近道だと思っています。

――なるほど。他方で現場との具体的な関わり方はいかがですか? プロデューサーが現場に入ることで混乱を招いてしまったケースを耳にすることも……。

小倉:
 たしかにプラスに働くだけでなく、マイナスなことも多々あります。だからきちんとした線引きが必要になるでしょうね。

――線引きですか。

小倉:
 自分が関わる領域、関わるべきでない領域を明確に区別するということです。僕の場合、プロジェクトの方向性を示すためであれば、物申すことも迷わずやります。最悪なのは後出しですから。ただそこに自分の趣味的な判断はないので、逆に現場の意見のほうが明察だと思ったら素直にうかがいます。そのうえで、制作の主役はあくまで監督をはじめとしたクリエイターのみなさんですから、方向性が共有できたと思ったら、あとはもう無駄な口を挟まずに信頼するだけです。われわれの目的は、作品をよりよくお客さまへ届けることで、そのためにそれぞれの役割があるのだと思っています。

©三上小又・芳文社/ゆゆ式SP情報処理部

ファンの応援が勝ち取った新展開

――貴重なお話ありがとうございました。最後に気になるアニメについてもうかがわせてください。小倉プロデューサーはどのようにお考えですか?

小倉:
 はっきりとしたことはまだ何も言えませんが、僕個人の望みとしてはぜひやりたいですね。そう強く思わせてくれる作品です。

――OVAの最終的な売上次第ではありうる?

小倉:
 今回のOVAは、もともと“望み”しかなかったところに、ファンのみなさんが応援しつづけてくださったおかげで実現できたものです。OVAのブックレットでも言いましたが「これはみなさんの勝利です!」。これは紛うことなき事実です。ファンのみなさんが勝ち取ったものなんです。
 だから『ゆゆ式』にまたつづきが出るとすれば、同じことなんだと思います。OVAを応援していただいて、今後も作品を好きでいつづけていただいて、制作現場やスタッフなどいろんなタイミングがマッチして、はじめて次につなげることができる――先のことはわからないですが、『ゆゆ式』を愛しつづけていただければ、またどこかできっとお会いできると信じています。

――その日が待ち遠しいですね。新作OVAに関しても、品切れがつづくなど、反響の大きさには驚かされました。

小倉:
 本当にありがたい限りです。何度でも繰り返させていただきますが、今回のOVAはファンのみなさんの応援がなければ決して成立しなかった企画です。本当にありがとうございます。僕らは形式上スタッフとしてクレジットされていますが、応援してくださったみなさんも「ゆゆ式文芸部」の一員だと思っています。これからも一緒に、『ゆゆ式』を楽しんでいけたらうれしいですね。

©三上小又・芳文社/ゆゆ式SP情報処理部

「まずはスタッフの皆さんに読者として『ゆゆ式』を好きになってもらうことが重要だろうなと思いました。なので最初は『ゆゆ式』がいかに面白いかということをとくとくと説き続けていました」

 これはBlu-ray BOXのブックレットにおける小倉プロデューサーの発言だが、いまこの文章にタイトルをつけるとすれば「すべてはここからはじまった――」になるはずだ。ここでスタッフに伝染した“『ゆゆ式』愛”は、いまや作品を通じてファンのあいだにも広まっている。

 そんな、いわば“『ゆゆ式』愛”の伝道師とでも言うべき小倉プロデューサーに、アニメ『ゆゆ式』を総ざらいしてもらおうと臨んだこのインタビューは、同時に、愛をもって作品をプロデュースするとはどういうことなのか、その回答の一つを垣間見せてくれるものでもあったように思う。
 プロデューサーと現場との関わりは多様で、どれが正解かという一般論は存在しない。大ヒットアニメでプロデューサーの功績が話題にあがる他方で、マイナスに作用したケースもよく聞く。そんななか、小倉氏は単に『ゆゆ式』への愛情から現場に深くコミットしていたわけではなかった。入る理由と基準を明確に持っていた。役割と距離感に厳密な線引きがあった。

 だから、思わず勝手な妄想を漏らしてしまうと、小倉プロデューサーとスタッフ(とファン)の関係はどこか、『ゆゆ式』における、気配りがあり、距離感をわきまえ、そして互いに信頼し合う「一緒にいるために努力している3人」と重なって見えてしまうところがある。
 TVシリーズの第5話のラストで、縁が「私たち、ずっと一緒だったら不死身だね」と言ったように、その関係があるかぎり、『ゆゆ式』はまだまだつづいていけるのではないだろうか。


『ゆゆ式』OVA
困らせたり、困らされたり〈初回限定版〉
2017年2月22日(水)より発売中

<初回限定版特典>
◆2017年5月7日(日)開催 イベントチケット優先販売申込券
【出演】大久保瑠美/津田美波/茅野愛衣/潘めぐみ/清水茉菜
◆ 複製キャストコメント入り縮刷台本
◆ 原作・三上小又描きおろし三方背ケース
◆ キャラクターデザイン・伊藤晋之描きおろし特殊パッケージ仕様
◆ 特製ブックレット
◆ 新録ドラマCD(出演:大久保瑠美、種田梨沙、津田美波)


ゆゆ式OVA キャラクターソングアルバム
2017年03月24日(金)より発売中

©三上小又・芳文社/ゆゆ式SP情報処理部

「ゆゆ式」公式サイト

「ゆゆ式」ニコニコチャンネル


―ゆゆ式 インタビュー記事―

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